発達障害者の心理査定に関する研究

発達障害者の心理査定に関する研究
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WAIS-ⅢとP-Fstudyの相関分析
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○大島 吉晴 吉井 崇喜 有賀やよい
(京都府立心身障害者福祉センター)
キーワード : 発達障害者,WAIS-Ⅲ,P-Fstudy
A Study of Psychological Assessment in Developmental Disorder
A Relation between Measures of WAIS-Ⅲ and P-Fstudy
Yoshiharu.Ohshima Yoshii.Takayoshi Ariga.Yayoi
(Kyoto Prefectural Rehabilitation Hospital for Mentally & Physically Disabled)
Key words : Developmental Disorder,WAIS-Ⅲ,P-Fstudy
目的
発達障害者の受診に於いて,地域生活や職場対人関係上の
悩みを訴える者が多く,人との関わり方や対人技能面での支
援を必要とする場合が多い。今回,知的機能と人との関わり
方や対人技能面との関連を検討することを目的に,WAIS-Ⅲ
(以下,WAISと略称)とP-Fstudy(以下,PFと略称)を実施し,
両者の関連を検討した。特にことばの理解や操作と関連が深
いWAIS言語性指標と,非言語的(視覚的)判断や全体を把握す
ることに関係するWAIS動作性指標は,PF主要指標上異なった
関連がみられるのではないかと推論した。
表1.基礎統計WAIS-Ⅲ
Mean SD Min
指標
101.5
言語性IQ.
17.6 61
動作性IQ. 91.4 16.8 59
全検査IQ. 95.1 19.9 33
言語理解VC 102.1 17.9 59
知覚統合PO 92.4 17.3 55
作動記憶WM 96.5 17.2 56
処理速度PS 90.9 17.8 54
P-Fstudy
指標
MeanSD
GCR% 54.0 11.9
A E-A% 31.0 15.7
g
35.5 9.7
方 I-A%
向 M-A% 33.6 11.5
A O-D% 28.8 12.4
g E-D% 40.8 8.4
型 N-P% 31.3 13.7
E'
3.1 2.1
E
2.6 2.1
e
1.6 1.4
I'
1.7 1.2
因
I
3.5 1.4
子
i
3.2 2.2
M' 1.9 1.2
M 3.3 1.8
m 2.6 1.4
E_% 2.1 2.4
超
I_% 4.7 2.7
自
E_+I_% 6.9 3.5
我
E-E_% 9.0 9.1
因
I-I_% 9.3 4.9
子
表2.WAIS-ⅢとP-Fstudyの相関ρ <.05
VIQ
PIQ
FIQ
VC
Max
136
125
131
133
125
137
130
標準比較(名)
低 内 高
11 26 3 ↓
16 21 3 ↓
5 16 19 ↑
10 19 11
8 21 11
19 20 1 ↓
3 18 19 ↑
4 22 14 ↑
23 17 0 ↓
11 22 7
9 25 6
9 26 5
4 11 25 ↑
11 27 2 ↓
8 25 7
7 23 10
18 21 1 ↓
6 32 2
18 22 0 ↓
20 19 1 ↓
8 26 6
(M-A)+I_% 38.3 12.0 13 21 6 ↓
分 類 不 能 反 応 あ り 10 名 (25%)
場 面 誤 認 反 応 あ り 7 名 (17.5%)
方法
2011年2月から2014年2
月までに,京都府立心身
障害者福祉センターを受
診し,WAISとPFを実施し
た者のうち,医師により
発達障害(アスペルガー,
広汎性発達障害,注意欠
陥/多動性障害 他)と診
断された40名(男25名・女
15名),平均年齢30歳7ヵ月
(17歳~58歳)に対して,WAI
SとPF各指標間で相関を検
討した。
結果
基礎統計 結果は表1の通
りである。WAISではFIQ.110
以上の「平均の上~非常に
優れている」水準は9名(22
%),90~109の「平均」水準は
18名(45%),89以下の「平均
の下~非常に低い」は,13名
(33%)である。VCとPOの関係
では,VC優位は17名(42.5%),
PO優位は6名(15%),同水準
は17名(42.5%)である。
PFでは,GCR%は標準値SD
内は65%が該当しているが,
標準値SD未満が28%該当す
る低値な者の割合が高い。
Aggression(Ag)方向では,E
-A%が低値であり,I-A%が高
値である。Ag型ではE-D%が
低値であり,N-P%が高値である。因子では,Eの出現が少なく,
iの出現が多い。超自我因子では,E_%が関与する指標が低値
であり,(M-A)+I_%も若干低値である。
PO
WM
PS
+
N-P% , e
-
分類不能反応
+
e , E_%+I_%
-
分類不能反応,
場面誤認反応
+
N-P% , e
-
分類不能反応
+
N-P% , e , i
-
分類不能反応
+
E_+I_%
-
分類不能反応
+
N-P% , e
-
分類不能反応
+
E_% , I_% , E_+I_%
-
分類不能反応
WAISとPF間の相関 Peasonの
相関係数により両検査の主要指
標を比較した。結果は表2の通り
である。WAIS各指標得点とPF分
類不能反応の出現が逆相関して
いる。言語性指標であるVIQや群
指数VC,WMは,PFのN-P%と,その
構成因子であるeと正相関して
いる。VCはこれに加えてiも正相
関している。対して,動作性指標
であるPIQは分類不能反応に加
えて,場面誤認反応とも逆相関
している一方,e,E_+I_%と正相
関している。動作性の群指数で
は,POはE_+I_%との正相関が認
められるのに対して,PSはE_%,I
_%,E_+I_%と正相関している。
考察
今回40名の発達障害者について,WAISとPFを比較した結果,
(1)知的水準が低下するにつれてPF場面で分類不能反応が
出現しやすくなる (2)WAIS動作性(視覚的)能力を反映する
PIQが低下するにつれて,PFで場面誤認反応が出現しやすく
なる (3)一定のパターンに則って効率よく作業を遂行する
能力を反映するPSが高まるにつれて,自己を弁護し言い逃れ
や言い訳することで自己を守ろうとする反応が出現しやす
くなる (4)WAISで言語性能力を反映するVIQが高値になる
につれて,不満状況での問題解決に向けた言動,特に他者に
甘えたり依存する言動が出現しやすくなる (5)WAISでこと
ばの理解やことばで物事を考える能力を反映するVCが高値
になるにつれて,問題解決に向けて他者に依存する言動だけ
でなく,自らが責任を果たし解決しようとする反応が増加す
る 等が認められる。
第77回大会にて報告した,発達障害児についての同様の研
究と比較すると,集団順応度を表すGCR%が必ずしも知的水準
と相関関係にあるわけでないという共通点が認められた。
一方,児童期では知的水準向上に伴い,自己を不満に陥れた
相手を認識し,直接的な攻撃を向ける割合が増加する傾向に
あったが,成人期では直接相手を攻撃する反応の出現自体が
低いことや,自分を守るため言い逃れや言い訳をしたり,不
満状況の解消や問題解決に向けた反応が増加するという,異
なった側面が認められた。
参考文献
藤田和宏ら,日本版WAIS-Ⅲの解釈事例と臨床研究(2011),日
本文化科学社
林勝造他,P-Fスタディ解説(2006),三京房
泰一士,新調P-Fスタディの理論と実際(2009),北大路書房