2015 年 3 月 10 日号 Global Market Outlook く lo 視野に入りつつある米国の利上げ 先週金曜日発表された米国雇用統計は非常に強く、利上げに踏み切る時期が市場の焦点となっています。 1. 「最初の利上げ」はいつか? 米国金融当局(FRB)は金融危機直後の2008年12 % 月、政策金利目標を0%~0.25%まで引き下げ、現 1.5 在まで事実上の「ゼロ金利政策」を続けています。雇用 1.25 市場の改善が進捗し、主要株価指数が史上最高値を 更新するなか、金融市場の焦点は「最初の利上げ時 グラフ1:先物市場が示す政策金利 1 0.75 0.5 期」となります。右のグラフ1は先物市場が折り込む政 0.25 策金利予想です。厳密に言いますと政策金利目標では 0 なく、翌日ものフェデラルファンド金利の月中平均です。 同金利は現在、概ね0.05%~0.10%とレンジの下 資料:ブルームバーグ 限近辺で推移しています(量的緩和は終了しましたが、 市場に供給された流動性は吸収されることなくそのまま放置されているため)。 もし6月の金融政策決定会合(FOMC)において0.25%~0.50%への利上げが決定されるとすると、7月の 先物は0.35%程度になると想定されます。現在は0.24%で、6月の利上げは6割程度折り込まれている計算 になります。FOMCは今年あと7回開催されますが、大きな政策変更は記者会見が予定されている3、6、9、12 月のいずれかで行われるということが一般的な見方です。前回1月の声明文には「利上げ開始には辛抱強くな れる(待つことができる)」という文言があります。イエレン議長はこの文言について「この先2回の会合での利上 げはないという意味」と明言していることから、3月の可能性はほとんどなく市場参加者の大半が6月、ないしは9 月の利上げを予想しています。一部には12月、あるいは来年とみる向きもあります。早期利上げ派、後ずれ派 の主張は以下のようなところです。 ①早期利上げ派 ・失業率は一時の10%から5.5%まで低下しており、最早ゼロ金利という異常な政策を続ける状況ではない。 ・早期に利上げに踏み切ることにより、その後の利上げペースを緩やかにすることができる。 ・インフレは抑制されているものの、量的緩和により流動性が溢れており、上昇してからでは手遅れ。 ・上下両院で多数を占める共和党の緩和長期化への批判が強い。FRB監督強化の動きもあるなか無用な軋轢 は回避したい。 ②利上げ後ずれ派 ・失業率の低下にも賃金上昇率は低く、インフレは今後も抑制される。低下のリスクも否定できない。 ・現在の環境では「早すぎるリスク」が「遅すぎるリスク」を上回る(日本の2000、2006年、欧州の2011年の経 験) ・欧州、日本が量的緩和を継続する局面での利上げは為替市場で過大なドル高を招くことが想定され、景気に 悪影響を与える懸念が大きい。 2. 利上げが実施された場合、長期金利の行方は? 利上げに踏み切った後のテーマは利上げのペース、長期金利の行方になろうかと思います。長期金利につい ても意見が分かれています。 ①上昇幅は限定的 ・賃金上昇が抑制されていることから、インフレ懸念も限定的で利上げも緩やかなペースとなる。 ・欧州ではドイツを中心にマイナス利回りも常態化しており、米国金利上昇局面では米国債に対する需要も強 い。 ・金融機関に対する規制が厳しく安全資産として国債を保有せざるをえない。 ・2008年の金融危機が構造を変えた。新たな均衡(ニュー・ノーマル)における利上げサイクルの終着点は従来 のような4~5%ではなく2%程度となり長期金利の上昇余地は大きくない。 ②10年利回りは3%を越えて大きく上昇 ・住宅バブルの反省からFRBは利上げに踏み切った後、前回のような会合ごとの0.25%の利上げというあまり にも予測が容易な政策は採らないだろう。現在マイナスとなっているリスクプレミアムが上昇する形で長期金利 は上昇。 ・FRBの資産残高が金融危機以前の8千億ドルから4兆5千億ドルにまで膨らんだなかでの利上げは急ピッチと ならざるをえない。インフレ懸念も高まろう。 3. 利上げは早ければ6月、長期金利は上昇も3%を大きく越える可能性は低い? 市場の利上げ観測については6月説、9月説で揺れて いますが、冒頭に記しました通り先週金曜日に発表され た米国雇用統計が堅調であったことから、やや6月が優 % 3.5 グラフ2:米国10年債利回り 2012年度 2013年度 2014年度 3.00 3 勢になりつつあるようです。経済指標次第ですが、本レ ポートでも6月の可能性がかなり高いとみます。長期金 2.5 利については1月号でグラフ2のように3月末2.5%、 2 来年度末3%としましたが、現在も同様に考えておりま 1.5 す。よほどのことがない限り2013年度の高値3%を大 1 2012年4月 きく上回って上昇する可能性は低いと思います。 -2- 2015年度 2.50 赤点線は予想 網掛け部分は予想レンジ 2013年4月 2014年4月 2015年4月 資料:ブルームバーグ ※ 2014年10月以降のレポート 10月号 2014年度第2四半期の市場動向と今後の見通し 10月30日号 米国は量的緩和を終了 11月5日号 大きく乱高下した10月の金融市場 11月6日号 米国中間選挙と金融市場 12月18日号 米国金融当局は慎重ながらも利上げに向けて一歩前進 12月25日号 2014年グローバル金融市場10大ニュース 1月5日号 2015年金融市場の「初夢」 1月号 2014年度第3四半期の市場動向と今後の見通し 1 月22日号 原油価格急落の背景、影響と今後の見通し 2月5日号 マイナス利回りの国債が急増 2月10日号 案外「素直な」為替市場 2月27日号 欧州中銀の量的緩和 MU投資顧問株式会社 登録番号 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第 313 号 一般社団法人日本投資顧問業協会会員 一般社団法人投資信託協会会員 〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台 2-3-11 電話 03-5259-5351 *本資料に含まれている経済見通しや市場環境予測はあくまでも作成時点におけ るものであり、今後予告なしに変更されることがあります。 *本資料は情報提供を唯一の目的としており、何らかの行動ないし判断をするもので はありません。また、掲載されている予測は、本資料の分析結果のみをもとに行われ たものであり、予測の妥当性や確実性が保証されるものでもありません。予測は常に 不確実性を伴います。本資料の予測・分析の妥当性等は、独自にご判断ください。 *なお、資料中の図表は、断りのない限りブルームバーグ収録データをもとに作成し ております。 -3-
© Copyright 2024 ExpyDoc