中学生人権作文コンテスト 最優秀賞(岐阜地方法務局長賞) 「弟への誓い」 輪之内町立輪之内中学校三年 近藤 志緒梨 いを必死に伝えてくれた。「素直になる事に遠慮しない で自分の思いを伝える事から始めてみて。君の姿に勇気 を貰ったよ。独りじゃない、いつも私達がついているか ら寂しくなったらまた来いよ!」短い時間ではあったが、 「僕、今日の持久走一番になる気持ちで最後まで走る 弟は彼らの優しさに救われ心を取り戻した。 よ。」 「僕、まだ生きたい。障害だから皆に会えた。この体の 溢れんばかりの笑顔で宣言し、家を飛び出していった弟。 お陰で沢山傷ついたけど、その分弱い人の辛さや悲しみ 頑張れ!頑張れ!絶対大丈夫。 が分かる。僕、障害者で良かった。この体で良かった。」 「いってらっしゃい。」 次の日、弟がいつものように練習をしていると、クラ 弟のゴールを信じ、私も弟に負けない位とびきりの笑顔 スの子が怪我の原因である小石を一つ一つ拾い始めた。 で見送った。 翌日はその姿を見た別の学年の子が、又翌日は……。車 私の弟は生まれつき足が不自由で、杖と車椅子で生活 椅子は楽しそう。座っていて楽でいいな。と言っていた している。その時自分ができる事を精一杯頑張っていて、 友達も、弟の車椅子で運動場やスロープを体験してみて、 泣いたり諦めたりする姿を私は見たことがない。辛い事、 「車椅子がこんなに辛いなんて知らなかった。ごめんね、 我慢する事も沢山あると思うのに「オレは明るい障害者」 初めて気持ちが分かったよ。」 と笑って言う弟は我家の宝物だ。 と、声をかけてくれた。思いやりの輪は波紋の様に広が 学校には朝マラソンがあり、弟は毎朝一番に運動場に 出て黙々と車椅子で走っている。一見楽そうに見える車 っていった。いつしか弟は沢山の人に見守られ応援され ていた。 椅子も、土の上だと腕や腰は痛み指や手の皮がむけ力が しかし、弟は支えられているばかりではない。弟が諦 入らなくなり、実は走るよりも何十倍も大変なのだ。だ めず誰よりも努力する姿に心動かされ勇気を貰う人。仲 から五年間続けた弟の掌は足の裏の様だ。又、運動場に 間と共にゴールを目指し進み続ける姿から希望を貰う 人工芝を敷き裸足で歩行練習も行っている。冬は凍え震 人。辛い思いをしてきたからこそ差し伸べられる手に救 え転び、時には芝の上の小石が足に刺さり怪我をする事 われる人もいる。大切なのは、負けても叩きのめされて もあるが、昨日の自分に勝つんだ、と毎日続けている。 もまた立ち上がり、仲間を、親を、先生を、そして自分 ある日弟は、持久走の練習で初めて三位になった。当 を信じて一歩一歩歩み続ける事。とても、とても言葉で 然ハンディはあったが、自分を信じ限界に挑戦し必死に は表しきれない辛さを乗り越えて全てを受け入れた弟か 勝ち得た三位だ。「こんなに嬉しかった事はない。毎朝 ら、私は教えられた。 頑張ってきて本当に良かった。」と目を輝かせて話して 人は皆、素敵な個性を持っていると思う。肌の色の違 くれ、私も心の底から嬉しかった。 い、文化、言葉の違い、勉強が苦手な人、歌を歌うこと 「皆より距離が短いよ。そんなのズルイ。」 が好きな人。私は病気や障害も大切な個性の一つだと思 天にも昇るその喜びはその一言で一瞬にして地獄へ落ち う。そして、それらは克服したり乗り越えたりするとい てしまった。 うよりむしろ、共に認め合い、できない事は協力し支え 「僕はやっぱりダメだ。どんなに頑張っても認めてもら 合いながら生きていくことこそが大切だと、弟を見て気 えない。この足が、体が、僕の全てが嫌だ。」 付いた。 弟が必死に繋いでいた糸がプツリと切れた。こんなに 明るく前向きな弟のまわりにはいつも友達がいて、笑 頑張っている弟が悩み苦しみ踠いたと思うと心が握り潰 いに溢れている。彼らはお互いに「学び」一緒に成長し されそうになる。母は抱き締める事しかできなかったと ている。 話してくれた。私は、どう弟を支えてあげたらいいのか 「目の前に困った人がいたら何の迷いもなく手を貸す。 と悩んだある日、新聞に載った人権作文の中に弟と同じ 現代の競争社会の中で当たり前の助け合いができる〝血 車椅子で頑張る中学生の健ちゃんと彼を支え共に歩んで の通った〟社会を作る事ができるのは障害者なのかもし いる仲間達を見つけた。 れない。 」 母は凄かった。伝えるとすぐに弟を連れて健ちゃん達 と乙武さんは言っていた。その通りだと思う。 に会いに行ったのだ。彼らは弟を温かく迎えてくれ、弟 私は、誰もが最高の喜びと自信に満ち溢れた笑顔で暮 と健ちゃんを囲んで一緒に給食を食べながら熱く深い思 らせる毎日、自分らしく生きられる世界にする事を、今、 ここで弟に誓う。
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