「EU の発展と危機、日本は何を学べるか」講義概要

「EU の発展と危機、日本は何を学べるか」講義概要
第1回(平成 26 年 9 月 2 日)EU とは何か
神戸大学大学院経済学研究科教授
吉井
昌彦
1951 年に創設された欧州石炭鉄鋼共同体に起源をもつ欧州連合(EU)は、ニクソン
ショックや石油危機、最近ではグローバル金融危機、ユーロ危機など様々な危機を経な
がら、
「深化と拡大」を繰り返し、超国家機関としての地位を不動のものとしてきた。本
講義では、全講義の前奏曲として、EU はなぜ誕生したのか、EU とはどんな機関なの
か、どのように深化と拡大を繰り返してきたのかを概観することにより、我々日本が EU
から何を学べるかのヒントを得たい。
第2回(平成 26 年 9 月 9 日)EU 統合史
愛知県立大学外国語学部准教授
中屋
宏隆
ヨーロッパにおいては、古くより国家は統合と分裂を繰り返し、今日に至っている。
そうした重層的な歴史に今日の EU は立脚している。それゆえ EU を理解するためには、
その歴史的発展プロセスの把握は必要不可欠である。
今日の EU の直接起源となった共同体は、ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体(ECSC)であ
る。ECSC は、1950 年フランスの外務大臣シューマンの発表したプランをもとに創設さ
れた。ECSC は、超国家主義という主権の共有を伴う統合形式を採用して発足した。こ
の超国家主義こそが、今日の EU の統合を支える支柱となっている。本講義では、この
視点から EU 統合史を振り返ってみることにしたい。
第3回(平成 26 月 9 日 16 日)日・EU 関係史
神戸大学大学院経済学研究科教授
吉井
昌彦
EU は、今ではアメリカと並び、我が国の最重要パートナーの一つであるが、過去に
おいては貿易摩擦に代表される様々な対立軸を抱えていた。本講義では、どのようなダ
イアローグが行われ、このような対立がどのように解消されてきたのか、現在の EU と
我が国の政治・経済関係はどのような状況にあるのかを概観するとともに、第 5 回で議
論される日・EU 経済連携協定の重要性を確認する。日・EU 関係の過去と現在を振り返
ることが、我が国とアジアの国々の関係をどのように調整していけば良いのかを考える
きっかけとなって欲しい。
第4回(平成 26 年 9 月 30 日)EU 統合の経済的深化とユーロ危機
摂南大学経済学部教授
久保
広正
EU 統合が深化するにつれ、加盟諸国間の経済的な結びつきも強化されるようになっ
た。こうした背景の下、1999 年には共通通貨ユーロが導入され、2014 年初時点では 18
ヶ国の EU 加盟国でユーロが流通するようになっている。一見、順調に発展してきた EU
通貨統合であるが、2008 年央からユーロが急落するようになり、ユーロ圏諸国だけでは
なく、EU 経済全体にも深刻な影響が及ぶようになった。本講義では、今後、ユーロ、
さらには EU 経済がどのように推移するかについて展望する。
第5回(平成 26 年 10 月 7 日)日・EU 経済連携協定の行方と日本経済への影響
摂南大学経済学部教授
久保
広正
2013 年 4 月以来、わが国と EU は、日・EU 経済連携協定の締結に向けた交渉を続け
ている。ただ、本交渉が妥結するまでには困難な課題がいくつも存在する。そもそも日
本側の主たる関心は、EU が自動車・電子機器に対して課している高関税の撤廃である。
一方、EU 側は日本における非関税障壁が問題と主張する。すなわち、双方の関心事に
すれ違いがある。本講義では、この交渉を巡る動きを紹介しながら、日本経済に及ぼす
インパクトについて議論する。
第6回(平成 26 年 10 月 14 日)EU の対外政策
神戸大学大学院法学研究科教授
安井
宏樹
リスボン条約に基づいて 2011 年に欧州対外行動庁(EEAS)が発足し、EU の対外政
策は統合の方向に制度化が進んだ。とは言え、伝統的に国家主権と深く結びついてきた
安全保障問題も絡む対外政策においては、今なお加盟国政府間の協議によって主導され
る局面も少なくないため、
「EU の対外政策」は非常に複雑な構造を有するに至っている。
この講義では、EU の対外政策を支える制度について概観した上で、ウクライナ危機で
の EU の役割について考えたい。
第7回(平成 26 年 10 月 21 日)EU 統合における文化摩擦と共生
神戸大学大学院国際文化学研究科教授
坂井
一成
今日の EU は、域内での主にイスラム圏からの移民受入をめぐる摩擦、他方でアラブ
の春やウクライナ危機が発生するなど、地中海・中東から旧ソ連まで至る広大な近隣地
域との共生の課題を抱えている。これらの問題の多くは歴史、宗教、言語、民族性、そ
してアイデンティティといった文化的要素をめぐって先鋭化してきている。こうした課
題の解決・解消に向けて、EU はどのような戦略をとっているのかについて検討したい。
第8回(平成 26 年 10 月 28 日)EU 統合と福祉国家改革
神戸大学大学院国際文化学研究科准教授
近藤
正基
EU 統合が各国の福祉国家改革にどのように影響を及ぼしているのかについてお話し
します。まず、EU における福祉国家の多様性について解説します。四つのタイプの福
祉国家があることを説明した後に、EU の影響力行使の経路について説明します。その
上で、どのような影響力行使が採用されているのか、福祉国家のタイプによって EU か
らの影響力が異なるのかどうかなどについてお話しします。
第9回(平成 26 年 11 月 4 日)EU 統合の法的深化
神戸大学理事(副学長)・法学研究科教授
井上
典之
超国家的連合体としての EU が立憲国家と同じ法的仕組みの下で進化してきた流れと
現状を以下の項目によって簡単に講述する。
EU の法的基盤
1
・超国家的連合体としての EU
・EU を知ること=条約を理解すること
・1992 年以降の欧州連合条約(マーストリヒト条約、アムステルダム条約(シェンゲン
協定の組み入れ)からニース条約まで)
・2009 年リスボン条約
2
ヨーロッパの人権保障
・ローマ条約による基本的自由の保障
・現在の EU 市民の基本権保障
・EU における基本権保障の三重構造
・EU 基本権の特徴
・加盟国における基本権理解の対立
・EU 市民の自由・平等と人間らしい生活保障
まとめとしての EU の今後の可能性
3
第 10 回(平成 26 年 11 月 11 日)EU の東方拡大とロシア
神戸大学大学院経済学研究科教授
吉井
昌彦
2000 年代、中東欧・南東欧諸国への EU 東方拡大は進み、加盟が問題となるのは、今
や旧ユーゴの数カ国とアルバニアだけになった。さらなる EU の東方拡大はどうなるの
だろうか。あるいは、EU はウクライナに代表される旧ソ連ヨーロッパ諸国とどのよう
な関係を築こうとしているのだろうか。そのような中で、ロシアはどのようなポジショ
ンをとろうとしているのだろうか。本講義では、このような問題を考えることにより、
EU の将来を占っていきたい。