マーケットの底 流 を読 む 株式会社ジャパンエコノミックパルス Japan Economic Pulse Co., Ltd. 株高「好回転」促す押し目待ち待機マネー 海外勢や個人には機動的な利食い・キャッシュ化も 日本株は過熱警戒感がくすぶっているが、 「押し目 待ち」待機マネーの累増が持続的な株高の好回転を 支援しよう。海外勢や国内個人には高値警戒感など により、機動的な利食い売りとキャッシュ化が散見 されるほか、公的年金や郵政マネーなどのリアルマ ネー系による下値拾いが控えていることで、株安に 備えたヘッジ対応では、空売りより機動的なキャッ シュ確保と調整下落局面での再投資が有用な投資環 境となってきた。同時に買い遅れの内外投資家や、 国内 NISA(少額投資非課税制度)関連マネーなどの 押し目買い需要も根強い。 MRF 残高 11 兆円、株式投資「待機資金」示唆 「国内個人のネット取引利用者には、日本株の利 益確定売りを一巡させ、再投資の機会をうかがって いるが、なかなか“押し目待ちに押し目なし”によ って、買い再開のタイミングを逡巡している投資家 が少なくない」――。 あるネット証券会社の幹部は、このような指摘を 行う。実際に東証三市場の投資主体別売買動向によ ると、個人の現金+信用の合計は 2 月に-1 兆 6501 億円の売り越しとなり、昨年 11 月の-1 兆 9837 億 円以来の高水準となった。個人の現金取引では、日 経平均株価が 15 年ぶり高値を更新する過程の今年 1 月 3 週から 3 月 3 週にかけて、8 週連続での売り越 しとなっている。 個人による戻り売りと現預金滞留の一つの参考に なるのが、個人投資家が証券口座に預けた資金を運 用する「マネー・リザーブ・ファンド」(MRF)と呼 ばれる投信の残高だ。MRF は証券口座の預金のよう な位置付けであり、株式や投信を売って得た現金を 国債などで一時的に運用する。一種の株式投資の待 機マネーを示すものだ。投資信託協会によると、2 月の純資産総額は前月比+2862 億円増の 11 兆 2853 億円となった。NISA 創設を受けた新規マネーの流入 により、 2012 年末の 6 兆 4065 億円からは+4.8 兆 円の急増となっているが、過去の株式投資マネーに 関しても、15 年ぶりの高値回復を受けた「やれやれ 売り」の増加と MRF への一旦のキャッシュ滞留が示 唆されている。 MRF への 11 兆円もの資金退蔵は、潜在的な株式投 資の「予備軍マネー」として注目されるものだ。最 近では MRF の残高が昨年 10 月に前月比-6455 円の 減少となったが、当時の日経平均は 9 月安値の 1 万 5440 円から、10 月高値 1 万 6533 円まで+1092 円幅 の株高が進展した。現在の日本株市場では、26 日の 配当・株主優待の権利取り最終日に向けた押し目買 [email protected] 2015/3/25 いが焦点となっているが、同時に権利落ち後の株価 反落を待ち構える下値拾いの潜在需要も根強い。 また、外国人投資家についても、日米欧などで株 高過熱感が高まるなかで、小刻みな利益確定売りが 散見されている。とくに米国株市場では、4 月 8 日 のアルミ大手アルコア決算を皮切りとした 1-3 月 期の決算発表が視界に入り始めた。米国株は高値警 戒相場が長期化する中で、ここ数年は決算発表シー ズンの前後から「収益見通し見合いでの割高警戒感」 がジワリと増大。米国株が調整下落に転じるパター ンが繰り返されている。その意味で 4 月にかけては、 海外勢による米国株の一旦の利益確定売りが、日本 株でも早い者勝ち的な利食い売り材料として注視さ れよう。 ちなみに昨年 4 月の NY ダウは、4 月 4 日が当時の 高値となる形で調整下落へと転換。決算発表という イベントの織り込みが進捗した 4 月 11-15 日で底入 れ反発となっている。また、昨年 10 月の決算発表前 には、前月 9 月 19 日が高値となって調整入りとなっ たほか、今年 1 月の決算発表シーズンでは、昨年 12 月 26 日が高値となる形で急落に転じ、決算発表が一 段落した今年の 2 月 2 日で底入れ反転となった実績 を有している。 米国株は機動的キャッシュと再投資で長期上昇 もっとも現在の日本株の場合、2 月から海外勢に よる買い越しが復活する一方で、高値警戒などによ る利益確定売りも同時進行で進捗している。東証一 部ベースの投資主体別売買動向では、海外投資家の 「売り」 単体は最新 3 月 2 週に 8 兆 4283 億円となり、 前週の 7 兆 6478 億円から拡大した。差し引きでは+ 2992 億円のネット買い越しとなっているものの、売 りだけでみれば 2 月 1 週の 9 兆 0941 億円から 7 兆- 9 兆円前後での高水準の処分額が続いている。小刻 みな利益の確保と一旦のキャッシュ化という回転の 効いた売買が見られており、日本株の過熱感を抑制 させるものだ。 機動的な利益確定売りは、買い一辺倒の場合のよ うな反動急落リスクを抑制させる。しかも戻り売り による部分的なキャッシュ化は、株価が割高調整で 下落したあと、割高感が是正された段階での新規の 再投資マネーとして下値固めの役割を担う。実際に 財務省の週間・対内外証券投資状況によると、1 月 以降は海外勢の日本株投資が売り越しに転じる場面 でも、海外勢による対内短期債投資は買い越しとな り、国内での株式処分マネーの短期債を始めとした キャッシュ滞留が示唆されている。 2 月 15 日から 3 月 14 日までの 3 週間でも、対内 短期債投資は+2 兆 3301 億円の買い越しとなった。 部分的に日本株の高値警戒売りが入っても、その資 金の国内滞留を想起させるものだ。昨年の場合、8 月 3 日から 10 月 18 日までの 11 週間で対内株式投資 は-3424 億円の売り越しとなる中で、対内短期債投 資も-2 兆 9845 円の売り越しとなっていた。当時の 海外勢による「日本株離れ」と「国外への資本退避」 」 が示されている。 米国株は 2009 年 3 月以降、長期株高が 6 年目を迎 えているが、やはり機動的なキャッシュ化と再投資 の好回転が長期株高をサポートしてきた。米国の株 式市場で、一時的な株式からの逃避マネーや潜在的 な株式投資の待機マネーを示すのが、現預金に近い 流動性資産である MMF(マネーマーケット・ファン ド)の動向だ。米投資信託協会(ICI)によると米国 の MMF 残高は 2011 年以降、2 兆 5000 億ドルから 2 兆 8000 億ドルを中心としたレンジでの上下動が繰 り返されている。 米国株に割高警戒感が高まると、ジワリと利食い マネーなどが MMF へと滞留され、MMF の残高が増加。 反対に米国株の割高感が薄れてくると MMF から株式 市場へと資金が回帰し、MMF は減少に転じるという、 投資資金の往来「好循環」が長期にわたって定着し てきた。日本株も追随機運が高まりつつある。 投資信託協会・MRF純資産総額(マネー・リザーブ・ファンド) 前月比(軸を上下反転) 株式シフト 余地↑ -10,000 -8,000 -6,000 -4,000 -2,000 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 前月比(左軸) 11 10 9 8 7 6 5 4 3 残高(右軸) ↑ ネットは買い越し Jan-15 Jun-14 Nov-13 Apr-13 Sep-12 Feb-12 Jul-11 Dec-10 May-10 Oct-09 Mar-09 Aug-08 東証一部・海外投資家の株式売買状況 差引きと売り 売り増加↑ 1,400 差引き(左軸) 1,200 売り(右軸) 1,000 800 600 400 200 0 -200 -400 -600 -800 -1,000 Mar-15 Jan-15 Dec-14 Nov-14 Oct-14 Sep-14 Jul-14 Jun-14 May-14 Apr-14 Mar-14 Jan-14 Dec-13 Nov-13 Oct-13 Sep-13 Aug-13 Jul-13 May-13 Apr-13 Mar-13 Feb-13 Jan-13 10 億円 Jan-08 Jun-07 Nov-06 Apr-06 Sep-05 Feb-05 Jul-04 Dec-03 May-03 億 円 同時に現在の日本株の場合、過去のような「買い 主体は外国人だけ」という需給面での脆弱性が薄れ てきた。株安局面では、公的年金や関連共済、郵政 マネーなどの運用改革に伴う押し目買い需要が控え ている。そのため、株安リスクに備えたヘッジ対応 では、空売りや先物売り仕掛けよりも、小刻みな利 益確定とキャッシュ化、その後の再投資という回転 売買が有用な投資環境となってきた。株価急落を狙 った売りの仕掛けも、よほどの悪材料が出てこない 限り投資チャンスが難しくなっており、市場の変動 率(ボラティリティー)という点でも安定感が高まっ てきた。 しかも海外勢については、昨年に日本株の利益確 定売りや投資手控えが優勢になったほか、昨年 10 月末の日銀による追加緩和などを受けて、国内に滞 留させている余剰マネーが急増してきた。日銀の業 態別・当座預金残高によると、外国銀行が法定以上 に準備預金を積み上げた超過準備額(平均残高)は 2 月に前月比+1020 億円の 19 兆 4570 億円にまで膨 らんでいる。昨年 11 月からは+3 兆 8953 億円の増 加となっているほか、2013 年 12 月からの 1 年超で は+10 兆 4075 億円もの大幅増となっている。こう した海外勢による日本滞留の余剰資金については、 複合ルートを通じて日本株などのリスク資産に向か う潜在余地が残されている。 兆 円 10,000 9,000 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 10 億円 お客様は、本レポートに表示されている情報をお客様自身のためにのみご利用するものとし、第三者への提 供、再配信を行うこと、独自に加工すること、複写もしくは加工したものを第三者に譲渡または使用させる ことは出来ません。情報の内容については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありませ ん。また、これらの情報によって生じたいかなる損害についても、当社および本情報提供者は一切の責任を 負いません。本レポートの内容は、投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、勧誘を目的とし たものではありません。投資にあたっての最終判断はお客様ご自身でお願いします。
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