言葉の力 以前担任をしていた教え子が、10年前にドイツ人の男性と結婚して首都ベルリンに住んでいます。 毎年学校の休みを利用して、一時帰国しているのですが、今年も顔を出してくれました。3人の子ども がいますが、一番上の女の子が小学校2年生です。学校はドイツ人、トルコ系の移民、そしてアラブ系 などの子どもたちがいて、それぞれ1/3ずつで構成されているそうです。基本的に会話はドイツ語で すが、個々の子どもらの語学力はまちまちなので、身振り手振りで互いにコミュニケーションを取るこ ともあるそうです。しかし一番たいへんなことは、それぞれに多種多様な価値観がありますから、日本 の社会のように「気持ちを酌む」ということはほとんどできません。けんかが発生しても、「まあまあ、 お互い様、穏便に片付けましょう」といった類の解決方法は採れません。お互いに納得がいくようにき ちんと揉め事の経緯を話し、聞くことによって解決に至ります。 「周りにいる人は、みんな自分の考えとは違うんだ。だから、とことん話し合うことでお互いに理解 し合って生活する。 」様々な民族が入り混じって生活しているヨーロッパの国ならではの知恵だと思いま す。この学校では、休み時間になるとビブス(ゼッケン)を付けた6年生の子どもが、校舎内に繰り出 します。そして、子ども同士の衝突が発生すると、間に入って仲裁をするそうです。時には当事者の子 どもを連れて別室で先生も交えて解決の道を探ります。子どもの時からこのような「実地訓練」を通し て、コミュニケーション力を磨くのです。子どもたちに求められるのは、自分のしたことをしっかり説 明できる力であり、6年生の子どもに求められるのは、けんかした者同士が納得できるように話を聴き、 まとめる力です。 コミュニケーション力というのは、ある意味、自身の気持ちや考えを相手にわかるように「言葉」で 伝えることです。しかし、どう言葉にしたらいいかわからないと、ついつい暴言や手や足が出てしまい ます。こうした状況は矢倉小学校に限らず、今日本の学校という学校で起こっている深刻な課題です。 「う ざい!」 「消えろ!」 「死ね!」こんなネガティブな言葉を相手にぶつけることしかできない子どもが増 えています。子どもですから、喧嘩はあって当たり前です。譲れない事もあるでしょう。我慢できない こともあるでしょう。けれどもその悶々とした気持ちを言葉にする「習慣」を小さいときから身に付け れば、気持ちのコントロールは可能です。 「言葉にせずとも、互いの心を察する」これは日本の伝統的な心の文化です。これからも大切にして いきたいと思うと同時に、すれ違いの感情や価値観の違いを埋めるのはやはり「言葉の力」であり、こ れから磨いていかなければならないと思います。 校長 五十嵐 信博
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