表紙の人 私の座右銘 第421回

表紙の人
の町医者の息子が、適塾の塾頭になり、洋式軍艦
して、最後は日本陸軍を創設するに至る。人はそ
えた。振り返っての結論は、この年になっても同
求めに応じようとすれば、自分を変えねばならな
のモデルを作ったり、洋式歩兵の育成に努めたり
実感である。最近読んだ本の中で、
﹁一周まわっ
い。人は皆、無限の可能性を持っている。その可
能性を最大限に展開することはとても大切なこと
の時々の環境により、求められるものが変わる。
てあるがまま﹂︵釈
徹宗︶という言葉に魅かれ
た。外見は成長していないように見えても、中身
るところがわからなかったが、今になって、この
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言葉のありがたさが身に沁みる。
医にはコミュニケーション力を含む社会性も求め
には質の高いルーチンワークが求められる。臨床
れた言葉である。 歳のその時には、その意味す 医師ひとりの人生も同じであろう。医学部に入
るためには高い学力が求められる。研修医の時代
である。ただし、同じひとりの人である。その展
座右の銘を、と求められて﹁自己展開﹂を選んだ。
開にも一貫性があるはずである。
これは、中学校の卒業時に、クラス全員で書い
た寄せ書きの真ん中に、担任の久米修先生が書か
は成熟していたいものである。
じことをしている、あまり成長していないという
司馬遼太郎の﹃花神﹄に登場する大村益次郎は、
昨年夏に、還暦を迎えた。人生の節目だと言わ 自己展開の好例ではないかと思う。長州の片田舎
れるためか、自然と我が人生を振り返ることが増
私の座右銘 第421回
話にならない。どの可能性を自分の人生に活かす
べきかを考える時が来る。求められる人生もある
が、求める人生もあるだろう。求められるものの
ために自己を犠牲にしていないか、求めるものの
ために自分の可能性を閉じていないか、人の幸せ
のために自分の人生を賭けているか、明日は今日
葛藤のうちに歳月は過ぎる。
よりも良い医療をしようと精進しているか。
ないし、 年後の自分もわからない。しかし、生
を考えるようになった。未来がどうなるかわから
きている限り何かをしているし、何らかの﹁自己
だが、自分がこれからどんな展開をするのか、我
ながら楽しみである。
︵東京女子医科大学附属
膠原病リウマチ痛風センター
所長︶
表紙の人 山中 寿 ヤマナカ ヒサシ
﹁明日死ぬかのように生きよ、永遠に生きるよ
うに学べ﹂︵マハトマ・ガンジー︶
ント力が求められる。人生の各段階において、求
られる。教育職としては教える技術やリサーチマ 還暦を過ぎ、人生の残り時間を考えるようにな
った。今までの人生は足し算であったが、引き算
インドが求められる。管理職としてはマネージメ
められるものが違う。それをすべてこなして立派
しかし、人生に与えられた時間は有限である。
いろんな可能性を展開しても、開きっぱなしでは
自己の可能性を試しているのだと思いたい。
いが、何とか求めに応えようと皆が自己を展開し、 展開﹂をしていると思う。無責任な言い方で恐縮
な医師である、などという建前論は聞きたくもな
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