著名ヘッジファンドも苦戦するボラタイルな展開

藤戸レポート
著名ヘッジファンドも苦戦するボラタイルな展開
2015 年 1 月 19 日
著名ヘッジファンドが苦戦した
2014 年は、生き馬の目を抜くヘッジファンドにとっても容易な年ではなか
2014 年
った。本来、ボラティリティはヘッジファンドにとって収益源のはずだが、あま
りの急変動で、運用パフォーマンスを悪化させたものが少なくない。株式相
場だけではなく、トレジャリー(米国債)の金利が景気回復にもかかわらず、
ここまで低下するとは想定していなかったファンドが多かったようだ(グラフ
1)。エマージング市場やコモディティ相場の混乱も、ヘッジファンドにとって
はマイナスになった模様だ。ポールソン・ファンドは、リーマン・ブラザーズ破
綻の大混乱の中で、巨額のショートによって莫大な利益を挙げたことで知ら
れている(一説には約 150 億ドルとも言われる)。足下では、ポールソン・フ
ァンドの運用資産額は約 190 億ドルとされているが、旗艦ファンドである「ア
ドバンテージ・プラス・ファンド」の 2014 年の年間パフォーマンスは▲36%に
なったと報道されている。同ファンドは、「イベント・ドリブン」の代表だが、12
月にはエネルギー関連の損失も出たとのことだ。同じく、リーマンショック時の
金融株のシビアな分析で名を挙げたメレデス・ホイットニー氏も、ヘッジファ
ンド「アメリカン・リバイバル・ファンド」を立ち上げたが、運用開始 1 年余りで
パフォーマンスが悪化した。今や、出資者であるブルークレスト・キャピタル・
マネジメントから 4,600 万ドルの資金返還を求めて提訴される事態となって
いる。日本株のデリバティブ投資でも有名なブレバン・ハワード・アセット・マ
ネジメントも、旗艦ファンドである「ブレバン・ハワード・マスター・ファンド」の
(グラフ 1)
ヘッジファンドを困惑させた
米長期金利の低下
(%)
米国10年国債利回りの推移
3.200
FRBが
QE3終了発表
(10/29)
3.000
2.800
2.6529%
(9/19)
2.600
2.400
米10年国債利回り
2.200
2.000
FRBが
テーパリング
開始
(2014/1~)
1.800
1.8622%
(10/15)
1.6966%
1.7005%
(1/15)
(1/16)
1.600
(出所)BloombergのデータよりMUMSS作成
1.400
2014/1
2014/2
2014/4
2014/6
2014/7
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015011933M)
2014/9
2014/11
2015/1
2015 年 1 月 19 日
ストラテジー
年間パフォーマンスが▲0.8%と、2003 年の運用開始以来、初めてのマイナ
スに転落している。2011 年には+12.2%を挙げていただけに、昨年の不振
が際立っていると言えよう。同ファンドの運用スタイルは、マクロ経済のトレン
ドに連動して投資するもので、一般に「グローバル・マクロ」と呼ばれている
が、世界景気が回復と鈍化の間で変転したことがパフォーマンスの劣化に
繋がったものと思われる。運用委託者は成績の悪化には厳しく、昨年 9 月
末には約 360 億ドルの運用資産があったが、3 ヵ月で約 90 億ドル減少した
とのことだ。ドイツ銀行のクレジット部門の責任者であったワインシュタイン氏
の設立した「サバ・キャピタル・マネジメント」の主力ファンドも、2014 年のパ
フォーマンスが▲11%に落ち込んでいる。つまり、様々な運用スタイルにもか
かわらず、成績悪化に苦しんだヘッジファンドが増加した 2014 年と言うこと
ができるだろう。ヘッジファンドではないが、ビル・グロス氏が PIMCO を事実
上解任されるなど、著名ファンドマネージャーにとっては受難の年だった。
優秀な成績を挙げたマネージド・
有名ヘッジファンドの不振が話題になる中で、優秀な成績をマークしたの
フューチャーズ
がマネージド・フューチャーズである。クレディスイスの運用スタイル別パフォ
ーマンス比較では、昨年 11 月までの通算パフォーマンスで+16.4%を叩き
出している。ヘッジファンドの平均は+4.1%であり、大幅なオーバー・パフォ
ームを達成しているわけだ。しかも、11 月単月のパフォーマンスが+7.5%と
出色の出来であった。米国、日本を始めとするブル相場にうまく乗ったもの
と思われる。マン・グループのルーク・エリス CEO(最高経営責任者)は、「機
械による運用は、人による運用よりも高パフォーマンスを上げるだろう」とシス
テム運用に自信を示している。マン・グループの株価は、一時旗艦ファンド
AHL の不振・運用資産減少もあって、2012 年 7 月には 61.1 ペンスまで売
り込まれていた。ところが、パフォーマンスの回復と共に運用資産増に転じ、
株価も今年 1/5 には高値 166.4 ペンスまで 2.7 倍化している (グラフ 2)。
(グラフ 2)
ヘッジファンドの株価が急騰
マン・グループの株価推移
(ペンス)
(%)
180
166.4(1/5)
160
152.8
(3/2)
136.0
(5/24)
140
2.7倍
マン・グループ
120
100
80
60
61.1
(7/6)
40
2012/1
2012/6
(出所)BloombergのデータよりMUMSS作成
2012/12
2013/5
2013/11
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015011933M)
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2014/4
2014/10
2015 年 1 月 19 日
ストラテジー
サウジの石油戦略は年単位を視
2015 年は、原油価格を始めとするコモディティ価格の急落が続き、うまく
野に置く
相場に対処できたか否かによって、一段とヘッジファンドのパフォーマンス
格差が拡大することになろう。比較的運用規模な小さなファンドの中には、
ファンドクローズや破綻に至るものが出る恐れもある。WTI 原油先物価格
は、1/13 安値 1 バレル=44.2 ドルまで売り込まれたが、さすがにショート・
カバーも入り、1/14 には一時 48 ドル台にまで回復する局面があった。翌
15 日には 5 ドル幅の乱高下をするなど依然不安定な状況だが、一方的な
下落局面がやや変容しつつあるのかもしれない。ただし、今回の価格急落
の背景にサウジアラビアの石油戦略があることを考えると、甘い見通しを抱
くことはできない。コモディティ投資家は、「もう、そろそろ」と期待を露わにし
ているが、過去のサウジの石油戦略の変転を見ると、少なくとも「年単位」を
視野に置いている。サウジが「価格維持策」から「市場シェア重視策」にスイ
ッチした場合には、少なくとも数年間は基本戦略が変わらないと見るべきで
あろう。米シェール・オイルとシーア派の宿敵イランを締め上げることが目的
と考えれば、数ヵ月単位で基本戦略がブレるはずがない。過去を見ても、サ
ウジが 1985 年 10 月に原油増産とネットバック価格(市場原理による価格決
定)導入に踏み切り、WTI 原油先物価格は 1985 年 11 月高値 1 バレル=
31.8 ドルから 86 年 4 月安値 9.9 ドルまで暴落する局面があった。その後、
非 OPEC(石油輸出国機構)に対する協調減産の呼びかけや原油価格の
固定相場制への復帰といった変更はあったものの、WTI 原油先物価格は
10 ドル前半から 25 ドル程度の往来に終始した。湾岸戦争があった 1990 年
には瞬間 40 ドルに達する局面もあったが、まさに「タッチ&ゴー」で低水準
のレンジに回帰してしまった。WTI 原油先物価格が 85 年サウジ増産前の
価格を奪回したのは、実に 2000 年に入ってからのことであった(グラフ 3)。
(グラフ 3)
1985 年末以降
原油価格が長期低迷
(ドル/バレル)
原油先物(WTI)の株価推移
60.0
イラクが
クウェート侵攻
<湾岸戦争>
50.0
40.0
41.15
(1990/10)
サウジ
原油増産へ
(1985/10~)
31.82
(1985/11)
ITバブル
(1999-2000)
WTI(原油先物)
30.0
20.0
BRICs
経済成長
10.0
9.95
(1986/4)
(出所)BloombergのデータよりMUMSS作成
0.0
1984
1986
1988
1990
1992
1994
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015011933M)
3
1996
1998
2000
2002
2004
2015 年 1 月 19 日
ストラテジー
リグ稼働数の急減が顕在化
(グラフ 4)
原油価格の下落で
リグの稼働数が急減
EIA(米エネルギー情報局)は、米国の原油生産量見通しを日量 931 万
バレルに下方修正したが、これは 12 月時点の見通しから僅か 1 万バレル
修正したに過ぎない。2014 年は日量 867 万バレルであったことを考えると、
順調な拡大傾向に変わりはない。シェール・オイル業者にしても、価格の下
落はあっても運転資金確保のためには一段と生産に努めるはずである。一
般にシェールの油田は、採掘後半年でピークを迎え、油田の大小にもよる
が 1 年半から 2 年で産油量が逓減するとされている。つまり、既存のシェー
ル油田が枯渇する前に、次の新油田を掘削する必要があるわけだ。1 バレ
ル=40 ドル台の価格が採算に合わないと見て、リグ(掘削装置)を稼働させ
なければ、ようやく将来的な生産量低下に繋がることになる。石油サービス
会社ベーカーヒューズが 1/9 に発表したリグ稼働数を見ると、前週比▲61
基の 1,421 基と 5 週連続の減少だ(グラフ 4)。減少数は 24 年ぶりの大きさ
である。ようやく、サウジの狙いの予兆が出た段階であり、これからが価格下
落効果を反映することになる。こうした事情を考慮すると、トレンドはなお下と
見るべきであろう。もちろん、目先的な投機トレードによってリバウンドもあり
得ようが、新たな反騰トレンドを形成するのは難しい。おそらく今年の原油
価格は、「下落→小康状態→自律反発→下落」のパターンが続くものと見る
べきであろう。「小康状態」の期間が、比較的長いものと極めて短期間の場
合が想定され、自律反発も限定的と覚悟した方が良い。したがって、原油
価格低迷による「リスク・オフ・モード」は、定期的に訪れると考えるのが妥当
であろう。
(台)
(バレル/ドル)
リグ稼働数と原油先物(WTI)価格推移
140
2,200
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
112.24
(2013/8)
120
2,000
100
1,800
80
WTI(原油先物)
60
1,600
40
リグ稼働台数(左)
1,400
20
1,200
2012/1
オーバー・ショートの感も
2012/5
2012/10
2013/3
2013/7
2013/12
2014/4
2014/9
0
1/14 には、軟化していた銅先物価格が一段安となり、投資家の不安心
理を拡大する局面があった。銅は、典型的な景気敏感アセットであり、景況
感によって強弱が決定される。最大の需要国であった中国の鈍化で既に軟
調なトレンドにあったが、12 月の米小売売上高が予想外の落ち込みを見せ
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015011933M)
4
2015 年 1 月 19 日
ストラテジー
たことも、売りに拍車が掛かったものと思われる(グラフ 5)。LME(ロンドン金
属取引所)の銅先物価格は、一時 1 メトリックトン=5,353 ドルまで売り込ま
れた。2011 年 2 月高値 10,190 ドルからは半値近い下落である。ただし、
CFTC(米商品先物取引委員会)が発表しているヘッジファンドの銅先物ポ
ジションを見ると、WTI 原油先物とはやや様相が異なっている。銅先物のポ
ジションは、既に 1/6 時点で▲41,265 枚と、統計開始の 1993 年以来最大
の売り越しである。WTI 先物は思惑的な買いも入って、なお 1/6 時点で 26
万枚以上の買い越しだが、銅先物はさらに売り浴びせたことになる。どうも、
やや「やり過ぎ」、オーバー・ショートの感が強い(グラフ 6)。確かに、米小売
売上高はネガティブ・サプライズであったが、このシーズンの季節調整はクリ
スマス休暇が入ることもあって、どうしても変動が大きくなる。同日に NRF(全
米小売業協会)から発表されたクリスマス商戦(11~12 月)の結果は、前年
比+4.0%と事前予想の+4.1%に近い良好な数値であった。前年が+3.1%、
過去 10 年が+2.9%という状況から見ても、強い消費と言っても過言ではな
い。消費者信頼感指数がリーマンショック前のレベルに回復し、雇用も改善
傾向が明瞭なことを合わせて考えると、12 月の小売売上高はやや歪な数値
との解釈も可能であろう。「ガソリン価格の下落にもかかわらず消費が弱い」
と見るのは、やや短絡的と思われる。少なくとも、1 月以降の統計を見て解
釈すべきであろう。
(グラフ 5)
12 月の米小売売上高
予想外の落ち込み
(%)
米小売売上高の推移(前月比・前年同月比)
4.00
(%)
12.00
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
10.00
3.00
8.00
米小売売上高
(前年同月比・右)
2.00
6.00
4.00
1.00
2.00
0.00
-1.00
-2.00
2010/1
0.00
米小売売上高
(前月比・左)
(2.00)
▲0.90%
(2014/12)
(4.00)
(6.00)
2011/1
2012/1
2013/1
2014/1
2015/1
日本株においても、主たるヘッジファンドはショートに傾斜している。欧州
主力ヘッジファンドは日本株ショ
系 A 証券は、昨年 12 月メジャーSQ を転機として、3 万枚超のロングから逆
ートに傾斜
に▲3 万枚超にドテン売り越した。足下ではショート・カバーと売り乗せが日
によって交錯しているが、1/15 時点では、なお日経先物▲14,570 枚・
TOPIX 先物▲18,257 枚の売り越しである。米系 B 証券も、大納会時点の
TOPIX 先物の 10 万枚を超える大ロングから、粛々と売り続けている(グラフ
7)。TOPIX 先物の買い残高は+91,708 枚に減少しているが、同社は日経
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015011933M)
5
2015 年 1 月 19 日
ストラテジー
(グラフ 6)
オーバー・ショートの感が強い
ファンド筋の銅先物ポジション
(グラフ 7)
売り越しに転じた
米系証券の TOPIX 先物
(枚)
米系証券のTOPIX先物ポジション
(P)
250,000
1,600
(出所)AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
1447
(12/8)
200,000
1,500
1,400
1276
(5/22)
TOPIX(右)
1,300
150,000
1177
(10/17)
日銀
追加緩和
(10/31)
1,200
1,100
100,000
1,000
900
50,000
800
700
米系証券先物ポジション
(TOPIX:左)
0
2013/1
2013/4
2013/8
2013/11
2014/2
2014/6
2014/9
2015/1
600
先物でも▲15,180 枚に売りを積み上げている。ネット・ベースでは+76,528
枚までロング・ポジションがシュリンクした。欧州系 C 証券は、普段と比較す
ると動きが鈍いが、それでも日経先物▲1,352 枚・TOPIX 先物▲18,044 枚
の売り越しだ。日本株で手口が目立つヘッジファンドは、明らかにバイアス
がショートに傾斜している。そこに、単発的に米系 D 証券(1/13 に日経先
物▲2,043 枚・TOPIX 先物▲1,062 枚)や E 証券(1/14 日経先物▲2,720
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015011933M)
6
2015 年 1 月 19 日
ストラテジー
枚)の売りが乗って、日経平均を 16,000 円台に押し込んだのが実態と思わ
れる。外国人投資家は、昨年 10 月前半の 3 週間で▲3 兆 518 億円(現物
+株式先物)の売り越し、原油の急落が顕著になった 12 月中旬にも 2 週間
で▲1 兆 8,942 億円の売り越しを見せた(グラフ 8)。日経平均は 10 月に 9
月高値から 1,845 円安、12 月にも 12/8 高値から 1,358 円安となる局面が
あったが、1 月第 1 週も▲1 兆 2,135 億円の売り越しだ。原油急落に端を
発したリスク・オフ・モードでは、デリバティブの介在で下落が加速する傾向
にある。現物株投資が主体であった昔とは、明らかにスピード感が異なって
いる。短期的には、急激な下げでテクニカル・ポイントをブレークされることも
あり得よう。
(グラフ 8)
外国人投資家の大口売りで
日経平均が急落
(億円)
日経平均と外国人投資家動向(現物+先物)
(円)
円)
60,000
20,000
(出所)AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
50,000
15,627
(5/22)
17935
(12/8)
16291
(12/30)
16,000
40,000
日経平均
(右メモリ)
30,000
14532
(10/17)
14,000
12,000
12,445
(6/13)
20,000
18,000
10,000
10,000
8,000
0
-10,000
-20,000
2012/4
買い向かう日本公的連合軍
6,000
外国人投資家売買動向
(現物・先物計:左メモリ)
2012/8
2013/1
2013/5
4,000
2013/10
2014/3
2014/7
2014/12
2,000
これに対して、日銀は今年の ETF(上場投信)買い枠 3 兆円を粛々とこ
なしている。1/5 に 374 億円買った後も、6、13、14 日に各 341 億円の買い
を実施した。信託銀行(年金勘定)も、下落局面では、昨年 10 月前半や 12
月中旬と同様に買い向かっている可能性が高い。GPIF(年金積立金管理
運用独立行政法人)は、大幅安となった引け後に買い購入を決断し、証券
数社に幾らの手数料でバスケット買いを実施できるかをサウンドする。そし
て、最も安い手数料を提示する会社に「仕切り商い(買い決め)」を実施させ
る傾向がある。即ち、日銀は前場動向によって後場から買い出動となるケ
ースが多いが、GPIF 等の年金基金は、大幅安の翌日寄付きから買いが実
施されるパターンが多い。あくまでも推測にすぎないが、日経平均が 525 円
安となった 1/6 の翌日に、ダウ工業株 30 種平均が 130 ドル安と続落した
にもかかわらず、日経平均が 2 円高となったのは GPIF 等の年金買い出動
を示唆するものと思われる。1/14 に日経平均が 291 円安となり、ダウも 186
ドル安の続落になったにもかかわらず、1/15 の日経平均が 312 円高となっ
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015011933M)
7
2015 年 1 月 19 日
ストラテジー
たのも、同様な買い発動が原因と推理できよう。つまり、年金の買い出動を
想定した買いのテクニックとしては、大幅安の当日か、それが無理なら翌日
寄付きで実施するのが望ましい。昨年の日本株で、最大の買い手は信託
銀行(年金勘定)の 2 兆 7,848 億円だった(表 1)。今年も大いなる買い手と
して期待が持てるが、彼らの売買手法に精通しておくべきであろう。
(表 1)
2014 年は信託銀行が
最大の買い手に
●投資部門別株式売買状況
区
分 年月
11年
12年
13年
14年
7月
月 8月
間 9月
動 10月
向 11月
12月
11月3週
11月4週
週 12月1週
間 12月2週
動 12月3週
向 12月4週
12月5週
1月1週
1月1週
売買シェア
年
間
(億円)
外国人
法人
(海外
金融機関
投資家) 生損保 都・地銀 信託銀
19,725 -5,757
-815
7,890
28,264 -6,978 -1,182 -10,193
151,196 -10,751 -2,830 -39,664
8,527 -5,038 -1,290 27,848
4,976
-320
136
889
-3,925
-274
-17
1,900
5,952
-731
-224
791
-3,774
-16
112
7,598
12,586
-693
-307
2,302
1,976
-230
-317
6,039
1,318
-151
63
919
-1,107
-141
54
2,211
3,852
-93
-142
1,593
1,595
-109
35
1,919
-3,629
-58
57
1,767
364
-60
-201
890
-206
91
-65
-130
-4,349
1
-24
688
67.9%
0.2%
0.1%
個人
事法
投信
信用
現金
6,174
3,804
6,297
11,018
1,102
971
-1,256
1,041
2,926
2,109
722
356
422
1,054
861
-245
17
671
-1,386
460
4,267
-2,105
-1,067
83
-3,045
2,101
-2,089
2,014
-259
502
913
306
912
-176
59
559
10,497 -10,438
5,774 -24,886
29,774 -117,282
13,189 -49,512
791
-6,692
2,227
-2,115
-384
-6,939
2,168
-789
611 -20,448
3,524
-5,483
1,113
-2,579
556
-2,492
599
-3,598
1,874
979
632
391
137
-3,140
284
-115
1,739
3,096
2.8%
0.9%
1.7%
15.8%
9.0%
(出所)東証のデータをもとに、MUMSS作成
バリュエーション的には魅力的な
当然、年金基金は日経平均や TOPIX の絶対水準をターゲットにしてい
水準
るわけではない。彼らがベースにしているのは、バリュエーションである。基
本は TOPIX ベースだが、分かり易いように日経平均ベースで見てみよう。
証券各社のアナリスト・コンセンサスでは、日経平均の予想 EPS(一株当り
利益)、及び妥当株価は、
① 2014 年度@1,103 円。1,103 円×15.3 倍(リーマンショック後の平均
予想 PER )=16,876 円。
② 2015 年度@1,229 円。1,229 円×15.3 倍=18,804 円。
である。足下でヘッジファンドの売りが重なって調整色が強まっても、押
し戻す動きがあるのは、このバリュエーション面の割安感から公的マネーの
買いが入るためだ(表 2・グラフ 9)。視点を先に移行させて、2015 年度の
EPS1,229 円を使えば、さらに割安感が台頭する。例えば、1/14 引値
16,795 円÷1,229 円=13.6 倍となる。米 S&P500 種指数の予想 PER が
16.3 倍、ダウ工業株 30 種平均が 15.4 倍であることを見ても(1/15 時点)、
相対的な割安感は魅力的である。年後半には、原油価格下落メリットと円安
傾向の継続で、一段と企業業績の上方修正が期待できる見通しだ。中長
期投資では、日経平均の予想 PER13 倍台は極めて妙味がある。おそらく
主力ヘッジファンドは、日本株が調整色を強めると公的マネーの買いを呼
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015011933M)
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2015 年 1 月 19 日
ストラテジー
(表 2)
2015 年度の増益基調続く
日本企業
リーマンショック後の平均PERで評価した日経平均の妥当レンジ
変動
範囲
予想
PER
σ:1.74
(倍)
期待高い
+1σ
2010年度以降
の平均評価
期待低い
マーケット
期待度の変化
2013年度
2015年度
2014年度
3月末
中間決算後
コンセンサス予想
コンセンサス予想
予想EPS
増益率 +3.4%
1020円
1055円
+8.1%
1103円
+11.4%
1229円
17.0
17,340
17,935
18,751
20,893
±0
15.3
15,606
16,142
16,876
18,804
-1σ
13.6
13,872
14,348
15,001
16,714
※業績変化(当期利益)に対応するEPSは2013年度末予想EPSからの変化率。
(出所)AstraManager、QUICKコンセンサスのデータをもとにMUMSS作成
日経平均の予想PERと企業の収益モメンタム
20000
(円)
18000
日経平均
16000
東日本大震災
(グラフ 9)
予想 PER がリーマンショック後の
平均(PER15.3 倍)に接近
14000
12000
追加緩和
バレンタイン
緩和
消費増税
先送り
異次元
緩和
10000
アベノミクス
8000
20
(倍)
リーマンショック後
2010年度以降の
平均PER(15.3倍)
日経平均の予想PER
18
+1σ(17.0倍)
16
14
-1σ(13.6倍)
12
10
各年度の当期利益会社予想変遷
24
23.7
(日経平均採用銘柄合計、兆円)
20
16.5
16
12
11.2
12.9
14.2
13.9
11.8
11.4
18.0
19.7
11.7
20.2
20.3
+2.4%
+3.4%
21.3
+8.1%
+11.4%
11.9
8.7
8
4
期初 中間 着地 期初 中間 着地 期初 中間 着地 期初 中間 着地 期初 中間 コンセン
2010年度
2011年度
2012年度
2013年度
2014年度
コンセン
2015年度
※「コンセン」はコンセンサス予想利益の単純集計値、%数字は前年度比利益変化率。
(出所)AstraManager、QUICKコンセンサスのデータをもとにMUMSS作成
び込むことを計算しているだろう。したがって深追いはせず、適宜買戻しを
交えることになろう。「売っても下がりにくい」状況になれば、ショート・ポジシ
ョンを維持し続けるのは危険だ。もし、原油価格が小康状態となり、下落が
続く米国株が切り返しに転じれば、踏み上げリスクが拡大しよう。1/22 の
ECB(欧州中銀)理事会、1/27~28 の FOMC(米公開市場委員会)がマー
ケットに好感される内容であれば、日本株に大規模なショート・カバーが起
こっても不思議ではない。
原油安の「二面性」がもたらす荒
れ相場
1/15 の原油相場は大荒れだった。1/16 の朝刊を見ると、「原油 50 ドル
回復」との見出しが躍っていたが、WTI 原油先物の引値は 1 バレル=46.2
ドルだった。紙媒体のネックがもろに出た形だ。ザラ場の高値は 51.2 ドル、
安値 46.0 ドルという振幅の大きさだ。OPEC の需要見通し下方修正を材料
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015011933M)
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2015 年 1 月 19 日
ストラテジー
にした動きだが、要は投機マネーが思惑的な売買を繰り返しているに過ぎ
ない。既述のように、原油価格のトレンドは低迷が長期化すると見るべきであ
ろう。つまり、「原油安=株安=債券高」のリスク・オフ・モードは、定期的に
襲ってくる。しかし、一方では、この原油安メリットが日本経済に神風となり、
企業業績の上振れに寄与することもほほ確実である。先週号で指摘したよ
うに、原油安は、短期の投機マネー・フローによる株安と、中長期的なファン
ダメンタルズの改善をもたらす「二面性」を有している(グラフ 10)。この「二面
性」こそが、世界的な荒れ相場の根源である。したがって、短期的に見た場
合には、なお各アセット共にボラタイルな展開が続くことを余儀なくされよう。
しかし、中期的に見た場合には、景気が浮揚感を強め、企業収益が上方修
正となれば、株価に追い風となるのは自明の理である。この前提に立脚す
れば、採るべきスタンスは明瞭だ。ヘッジファンドが売り浴びせてくる局面で
買い向かえば良い。決して高値は追わず、GPIF と同様に徹底した逆張りで
対処すれば、気温の上昇と共にパフォーマンスが好転して行くことになろ
う。この局面での禁じ手は、「上がって強気・下がって弱気」になることだ。
(グラフ 10)
原油安が
日本経済の恩恵に
(%)
日本経済への影響(原油価格30%下落時)
1.56
1.6
1年目
2年目
3年目
1.2
0.8
0.4
0.57
0.51 0.51
0.33
0.24
(%)
日本経済への影響(円が20%下落時)
1.6
1.35
0.81
0.71
0.8
1年目
2年目
3年目
1.16
1.2
0.76
0.86
0.78
0.56 0.52
0.44
0.32
0.14
0.17
0.4
0.38
0.14
0.00
0
0.2
0.18
0.32
0.44
0.24
0.36
0.06
0
-0.20
-0.4
実質GDP
-0.4
設備投資 単位時間 民間消費
当り賃金 デフレーター
(出所)内閣府 短期日本経済マクロ計量モデルをもとにMUMSS作成
主力株を時間分散しながら買い
下がる
消費
実質GDP
消費
設備投資 単位時間 民間消費
当り賃金 デフレーター
足下の相場では、海外環境の不透明感から、内需・ディフェンシブ銘柄
の好調さが目立っている。昨年来高値更新銘柄では、食品、薬品、トイレタ
リー、電鉄、建設等が目立っている。インバウンド(訪日外国人需要)関連と
して、セクターを横断して買われる傾向も顕著だ。OLC が上場来高値を更
新すると同時に、筆頭株主でもある京成電鉄が高値を採るのは象徴的だ。
花王、ユニチャームや武田薬品、小野薬品、明治 HD、グリコ、日ハムとい
った代表的なディフェンシブ銘柄も強い動きを継続している(グラフ 11)。目
先は不透明感から、こうした銘柄に逃避資金が集中するのも分かる。しか
し、視点を先に据えれば、調整局面にある自動車、電機等の好展望銘柄を
逆張りで拾うのも有効であろう。トヨタ、富士重工、ブリヂストンや村田製作
所、日本電産、FA 関連のキーエンスやオムロン等も魅力的だ。こうした調
整局面では奇を衒う必要はなく、代表的な主力株をターゲットにすれば良
い。時間分散をしながら段階的に買い下がって行くべきであろう。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015011933M)
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2015 年 1 月 19 日
ストラテジー
(グラフ 11)
昨年来高値を更新する
インバウンド関連
ディフェンシブ関連
(円)
(円)
ディフェンシブ銘柄の株価推移
5,600
32,000
(出所)AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
30,000
5,400
28,000
OLC(4661・右)
5,200
26,000
武田薬品
(4502・左)
5,000
24,000
22,000
4,800
20,000
4,600
18,000
4,400
16,000
(1/16時点)
4,200
資源国から先進国へ巨大な所得
移転
(グラフ 12)
原油安・金融緩和を追い風とした
1980 年代の「大相場」
4/1
5/8
6/11
7/15
8/19
9/24
10/29
12/4
1986 年当時の原油急落が、何をもたらすのかを理解している人は少な
かったように思う(グラフ 12)。当時、私はファンドマネージャーだったが、やが
て訪れる大相場を予見することはできなかった。ただし、86 年の春から、大
型株が異常な上昇を見せ始めて、歴史的な上げ相場に移行することを実
感することができた。今は、「原油安」、「ディスインフレ&デフレ」の進行に動
揺した投機マネーが、不安定な相場を演出している。しかし、今年後半には、
資源国から先進国へ巨大な所得移転が起こることが判明し、大きなポジティ
ブ要因と解釈されることになろう。ポイントは、年前半の荒れ相場で、いかに
手堅く安値でロングポジションを形成するかにある。新聞や雑誌では、日経
平均の年間安値 17,000 円という年初の威勢の良さが消え、妙にグルーミ
ーな記事が多い。それ故にこそ、まさに買い向かうべき局面と考える。
(円ドル)
日経平均と為替・原油・政策金利
300
プラザ合意
(1985/9/22)
ルーブル合意
(1987/2/22)
(円)
26646
(1987/10)
30,000
26,000
250
22,000
18936
(1986/8)
ブラック
マンデー
(1987/10)
200
日経平均(右)
150
4.00
2.00
1985/4
10,000
<日銀利下げ>
①・・・1986/1/30
②・・・1986/3/10
③・・・1986/4/21
④・・・1986/11/1
⑤・・・1987/2/23
100
5.00
3.00
18,000
14,000
12589
(1985/11)
(%)
藤戸 則弘
投資情報部長
14,000
1/14
(ドル/バレル)
6,000
35.0
原油先物
(WTI・右)
30.0
25.0
20.0
サウジ増産へ
(1985/10)
1985/8
1985/11
公定歩合(左)
1986/3
1986/7
1986/11
1987/3
1987/7
1987/11
15.0
10.0
5.0
(出所)Bloomberg、日銀のデータをもとにMUMSS作成
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