原油安の「二面性」がもたらす荒れ相場

藤戸レポート
原油安の「二面性」がもたらす荒れ相場
2015 年 1 月 13 日
新春相場は荒れ模様
(グラフ 1)
新年早々17000 円を
割り込んだ日経平均
新年早々、マーケットは荒れ模様である。昨年に続いての波乱展開で、
兜町伝統の「新春御祝儀相場」は色褪せつつある。日本人の精神性からす
れば、「新年を祝う」のは当然だが、どうも外国人投資家、特にヘッジファン
ドにとっては、むしろ「仕掛けの好機」との認識が定着し始めているように思
える。日経新聞恒例の企業経営者による相場見通しは、示唆に富む内容
が多く、毎年注目している。今年は回答者 20 人の内、半数の 10 人の方が
日経平均の下値メドが 17,000 円とのことであった。ところが御存知のとお
り、大発会翌日に日経平均は 17,000 円を割り込んでしまった(グラフ 1)。半
数の企業経営者の予想の寿命が 2 日しかなかったのは、異常な状況と言
ってよい。
その背景には何があるのだろうか?まず第一に、経営者は企業業績の
先行きに相当な自信を持っていることが挙げられる。自社の順調な収益拡
大が展望され、また広く日本企業全般を見渡しても収益モメンタムの強さが
想定されれば、株価見通しに強気になるのも当然である。ファンダメンタル
ズをベースにしたオーソドックスな見通しでは、「下値を着実に切り上げる」
と見るのも理解できる。しかし、昨年 1 年間の相場を見ても分かるように、日
経平均は大納会でこそ 2013 年末の 16,291 円に対して+7.1%の上昇とな
ったものの、4~5 月には 14,000 円割れがあったのも事実である。10/31 の
日銀黒田総裁による大胆な追加緩和がなければ、前年比でプラスが怪しい
状況でもあった。2014 年はヘッジファンドの激しい売買によって、日経平均
(円)
日経平均(2014/9~)
19,000
18030
(12/8)
18,000
17914
(12/29)
17,000
日経平均
16808
(1/7)
16,000
日銀の
追加緩和
(10/31)
15,000
14,000
4529
(10/17)
9/1
9/24
10/16
(出所)AstraManagerのデータよりMUMSS作成
11/7
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015011334M)
12/1
12/22
2015 年 1 月 13 日
ストラテジー
が 13,885 円(4/11)~18,030 円(12/8)まで大きくブレた相場だった。ヘッジ
ファンドを主体とした外国人は、10 月前半の 3 週間に「現物株式+株式先
物」で▲3 兆 518 億円を売り浴びせた。この結果、日経平均は 9/25 高値
16,374 円から 10/17 安値 14,529 円まで 1,845 円の急落となった。そして
逆に、10/31 の追加緩和によって、外国人は 3 週間で+4 兆 5,434 億円と
いう未曽有の買い越しに急転換した(グラフ 2)。日経平均は 3,501 円の上昇
である。兜町伝統の解析では、手に負えない荒れっぷりだ。
(グラフ 2)
10 月以降、外国人投資家の
大商いで日経平均が乱高下
(億円)
60,000
日経平均と外国人投資家動向(現物+先物)
20,000
(出所)AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
50,000
15,627
(5/22)
(円)
円)
17935
(12/8)
18,000
16291
(12/30)
16,000
40,000
日経平均
(右メモリ)
30,000
14532
(10/17)
12,000
14,445
(6/13)
20,000
14,000
10,000
10,000
8,000
0
-10,000
-20,000
2012/4
6,000
外国人投資家売買動向
(現物・先物計:左メモリ)
2012/8
2013/1
2013/5
4,000
2013/10
2014/3
2014/7
2014/12
2,000
徘徊する 250 兆円のヘッジファン
このジェットコースターの如き急騰・急落は、ヘッジファンドのマネーが膨
ドマネー
張したことによってもたらされている。ヘッジファンド調査会社のユーリカヘッ
ジによると、2014 年 9 月末でヘッジファンドの資産運用額は 2 兆 1,323 億
ドルに達している(約 255 兆円)。一部では、カルパース(カリフォルニア州
職員退職年金基金)がヘッジファンドから委託資金を引き揚げたとの報道も
あり、退潮を窺わせるものもある。しかし、なお邦貨で 250 兆円を超える巨
額マネーが、最新の金融工学とアルゴリズム売買で重武装し、世界のあら
ゆるマーケットを徘徊しているのが実態だ。この 250 兆円がデリバティブの
利用で数倍化することを考えれば、恐るべきインパクトを持つことは容易に
想像できる。日本市場にも、3 週間の短期間で約 3~5 兆円の膨大なマネ
ーが出入りすれば、大荒れとなるのは必定だ。ボラティリティこそが、彼らの
収益源であることを考えると、今年も同様な展開を想定するべきであろう。
今年の相場は、「天気晴朗なれども波高し」と評した。この「波高し=ボラテ
ィリティの高さ」は、既に大発会以降の展開で証明されている。新春になる
と、兜町筋から「右斜め 45 度で一直線に上昇する」との大風呂敷が開陳さ
れることが多い。今年は、最終的に日経平均が 2 万円到達の蓋然性が高
いと見ているが、途中では相当な調整を挟むことを想定すべきである(グラフ
3)。おそらく、短期間に 2,000~3,000 円の下落で肝を冷やす局面があるこ
とだろう。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015011334M)
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2015 年 1 月 13 日
ストラテジー
(グラフ 3)
2015 年の日経平均は
2 万円台を視野に
ボラティリティの高い展開
日経平均のイメージ
22,000
(円)
(20,500円)
21,000
20,000
18,030.83
(12/8)
19,000
18,000
17,000
16,000
(16,000円)
15,000
14,000
13,000
13,885.11
(4/11)
14,529.03
(10/17)
12,000
14年1月 14年4月 14年7月 14年10月 15年1月 15年4月 15年7月 15年10月
荷もたれ感が払拭できない WTI
新年早々の荒れ相場を、材料面から演出したのは原油価格の急落であ
原油先物
る。WTI 原油先物価格は、1/7 安値 1 バレル=46.8 ドルにまで売り込まれ
る局面があった。昨年 6/20 高値は 107.7 ドルであり、半値以下の急落だ。
短期的に見た場合には、コモディティ専門ファンドやヘッジファンドの損失
が膨張し、リスク回避的な動きを助長することになる。CFTC(米商品先物取
引委員会)が発表している WTI 原油先物のヘッジファンド・ポジションは、
1/6 時点でなお+268,800 枚の買い越しである(グラフ 4)。昨年 6/26 時点
の 458,969 枚からは確かに減少しているものの、なお高水準の買い残高で
ある。注目すべきは、昨年 11 月の OPEC(石油輸出国機構)総会で減産が
見送られ、原油価格の下落に拍車が掛かったにもかかわらず、ヘッジファン
ドが買い向かったことだ。総会前の 11/25 時点では+253,001 枚の買い越
(グラフ 4)
いまだ高水準にあるファンド筋の
原油先物ロングポジション
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015011334M)
3
2015 年 1 月 13 日
ストラテジー
しだったが、その後買い越し枚数は増加している。つまり、彼らは値頃感か
らの押し目買いを実践したわけだ。しかし、この押し目買いやナンピン買い
が機能するためには、価格がボトムアウトしてリバウンドしなければならな
い。もし、トレンドに変化がなければ、損失は雪だるまのように膨張すること
になる。今回の原油急落に対するヘッジファンドの動きは、まるで素人のよ
うで、本来の彼らのキレがない。ようやく 50 ドル割れとなって、本格的に投
げ始めているようだ。おそらく、彼らの買い越し枚数が 10 万枚以下に減少
するまでは、なお需給の荷もたれ感が解消しないものと思われる。
「原油安=株安」の投機マネー・
原油価格の急落によって、既にファンドクローズ(閉鎖)に追い込まれた
フローを惹起
ものもある。今後は運用会社の破綻が話題になることだろう。一般的に、ヘ
ッジファンドは株式、債券、通貨、コモディティが運用の 4 本柱になっている
ものが多い。コモディティ専門ファンドを別にすれば、それほどコモディティ
のウェイトは高くない。しかし、これだけの価格急変となれば、相当なダメー
ジを被っていることは間違いないだろう。損切りを実施してポジションをたた
めば、他のアセットで損失を補填する必要が生じる。つまり、損失を相殺す
るために、大幅に利益が出ているアセットを抱き合わせで売ることになる。
史上最高値圏にあった米株式や、日銀追加緩和後に急騰していた日本株
は格好の売り候補になったものと思われる。個別銘柄の推移を見ても、原
油下落の影響を間接的に受けているものが少なくない。たとえばアップル
は、時価総額世界最大であり、OPEC 総会直前の 11/25 には史上最高値
119.7 ドルをマークしていた。ところが、「減産見送り」で WTI 原油先物が急
落に転じると、アップルの株価までが下に引きずられる形となった。1/6 に
は安値 104.6 ドルにまで売り込まれている(グラフ 5)。原油価格の下落で、
直接的な関連性があるエクソンモービルやシェブロン、トランス・オーシャン
(グラフ 5)
原油価格の下落の損失を
アップルで相殺するファンド筋
(ドル/バレル)
(ドル)
WTI(原油先物)とアップル株価推移
120
130
107.73
(6/20)
110
119.7
(11/25)
120
100
WTI(原油先物)
(左メモリ)
90
110
80
104.6
(1/6)
100
70
アップル
(右メモリ)
60
90
50
80
45.62
(1/12)
40
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
30
5/1
6/5
7/10
8/13
9/17
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015011334M)
4
10/21
11/24
12/30
70
2015 年 1 月 13 日
ストラテジー
やハリバートンが売られるのは分かる。しかし、多くのヘッジファンドにも保
有されているアップルが売られているのは、まさに損失補填の対象にされて
いる可能性が高い。つまり、原油価格急落がトリガーとなり、ヘッジファンド
の投機マネー・フローを急変させたものと思われる。ダウ工業株 30 種平均
は高値 18,103 ドルから急反落し、日経平均も 18,030 円から 17,000 円割
れまでの下落を余儀なくされた。外国人投資家は、日本株(現物+株式先
物)を原油下落が顕著になった 12 月第 2 週に▲8,388 億円、第 3 週▲1
兆 554 億円売り越した。2 週間で 2 兆円近い売り越しである。原油価格の
急落は、短期的に株式も道連れにする投機マネー・フローを惹起したものと
思われる。
中長期的には日本の「神風」とな
しかし原油価格の下落は、中長期的に見れば、先進国経済にとって大き
る
な追い風になることは間違いない。既にお伝えしたように、原油価格が 30%
下落すれば、IMF(国際通貨基金)は先進国の成長率を 0.8%押し上げると
表明し、世界銀行も、「中期的に世界の GDP を 0.5%押し上げる」との見解を
公表している。世銀によれば、「平均貯蓄率の高い石油輸出国から、支出
性向が高い純輸入国への所得移転は、通常中期的により力強い世界需要
に繋がる」とのことだ。内閣府の試算でも、実質 GDP が 1 年目+0.33%、2
年目+0.57%、3 年目+0.24%の押し上げ効果があるとしている(グラフ 6)。ほ
ぼ 100%近くを輸入に依存する日本にとっては、超大型の景気浮揚策に匹
敵する「神風」となる可能性が濃厚だ。原油価格の下落効果が実体経済に
反映するのには、半年から 3 四半期のタイムラグが生じる傾向がある。昨年
10~12 月期から急落開始とカウントすれば、年後半には景気浮揚効果が
顕在化するものと思われる。マクロ景気の好転は、ミクロの企業業績にも好
影響を及ぼすのは言うまでもない。年末高シナリオの根幹の一つでもある。
つまり、原油価格の急落は、短期的には投機マネー・フローを変容させて株
安要因となるが、中長期的には明白な景気押し上げ要因となる二面性を有
している。となれば、ヘッジファンドが売り浴びせてくる局面で買い向かえば
良い。新年早々の日経平均 500 円安で驚かれた方もいようが、この程度の
ブレは、おそらく頻繁に起きることになろう。「原油安=株安」の構図が鮮明
化したならば、買い出動の好機と捉えるべきであろう。
(グラフ 6)
原油安が
日本経済の追風に
(%)
日本経済への影響(原油価格30%下落時)
1.56
1.6
1年目
2年目
3年目
1.2
0.8
0.4
0.57
0.51 0.51
0.33
0.24
(%)
日本経済への影響(円が20%下落時)
1.6
1.35
0.81
0.71
0.8
1年目
2年目
3年目
1.16
1.2
0.76
0.86
0.78
0.56
0.44
0.32
0.14
0.17
0.4
0.38
0.14
0.00
0
0.2
0.18
0.32
0.52
0.44
0.24
0.36
0.06
0
-0.20
-0.4
実質GDP
消費
-0.4
設備投資 単位時間 民間消費
当り賃金 デフレーター
(出所)内閣府 短期日本経済マクロ計量モデルをもとにMUMSS作成
実質GDP
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015011334M)
5
消費
設備投資 単位時間 民間消費
当り賃金 デフレーター
2015 年 1 月 13 日
ストラテジー
「ギリシャ問題」報道の皮相性
新年早々の波乱に、ギリシャ問題を指摘する向きも多い。しかし、これは
事実誤認と思われる。2011~12 年のユーロ危機に際しては、ギリシャ問題
は、即ちユーロ圏全体の問題であった。つまり、ギリシャからポルトガルやス
ペイン、イタリアに問題が拡大発展し、ユーロが崩壊するシナリオが喧伝され
ていた。しかし、この苦闘の間に、ECB(欧州中銀)、EU(欧州連合)は必死に
なってセーフティ・ネット(安全網)の構築に邁進し、ESM(欧州安定メカニズ
ム)を誕生させ、OMT(問題国の国債を無制限に購入する)等の非伝統的
手法も充実させた。つまり、ギリシャ問題と言っても、当時とは状況が全く異
なるのだ。その証拠に、今回はギリシャ騒動が拡大しても、南欧諸国の 10
年長期金利は超低水準で推移している。例えば、ポルトガル 2.5%、イタリア
1.8%、スペイン 1.6%等、「7%を上回ればレッドカード」と呼ばれた当時とは雲
泥の格差である(1/8 時点)。ポルトガルの長期金利は 2012 年 1 月には
18.2%の高水準であった。信用リスクを表す CDS スプレッドにしても、ポルト
ガル 204 ベーシス・ポイント(bp)、イタリア 138 bp、スペイン 99 bp と極めて
安定している(同)。2012 年 1 月には、ポルトガルは 1,581 bp、スペインも同
年 7 月には 642 bp まであった。つまり現在は、あくまでもギリシャ一国の混
迷であり、ユーロ圏全体に波及するようなリスクではない(グラフ 7)。そもそも、
今回の総選挙で優勢が伝えられている SYRIZA(急進左派連合)のツィプラ
ス党首は、「ユーロ離脱の不安はドイツの政治家や一部メディアが煽ったも
のである。SYRIZA はユーロが失敗に終わることを望んでいない」と極めて穏
当な発言を行っている。どうも、今回のギリシャ危機なるものは、2011~12 年
に大騒ぎしたメディアが「二番煎じ」を狙い、当時空売りで大儲けしたヘッジ
ファンドが、「夢よ再び」とばかりに仕掛けた嫌疑が濃厚である。紆余曲折は
あろうが、あくまでも「ギリシャの混迷」であり、「ユーロの混迷」ではない。
(グラフ 7)
2011~2012 年と異なる
欧州諸国の CDS スプレッド
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015011334M)
6
2015 年 1 月 13 日
ストラテジー
デフレの深淵に飲み込まれるユ
「ギリシャ危機=ユーロ危機」はガセネタに近いが、より深刻なのは、ユ
ーロ圏
ーロ圏がデフレの深淵に飲み込まれつつあることだ。12 月のユーロ圏の
CPI(消費者物価・前年比・総合)は、とうとう▲0.2%と水面下に沈んでしまっ
た(グラフ 8)。マイナスになったのは、リーマンショック後の 2009 年 6~10 月
以来のことである。つまり、緊縮財政、増税、社会保障カットで突き進んでき
たが、リーマンショック後 6 年余を経ても、結局は景気後退と物価下落、即
ちデフレ・リスクに打ちのめされつつある。ドイツが主導した「財政健全化至
上主義」は挫折している。既にイタリア、フランスは、財政の出動によるイン
フラ投資、消費喚起のための大幅減税に動いている。IMF でさえ、インフラ
投資の有効性を表明するなど、状況は様変わりである。ECB は 1/22 の理
事会で量的緩和に踏み切る可能性が高いが、寄合所帯のユーロ圏では技
術的な困難が付いて回る。米国や日本のように、膨大な発行があり、流動
性に富んだ国債があればよいが、その条件に適うのは、せいぜいドイツ、フ
ランス、イタリア国債程度だ。ECB への出資比率に応じて各国国債を買うと
いうスキームを模索しているようだが、ドイツ国債は既に 4 年債までがマイナ
ス金利である(1/8 時点)(グラフ 9)。マイナス金利のマイナス幅をさらに拡大
させて、果たしていかなる効果があるのか?ブンデスバンク(ドイツ連銀)の
ヴァイトマン総裁は原理・原則論を執拗に繰り返している。「格付けの低い
国の国債購入で ECB のバランス・シートが健全性を損なわれる。マネタイ
ゼーション(中央銀行による財政赤字の補填)は厳に慎まなければならな
い」との主張だ。ドラギ ECB 総裁は、最後には、ドイツ、オランダ、フィンラン
ド等の反対を多数決で押さえ込む覚悟だろうが、量的緩和の効果がどの程
度顕現するのかは未知数である。寄合所帯のユーロ圏で、極めて実験的な
量的緩和が奏功し、デフレ・リスク脱却となるのかは判然としない。ECB への
期待は強いが、「日本化」のリスクは日毎に増しているように思える。これこ
そが真のユーロ圏のリスクであり、世界はディスインフレとデフレの狭間で揺
れ動いている。
(グラフ 8)
5 年ぶりにマイナスとなった
ユーロ圏の CPI(総合)
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015011334M)
7
2015 年 1 月 13 日
ストラテジー
(グラフ 9)
4 年国債までマイナス金利
となったドイツ国債利回り
償還期間別のドイツ国債利回り(1/8時点)
(%)
0.600
0.510
(出所)BloombergのデータよりMUMSS作成
0.500
0.400
0.300
0.200
0.100
0.008
0.000
-0.100
-0.090
-0.091
-0.104
-0.090
1Y
2Y
3Y
-0.067
-0.200
-0.205
-0.236
-0.300
1M
3M
6M
4Y
5Y
10Y
暗鬱なトーンを払拭したエバンス
新年早々の暗鬱な雰囲気を一掃したのは、やはり FRB(連邦準備制度
総裁
理事会)だった。ハト派の代表でもあるシカゴ連銀のエバンス総裁(FOMC
投票権有り)は、「利上げを急ぐべきではない。時期尚早の利上げは悲惨な
結果をもたらす」との見解を表明した。また、「インフレ率が上昇すれば、当然
引き締め策が必要だ。しかし、米国のインフレ率は、あと 3~4 年は FRB のタ
ーゲットである 2%に到達しないだろう。すぐにでも利上げすべきとの要求に
は、強い違和感がある。最も深刻かつ代償の大きな下振れリスクは、平時の
金融政策への回帰を性急に行うことにある」と、極めて明瞭な言葉で早期利
上げ論を批判した。FRB の物価のベンチマークである PCE コア・デフレー
ターは、昨年 11 月でも前年比+1.4%に留まっている(グラフ 10)。原油価格
の下落が、広汎な物価全般を押し下げる効果があることを考えると、エバンス
総裁が指摘するように 2%の目標到達には相当な時間を要するのは間違い
ない。世界的に見ても、ユーロ圏はデフレ・リスクに怯え、中国の CPI も 1.5%
という低水準だ。インドに至っては、一時二桁上昇していた卸売物価が、足
下ではゼロにまで低下している。黒田総裁の奮闘にもかかわらず、日本も
2%には遠い状況が続いている。おそらく、「出口」に最も近い FRB でも、利
上げはコンセンサスよりも後ずれする可能性が高い。つまり、その間は、景
気・企業業績の回復と超緩和策継続の恩恵を享受することが可能になる。
「波高し」には徹底した逆張り
ダウ工業株 30 種平均は、1/5~6 に 461 ドル安となった後、7~8 の 2
日間で 536 ドル高と何とも荒っぽい展開だ。急落が続いていた原油価格が
小康状態になったことに加えて、エバンス発言を好感したものだが、この振
幅の大きさこそが、今年の相場の特徴と言えよう。日経平均も 1/7 安値
16,808 円まで売り込まれた後に、切り返しを見せている。年初の相場が 1
年を象徴する傾向があることを考えると、やはり「波高し」が継続すると見な
ければならない。したがって、スタンスは徹底した逆張りである。メディアが
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015011334M)
8
2015 年 1 月 13 日
ストラテジー
(グラフ 10)
FRB の目標を下回る
PCE コア・デフレーター
ギリシャや原油の悪材料を流して下落する局面があれば黙って拾い、その
後の急反発では着実な利喰いを実践しよう。今年の相場は、「バイ&ホー
ルド」よりも、状況に応じた細かいケアを続けることが、パフォーマンスの向
上に繋がるものと思われる。そうした意味では、年金(信託銀行)運用と同様
に、感情を排除した冷徹な投資スタンスが求められよう。信託銀行(年金勘
定)は、昨年 10 月前半、あるいは 12 月中旬の急落局面で、しっかり買い
向かっている(グラフ 11)。
(グラフ 11)
急落局面で買い向かった
信託銀行
(億円)
日経平均と信託銀行動向
(円)
12,000
20,000
(出所)AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
10,000
6,000
18,000
16,291
(12/30)
15,627
(5/22)
8,000
17,490
(11/14)
16,000
14,000
日経平均
(右メモリ)
14,445
(6/13)
4,000
12,000
2,000
10,000
0
8,000
(2,000)
6,000
信託銀行売買動向
(現物・先物計:左メモリ)
(4,000)
(6,000)
2012/4
4,000
2012/8
2013/1
2013/5
2013/10
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015011334M)
9
2014/3
2014/7
2014/12
2,000
2015 年 1 月 13 日
ストラテジー
企業の収益モメンタムは強い
(表 1)
2015 年度の増益基調続く
日本企業
企業業績は順調な推移が想定されている。企業サイドの上方修正は、
10~12 月期の決算発表後になろうが、証券各社のアナリスト・コンセンサス
は 2014 年度で+8.1%増益にまで上振れしてきた(日経平均構成銘柄ベー
ス)。日経平均の EPS(一株あたり利益)は 1,103 円であり、リーマンショック
後の平均予想 PER15.3 倍を掛ければ、バリュエーション面での中心軸は
「16,876 円」となる。当面は、これに接近するか下回るような局面があれば、
明瞭な買い場と考えて良い(表 1、グラフ 12)。
2015 年度の企業業績を展望すると、さらに状況は好転する。アナリスト・
コンセンサスは+11.4%増益で、EPS は 1,229 円と初めて 1,200 円台に到
達する。原油下落の恩恵、円安傾向の定着を考えると、輸出産業中心に強
い収益モメンタムが想定される。「1,229 円×15.3 倍=18,804 円」であり、非
常に保守的な予想 PER15.3 倍をベースにしても、無理なく日経平均の
19,000 円弱が中心軸と化す。「1/7 安値 16,808 円÷1,229 円=13.6 倍」と
なれば、十分採算に合う冷静な投資となろう。「下げて強気」である。
リーマンショック後の平均PERで評価した日経平均の妥当レンジ
変動
範囲
予想
PER
σ:1.74
(倍)
期待高い
+1σ
2010年度以降
の平均評価
期待低い
マーケット
期待度の変化
2013年度
2014年度
2015年度
3月末
中間決算後
コンセンサス予想
コンセンサス予想
予想EPS
増益率 +3.4%
1020円
1055円
+8.1%
1103円
+11.4%
1229円
17.0
17,340
17,935
18,751
20,893
±0
15.3
15,606
16,142
16,876
18,804
-1σ
13.6
13,872
14,348
15,001
16,714
※業績変化(当期利益)に対応するEPSは2013年度末予想EPSからの変化率。
(出所)AstraManager、QUICKコンセンサスのデータをもとにMUMSS作成
日経平均の予想PERと企業の収益モメンタム
20000
(円)
18000
日経平均
16000
東日本大震災
(グラフ 12)
予想 PER がリーマンショック後の
平均(PER15.3 倍)に接近
14000
12000
追加緩和
バレンタイン
緩和
消費増税
先送り
異次元
緩和
10000
アベノミクス
8000
20
(倍)
リーマンショック後
2010年度以降の
平均PER(15.3倍)
日経平均の予想PER
18
+1σ(17.0倍)
16
14
-1σ(13.6倍)
12
10
各年度の当期利益会社予想変遷
24
23.7
(日経平均採用銘柄合計、兆円)
20
16.5
16
12
11.2
12.9
14.2
13.9
11.8
11.4
18.0
19.7
11.7
20.2
20.3
+2.4%
+3.4%
21.3
+8.1%
+11.4%
11.9
8.7
8
4
期初 中間 着地 期初 中間 着地 期初 中間 着地 期初 中間 着地 期初 中間 コンセン
2010年度
2011年度
2012年度
2013年度
2014年度
※「コンセン」はコンセンサス予想利益の単純集計値、%数字は前年度比利益変化率。
(出所)AstraManager、QUICKコンセンサスのデータをもとにMUMSS作成
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015011334M)
10
コンセン
2015年度
2015 年 1 月 13 日
ストラテジー
「ヘッジファンド」vs「GPIF&BOJ」
(グラフ 13)
売りに転じた米系証券の
TOPIX 先物ロングポジション
御馴染み魑魅魍魎の動きはどうか?欧州系 A 証券は、昨年 11/17 時
点で、日経先物+15,368 枚・TOPIX 先物+19,926 枚で計+35,294 枚の
大ロングであった。ところが 12 月メジャーSQ を転機として、直近 1/8 時点
では、日経先物▲24,288 枚・TOPIX 先物▲12,941 枚で計▲37,229 枚で、
ドテン大ショートに転じている。1/6 に日経平均は 525 円安となったが、同
日に A 証券は日経先物を▲5,420 枚の大幅売り越しであった。原油急落
以降、180 度スタンスを転換していることが分かる。また、米系 B 証券は、
12/30 の大納会時点で TOPIX 先物を+104,476 枚の大幅買い越しだった
が、1/6~8 の 3 日間で▲8,743 枚のショートである(グラフ 13)。背後にいる
のは CTA(商品投資顧問)、マクロ系ヘッジファンドと言われているが、彼ら
の売りが新春波乱の直接的要因であることは間違いない。その瞬発力は脅
威である。しかし、本邦の主たる買い手は GPIF(最大の公的年金)と BOJ
(日本銀行)だ。帝国陸軍伝統の持久戦となれば、公的日本軍優勢と見る。
原油動向や欧州のデフレでブレる局面はなお想定されるが、うまくすれば
ヘッジファンドを慌てさせる局面が現出するかもしれない。「波乱は収益の
母」だ。
(枚)
米系証券のTOPIX先物ポジション
(P)
1,600
250,000
(出所)AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
1447
(12/8)
200,000
1,500
1,400
1276
(5/22)
TOPIX(右)
1,300
150,000
1177
(10/17)
日銀
追加緩和
(10/31)
1,200
1,100
100,000
1,000
900
50,000
800
700
米系証券先物ポジション
(TOPIX:左)
0
2013/1
2013/8
2013/4
2013/11
2014/2
藤戸 則弘
投資情報部長
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015011334M)
11
2014/6
2014/9
2015/1
600
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