2015 年 5 月 15 日号 Global Market Outlook く lo 米国利上げ観測と長期金利 今月初より米国を始め先進国の長期金利が上昇しています。その背景等について簡単にまとめてみました。 1. 金融市場では米国利上げ観測の後退が続く 右のグラフ1は先物市場が価格に折り込む政策金利 (翌日物フェデラルファンドレート)の水準(5月13日米 % グラフ1:先物市場が示唆する米国政策金利 1.25 1回が0.25%とした時の 利上げ回数 国市場終了時)を示しています。現在の政策金利目標 4回 は0~0.25%で、実際の金利は0.10~0.15%前 1 後で推移しています。利上げ開始後も当面はレンジ(お そらく0.25%幅)での目標設定となるようです。3度に 3回 0.75 わたる量的緩和(QE)の影響で中央銀行(FRB)の資 産残高は金融危機以前の9千億ドル程度から4兆5千 2016年3月 2回 0.5 2015年12月 億ドルに拡大しており、潤沢な流動性が存在しているた め、利上げ後も当面は、実際の金利はレンジの下方で 2015年9月 0.25 1回 推移すると思われます(網掛け部分)。 2015年6月 利上げの刻み幅は0.25%となる模様で、グラフの右 0回 0 2014年4月 側は先物市場が折り込む利上げの回数を示しています。 2014年7月 2014年10月 2015年1月 2015年4月 資料:ブルームバーグ、弊社 例えば今年の9月会合後の政策金利については昨年 秋まで、2回ほどの利上げを折り込んでいましたが、現在は1回の利上げさえ5割程度しか折り込んでいません。 来年3月会合でようやく2回の利上げを折り込んでいることになります。 FRBは昨年秋に量的緩和を終了、そして今年の3月には声明文の文言を変更し、いつでも利上げ可能な状況 となりましたが、市場の利上げ観測の後退が続いています。 2. これまでは利上げ観測が長期金利を動かしてきた 米国債券市場の焦点は「利上げの時期」にあったと思 います。右のグラフ2の赤い線は今年12月会合後の政 % グラフ2:政策金利先物と長期金利 1 策金利折り込みで、黒が10年国債利回りです。昨年秋 0.9 からほとんど同じような動きを示してきました。従って強 0.8 い経済指標が発表され利上げ観測が高まれば長期金 利は上昇、弱い経済指標には利上げ観測が後退し長 期金利は低下しました。株式市場の視点からみれば、 強い経済指標には先行き期待から上昇、弱い経済指標 には長期金利低下を好感し株価は上昇と、どちらとなっ % 3 2015年12月折り込み (左軸) 2.8 0.7 2.6 10年国債利回り (右軸) 2.4 0.6 2.2 0.5 2 0.4 1.8 0.3 2014年4月 1.6 2014年7月 2014年10月 2015年1月 2015年4月 資料:ブルームバーグ ても株価には追い風ということで、2009年3月以来の ほぼ一本調子の上昇の背景であったと思われます。ところが今月初から利上げ観測が後退する状況で長期金 利が上昇、赤と黒の線が異なった方向に動き始めました。 3. 今回の長期金利上昇の背景は ① ドイツ(欧州)長期金利上昇による一時的影響 % 今月からの長期金利の上昇はドイツ発、あるいは欧 州発と言えそうです。ドイツの長期金利は低下傾向が 続き、3月中旬からの量的緩和開始とともに下げが加 速、7年金利までがマイナス利回りという「債券バブル」 3.5 3 2.5 米国 2 1.5 とも呼べそうな状況でしたが、特に要因のないなか先月 1 末から突然急上昇に転じました。中央銀行の購入に期 0.5 待した安易な買い手が「投げ売り」を余儀なくされたとい 0 2014年4月 うことでしょうか。グローバル化により金融市場間の相 グラフ3:日米欧10年国債利回り ドイツ 日本 2014年7月 2014年10月 2015年1月 2015年4月 資料:ブルームバーグ 関が強まっているなかで、米国の長期金利も上昇を免 れなかったと言えましょう(日本の長期金利もわずかながら上昇)。この場合は一時的調整と考えられ、米国長期 金利も早晩、再び低下に転じると思われます。 ② 量的緩和縮小時の再来 上記のように外部要因の色彩が強いと考えますが、も しかすればそれだけではないかもしれません。右のグラ フ4は2010年以降の米国10年国債利回りの推移で すが、2013年半ばから年末にかけて急激に上昇する 局面がありました。5月にバーナンキFRB議長(当時) が量的緩和縮小を示唆したことがきっかけです。実際 12月に縮小が決定されるまで上昇基調が続きました。 今回利上げ観測は前ページのように後退していると はいえ年末までには1回の利上げが折り込まれていま % グラフ4:米国10年国債利回り 4 3.5 ↑量的緩和縮小を決定 3 2.5 2 1.5 1 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 資料:ブルームバーグ す。2013年と同様の展開となっても不思議ではありま せん。 利上げ開始後、市場の焦点は利上げのペースと、終着点(どの水準で利上げ局面が終了するか)ということに なるでしょう。利上げが遅れれば遅れるほど、利上げ後のペースは速まり、終着点は高くなるという憶測が働くこ とも考えられます。当面、グローバル金融市場は長期金利、債券市場から目を離せない状況が続くことになりそ うです。 -2- ※ 2015年1月以降のレポート 1月5日号 2015年金融市場の「初夢」 1月号 2014年度第3四半期の市場動向と今後の見通し 1 月22日号 原油価格急落の背景、影響と今後の見通し 2月5日号 マイナス利回りの国債が急増 2月10日号 案外「素直な」為替市場 2月27日号 欧州中銀の量的緩和 3月10日号 視野に入りつつある米国の利上げ 3月17日号 年初から意外に強い円相場 3月19日号 昨日のFOMC(米国金融政策決定会合)について 4月3日号 2014年度の金融市場、主役は日本銀行と欧州中央銀行 4月号 2014年度第4四半期の市場動向と今後の見通し 4月24日号 緊迫度を増すギリシャ情勢 4月28日号 英国選挙と金融市場 MU投資顧問株式会社 登録番号 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第 313 号 一般社団法人日本投資顧問業協会会員 一般社団法人投資信託協会会員 〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台 2-3-11 電話 03-5259-5351 *本資料に含まれている経済見通しや市場環境予測はあくまでも作成時点におけ るものであり、今後予告なしに変更されることがあります。 *本資料は情報提供を唯一の目的としており、何らかの行動ないし判断をするもので はありません。また、掲載されている予測は、本資料の分析結果のみをもとに行われ たものであり、予測の妥当性や確実性が保証されるものでもありません。予測は常に 不確実性を伴います。本資料の予測・分析の妥当性等は、独自にご判断ください。 *なお、資料中の図表は、断りのない限りブルームバーグ収録データをもとに作成し ております。 -3-
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