マイナス利回りの国債が急増

2015 年 2 月 5 日号
Global Market Outlook
く lo
マイナス利回りの国債が急増
利回りがマイナスとなる国債が急増しています。その背景について簡単にまとめてみました。
1. 欧州を中心に急増
昨年末あたりから、利回りがマイナスとなる国債の取引
%
が見られるようになりました。グラフ1は主な国の国債利
0.5
回り推移を示していますが、ドイツは5年債、スイスに至
っては10年国債までがマイナスとなっています。利回り
0.4
0.3
0.2
がマイナスということは、おカネを借りる人が利息を受け
0.1
取ることができる(おカネを貸す人が利息を払わなけれ
0
ばいけない)という普通に考えればありえない現象です。
年明け後、欧州を中心にマイナス利回りの国債が急増
しており、本邦でも広く使用されている「シティ世界国債イ
グラフ1:国債利回り推移
日本2年
ドイツ5年
-0.1
フランス2年
-0.2
スイス10年
-0.3
11月
12月
1月
2月
資料:ブルームバーグ
ンデックス(除く日本)」を構成する721銘柄のうち、2月3
日時点では90銘柄(12.5%)がマイナスの利回りとなっています。
2. 「マイナス利回り」の国債を購入する理由
ではどうしてそのような常識ではありえない取引が行われるようになったのでしょうか?
以下の要因が考えられます。
① マイナス幅が拡大するという見通しからの投機
債券を購入する投資家は必ずしも償還まで保有するとは限らず、むしろ途中で売却することの方が多いかも
しれません。たとえ利回りがマイナスでも、さらに金利が低下する(マイナス幅が拡大する)と判断すれば債券
価格上昇をねらって購入することも考えられます。
② 実物資産からの逃避
非常に悲観的な話になってしまいますが、今後デフレが進行すると考えたとします。デフレとはモノの価格が
下落する(通貨価値が上昇する)ということです。資産を保有している人はどうすればよいでしょうか?株、不
動産は大きく下落すると思われます。グローバルでデフレとなると外国資産も危険です。低格付けの社債も不
安です。預金は選択肢となるでしょう。ただ金融機関のリスクは残ります。現金(これは満期0年の国債に近
いわけですが)は値下がりはしないでしょうが、どのように保管するかが問題です。「タンス預金」では盗難の
リスクもあります。そのように考えると1%以下の「マイナス金利」は保管料と考えられるかもしれません。
③ 通貨高を狙った投機
何らかの事情によりある通貨が今後上昇するという観測が強まったとします。グローバル化が進行している
現在、世界中の資金が殺到することになります。資金の行き先としてはその国の国債が選好される(資産価
格の変動率は回避)はずです。この現象は現在、「ユーロ圏には入っていないがファンダメンタルズが良好な
欧州の国」つまりスイスやデンマークで実際に起きています。通貨が上昇すると考えると多少のマイナス金利
は「誤差の範囲」となります。両国の金融当局は通貨上昇を抑制するため、政策金利をマイナスとし、長期金
利をさらに押し下げることになりました。デンマークに至っては、国債を購入させないよう当分の間国債の発
行を停止することを決定しました。デンマークの財政赤字はGDP比1%程度で、今年の資金調達には目処が
たっているため問題はありません。
④ ベンチマーク投資家
前ページの国債インデックス等、ベンチマーク運用を行っている投資家(特にパッシブ運用)は構成銘柄を買
わざるを得ないことになります。
⑤ 投資目的でない需要
・中央銀行
欧州中央銀行のドラギ総裁は1月22日量的緩和決定後の記者会見で、マイナス金利となっている国債も買
い入れ対象とすると明言しました。また通貨高阻止を目的として自国通貨売り外国通貨買いの介入を実施し
ているスイス中央銀行も、ユーロの運用対象としてマイナス金利の国債も含めていると思われます。
・金融機関
銀行等の金融機関は投資目的として債券を保有していますが、それ以外の目的もあります。昨今金融機関
の間でのデリバティブズ(簿外)取引が大量に行われています。この取引はゼロサムであり、片方が含み益を
得ると、取引相手は含み損を抱えることになります。2008年の金融危機後、特に信用リスクの管理には神
経質となっており、多くの場合含み損を抱える側が相手に担保を差し入れる契約となっており、その担保とし
ては主として信用力の高い国債が使用されています。また金融機関に対する規制もより厳格となっており、一
定以上の安全資産の保有を義務付けられていることから、利回りがマイナスとなっていてもある程度の国債
の需要は維持されます。一方、欧州各国は財政健全化が義務付けられており、金利が低下しても発行を増
加することはできないという事情もあるでしょう。
3. マイナス金利は定着するのか?
さて、このような普通は考えられない「異常な事態」の行き着くところは、
・異常が異常でなくなる(マイナス金利は当たり前)構造的な変化が起きる。
・異常な事態が経済循環等により解消される。
のどちらかとなりそうです。
上記①の投機ですが、これはいずれ解消されることになります。優秀な人は利益を得て解消、そうでない人は
損失を被って解消となります。投機というものは新たな基調を作るわけではなく、基調を増幅させる役割を演じる
に過ぎないということだと思います。
②のデフレの進行ですが、これが定着すれば構造変化であり、長期化すればマイナス金利も長期化すると思
われます。米国と中国という2大「大国」が鍵を握っていると思います。米国経済は昨年7~9月期は5.0%、10
~12月期は2.6%の成長を遂げました。今後も2%台後半から3%程度の成長が予測されています。中国経
済は減速していますが、今年も7%前後の成長が見込まれています。もし米国経済が変調をきたし、あるいは中
国経済が不動産価格の急落等といった事態から急減速した場合、日本の「失われた10年」のグローバル化も現
実味を帯びてくることになるでしょう。しかし現在のところその可能性は非常に低いと考えます。
③は一部「小国」に限られグローバルに拡大する可能性はほとんどありません。もっともスイス等ではマイナス
金利が長期化することも充分想定されます。
④は基本的には市場に追随する動きであり、市場を先導することはないと考えます。
⑤の需要は継続すると思います。ただし一巡した後は需要が拡大することはないと思われます。
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結論として、欧州中銀が量的緩和に踏み切ったこともあり、欧州を中心にマイナス金利が当面継続すると考え
ます。しかし量的緩和が景気を押し上げ成長率に上昇の兆しが見え、原油価格が下げ止まりインフレ率が上昇
に転じれば(あるいは時間の経過とともに前年比でプラスに転じれば)、案外早期にマイナス金利が解消され、上
昇に向かうことも充分考えられます。何はともあれ、②のシナリオが現実味を帯びることだけは回避したいところ
です。
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※ 2014年10月以降のレポート
10月号
2014年度第2四半期の市場動向と今後の見通し
10月30日号
米国は量的緩和を終了
11月5日号
大きく乱高下した10月の金融市場
11月6日号
米国中間選挙と金融市場
12月18日号
米国金融当局は慎重ながらも利上げに向けて一歩前進
12月25日号
2014年グローバル金融市場10大ニュース
1月5日号
2015年金融市場の「初夢」
1月号
2014年度第3四半期の市場動向と今後の見通し
1 月22日号
原油価格急落の背景、影響と今後の見通し
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*なお、資料中の図表は、断りのない限りブルームバーグ収録データをもとに作成し
ております。
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