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ファセット結晶成長のフェーズフィールドモデル
Phase-field Model for Facet Crystal Growth
鈴木 俊夫(東大・工)
Toshio SUZUKI, The University of Tokyo
FAX: 03-5841-8653
E-mail: [email protected]
Two-dimensional facet dendrite growth from the undercooled melt of a silicon-nickel alloy has been investigated using a
phase-field model. A facet crystal has strongly anisotropic interfacial energy and the interface becomes unstable in a
certain range of missing orientations. Therefore the operating interface energy within the missing orientations is modified
in the phase-field equation. The phase-field parameters are derived at a thin interface limit. The governing equations are
descretized using an explicit finite difference scheme and numerically solved. In order to reduce the calculation time, the
calculation area is divided into several areas with different mesh sizes and the areas were rearranged according to the
interface movement so as to pursue the interface. The calculated growth velocity has been compared with those by
two-dimensional facet crystal growth experiments and both are in good agreement.
1.緒言
シリコンなど多くの機能性材料は界面エネルギー異方
性が大きく、ファセット結晶として成長する。ファセット
結晶成長では、一定の界面方位範囲で界面は不安定となり、
安定界面から構成されたファセット形状が出現する。この
ため、ファセット結晶成長のフェーズフィールドモデルで
は、不安定界面で作用する界面エネルギーを定義し、フェ
ーズフィールド方程式を修正しなければならない。本研究
では、Eggleston らのモデル1)により界面エネルギー異方
性を取り扱い、thin interface limit パラメータ 2)を用いた
モデルにより、Si-Ni 合金過冷融液からシリコンデンドラ
イト成長を解析した。また、その結果を対応した実験と比
較した。
∂φ
= M [ε 2 ∇ 2φ + εε ′{sin 2θ ⋅ (φ yy − φ xx ) + 2 cos 2θ ⋅ φ xy }
(3b)
∂t
1
− (ε ′2 + εε ′′){2 sin 2θ ⋅ φ xy − ∇ 2φ − cos 2θ ⋅ (φ yy − φ xx )}− f φ ]
2
となる 3)。ここで、 φはフェーズフィールド、M はフェー
ズフィールド移動度、下付記号はそれぞれの変数による 1
階、2 階の偏微分を表す。また、自由エネルギー密度 f は
固相、液相の自由エネルギー密度、f S、fL の分率 h( φ)を乗
じた和と界面過剰エネルギーポテンシャル Wg( φ)の和と
なる。なお、g(φ)に放物ポテンシャルを用いている 4)。
2.解析方法
2.1.支配方程式
1)フェーズフィールド方程式
ここでは4回対称の界面エネルギー異方性を仮定し、パ
ラメータ εに 異方性強さ νを導入すると、 εは界面と成長
方向(x 軸)のなす角θの関数として次式となる。
ここで、cは濃度、下付、上付記号の S、L は固相、液相を
表す。各相に希薄溶液近似を適用すれば、f φは次式となる。
ε = ε 0 (1 + ν cos 4θ )
(1)
ν> 1/15 で、ある角 θm を境に界面は不安定となる。この
θm は異方性強さにより決まり次式となる。
θ m = cos −1
1
1
+
10ν 2 + 6ν
6 12ν
(2)
この界面不安定方位範囲(0<| θ|< θm )では、界面エネ
ルギーの取り扱いを変更する必要があり、フェーズフィー
ルド方程式は、
 ε (θ )  2

∂φ
m
= M 
 φ xx − f φ 
∂t
cos
θ

m 

また、安定方位範囲(θm <|θ|<π/2)では、
(3a)
f (c, φ ) = h(φ ) f S (c S ) + (1 − h(φ )) f L (c L ) + Wg(φ )
(4)
h(φ ) = φ 2 (3 − 2φ ) , g(φ) = φ(1 − φ) = 6hφ
(1 − c S )(1 − c L )
RT
h ′(φ ) ln
+ Wg ′(φ )
e
Vm
(1 − c L )(1 − c S )
e
fφ = −
(5)
ここで、R は気体定数、T は温度、Vm はモル体積
2)拡散方程式
自由エネルギー密度により形で表した拡散方程式は次
式となる。
D(φ )
∂c
=∇
∇f c
f cc
∂t
(6)
なお、希薄溶液近似の適用により上式各項は次式になる。
∇f c = ∇f cL =
c
RT
∇ ln L
1 − cL
Vm
f cc =
f c L c L f cS cS
(1 − h(φ )) f cS cS + h(φ ) f cL cL
(7)
(8)
1
RT
Vm ci (1 − ci )
(i = S , L )
1.5
(9)
normalized Growth Velocity, V/V0
f ci ci =
なお、界面領域の溶質濃度cは固相、液相の等化学ポテン
シャル条件より求められる仮想溶質濃度cS、cL に分率を
掛けた次式で与えられる。
(10)
c = h(φ )c S + (1 − h(φ ))c L
3)フェーズフィールドパラメータ
フェーズフィールドパラメータである W、 εおよび M は
thin interface limit で導出され、界面領域巾 λ、界面エネ
ルギーσなどを用いてそれぞれ次式となる。
ε=
(11)
2σ
λ
(12)
4
σλ
π
M −1
ε  RT 1 − k e 1
ε
e
e 
=
+
ζ (c S , c L ) 

e
σ  Vm m µ Di 2W

2
ζ (cS , cL ) = f cc (cS ) f cc (cL )(cS − cL ) 2
e
e
S
1
×∫
0
e
L
e
e
(13)
e
h(φ0 )[1 − h(φ0 )]
1
dφ0
S
e
L
e
[1 − h(φ0 )] f cc (cS ) + h(φ0 ) f cc (cL ) φ0 (1 − φ0 )
(14)
ここで、keは平衡分配係数、meは液相線勾配、D は拡散
係数、μはカイネティック係数。
2.2.計算方法
ここでは、Si-6、10、20wt%Ni 合金を対象系とし、シリ
コンのデンドライト成長を解析した。計算では、(3)、(6)
式を離散化し、陽的差分方により解を求めた。なお、異方
性に 4 回対称性を仮定していることから、界面エネルギー
が最大となる成長方向をx軸、1/2 象限の計算領域とした。
また、計算時間短縮のため成長界面から離れた領域の溶質
濃度計算にはアダプティブメッシュを用い、13 領域で計算
を行った。計算は過冷度を 40∼120K に変化させ、その成
長 速 度 を 求 め た 。 な お 、 カ イ ネ テ ィ ッ ク 係 数 0.003 ∼
0.01m/Ks、異方性強さ 0.15、拡散係数 2×10−8m2/s、keを
0.001 とし、メッシュサイズ dx を 2×10−10∼1×10−8m、界
面領域巾を 7dx とした。その他の物性値は参考文献の値を
用いた 3)。
3.結果および考察
解析より得られる純金属のデンドライト成長速度はメ
ッシュサイズに依存し、正しい値を得るには界面領域巾を
毛管長のオーダーに取る必要がある 1,3)。合金系ではこれに
加え界面領域における溶質分配による制限、すなわち、あ
る成長速度 v における界面領域の溶質拡散時間が十分長い
という条件を満たすことが必要となるが、これは界面ペク
レ数 Pi(= λv/2D)により与えられる。Fig.1 に、過冷度を
80K、メッシュサイズの異なる条件で求めた定常成長速度
を界面ペクレ数に対して図示する。合金濃度に依らず、Pi
の減少につれ得られる定常成長速度は増加する。その後、
vは一定値に近づき、Pe が約 0.01 以下では成長速度の真
の定常値との誤差が約 3%以下となる。
Fig.1 の結果を適用すれば、Pi を 0.01 程度に留めれば正
しい定常速度が得られることになる。一般に、2次元デン
ドライトの成長長速度は過冷度のほぼ 3 乗に比例して減少
するため、低過冷度での計算時間は急速に増加する。しか
し、Fig.1の結果にしたがって低過冷度でのメッシュサイ
ズを大きくし、計算時間の大幅な短縮が可能となることが
分かる。
1.0
0.5
0.0
0.00
0.02
0.04
0.06
0.08
Interface Peclet Number, Pi
0.10
Fig.1 Growth velocity vs. Interface Peclet Number
1000
Growth velocity, V/× 1-3 ms-1
W =
10wt%Ni
20wt%Ni
Type A
Type B
Type C
PFM
800
600
400
200
0
0
50
100
Undercooling, Δ T/
Fig.2 Growth velocity vs. undercooling for Si-6wt%Ni
alloy
Fig.2 に Pe∼0.01 の条件で求めた成長速度と過冷度の関
係、および薄膜試料のその場観察による2次元シリコンデ
ンドライト成長速度測定実験結果を示す。実験で観察され
たシリコン結晶成長パターンは、2次枝が成長方向<112>
に対し 60°の方向に成長するパターン A、2次枝が成長方
向<110>に対し 90°の方向成長するパターン B、2次枝を
伴わないパターン C およびそれらの中間の形態を示すもの
に分類される。その成長速度は、パターン A が最も大きく、
ついでパターン B となっている。フェーズフィールド解析
の結果は、これらの実験結果のほぼ上限値と一致している
ことが分かる。この一致は、パターン A の異方性の対称性
はモデルで仮定した対称性と異なるが、先端成長が主とし
て溶質拡散に律速され、対称性の寄与が小さいためと考え
られる。
4.結言
Si-Ni 合金過冷融液からシリコンデンドライト成長を
thin Interface limit フェーズフィールドモデルにより解
析し、次の結論を得た。
1)解析により得られる成長速度は界面領域巾に依存する
が、界面ペクレ数を 0.01 程度に保持することにより、広範
囲な条件での解析も可能となる。
2)得られた成長速度と過冷度の関係は、2次元その場観
察実験により得られた成長速度のほぼ上限値と一致する。
参考文献
1) J.J.Eggleston et al.: Phisica D, 150, p.91, 2001
2) S.G.Kim et al.: Phys. Rev. E, 60, p.7186, 1999
3) H.Kasajima et al.: Sci. Tech. Adv. Mater., p.553,
2003
4) S.G.Kim et al.: J. Crystal Growth, 263, p.620, 2004