生きてはたらく確かな言葉を身につける授業の実践

清田区
中学校国語研究項目
研究主題
生きてはたらく確かな言葉を身につける授業の実践
副主題
〈対話〉をいかして「言葉の力」の高まりが実感できる授業の創造
造である。
I主題について
I 研究主題・盲J
1 研究の概要
2 研究の視点
全ての学習において、ベースとなるのが「言葉の
これまでの研究から、今年度は「言葉の力」を、
学校が果たすべき最大の責
1
<対話〉を通し、考えを深める中で身につけてい
任である学力向上には「言葉の力 j の向上が不可欠
くもの」とらえ、(対話)と言葉の力の高まりが結
であると言えるだろう
びつくような学習活動の構築を目指すこととした。
力 I であるといわれる
O
O
ここでいう「言葉の力」と
は、読み、書き、対話して理解する力である。「言
E 研究のあゆみ
葉の力」を生徒に身に付けさせ、生徒自身が「言葉
確かな言葉の力を生徒たちに付けさせるために
の力の高まり I を確実に実感することのできる国語
は、基礎・基本を学習の土台とした指導が必要であ
の授業を積み重ねていくことが我々の目指すところ
9年度、区の研究副主題を「学習の
ると考え、平成 1
『型JlJ の学習に設定した。型には「毎日の反復練
であると考える。
平成 1
5年度以降清田区で設定してきた「確かな言
習の型」、活動の繰り返しの中で違いに気付かせた
葉の力を身につける授業の実践」という研究主題を
り本質に注目させたりする「学習活動の型」、小説
踏まえ、平成 20年度は「実社会に生きた言葉の力を
の「型」、作文、スピーチといった「言語生活の型」
学んできた言葉の力を実生活
身につけさせたい J I
など種々のレベルがある。確実な型を習得させ、そ
で役立たせたしりという願いを加え、「生きではた
れを破るところから個性が生まれる、と考えたから
らく確かな言葉の力を身につける授業の実践」を区
である。取組の結果、有益で、様々な題材や生活場
の研究主題として設定した
面で応用がきく「より良い型」の模索が必要である
今年度も、その目指す
ところを踏襲した上で、生徒が授業で学んだことを、
ことを成果として確認することができた。
自らの言語生活の様々な場面で使うことができるよ
翌平成 20年度からは、研究体制が、 3年を一つの
うな言葉の力を育てる国語授業の構築を目指してい
サイクルとした全体の研究主題との連携を持ちなが
きたいと考えた。
ら区ごとに研究を深めるという形となった。それを
副主題については、全市の研究主題を基底とした。
受け、清田区においては、「確かな言葉の力を身に
<対話)
つける授業づくり」という従来からの区の研究テー
基底研究主題は、平成 20 年度 ~22 年度は I
を通し、考えを深め、言葉の力を高める授業の研究 j
マに「他者との対話」を新たな着眼点として加え、
となっていた。 3年継続研究により、(対話)を通
研究を継続した。
した授業が生徒一人一人の考えを深めるための機能
全年研究のまとめの年である平成 21年度は、「他
として有効であることが確認された。これまでの研
者との対話」に加え、「自分自身との対話」にも着
究を踏まえ、平成 23 年度 ~25年度の研究主題は I <
対
目し、「考えを深める I ことを目標とした。各校か
話〉をし、かして考えを深め、言葉の力の高まりが実
ら、自己との対話に着目しながらより考えを深めて
感できる授業の研究」に定められ、今年度は「生徒
いくことを目指した多くの実践が報告され、いくつ
自身が言葉の力の高まりを実感することができる授
かの課題も得ることができた。
その目指
今年度は、昨年度までの取組から得られた課題を
すところは、学習者が、他者の考えを聞き、自分で
踏まえた上で、先に述べたく対話〉を通して、「言葉
考え直して、次第に認識を深め、より深い「考え j
の力」の高まりが実感できる授業の創造を目指した。
業 I を試行的に実践する年となっている
O
に到達しようとする中で、より「確かな言葉の力」
生徒の力が更に向上するためにはどうすればよい
を身に付けることができ、「言葉の力の高まり I が
かを指導者が評価し、適切な働き掛けをすることで、
実感できる授業、そして指導者も、その取組を適切
生徒はより意欲的に国語の学習に取り組んでいく
に評価し生徒に返すことで、生徒がさらに意欲的に
その前提の上で、生徒個々が、「言葉の力が高まっ
なり、彼らをより成長させることのできる授業の創
た」と実感することが、学びを進めていく上で大切
-中・国語 清田1-
O
なことであり、く対話〉が有効に機能し、一歩でも言
を読み、共通点や差異などを考えてし、く。
葉の力を高めることができたと実感することが、生
一つ目の文章は、清水義範が書いたものである。
徒自身のより高い学びの意欲につながっていくと考
「言葉の変化」は仕方ないこととして、ことわざの
えたからである
意味の変化を受容していくという考えである。
O
E 各校研究主題一覧
る「言葉の変化」をよしとはせず、正しい言葉遣い
研究主題
¥ ¥ ¥
清田中
二つ目の文章は梶原しげるのもので、敬語におけ
社会生活に役立つ言語能力の育成と
その評価のあり方
平岡中
北野中
をすべきだと主張している
O
三つ目の金田一秀穂の文章では、言葉は変化する
基礎基本の定着と言葉の力を豊かに
ものとして考え、若者が使う言葉も「言葉の変化 I
する授業づくり
として前向きに捉えている。
基礎基本の定着と生徒個々の確かで
これらの三つの文章はどれも千字程度で、それぞ
豊かな言語能力の育成を目指す授業
れが具体例を用いて「言葉の変化」に対する主張を
の評価のあり方
している。しかしながら、それぞれの着眼点が異な
北野台中 生徒自らの伸びを実感できる授業づ
る。そこで、それぞれの文章の著者が現代日本語に
くり
「言葉の力 j を伸ばす指導と評価の
真栄中
「ことばの力 I を高め、学ぶ力を伸
る。これらを踏まえ、「言葉の変化」というキーワ
ードを取り上げ、自分自身が日常生活で使用してい
ばす学習指導の実践
平岡緑中
対して、どのような課題を見出しているか、またど
のような立場で述べているのかを読み取る必要があ
あり方
平岡中央中
っているため、直接的な比較はしにくいと考えられ
「伝え合う力」を同める授業の工夫
る言葉について考える。人によって様々な考えがあ
ることを知り、それを受け止めた上で、根拠をもっ
W 実践
て自分なりの考えをもち、他者との交流によって、
1 全市研究集会
その考えを深めていく
全市研究集会の地区集会において、今年度の研究
推進体制が確認された。研究主題・副主題の承認も
なされ、公開授業校及び授業者は平岡緑中学校の石
岡潤也教諭に決定した。また各学校の授業の様子を
交流し、秋の実践研究日に向けて研究主題にどう迫
O
(2) 学習のねらい
0言葉の変化に興味をもち、自分の身の回りの言
葉 に つ い て 考 え る 。 [ 関 心 ・ 意 欲 ・ 態 度1
0事実や具体例をもとに、自分の意見を相手に伝
え る 。 [ 話 す ・ 聞 く 能 力1
0他者の意見を自分の意見との相違にかかわらず
るかを検討し合った。
2 実践研究日
受け入れる。[話す・聞く能力]
平岡縁中学校において、「言葉を考える J (教出
(3)生徒について
1年)を題材として、区の研究主題に則り、他者と
日頃生徒と関わっていく中で、生徒の自己主張を
の対話活動を通して自己の内面を振り返り、よりそ
聞く場面がある。その際、自分自身の状況や要求は
の考えを深めていくことを指導の主眼とした授業が
よく把握しているが、相手の状況や立場は考えられ
公開された。
ていないことが多い。そして自分の要求が通らない
場合には、慣りを感じている場面も見受けられる。
(1)題材について
新学習指導要領の第一節第一学年には IA話すこ
そこで、他者にも自己と同じように立場や根拠を
と・聞くこと(1)目標(1)目的や場面に応じ、
もった考えがあるということを学ばせたいと考え
日常生活に関わることなどについて構成を工夫して
た。その上で複数ある意見のうち、必ずどれか一つ
話す能力、話し手の意図を考えながら聞く能力、話
だけが E しいというわけではなく、それらが両立す
題や方向を捉えて話し合う能力を身に付けるととも
ることが可能だと知ってほしい。
に、話したり聞いたりして考えをまとめようとする
態度を育てる。」とある。
また、自分とは異なった意見をもった者と交流す
ることで自分の思考が深まっていくことを体験的に
本教材では、「言葉の変化」に関する三つの文章
学ばせたいと考えた。
-中・国語 清田2-
2
①「言葉を考える」本文を読む。
②三人の筆者の考え方を理解する。
2時間目
①自分たちの身の回りの「言葉の変化」につい
て考える。
考中分言選
参のがなに
と徒見う前く
一一ぺ生意そ事お
醍、もれをで
前にでか葉ん
1時間目
ば表すク
や代。用一
﹁のる使ワ
、どげく
刊な挙よげ
画 l どが上。
をハ一ほ分りる
ト切っ白取す
﹂た 7 ら つ 入
シりをか
3 記
クちの中をに
一リもの葉ト
ワ﹂なそ言一
い的るシ
(4)授業の展開
②変化している言葉を具体的に挙げ、ノートに
ワークシートの図に、その言│ワークシート
記入する。
③変化している言葉を発表する。
葉を使う場合は「誰に」使うの│に取り組ませ
④変化している言葉の中で「若者言葉」や「使
がふさわしいのかを考えて示│る前に、例を
用する場面を選ぶ言葉」に注目し掘り下げる。
3時間目(本時)
「どんな場面」で使用するのか│使うか、「ど
①前時に挙げられた「若者言葉 J I
使用する場
面を選ぶ言葉」から、いくつかの言葉を取り
上げる
O
その言葉は「だれに J Iどんな場面
で」使用するのか、理由を明確にしてワーク
シートに記入する
(
例
「友達」に「休み時間の│んな場面」で
おしゃべりの場面」で使う使うかを考え
また、その理由を明確にしてワ│させる
O
ークシートに記入する。
※ワークシートには同心円が
O
②グ、ループ。内で、使用相手、場面についてそれぞ
れ交流する。
描かれており、内側から「家族」
先生 J I
一般の大人」
「友達 J I
③意見の変化も含め、全体で「言葉の変化」につ
いて交流する
す。また人間関係と関連させて、│あげ、「誰に」
と使う相手を塗り分けられるよ
うにしている。
O
4時間目
①他者との交流が自分の考えにどのような影響を
3
.
及ぼしたかを考える
グループで他の人と交流す
②全体で交流する
る
O
(5)本時の展開 (3/4)
交流する際には図を見ながら│左記の下線部
「自分と相手とでは、なぜ違い│の内容を説明
①本時の目標
O言葉について、他者の意見を聞いた上で、自分
の考えを深める
が生まれたのか」ということや、│する
O
同じであっても「なぜ円の外側
②本時の展開
には使用できないのか(例、友
達にはつかえるのに、一般の大
学習活動の流れ
教師の支援
人にはつかえないのか)J など
その理由を交流する。
相手の意見を聞いて納得した│交流内容を促
場合や異なる意見をもった場合│進させる。
1
.
前時を振り返り、「若者言葉」
前回出てきた
や「使用する場面を選ぶ言葉」
例を挙げ、振
についてどんなものが挙げられ│り返らせる。
ていたか思い出す。
はメモをしておく。
4.
交流した結果、自分の考えが│机問指導をす
どのように変化したか、また変│る。
化しなかったかを理由とともに
ワークシートに記入する。
-中・国語 清田3-
(8)各校の実践の交流
戸
o
.
4で、書いた内容について全体│発表を促す。
-今回の研究のテーマに沿った各校の日々の実践例
で交流する。
が数多く交流された。
-漢字指導においては、各学年ごとの練習シートを
用意し、意味も調べながら宇の習得も目指すよう
6.
本時の活動について振り返
指導した実践例も紹介された。
・選択授業の実践例では、気に入った詩を紹介し、
り、ワークシートに記入する。
相互に投票するなどの文学に浸る実践や、入試対
策などの実践もあり、「伝える」ことや「対話 j
③本時の評価
を意識したものが紹介された。
・他者の意見を聞き、白分の意見との相違に気付
V
成果と課題
いたうえで、自分の意見を振り返り、考えを深
1 成果
めることができる。
・生徒白身が日常的に使用している「若者言葉」や
-自分の身の回りの「言葉の変化」について自分
なりの考えをもつことができる。
「流行語」などに焦点を当てたことで、生徒自身
が主体的に意見を述べる場面が多くみられた。
(6)ワークシートの振り返りから
-普段は「教える但.IjJ の教師が、立場を反対にして
・「マジですか」のように、流行語「マジ」に「で
「その言葉はどんな時に使うのかつ J 100とム
す」という語を合わせることで、相手に嫌な思
ムの意味の違いは?J と生徒に問う場面があり、
いをさせないですむと思った。
教師自身も生徒の言語環境を知るよい機会となっ
-流行語に敬語を使うのは日本語として正しくな
し
、
。
た
。
・これまでの清田区の実践では、最初に「対話」を
• 1
マジ」の意味を説明することができなかった。
求める小グルーフ。は、四人がベストとされていた
これからは意味を理解した上で言葉を使いたい
が、今回もそれを踏まえ、効果的な交流ができた。
0
・「マジ」や「やばしリという言葉を他の言葉に付
また、授業の最後には学級全体で交流することで、
けることで、その言葉の意味を強調できるという
新たな発見があり、生徒一人一人の考えを深める
ことが分かつた。
ことにつながった。
-同じ言葉でも自分と友達とでは使う相手が違うこ
・「言葉を使用する相手」の違いが一目で分かるよ
とが分かつた。
うに、ワークシートに同心円の図形を用い、それ
(7)検討会から
を塗りつぶすとしづ作業を取り入れた。「視覚化」
授業後の検討会では、以下のような感想・意見が
で違いがより明確になった。昨年度もビデオ映像
を基にした実践が行われた。今後も「文字」だけ
交流された。
・事前の指導案検討会では、同心円に違いがでる言
葉を選びたいという話題になったが、授業ではま
さしくそのような言葉がでてきた。ねらいどおり
の授業になった。
ではなく、教材の視覚化と身体活動を盛り込んだ
授業の実践が必要になっていくであろう。
2 課題
・ク、、ループ で、「話す j ことが、そのまますぐ(対話〉
ρ
-教師恨IJからの一方的な押しつけではなく、いろい
になるわけではない。他者の意見を聞いた上で、
自分は何を根拠にそのような言葉の使い方をして
ろな意見が出ていてよかった。
-結論を一つにまとめないオープンエンドの授業で
きたのか、言葉の意味をきちんと理解していたの
かなど、学習者自身が言葉の使い方を振り返るこ
あった。
-正しいか、正しくなし、かという議論で、はなかった
とができる「しかけ j が必要である。そのために
は「何のために」言葉を使うのか、という目的を
ので生徒の交流が活発になった。
-流行語は、友達でも、一般の大人でも「意味が分
かりそうな人」に使うというのが面白かった。
再確認させることが必要である。また、時代とと
もに変化していく生徒の言語環境を細かく把握
していくことが、指導者には求められるであろう。
-中・国語 清田4-