2 剛体の運動 2.1 1) 剛体のプリミティブな運動 並進運動 剛体を構成するすべての質点が平行な運動軌道を描く場合,並進運動(translation)という. 剛体の運動の軌道は,大局的に見れば,直線の場合もあれば曲線を描くこともある,しかし,無 限小の(infinitesimal)時間を考え,その時間内の剛体上の質点を局所的に捉えると,これらは (もし変位があるとすると),直線的に動いている.すなわち並進していると考える. ①速度解析 剛体上の質点 A , B の無限小時間 dt における変位がそれぞれ ri i A, B であったと すると,質点の速度 vi は,それぞれ, vi Dri dri = t 0 Dt dt = lim で与えられる. この場合,剛体上のすべての点は,同じ速度と加速度をもつ.これを,図 2.1 を用いて説明する. 図 2.1 剛体の並進運動 今,座標系 Σ O で観測した剛体の上の点 A ,点 B の位置ベクトルをそれぞれ また点 B の,点 A から見た位置ベクトルを O rB O rA A rB A rB とすると, (2.1) 式(2.1)の両辺を t で微分して, d O d d rB O rA A rB dt dt dt (2.2) 剛体の性質から, 1 O rA , O rB とし, d A rB 0 dt (2.3) したがって,式(2.3)を式(2.2)に代入することにより, d O d rB O rA dt dt したがって, (2.4) Σ O で観測した剛体の上の点 A ,点 B の速度ベクトルをそれぞれ, O vA , O vB とすると,式(2-1)は, O vA O vB (2.5) つまりこれは,並進運動によってもたらされる剛体上の2点 A , B における速度を Σ O で観測 したものは,つねに等しいことを意味している.これから一般に, Σ O で観測した, 「並進運動によってもたらされる剛体上の任意の2点における速度は,つねに等しくなる.」 (2.6) と言える. ②加速度解析 加速度を議論するためには,ここまでと同様にして,式(2.4)をさらに時間で微分することによ り, d2 O d2 O r rB A dt 2 dt 2 (2.7) を得る.これは, Σ O で観測した剛体の上の点 A ,点 B の速度ベクトルをそれぞれ, O aA ,O aB とすれば, O つまり, aA O aB (2.8) Σ O で観測した, 「並進運動によってもたらされる剛体上の任意の2点における加速度も,つねに等しい」 (2.8) ことを意味している. 2 ■例題: 先の 1.5 で学んだ,下図 2.2(テキストでは図 1.5 (a))に示 機構の基本的なモデリング概念 される 4 リンク機構のエレメントの速度について考える.これは,機構の自由度 N DOF 1 であっ た . 今 , 点 A の ジ ョ イ ン ト を角 速 度 4 rad / s で駆動するとき,リンク 1 に張られた 座標系 1 で見て,点 B および点 C における速度成分の中に,互いに等しいものがある.これを図 示して求め,理由を述べよ.(たとえば,リンク 2 の長さ l2 1 m ,ジョイント A , B の初期角 度をそれぞれ, 3 rad, rad 4 3 とせよ.) A 図 2.2 4 リンク機構 2) 固定軸まわりの回転運動(rotation) ①速度解析 剛体を構成する質点が円(孤)を描き,その中心が固定軸上に中心をもつ運動のことである. 図 2.3 において, z 軸のまわりに角速度(angular velocity) で回転する剛体上の,点 C の運 動を表現することを考える.以下,断りのない限り,位置ベクトルは Σ O で観測した値として, O 位置ベクトルを表す文字の左肩添え字 “ ”を省略する. 3 図 2.3 剛体の z 軸まわりの回転運動 今,点 C の位置ベクトルを rC (原点からの距離を r )とすると,この点における速度 vC は, d rC dt rC vC (2.9) d e z rC dt ただし, e z は z 軸方向の単位ベクトルである.また,角速度の大きさ は,同図の との 間に d t 0 t dt lim の関係がある. 最終的に,図 2.3 右側図のように速度の方向の単位ベクトル eC t を定義すれば,後注※3)①に 示すように (2.9) d t eC rC sin dt (2.10) となる. ②加速度解析 また,加速度 aC については, aC d vC dt 式(2.9)を代入して, d rC dt ここで一般に,外積演算の時間微分演算については,後注※3)②に示すように, 4 d d d r r r dt dt dt = d r v dt (2.11) で表わされる. d は,剛体の運動の角加速度(angular acceleration)と呼ばれるもので, dt 図 2.3 の場合であれば, を 式(2.11)において, d dt と定義すれば,これは, z 軸の単位ベクトル e z を用いて, d d2 e z 2 ez dt dt (2.12) と,角加速度の大きさと回転軸方向をもって表現されるものである. 3) 注※① 図 a2.1 を用いた式(2.10)の説明 図 a2.1 速度方向の単位ベクトル まず,以下のように,角速度ベクトル ,位置ベクトル r を定義する. x y z rx r ry r z 角速度の大きさを とすると, z 軸まわりを考えているので, 0 0 1 5 として,式(2.9)は, ry ry 0 rx r 0 ry rx rx 0 0 1 rz (a2.1) ここで,図 2.3 の幾何学的な考察により, rx r sin cos ry r sin sin を代入して, sin (a2.1) r sin cos 0 eC (t ) が得られる. 3) 注※② d r の計算 dt x 成分のみを示す. (a2.2) x y z rx r ry r z とおくと,式(a2.2)は, d d d d d y rz z ry y rz y rz z ry z ry dt dt dt dt dt d d d d y rz z ry y rz z ry dt dt dt dt d d r r dt x dt x d d r r dt x dt y, z も同様である.したがって, d d d r r r dt dt dt 6 (2.11)
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