ハロッドの成長理論 3 3.1 ハロッドの成長理論の課題 • ケインズの静学理論を,投資が財への需要を増やすだけでなく,将 来の生産能力を増大させる効果をもつことを考慮して動学化する。 • 長期的に持続可能な均衡成長は存在するのか? • 実際の経済成長は,その均衡経路をたどるのか? 3.1.1 【文献】 • ハロッド,R.F. 『経済動学』,宮崎良一訳,丸善,1976 年。 • ヒックス,J.R. 『景気循環論』,古谷弘訳,岩波書店,1951 年。 • 置塩信雄『現代経済学Ⅱ』筑摩書店,1987 年。 • Kaldor(1955-56), Robinson(1962), Kalecki(1971) 等のケインズ派の 成長理論 • Dutt,A.K.,New Growth Theory, effective demand, and post-Keynesian dynamics 3.2 簡単なハロッドモデル • 財市場の均衡 Y =C +I (3-1) Y : 所得,C : 消費需要,I : 投資需要 1. (a) • 消費需要の決定 C = (1 − s)Y s : 貯蓄率 16 (3-2) • 投資関数:企業は投資量を資本の過不足,経済の規模を考 慮して決定する。 d(I/K) = α(u − 1) dt (3-3) u : 資本稼働率 u = 1 は資本設備が正常に稼動している 状態。u > 1 は過度稼動 u < 1 は過少稼動 α > 0 は資 本過不足に対する投資の反応係数 • 資本稼働率 Y (3-4) σK sσ は資本 K を正常に稼動したときの産出量(正常産出量)。 それと現実の産出量の比率が資本設備の稼働率 u である。 u= — 投資による資本増大 I = K˙ (3-5) • (3-2) を (3-1) に代入して, 両辺を K で割って,(3-4) を代 入すると suσ = g ただし,g は資本蓄積率である。 g= (3-3) に代入すると 3.2.1 ³g ´ g˙ = α −1 sσ I K (3-6) 現実成長率と保証成長率の関係 1. もし g = sσ であれば,g は一定にとどまる続ける。そのとき,資 本稼働率は1で正常稼動を維持する。K, Y, C と I は同率 sσ で増大 する。これを保証成長率(Warranted rate of growth)という。 gW = sσ 17 (3-7) 2. もし現実の成長率が保証成長率 gW から離れた場合,同方向に累積 的に発散していく (Harrod の knif e − edge − instability)。 図3−1 現実成長率と保証成長率の不安定な関係は企業の投資行動(3-6)に 原因がある。 3. 現実の成長率が保証成長率から上方に乖離すると,利潤率や生産量 は増大していくが,資本稼働率 u,雇用量も累積的に増大し,稼働 率の限界,労働供給の限界によって制約される。 4. 現実の成長率が保証成長率から下方に乖離すると,利潤率や生産量 は低下し,資本稼働率 u,雇用量も累積的に減少していく。 5. 以上は資本制経済の好況(上方への累積運動)と不況(下方への累 積運動)を説明する。上方や下方への運動は持続性をもたず,やが て反転せざるを得ない。従って,資本制経済は景気循環を経ながら 変動していく。 図3-2 6. 保証成長率は現実成長率が循環的な運動を行なう軸としての役割を 果たす。 3.2.2 保証成長率と自然成長率 現実成長率がその周りを循環運動を行なう保証成長率 sσ 上では労働需 要は同じ率で増えていく。もし人口が n の率で,また労働生産性が一定 率 β で上昇すると実質的な労働供給の伸び率は n + β となる。これを自 然成長率 (gn : natural rate of growth) という。保証成長率 gW が自然成 長率 gn に等しいときは保証成長経路は労働市場と矛盾することなく持続 可能である。しかし,そうとは限らない。 1. 自然成長率 gn が保証成長率 gW を上回っているとき,労働供給の 制約は弱く,現実成長率が保証成長率を上回る領域は広くなる。好 況期(g > gW )はより長期化する。 図3-3 18 2. 自然成長率 gn が保証成長率 gW を下回っているとき,労働供給の制 約は強まり,現実成長率が保証成長率を上回る領域は狭くなる。好 況期(g > gW )はより短期化し,不況期(g < gW )が長期化する。 図3-4 【課題 第3回】 1.ハロッドモデルで記述される成長経路で,t0 期 に貯蓄率の上昇が生じ,t1 (> t0 ) 期に元の状態に戻ったとする。成長経路 にどのような影響があるかを述べなさい。 2.投資関数の反応係数 α が上昇すると,ハロッド的な成長経路にど のような影響があるか。 19 4 The Solow Growth Model Romer, chapter 1 4.1 4.1.1 ソローの新古典派成長モデルの構造 文献 (1)R.Solow(1956),A Contribution to the Theory of Economic Growth, Q.J.E.70(Feb). (2)W.Swan(1956),Economic Growth and Capital Accumulation, Economic Record 32(Nov). 4.1.2 ソローモデルの特徴 ハロッド型の成長モデルが企業の投資行動を明示して,短期あるいは 中期の経済変動を扱ったのに対して,ソロー型の成長モデルは企業の投資 行動は明示せずに,技術進歩を軸に置いた長期の経済成長に関心を集中 した。前章のハロッドモデルに即したソローモデルは以下のようになる。 • — 財市場の均衡 Y =C +I (4-1) C = (1 − s)Y (4-2) — 消費需要の決定 1. (a) • 生産関数 Y = F (K, AL) (4-3) I = K˙ (4-4) • 投資による資本増大 • 人口の増大 • 生産性の上昇 L˙ = nL (4-5) A˙ = gA (4-6) 【仮定】 20 1. 生産関数(4-3)は労働と資本の代替が可能な生産関数を想定する。 2. 労働効率を高める技術進歩 A 歩率 g ハロッド中立の技術進歩 技術進 3. 規模に関して収穫一定(constant return to scale)の生産関数 K と AL に関して(一次)同次関数 注意 1 m 次同次関数 λm Y = F (λK, λAL) 次関数という。 例 Cobb-Douglas : Y = K α (AL)1−α m = 1 のとき(一次)同 注意 2 (4-4) で増大する資本 K , (4-5) で増大する人口 L がすべて生産関数 (4-3)に投入され,労働と資本の生産要素の完全利用が想定されている。 4.1.3 集約形 効率労働(effective labor)あたりでモデルを表現する。一次同次の仮 1 とすると生産関数は 定から λY = F (λK, λAL) となるが,ここで λ = AL Y K K = F ( AL , 1) := f ( AL ) と効率労働当たりの比率で書き直される。 AL y = f (k) y = Y /AL, k = K/AL (4-7) 投入ゼロのとき生産もゼロ,投入量に対して限界生産性はプラスで,限 界生産性が逓減することを仮定する。 f (0) = 0, f´(k) > 0, f ”(k) < 0 (4-8) 図4-1 K Y I (4-2) を (4-1) に代入して効率労働 AL で割ると s AL = AL = KI AL 。従っ て,sy = gk となる。k = K/AL から k の変化率は K の変化率と AL の 変化率の差に等しい。 x d ˆ := x/x ˙ とかくと,x cy = xˆ + yˆ( , )= x ˆ − yˆ。 注意 3 x の変化率 x y 21 ˙ = g − (Aˆ + L) ˆ 。g = sy/k に注意して,(4-5)(4-6) を代入す 従って,k/k ると,次の動学方程式(Dynamics of the Model)を得る。 ˙ k(t) = sf (k(t)) − (n + g)k(t) (4-9) 式の意味: ・ ・ ・右辺第1項 sf (k) は効率労働1単位あたり実際に行われ る投資量,右辺第2項 (n + g)k は効率労働1単位あたりの資本を一定に 保つために行われなければならない投資量。 4.1.4 定常均衡への収束性 (4-9)から,いかなる初期値 k から出発しても,時間がたつと,k を 一定に保つ均衡の k ∗ に収束する。break-even investment 【図4-2 − A】【図4-2- B 】 22
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