IFSJ日本の伝統とアートの知(弓道2015.4.9

2015 年 4 月 9 日
谷澤
「弓道の知とイノベーション」
1.弓道の出現と歴史的変遷
①弓道の出現:
古来は、矢で的を射る技術、武術を弓術と呼ばれていた。ヨーロッパでの短弓を用
いる(現代スポーツのアーチェリー)のとは全く異なり、日本古来の弓術は、弓の
中でも長弓の和弓を用いて独自の発展を遂げ、日本における伝統的な弓射文化を総
称して後に「弓道」と呼ばれる。
古代中国においては、射が六芸の一つに数えられ、貴族層に必須の素養とされ、「論
語」にも支配者層の弓射が文化的・儀礼的性格を強く持っていた礼射思想の淵源が
見て取れる。この弓射思想が日本にも伝わり、現代の弓道の思想に影響を与えた。
②弓術→弓道の歴史:
石器時代にまで遡り、簡素な造りの木弓が用いられていた。
縄文時代、狩猟の道具として使用された。漆塗に装飾を施した弓が狩りとった獲物
と共に埋葬され、呪術的・霊的用途に使われていた形跡も見られる。弥生時代に入
ると狩猟生活から稲作生活へと変化、それに伴い土地や水源の確保のために争いが
盛んになり、戦いの場での弓矢が武器として使用された。古墳時代には「魏志倭人
伝」の記述から既に和弓の原型が見て取れる。
飛鳥時代、
「日本書紀」に神事としての騎射の原型の記述がある。文武天皇が「大射
禄法」(射礼における的への的中による賞品の与え方等)を定めた。奈良時代、「続
日本紀」に盛んに騎射が行われたことの記述がある。
京都の室城神社の「矢形餅の神事」
(聖武天皇が悪疫流行の退散を祈願し弓矢を献奉
した)等は弓矢の霊妙な力が信じられていたことが窺える。
平安時代の 10 世紀頃、武家が登場。騎射・弓術は武芸として弓馬の道とも言われた。
騎射・弓術は実戦武術としての稽古も盛んに行われ、戦国中期までは戦での主戦力
であった。他方、弓矢は邪を祓う力があるとされ、霊器・神器として、精神性の高
いものとして扱われていた(現在でも破魔弓として信仰の名残や各地での弓道、流
鏑馬神事が行われている)
。
鎌倉時代、
「騎射三物」と言われる、流鏑馬・犬追物・笠懸が武芸の一つとして、行
事ごとにおいて盛んに行われた。
室町・安土桃山時代、時代が進むにつれて一時的に衰退した。戦国後期に火縄銃な
どの鉄砲により、弓が戦場の主戦力から後退するが、「弓射」は武芸として、心親鍛
錬の道として流派(小笠原流、日置流など)と射術は発展して行く。
江戸時代、三十三間堂の軒下(長さ約 120m)を射通す「通し矢」が次第に盛んとな
っていった。江戸中期、徳川吉宗により一時衰退していた流鏑馬が奨励され、以降、
復興した流鏑馬が全国の神社等で神事として行われた。
明治維新後、幕府の崩壊、各制度が廃止され武術は武芸として目的を失う。欧化思
想の中で武術そのものが時代遅れとされ、弓術も衰退の一途をたどった。その中で、
一部弓術家らは存続に力を注ぎ、庶民の間でさらに武術が普及・見直され、明治 28
年当時の武術家有志により大日本武徳会が結成され、弓術も奨励され心身鍛錬を目
的にとして学校教育に取り入れられる等普及を図った。大正 8 年に弓術は弓道へと
改称。武徳会の目的の一つに柔道や剣道などの形の体系化があり、弓道もそれに習
う形で射法統一が試みられ「弓道要則」を制定した。戦後、GHQ により武徳会は解
散させられ、武道全般禁止となったが、弓道家の尽力により昭和 24 年日本弓道連盟
が設立された。弓道は「修養の道」として復活し「射法八節」が定められた。
2.弓道の知とイノベーション
・中国古代の教養思想と日本伝統的文化、武術との融合による弓道文化の誕生。
中国古代において身分あるものの基本教養とされていた六芸(儒教で使われた専門
用語。礼:礼節(道徳)
、楽:音楽、射:弓術(心身供に鍛える)、御:馬車を操る
技術、書:文学、数:数学)の一つ射の礼射思想の伝来。そして日本古来の神事(呪
術、霊器・神器等)の精神性、武芸としての弓馬の道(武道)の心身鍛練の道が融
合し弓道文化が誕生。
・日本的伝統文化としての思想・目的に応じた形式の確立。儀礼的か実戦的かによる:
文化的・儀礼的な弓射「文射・礼射」、武器・戦場の弓射「武射」
、射術方法による:
騎乗して行う弓射「騎射」
、地面に立って行う弓射「歩射」、江戸時代初期に京都三
十三間堂で行われた通し矢競技の弓射「堂射」
→江戸時代、太平の世になり「武射」系も礼法を摂取することで文武の側面を融合
し、大和流流祖・森山香山が「五射六科」(五射:代表的な射法:巻藁前、的前、遠
矢前、差矢前、要前。六科:弓術家として身につけるべき事項:弓理、弓礼、弓法、
弓器、弓工、丹心)定めた。
・知の継承。弓術にはいろいろな流派があり、各流派が歴史的経緯、形式、思想、教
え等の伝統を継承。流派を大別すると、故実を中心とする弓馬故実の流派と射法を
中心とする弓術の流派に分けられる。現代の日本弓道連盟が定めた「射法八節」
:足
踏み(的に向かって両足を踏み開く動作)→胴造り(両脚の上に上体を安静におく
動作・構え)→弓構え(矢を番えて弓を引く前に行う準備動作)→打起こし(弓矢
を持った両挙を上に持ち上げる動作)→引分け(打起こした位置から弓を押し弦を
引いて両挙を左右に開きながら引き下ろす動作)→会(引分けが完成され矢が的を
狙っている状態)→離れ(矢を放つこと)→残心(矢が放たれた後の姿勢)
・武士道の精神道:弓道が「修養の道」として復活。武士道の「教養(知識)を高め、
品性を磨き、人格形成に努めるに通じる。
参考文献:Wikipedia(弓道、弓術) 新渡戸稲造(武士道)