特殊相対論 第2回 レポート

特
殊
相
対
論
第 2 回レポート問題 (15/01/10 出題、01/23 試験開始直前提出)
担当 岡村 隆
Q1. 相対論的質量
相対論において運動量保存則が成立するには, 慣性系 S (慣性座標:(xµ ) := (x0 , x) := (C t , x))に
おいて軌跡 x = x(t) をたどる粒子の運動量を, 次式で定義しなければならない:
(
m0 v
p := m(v) v = m0 γ(v) v = √
1 − v 2 /C 2
1
)
γ(v) := √
1 − v 2 /C 2
.
ここで, v := dx(t)/dt, v := | v | であり, m0 と m(v) := m0 γ(v) は, 静止質量, 相対論的質量である.
この運動量を見易くするために, 次で定義される粒子の固有時と 4 元速度 を導入する:
dτ 2 :=
(dx0 )2 − dx2 (t)
,
C2
uµ :=
dxµ
.
dτ
(
)
(a) dτ = dt/γ(v), および (uµ ) = γ(v) C , v を示せ.
(
さらに, 4 元運動量 pµ := m0 uµ を導入すると, (pµ ) = m(v) C , p
)
となるので, 先に定義された p
は 4 元運動量の空間成分という意味をもつ.
固有時, 4 元速度や 4 元運動量を導入したのは, これらの量が Lorentz 変換に対し単純明快な変換則
(線形変換)に従うからである. 以下では, 慣性系 S から慣性系 S′ (慣性座標:(x′ µ ) := (x′ 0 , x′ ) :=
(C t′ , x′ ))への変換を, 次の形に限定して考察する:(βV := V /C)
(
)
(
)
x′ 0 = γ(V ) x0 − βV x1 ,
x′ 1 = γ(V ) x1 − βV x0 ,
x′ 2 = x2 ,
x′ 3 = x3 .
(b) 固有時(の刻み)が Lorentz 変換で不変であることを示せ. すなわち, S′ 系で定義した固有時(の
√
刻み)dτ ′ = (dx′ 0 )2 − dx′ 2 /C が dτ と等しいことを示せ.
(c) Lorentz 変換に対し, 4 元速度 uµ が xµ と同じ変換則
(
)
(
)
u′ 0 = γ(V ) u0 − βV u1 ,
u′ 1 = γ(V ) u1 − βV u0 ,
u′ 2 = u 2 ,
u ′ 3 = u3 ,
にしたがうことを示せ.(これから, 4 元運動量 pµ も同じ変換則にしたがうことが分かる.)
(d) (p0 )2 − p2 が Lorentz 変換で不変であること, そして, (m0 C)2 に等しいことを示せ.
√
(つまり, 静止質量は m0 = (p0 )2 − p2 /C と表せる.)
µ
続いて多粒子系を考える. S 系で評価した A 番目 (A = 1, 2, · · · ) の粒子の 4 元運動量を p(A) とする.
A 番目の粒子の静止質量と 4 元速度を, それぞれ m0,(A) , uµ(A) とすれば, pµ(A) = m0,(A) uµ(A) である.
このとき, S 系で評価した全系の 4 元運動量 P µ は, 次式で与えられる:
P µ :=
∑
pµ(A) .
A
S′ 系で評価した対応する諸量も同様に定義され, それらをプライム “ ′ ” 付きの変数で表す.
µ
µ
(e) 全系の 4 元運動量, およびその変化量 ∆P µ := P後
− P前
も, Lorentz 変換に対して xµ と同じ変
換則にしたがうことを示せ.
1
(f) S 系で全運動量保存則 ∆P = 0 が成立するとき, S′ 系でも保存則が成り立つ ∆P ′ = 0 ための必
要十分条件は, ∆P 0 = 0 も成立することである. これを示せ.(つまり, 任意の慣性系で全運動量
保存則が成立するための必要十分条件は, 全運動量だけでなく 4 元運動量が保存することである.)
このように, P 0 =
∑
p0(A) =
∑
A
0
A
m(A) (v(A) ) =
∑
m0,(A) γ(v(A) ) も保存するので, その構成要素で
A
ある個々の粒子の p = m(v) C =
√
(m0 C)2 + p2 も重要な物理量である (添字
(A)
は面倒なので略).
そして, p0 が従う運動方程式*1 を考慮すると, p0 の物理的意味は, (相対論的)質量 m(v) = p0 /C と
いうよりも, (相対論的)エネルギー
E := p0 C =
√
(m0 C 2 )2 + (p C)2 ,
と考える方が適していると分かる.
さて, 多粒子系の静止質量を, 1 粒子の場合と同じように
1
M0 :=
C
√
2
(P 0 ) − P 2 ,
で定義する. この右辺は Lorentz 変換で不変なので, どの慣性系で評価しても M0 の値は変わらない.
¯ (多粒子系の重心が静止して見える慣性系)で評価すれば,
多粒子系の全運動量がゼロとなる慣性系 S
P¯ = 0 より, 簡単な表式 M0 = P¯ 0 /C を得る.
∑
(g) 不等式 M0 ≥
m0,(A) を示し, 多粒子系の静止質量が内部エネルギーに依存することを示せ.
A
(h) He 原子からなる気体(理想気体とする)の温度が常温から 1 K 上昇したとき, 気体の静止質量
は約何%増加するか.
(i) 中性子が β 崩壊するときに解放されるエネルギーはいくらか. (ニュートリノの静止質量はゼロ
としてよい.)
Q2. 相対論的運動方程式
相対論における運動方程式を導くには, いくつかの方法がある. 以下では実直な方法を考察する.
慣性系 S (慣性座標:(t, x))における粒子の軌跡を x(t) として, S 系における粒子の速度, 加速度は,
それぞれ v(t) := dx(t)/dt, a(t) := dv(t)/dt である. その速さ (v := | v |) が, 普遍的な有限速度 C に
比べ十分小さい (v/C ≪ 1) 場合, その運動方程式は Newton 力学の方程式に帰着すると考えられる.
そこで, 次の手順
¯(慣性座標:(t¯, x)
¯ )とする.
(i) S 系の時刻 ta において, 粒子が瞬間的に静止して見える静止系を S
¯ 系で粒子が静止して見えるその瞬間 (S
¯ 系におけるその時刻を t¯a とする), Newton 力学の運動
S
方程式が成立すると仮定する:
2¯ ¯ ¯) d¯
v
(
t
d
x(
t
)
= m0
.
f¯(t¯a ) = m0
dt¯ t¯a
dt¯2 t¯a
¯ 系における粒子の軌跡, m0 は粒子の(静止)質量である.
¯ t¯) は S
ここで, x(
*1
d(C p0 )/dt = f · v = (仕事率)
2
(1)
(ii) 方程式 (1) を S 系の慣性座標を用いて書き直す.
に従い, 相対論的運動方程式が導くことを試みる. 具体的な計算を容易にするため, 時刻 ta における粒
¯ 系の時間座標, 空間座
子は, (瞬間的に) x 軸方向の速度 v(ta ) = (V, 0, 0) をもつとする. このとき, S
¯ 系との間の Lorentz 変換を次のように表すことができる:
標の原点を適当に選べば, S 系と S
(
)

V

¯

t = γ(V ) t − 2 x


C

x
¯= γ(V ) (x − V t)



y¯ = y ,
z¯ = z
⇔
(
)

V

¯

¯

 t = γ(V ) t + C 2 x

x= γ(V ) (¯
x + V t¯)



y = y¯ ,
z = z¯
(
)
1
γ(V ) := √
1 − V 2 /C 2
. (2)
¯ 系は, S 系に対し速度 (V, 0, 0) で等速直線運動し続ける*2 ことに注意して, 以下の問に答えよ.
S
¯ 系におけるそれとが次式の関係にあることを示せ:
(a) S 系における粒子の速度と S
vx =
v¯x + V
,
1 + V v¯x /C 2
vy =
1
v¯y
.
γ(V ) 1 + V v¯x /C 2
¯ 系に対し静止している L 字型の金具の “底辺” を x
(b) S
¯ 軸に, “縦辺” を y¯ 軸に平行に置き, “底辺”
の端点には y¯ 軸方向の力 f¯y を, “縦辺” の端点には x
¯ 軸方向の力 f¯x を作用させる. トルクのつ
り合いを考慮することで, S 系から見た力が次式で与えられることを示せ:
fx = f¯x ,
γ(V ) fy = f¯y .
¯ 系の時刻 t¯a (S 系の時刻 ta )においては v¯x (t¯a ) = v¯y (t¯a ) = v¯z (t¯a ) = 0 なので, これらの関係式は,
S
確かに vx (ta ) = V , vy (ta ) = vz (ta ) = 0 を満たす.
¯ 系では, 時刻 t¯a から ∆t¯ が経過した
(c) S 系において, 時刻 ta から微小時間 ∆t が経過, 対応して S
とき, ∆t = γ(V ) ∆t¯ を示せ.
¯ 系におけるそれ ∆¯
(d) S 系における粒子の速度変化 ∆v := v(ta + ∆t) − v(ta ) と S
v := v¯(t¯a + ∆t¯)
との関係を, ∆¯
v について 1 次の微小量まで求め, 次を示せ:
dvx d¯
vx
γ (V )
=
dt ta
dt¯
3
dvy d¯
vy
γ (V )
=
dt ta
dt¯
2
,
t¯a
.
t¯a
(e) 以下をまとめると,
}
d {
dvx 3
¯ ¯
m0
γ(v) vx = m0 γ (V )
= fx (ta ) = fx (ta ) ,
dt
dt
t
t
a
a
}
dv
d {
f¯y (t¯a )
y γ(v) vy = m0 γ(V )
= fy (ta ) ,
m0
=
dt
dt
γ(V )
ta
となり, 一般に m0
*2
ta
}
d {
γ(v) v(t) = f (t) が成立することを示せ.
dt
¯ 系の時刻では t¯a で)粒子の速度と S
¯ 系の速度とが一致するだけである.
S 系から見たとき, たまたま, 時刻 ta で(S
3