シミュレーションで探る生体の情報処理 神山 斉己 愛知県立大学 情報科学部 20 世紀が終わろうとする頃から,生命科学に関係する学問分野では 生命体を「システムとして理解する」という言葉を頻繁に使うよう になってきた。すなわち,細胞や生体の仕組みに関して,実験によっ て明らかとされた分子レベルの特性に基づいてシステム全体として 統合的に理解しようとする学問の新しい潮流がつくられるようになっ た。簡単に言えば,一つ一つの部品については(実は大変複雑な性 質があるが)良くわかってきたので,今度は部品一つ一つから装置 を自分達で組み上げ,それぞれの部品,あるいは部品どうしがどの ように動作して装置としての機能を実現しているかをはっきりさせ ようということである。ただし,実際に装置を組み上げるのでな く,コンピュータ上に生命体の仕組みを仮想的に再現することが大 きな特徴である。本講義では,モノを見る仕組みに関する網膜神経 回路の情報処理や,心臓や血管などの循環器系に関して,こうした コンピュータを駆使した研究の面白さや価値,医学分野への展開な どを紹介する。
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