第10章 開発戦略 3年 清水 真穂 目的 途上国を取り巻く国際政治経済状況、経済学の 変化を考慮に入れながら、戦後の開発経済学がど のように開発に取り組んできたかを展望する。 1、輸入代替工業化論の時代 建国の歴史的経過 特別な第1次産業が輸出と生産の中心である経済(モノカルチャー)であっ たため、経済的自立を図る ことが政治的独立ための重要な条件 輸出悲観主義 新興国の輸出品は所得弾力性が低い農産物が中心で世界貿易が拡大して もそれに伴って成長しない 経済学の変化 ケインズ経済学の台頭を促した 背景 ・ソ連の成立 ・大恐慌の経験 ↓ 市場・民生部門に対す る信頼喪失 貧困の悪循環 vicious circle of poverty 低貯蓄 低実質所得水準 技術移転 低投資 外国の資金 低生産力 低資本貯蓄 低購買力 低投資誘因 低所得水準の罠 low-level equilibrium trap 所得の成長率 人口成長率 ・人口成長率を下げる ・資本大規模に投入 ・技術革新 ・制度変更 ↓ 所得成長率を高める 0 0 成長率 不安定 安定 一人当たり所得 一人当たり所得成長率 一人当たり所得 「不完全就業」「偽装失 二重経済モデル 業」 の状態にある失業者をど ように雇用機会を与える か 工業労働の需要 農業労働の需要 W W 工業雇用 M 失業 A 農業雇用 政策的結論: 政府が主導して資本や技術、とりわけ社会資 工業部門に導入すべしという点で共通 本を国の内外から輸入代替する ヌルクセ 「均整成長」 ハーシュマン「不均整 成長」 unbalanced growth balanced growth 偽装失業している労働者の低い購 買力に基づく低い投資誘因に求め る戦略は資本を同時に全面的に各 産業において投下し、相互に需要を 拡大することで悪循環を断つという ことに連なる 途上国にとって不足しているのは 「企業家精神」(entrepreneurship) 「投資実行力」(the ability to invest) であり、この貴重な能力を効率的に 利用するために限られた産業 優先的に選び不均衡から生ず る投資に期待すべき 「前方連関」(forward linkage) 「後方連関」(backward linkage) まとめ 途上国は輸入代替戦略に基づき工業化を促進 輸入代替工業に必要な資本財、社会的間接資 本財、中間原材料は優先的に輸入が図られる 背景 ・農業部門の外延的拡大 ・政府による灌漑事業・肥料投入等による内包的増大 ・「緑の革命」による継続的な長期の生産性の上昇 2、輸出指向工業化論の時代 内的背景 最終製品の生産に必要な投 入財の輸入は優先的に割り 当てられ、自国通貨も過大評 価するように介入していたた め、自国財が割高となり外国 製品の輸入が有利となり派生 的な輸入が増大 外的要因 先進国は戦後順調に回復した が途上国は期待したほどの実 績は挙げられなかった 国連の新たな流れ 1974年 新国際秩序の提唱 (New International Economic Order) 国連貿易開発会議 (UNCTAD)で資源ナショナリ ズム「援助より貿易を」など議論 先進国サイドでも世銀は「人間の基本的ニーズの 充足(Basic Human Needs:BHN)」「成長を進めなが ら所得再分配(Redistribution with growth)」を主張 背景 ・国際通貨体制の動揺 ・2度にわたる石油危機 ・一次産品の上昇 輸出志向工業化論 外国為替を実態に近づけて切り下げ、労働 集約的産業を輸出産業として世界市場にさ らすことは、労働力が豊富な途上国の要素 賦存に沿っており比較優位を実現した 雇用を促進、内需の狭隘さを克服、資本節 約、世界市場のアクセスを通し技術移転の 刺激も与えられた。 3、直接投資主導の時代 世界銀行・IMFは経済安定化と構造調整を めざす借入国にたいし「コンデイショナリテ イ」を課し介入主義的政策の変更を求めた。 途上国は開発支出・各種補助金の削減、公 共部門の民営化、価格支持政策の撤廃、輸 出拡大。輸入自由化などの政策変更が厳し く求められた。 直接投資ブーム 東アジアの国は輸出指向工業化戦略は維 持しつつエレクトロニクス産業中心の外資誘 致、急拡大する世界需要を捕捉し自らを輸 出基地化させた。 奨励措置、良好な産業基盤インフラ、安くて 良質な労働力により直接投資を競争的にプ ル アジア通貨危機 1997年 7月 タイの通過バーツが突如売り 浴びせられ切り下げに追い込まれた ①1980年代からの情報通信面での急激な技術 革新を背景にした新規金融商品の開発と為 替取引の活性化 ②冷戦の終焉、東アジアの高度成長による新 興市場の発生 ③規制緩和、民営化、金融自由化の進展 まとめ 世銀・IMFの政策スタンスの変化 灌漑・運輸・通信などの産業インフラ重視の 姿勢から貧困削減こそが開発の目標である と軌道修正した 直接投資の重要性 生産技術だけでなく経営のノウハウまでも パッケージで移転する
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