影響と今後の見通し - MU投資顧問株式会社

2015 年 1 月 22 日号
Global Market Outlook
く lo
原油価格急落の背景、影響と今後の見通し
昨年秋あたりから原油価格の下落が加速しています。世界経済、金融市場に与える影響も大きいと思われま
すが、その背景等を簡単にまとめてみました。
1. ここまでの経緯
グラフ1は2006年以降の原油価格の推移を示してい
ます。黒が米国WTI、赤がロンドンで取引されている北
海ブレントです。2008年に140ドル台半ばまで急上昇
した後、金融危機後30ドル台まで急落しました。その後
は新興国の景気回復、特に中国の積極的な投資による
需要増から再び上昇に転じました。2011年あたりから
2つの指標の間に価格格差が生じていますが、米国シ
ェール革命により米国の生産が急増したことによるもの
だと思われます。その後しばらく100ドル前後で推移し
ドル/バーレル
150
140
130
120
110
100
90
80
70
60
50
40
30
2006年
グラフ1:原油価格
北海ブレント
WTI
2008年
2010年
2012年
2014年
資料:ブルームバーグ
ましたが、昨年半ばから下落に転じ今般50ドルを割り
込むに至りました。
2. 急落の背景
【需要】
・新興国、特に金融危機後グローバル景気を牽引した
中国経済の減速、在庫積み上がりから減少。
【供給】
・米国シェール革命による生産の急増(グラフ2)。
・政治的混乱から生産が減少、停止していたイラク、リビ
アの増産。
・「イスラム国」の台頭等地政学リスクにもこれまでは生
千バーレル/日
グラフ2:米国原油生産量
10000
9000
8000
7000
6000
5000
4000
3000
2006年
2008年
2010年
2012年
2014年
資料:米国エネルギー省、ブルームバーグ
産に支障をきたしていないこと。
【投資】
・日米欧、先進国の中央銀行が大規模な金融緩和を行っているため、市場に溢れた資金が商品市場に流れて
いたが、米国利上げが視野に入りつつあるなか巻き戻しが入ったと思われること。
つまり構造的に需給バランスは悪化していたものの、商品市場に資金が流入したこともあり、原油価格は100
ドル前後で支えられていたと思われます。そして今般、サウジアラビア関係者が価格低下にも減産を否定したこ
と等を契機として資金が流出し下落に拍車がかかったのではないでしょうか。
3. 原油価格下落がもたらす光と影
【「アベノミクス」の副作用を補う】
ドル/バーレル
原油安は当然ながら輸入国には大きなメリットをもたら
160
します。特に円安が進行している日本には大きなプラス
140
円/バーレル
グラフ3:原油(WTI)価格
16000
14000
ドル建て(左軸)
と言えるでしょう。グラフ3の赤はWTI原油価格を円建
120
てで示したものです。2012年後半から為替要因で急
100
10000
激に上昇したわけですが、昨年後半から下落に転じま
80
8000
60
した。上昇が続いていたとすると、「円安の副作用」とし
12000
6000
円建て(右軸)
40
て国民の不満も高まっていたと思われます。もっとも日
4000
20
2006年
本銀行としては原油安により物価に下方圧力がかかる
2000
2008年
2010年
2012年
2014年
資料:ブルームバーグ
ため悩ましいところです。
ドル/1ガロン
【米国消費を押し上げ】
グラフ4:ガソリン価格
4.5
米国はクルマ社会であり、ガソリン価格は家計に大きな
影響を与えます。ガソリン価格には季節性があります。
グラフ4が各年の価格推移ですが、水色が2008年以
2009
2010
3.5
2011
3
降の平均です。夏のドライビングシーズンに価格は上
がり冬は低下します。現在は2ドルあまりと2009年と
2008
4
2012
2013
2.5
2015年
2
ほぼ同じ水準まで低下しています。ガソリンで浮いたお
平均
2014
2015
1.5
カネが他の消費に回ることも期待できます。
1月
4月
7月
10月
資料:ブルームバーグ
【シェール関連投資の減速】
米国経済堅調の要因としてシェール関連投資が考えられます。採算コストは60~80ドル程度といわれており、
現在の価格水準が継続すれば投資が停滞することも充分想定されます。サウジアラビア等OPEC諸国が減産
に踏み切らない理由は「シェールつぶし」という陰謀説も流れています。
【原油関連投資の収益悪化】
年明け早々、最初のシェール関連企業の破綻が発表
されました。米国では高利回り債券が活況ですが、エ
指数
3000
ネルギー関連企業の債券についてはこのところ下げ足
2500
を速めています。原油関連事業に投資するファンドもこ
2000
れまでシェールブームに乗り人気を博してきました。グ
1500
ラフ5は当該ファンド指数の推移ですが、原油価格とと
1000
もに下落基調に転じています。原油そのものへの投資
500
ではないためここまでの下落幅は限定的ですが、今後
下げが拡大するとなると市場に動揺をもたらすことも考
グラフ5:MLP指数
3500
0
2008年
2010年
2012年
2014年
資料:ブルームバーグ
えられます。
【オイルマネー、生産国の動向】
オイルマネーはいわゆる国富ファンドとしてグローバルでの株式、債券市場に向かい資産価格を支えていました。
それが停止、あるいは場合によっては逆流となると、株式はもちろんのこと債券市場等にも大きな影響を与える
ことが想定されます。またロシア、イラン、リビアといった生産国経済の低迷が経済面のみならず政治の観点か
ら金融市場の不安材料となる可能性も否定できません。
-2-
4. 今後の見通し
【需要の伸びは期待薄か】
%
グラフ6は今週発表されたIMFの各地域成長率見通し
グラフ6:IMF2015年成長率見通し
8
です。新興国経済の成長率は下方修正が続いていま
7
す。中国についても今年は6.8%と7%を割り込むとし
6
5
ています。日本に加え欧州が量的緩和に踏み切ったと
しても、米国は年半ばにも利上げに転じるとみられるこ
と、在庫が積みあがっていること(一時的にタンカーを
4
2014年7月
3
2014年10月
2
2015年1月
1
貯蔵タンクの代替としているとも報じられています)等か
0
ら、当分の間需要の増加は期待しづらいと思われま
資料:IMF
す。
【春以降徐々に供給は削減される?】
グラフ7は米国で稼動している石油掘削装置の数を示
リグ数
しています。2010年あたりから急激に伸びてきました
1400
が、直近頭打ちの傾向が見られます。従来型の油田で
1200
は価格が下落したといった事情である程度の減産はで
きたとしても停止はなかなか困難なようです。無理に蓋
をすると爆発するケースもあるようですし、また仮にうま
く止めることができたとしても、後に開けた時、周囲に漏
れてしまって残っていないということもあるとのことです。
ところがシェールの場合は人間が圧力をかけて油分を
グラフ7:シェール稼動リグ数
1000
800
600
400
200
0
2002年 2004年 2006年 2008年 2010年 2012年 2014年
資料:ベイカー・ヒューズ、ブルームバーグ
取り出すことから停止は簡単なようです。1装置につき
3~6ヶ月程度が耐用期限ということで、昨年秋からの価格下落でコストの高い地域を中心に新たな投資が見送
られ始めたとも推察され、今後生産高が減少することも予想されます。
【中期的には供給増が継続する模様】
グラフ8は2013年における原油生産高の国別内訳で
グラフ8:原油生産量(2013年)
す。右側の灰色部分がOPEC諸国ですが、そのシェア
は4割程度まで低下しています。OPECが減産した場
合、他の生産国のシェアが上がるだけという懸念から
踏み切れないとも考えられます。つまり以前とは異なり
価格支配力が低下したということでしょう。大規模な供
給遮断でもない限り、原油価格が再び100ドルを突破
する可能性は低いと思います。
サウジアラビア
ブラジル
イラン
UAE
その他
イラク
メキシコ
クウェート
ベネズエラ
カナダ
中国
米国
ナイジェリア
ロシア
その他OPEC
資料:BP世界エネルギー統計
従って投機的な動きが一巡すれば、米国シェールの減産に加え、エネルギー政策の観点から戦略備蓄の積み
上げの動き、割安感からの投資も想定され、年半ばにかけて底入れするとみております。しかしながら米国シェ
ール、カナダのオイルサンド、ロシアといった新たな供給源の登場から「石油ショック」再来の可能性は低いとみ
ております。
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※ 2014年10月以降のレポート
10月号
2014年度第2四半期の市場動向と今後の見通し
10月30日号
米国は量的緩和を終了
11月5日号
大きく乱高下した10月の金融市場
11月6日号
米国中間選挙と金融市場
12月18日号
米国金融当局は慎重ながらも利上げに向けて一歩前進
12月25日号
2014年グローバル金融市場10大ニュース
1月5日号
2015年金融市場の「初夢」
1月号
2014年度第3四半期の市場動向と今後の見通し
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登録番号 金融商品取引業者
関東財務局長(金商) 第 313 号
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一般社団法人投資信託協会会員
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電話 03-5259-5351
*本資料に含まれている経済見通しや市場環境予測はあくまでも作成時点におけ
るものであり、今後予告なしに変更されることがあります。
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はありません。また、掲載されている予測は、本資料の分析結果のみをもとに行われ
たものであり、予測の妥当性や確実性が保証されるものでもありません。予測は常に
不確実性を伴います。本資料の予測・分析の妥当性等は、独自にご判断ください。
*なお、資料中の図表は、断りのない限りブルームバーグ収録データをもとに作成し
ております。
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