数学の世界 C 講義メモ(4 月 23 日) 今日の講義のポイントは,定理 1 とその応用としての命題 8 だ.整数しか扱っていないのに思いもかけない 事実が紹介されているが頭に入ってこないという人も多いだろう.この講義メモを参考にもう一度考えてみて ほしい. 1. 前回の提出課題前回の提出課題(問 1)の解説 前回の講義メモを参考にすること.このように数直線の等しい長さの線分による分割を考えると一点 の曇りもなく理解できるのではないか. 2. 定理 1 について 今日の講義のハイライトだ.講義では証明を後回しにしたが,一般的には 4 ページの冒頭に記述して あることにつきる.この記述と,後に示す提出課題の解説を読んで,M, N の求め方のプロセスを理解 するようにしてほしい.大事なのはどんな二つの自然数についても,定理 1 の M, N を求めることが できるという実感を持つことだ. 定理の後半は,M a + N b = 1 が成り立てば a と b が互に素になることを主張している.逆に互い に素であれば最大公約数は 1 なので,定理の前半からこのような M, N が存在することが分かる.す なわち a と b が互いにに素であるための必要十分条件は M a + N b = 1 を満たす整数の組 M, N が存在 することである. 互いに素を 1 つの式で記述できるので整数の議論でしばしば利用される重要な事実である.証明は次の ように行う. (1) a と b の最大公約数を d とおく. (2) a = kd, b = ld と表せる. (3) M a + N B = M kd + N ld = (M k + N l)d = 1 より d は 1 の約数である. (4) d = 1 であり,最大公約数が 1 になるので互いに素である. 3. 互いに素を利用した二つの命題 1 つは命題 4 である.証明もテキストの 4 ページに記述してあるので読んでほしい.もう一つの命 題は次の形で紹介した. 命題 a と b が互いに素なら an と b も互いに素である. 証明は次のように行う. (1) a と b が互いに素なので M a + N b = 1 を満たす M, N が存在する. (2) この両辺を n 乗すれば (M a)n + n(M a)n−1 N b + · · · + n(M a)(N b)n−1 + (N b)n = 1 である. (3) 第 2 項以外はすべて因数に b をもつので b で括り出し M n an + Lb = 1 という式を得る. (4) ゆえに an と b は互いに素である. 4. 整数係数 n 次方程式の有理数解 命題 8 として記述している.証明はテキストに書いている通りなのでこのメモでは省略する.応用と して例 3 と例 4 を解説した.命題 8 より解となりえる有理数が限定されるので,それらが解にならな いこと(代入して 0 にならないこと)を示せば有理数解を持たないことになる.すなわち,解は無理数 になる.有理数は無数にあるが,解になりえる有理数は限定されるということが議論の核心だ.提出課 題の解説と合わせて考えてほしい. 本日の課題 1. M 297 + N 184 = 1 となるような整数 M, N の組の例を求めよ. 【解答例】 ユークリッドの互除法の計算は以下のとおりである(前回の講義メモ再掲). 297 = 184 × 1 + 113 184 = 113 × 1 + 71 113 = 71 × 1 + 42 42 = 29 × 1 + 13 71 = 42 × 1 + 29 29 = 13 × 2 + 3 13 = 3 × 4 + 1 ここで剰余の系列 {297, 184, 113, 71, 42, 29, 13, 3, 1} に属する数字を赤字で記述している.これを逆か ら辿ることにより次のような解を得る. 1 = 13 − 4 × 3 = 13 − 4 × (29 − 2 × 13) = 9 × 13 − 4 × 29 = 9 × (42 − 29) − 4 × 29 = 9 × 42 − 13 × 29 = 9 × 42 − 13 × (71 − 42) = 22 × 42 − 13 × 71 = 22 × (113 − 71) − 13 × 71 = 22 × 113 − 35 × 71 = 22 × 113 − 35 × (184 − 113) = 57 × 113 − 35 × 184 = 57 × (297 − 184) − 35 × 184 = 57 × 297 − 92 × 184 最大公約数 1 が隣り合う剰余の系列の数字の定数倍の和として表されていること,そしてその系列の数 字が 1 行下がるたびに徐々に右にずれていることが分かるだろう. 【コメント】 • こういう煩雑な計算をチェックしてもらうのは,最大公約数がどのように剰余の系列の隣り合う 2 つの数の整数倍の和として表されるのか観察してもらうためだ.これによって定理 1 の内容が一般 論として理解できるようになる.じっくり眺めてほしい. 2. 問 7 【解答例】 (1) の方程式の係数は最高次が 1,定数項が −1 なので有理数解になりえるのは ±1 のみで ある.このいずれも解にならないので,この方程式は有理数解を持たない. (2) の方程式は最高次の係数が 2,定数項が 3 である.ゆえに有理数解になりえるのは り,具体的には 3 の約数 であ 2 の約数 1 3 ±1, ±3, ± , ± 2 2 の 8 つである.これらを方程式に代入して 0 になるか否かを確かめれば −3/2 を代入したときに 2× 9 −3 −27 − 27 + 42 + 12 −27 −3× −7× +3= =0 8 4 2 4 を得る.他はすべて解にならないので (2) の有理数解は −3/2 に限る. 【コメント】 • 命題 8 の主張は,有理数解があるとしたらそれは定数項の約数を最高次の係数の約数で割ったもの になっているということだ.0 でない整数について約数は有限個しかないのでこのような有理数は 有限個になる.ゆえに,その一つ一つが解になっているかどうか(すなわち代入して 0 になるかど うか)を調べれば有理数解を持つか否かが判定できることになる. • 有理数解を見つけることは因数定理を利用した高次方程式の解法に応用される.例えば (2) の多項 式は (x + 3/2) = (2x + 3)/2 で因数分解でき 2x3 − 3x2 − 7x + 3 = (2x + 3)(x2 − 3x + 1) √ 3± 5 であり無理数である. となる.−3/2 以外の解は 2
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