2015 年 9 月 11 日号 Global Market Outlook lo 上げるべきか、上げぬべきか、どちらも問題だ 来週、米国金融当局(FRB)は金融政策決定会合(FOMC)を開催し、17日(日本時間18日午前3時)に結果 を発表します。政策金利は2008年12月以来、7年近くにわたって0~0.25%で据え置かれています。はたし て米国は利上げに舵を切るのでしょうか? 1. 先物市場の折り込みは3割弱 右のグラフ1は、政策金利(フェデラルファンド翌日も の)を対象とした先物市場が示唆する9月の利上げ確 率です。年初は0.25%の利上げを完全に折り込んで いました。しかし、1~3月期の成長率が減速したことか ら、徐々に折り込み度合いは剥落し、5月には5割を割 り込みました。その後、年初の減速は悪天候の影響が 大きいという見方が強まり、雇用市場の改善が続くなか、 イエレン議長も年内の利上げに自信を示す発言を繰り 返したことから、8月には5割まで浮上しました。ところ グラフ1:先物市場の9月会合での利上げ折り込み 140% 130% 120% 110% 100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 利上げ幅を0.25% 利上げ後の実効FF金利が レンジの中心で推移すると仮定 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 資料:ブルームバーグ、弊社 が、8月半ばに始まったグローバル市場での株価急落、 中国景気に対する不安の高まり等から再び低下、現在は3割を下回っています。 % 2. 利上げ見送り派の主張 グラフ2:米国インフレ率 3 「9月の利上げは見送り」とするグループは、以下を根 2.5 2%が目標 拠としているようです。 2 ① 雇用市場の改善にも、インフレ率は目標を下回る CPIコア 1.5 水準で安定していること。 FRBの使命は「雇用の最大化と物価の安定」です。 1 失業率は下限に近いと思われる水準まで低下していま 0.5 すが、グラフ2のようにインフレ率はFRBが目標とする 2%を下回った水準で安定しており、現在のところ上昇 に転じる兆しはほとんど見えません。FRBが重視して いるPCEコア指数については、むしろ低下傾向にある PCEコア 0 2006年 2008年 2015年初=100 2010年 2012年 2014年 資料:ブルームバーグ グラフ3:主要株価指数(年初来) 125 120 ようにも見えます。 115 ② 株式市場等が不安定な状況下での利上げは、リ スクが高い。 110 日経平均 105 グラフ3は年初を100とした日米欧主要株価指数の 動きです。いずれも8月中旬の急落後、乱高下が続い ています。新興国では通貨の下落が加速しています。 欧州ストックス 600指数 100 95 NYダウ 90 85 1月 確かに利上げに適している状況とは言えません。 -1- 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 資料:ブルームバーグ 3. 利上げ派の主張 一方、利上げ派の根拠は大きく分けて、以下の2つと思われます。 ① インフレ率が上昇し始めた後での利上げでは、手 千人 グラフ4:米国失業率と求人数 6000 遅れ。 5500 % 11 求人数(左軸) 10 右のグラフ4のように失業率は着実に低下し、8月は 5000 9 5.1%とほぼ自然失業率と思われる水準に達しました。 4500 8 一方、求人数の伸びは昨年あたりから加速、過去最高 4000 7 3500 6 の水準です。企業としては、採用しようとしても、条件に 3000 合った人材確保が難しい状況とも推察され、早晩、賃金 上昇を招くとも考えられます。金融政策はその効果が 現れるまでには、相当(半年程度?)の時間を要すると 失業率(右軸) 5 2500 4 2000 2001年 2003年 2005年 2007年 2009年 2011年 2013年 2015年 3 資料:米国労働省 されます。利上げ派は、実際に賃金が上がり始めてからの利上げでは遅く、その場合は、結果的により大幅な利 上げが必要となってしまうと主張しています。 ② そもそもゼロという現在の水準は、インフレ率を下回る異常な水準であること。 FRBは2008年9月の金融危機後、同年12月に政策金利をゼロまで引き下げました。これは非常事態に対す る危機対応と位置づけられます。少なくとも現在は市場機能は再生しているわけで、以下のような不都合な状況 を解消するためにも、金利の「正常化」が必要という主張です。 A) バブルの形成を助長 実質金利マイナスでは資金が株や高利回り債券に向かいます。そもそも当局はこの「リバランス効果」を意 図しゼロ金利に加え量的緩和に訴え、株高による景気浮揚を図ったわけです。しかしこれは劇薬です。いつ までも継続すれば、本質的価値を大幅に上回る価格まで押し上げてしまい、バブル破裂後、上昇時に享受 した効用をはるかに上回る災いを被ることは、日本の例でも明らかです。先月半ばからの内外株価の下落 はその兆しかもしれません。 B) 緩和の余地 景気はいつまでも拡大を続けるわけではなく、循環を避けて通ることはできません。現在の米国景気回復 (拡大)はすでに中期のステージに入っていると思われます。近い将来、訪れるであろう下降局面に対応す べく、利下げの余地を早期に確保する必要があります。 C) 分配の歪み イエレンFRB議長が議会公聴会に出席すると、必ずといっていいほど、「ゼロ金利を長期間継続することに より、預金者から富を奪い、ウォール街の投機家を支援している」といった批判が寄せられます。議長は「預 金者の気持ちは理解できるが、景気回復を磐石にすることが、結果として預金者の利益となる」と反論して いますが、現在の経済状況を鑑みるに、この主張も説得力が低下しつつあります。 D) 生産性の低下 米国の生産性は低下しており、その背景には種々の要因が考えられますが、低金利がその一翼を担ってい るのかもしれません。金利が「正常化」した水準では、利益が確保できないような収益率の低い事業でも、現 在は生き延びることができ、競争力向上を阻害しているという見方です。 -2- 4. 困難な判断を迫られる 米国でも日本でも、株式市場は非常に荒っぽい動きを繰り返しています。市場の不安心理が高まっていること の証左です。確かに、利上げに踏み切るタイミングではないという意見も説得力があります。 一方、たとえ見送ったとしても、市場が安心するかどうかは疑問です。もはや従前のように「相当の期間、現状 を維持」、「辛抱強く待てる」等のフォワードガイダンスにより、利上げ時期は遠いと市場を安心させることはでき ません。9月の利上げ決定がなければ、市場は10月なのか、12月なのか、あるいは来年3月なのか、と疑心暗 鬼となり、先行き不透明感を払拭することは困難です。 逆説的な見方となりますが、利上げを行ったうえで、「追加利上げを急ぐ必要はない」と明言した方が市場は安 心するかもしれません。 現在、米国景気を支えている分野として、住宅と自動車を指摘できます。いずれも長期金利(住宅ローンと自動 車ローン)に大きく影響されるため、FRBは長期金利の動向について、かなり神経質になっていると思います。や やうがった見方になりますが、現在のように株式市場が不安定な状況であれば、利上げに踏み切ったとしても、 長期金利の上昇は限定的(場合によっては低下も否定できず)と思われます。好調な景気、堅調な株式市場とい う条件が満たされてからの利上げでは、「FRBは後手に回っている」との観測から、長期金利の上昇が加速する ことも懸念されます。 いずれにせよ、来週、利上げを見送ったとしても、あるいは利上げに踏み切ったとしても、市場への影響は大き く、FRBは非常に困難な判断を迫られています。 また、今回は上記のような背景から、市場の反応は、 ・ 利上げ→株価下落、長期金利上昇、ドル高、 ・ 利上げ見送り→株価上昇、長期金利低下、ドル安 といったような単純な反応とは必ずしもならず、やや複雑な展開を示すことも充分想定されます。 本レポートとしては、利上げが実施される確率は市場の折り込みよりもやや高く、まさに五分五分と考えます。 -3- ※ 2015年7月以降のレポート 7月1日号 6月の市場動向と7月の注目点 7月6日号 ギリシャ国民投票は緊縮案受け入れを拒否(速報) 7月号 2015年度第1四半期の市場動向と今後の見通し 8月3日号 7月の市場動向と8月の注目点 8月14日号 中国元の急落について 8月19日号 ドル独歩高にも温度差 8月24日号 内外株価の急落について 8月25日号 内外株価の急落について その2 9月1日号 8月の市場動向と9月の注目点 MU投資顧問株式会社 登録番号 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第 313 号 一般社団法人日本投資顧問業協会会員 一般社団法人投資信託協会会員 〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台 2-3-11 電話 03-5259-5351 *本資料に含まれている経済見通しや市場環境予測はあくまでも作成時点におけ るものであり、今後予告なしに変更されることがあります。 *本資料は情報提供を唯一の目的としており、何らかの行動ないし判断をするもので はありません。また、掲載されている予測は、本資料の分析結果のみをもとに行われ たものであり、予測の妥当性や確実性が保証されるものでもありません。予測は常に 不確実性を伴います。本資料の予測・分析の妥当性等は、独自にご判断ください。 *なお、資料中の図表は、断りのない限りブルームバーグ収録データをもとに作成し ております。 -4-
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