抗力と摩擦力 例題 幅 12 m の凍結した道路の端にある人が立っている。その 人の靴と道路の間の最大静止摩擦係数は μ = 0.05 である。この 人が滑べらずに道路を横断するのに必要な最小時間を求めよ。 解 人を前進させる外力は静止摩擦力である。 質量 M の人は道路面から N = M g の垂直抗力を受けている。 したがって摩擦力は μM g である。人が進む距離を x とすると d2x M 2 = μM g. dt 1 t = 0 で x = 0 とすると, 1 x = μgt2. 2 x = 12 m のとき t= 2x μg = 2 × 12 m = 7.0 s. 2 0.05 × 9.8 m/ s したがって, 最短 7 秒必要である。 注 道路が受ける反作用は無視できる。 靴と道路の間に相対運動はないから、静止摩擦力は仕事をしな い。もし摩擦力が仕事をするとしても、それは運動エネルギー を減少させる方向に仕事をする。これは次のように解釈できる。 運動量は靴と道路の間の面を通して地球から人体に流れ込むが、 エネルギーは流れ込まない。エネルギーは人体内部で食物のエ ネルギーから運動エネルギーへ変化している。 問 20 m/ s で走っていた質量 10 t のトラックにブレーキをか けて止めた時、発生する熱量はいくらか? 解 トラックを止める力は車軸についたドラムと車輪の間に働 く摩擦力である。摩擦力は散逸力であり、その仕事は熱に変わ る。質量 M = 104 kg の物体が速度 v = 20 m/ s で動いてい 1 M v 2 = 2.0 × 106 J が熱に変わる。 る時の運動エネルギー 2 問 2 本の柱の間の距離が 5 m ある。柱の間に張った軽い糸の 中央に 1 kg の鳥が止まると、糸は 0.2 m 下がった。この鳥は糸 にどれだけの張力を生じさせるか? 解 もし鳥に働く力が重力だけなら、鳥は下に落ちてしまう。釣 合を保つためには何らかの力が働いていなければならない。糸の 張力は力の概念を使って釣合が保たれていることを記述する現象 論的な概念である。 2T sin θ = mg, 0.2 m = 0.08 sin θ tan θ = 2.5 m 1.0 kg × 9.8 m s−1 T = = 61 kg m s−2 2 × 0.08 問 他端を水平方向に力 F で引っ張ったところ、ばねは自然長 より だけ伸びた。同じばねを両端から力 2F で引っ張ったと き、ばねの伸びはいくらか。 F 2F 解 2F バネが壁に固定されている時、固定するための拘束力が働 いている。つまり, バネは左に F の力で引っ張られているので 釣りあっている。もし引っ張られていなかったら、右に飛び出し て行くだろう。 フックの法則により, バネの伸びは 2 倍になるので, 答えは 2 問 傾斜角 θ の滑らかな斜面上に、質量 M の物体 P を置き、表 面が滑らかな止め金で支え、静止させた。P は、鉛直下向きに力 M g を受けている。 P 止め金 M gθ (1) 斜面が P から受ける力はいくらか。 (2) 止め金が P から受ける力はいくらか。 (1) 重力によって, P は鉛直下向きに M g の力を受けている。 この力によって斜面に接している P が斜面に垂直に押す力の大 きさは M g cos θ である。P はこれと同じ大きさの逆向きの力 M g cos θ を受けている。 (2) P に働く斜面に平行な力の成分は M g sin θ である。P は 止め金によって支えられているので、これと同じ大きさの逆向き の力を止め金から受けている。 例 図のように、質量 m の物体 P と水平面との静 止摩擦係数を μ、動摩擦係数を μ とする。はじめ P P は軽い滑車を通して、伸びない糸でおもり (質量 M ) と結ばれて静止している。重力加速度の大き おもり さを g とする。 (1) P が動き始める条件を求めよ。 (2) 動き始めてから t 秒後の速度と移動距離を求めよ。 (3) t 秒後における、おもりが失った位置エネルギーと、P とお もりが得た運動エネルギーとの差 ΔE を求めよ。 (4) 上で求めたエネルギー差 ΔE は何か。 解 (1) P は重力 M g と摩擦力がつりあって静止している。面の抗 力は mg だから静止摩擦力は μmg と書ける。μ は P に働く力 F に よって変わる。静止している限り F が大きくなったら μ は大きく なる。現象の記述しているだけだから, 原因など考えていない。 そうなってなかったら, つり合わないというだけである。μ がこ れ以上大きくなれなかったとき, 釣合が破れて, P は動き出す。 そのときの静止摩擦係数を最大静止摩擦係数という。 (2) P とおもりの間に働く、作用反作用をみたす力 F を使うと, おもりに対して d dx = Mg − F M dt dt 点 P に対して d dx m = −μmg + F dt dt したがって d dx (M + m) = (M − μm)g dt dt 初期条件 t = 0 で x = 0, dx dt = 0 のもとで積分すると 1 2 x(t) = αt , 2 (M − μm)g α= M +m (3) 初期の位置エネルギー + 運動エネルギーを 0 とすると t 時間後のそれは 1 1 dx 2 dx 2 E = m( ) + M ( ) − M gx 2 dt 2 dt 1 2 = −(μ mg) αt = −μmgx 2 (4) 摩擦力 −μmg が距離 x 動く間にした仕事が −μmgx で ある。 運動方程式の枠組で考えている限り, エネルギー保存が成り立たなくても, 仕事の原理は成 立する。仕事の原理は, 保存力のような力の性質ではなく, 運動方程式だけから出てくる。原 理としてのエネルギー保存を回復させるには, 熱の理論のような高度の理論が必要である。 原理と現実の乖離が物理学発展の原動力である。
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