日経平均 2 万円到達のメカニズム

藤戸レポート
日経平均 2 万円到達のメカニズム
2015 年 4 月 13 日
「日本株バブル説」の真贋
メディア各社の記者からの質問で、最近多くなっているものをまとめてみ
よう。この問いに対する答えから、足下の相場の様相が浮かび上がってく
る。
① 「株高傾向が続いているが、バブルではないのか?」
どうもエコノミストの一部から、「日本株バブル説」が流れているようだ。確
かに足下の経済統計では、依然芳しくないものが少なくない。特に、昨年 4
月の消費税率引き上げ以来、個人消費関係の統計は冴えないものが並ん
でいる。総務省の全世帯家計調査で、実質消費支出は 4 月から延々と前
年比マイナスが続いている(グラフ 1)。一般消費者に身近なスーパー、コンビ
ニの売上高も、同様にマイナスが継続している。全国百貨店売上高は 2 月
統計でようやく+1.1%と 11 か月ぶりに浮上したが、訪日外国人の「爆買い」
が史上最高の 150 億円超となったことが寄与しているようだ。逆に言えば、
日本人の消費マインドは停滞から抜け出せていない。鉱工業生産も、国内
自動車販売・生産が低迷しており、2 月統計では前月比▲3.4%だった。業
種別にみると、汎用・生産用・業務用機械工業、輸送機械工業、電子部品・
デバイス工業等が低下している。製造工業生産予測調査でも 3 月が▲
2.0%で、回復は 4 月以降の見込みだ。この冴えない統計と株高には違和感
がある。
(グラフ 1)
前年比マイナスが続く
実質消費支出
(%)
実質消費支出と百貨店売上高(前年同月比)
(%)
30.0
15.0
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
全国百貨店
売上高(左)
20.0
10.0
実質消費支出(右)
10.0
5.0
百貨店
+1.1%
(2015/2)
0.0
0.0
-10.0
-5.0
実質消費支出
▲2.9%
(2015/2)
-20.0
2008
2009
2010
2011
2012
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015041334M)
2013
2014
2015
-10.0
2015 年 4 月 13 日
ストラテジー
決してバブル相場ではない
(グラフ 2)
センチメント指数の改善が
株高要因に
こうした統計に比べて、センチメント指数は改善傾向を辿っている。景気
ウォッチャー調査(街角景気)は、庶民の景況感を端的に表すが、実体経
済とのタイム・ラグが最も少ない統計だ。特に、先行き判断 DI は株価との相
関性が高い指数として知られている。3 月の先行き判断 DI は 53.4 と、昨年
11 月の 44.0 でボトムアウトした後に、4 ヵ月連続で改善傾向を示している。
景況判断の分岐点は 50 であり、先行きの改善期待が強いことを示唆して
いる。このパターンは、自民党が衆院選挙に大勝し、アベノミクスが発動さ
れた 2012 年 12 月以降と同様である(グラフ 2)。つまり、「足下の冴えない実
体経済」よりも、「先行きの期待」が凌駕した株高と言うことができよう。この期
待の背景には、ベア実現・賞与アップによる消費性向の高まり、消費税率
引き上げのネガティブ効果剥落、企業業績の拡大、インバウンド(訪日外国
人需要)、等々があろう。エコノミストからすれば、「実体よりも期待に依拠した
株高=バブル」との見方なのだろう。しかし、日経平均の予想 PER は 4/9 時
点で 17.7 倍(QUICK データ)であり、バブルと呼ぶには遠い。2015 年度の
予想 PER(アナリスト・コンセンサスで 15~20%増益)では約 15 倍程度にま
で低下する。バブルの明確な定義はないが、日経平均が 38,915 円をマーク
した 1989 年の平成バブル時には、予想 PER で約 70 倍まで買い上げられ
る局面があった。2000 年の IT バブルでは、大活躍した銘柄群に赤字企業
が多数含まれていた。それらに比較すれば、日経平均 17 倍台でバブルと呼
ぶのは、明らかに妥当性を欠いている。もう一つは、「相場の熱狂」が極まっ
ていない点だ。近くは 2013 年 5 月の相場を思い出してもらえば良い。2013
年 5 月の東証一部の 1 日当たり売買代金は 3 兆 5,785 億円の大商いで、
5/23 には 5 兆 8,376 億円を示現していた。バブルと呼ぶためには、それを
遥かに上回る猛烈な商いと主力銘柄の高騰が併存しなければならない(グラ
フ 3)。今年の東証一部売買代金で 3 兆円超は、SQ を除くと 2/27 の一回の
みだ。つまり、割安感は消失しつつあるが、決してバブル相場ではない。
日経平均と個人・企業の景況感
(円)
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
21000
日銀
異次元緩和
(2013/4)
19000
15627
(2013/5)
17000
日銀
追加緩和
(2014/10)
16291
(2013/12)
15000
13000
バレンタイン
緩和
(2012/2)
日経平均
消費税増税
(2014/4)
11000
19937
(2015/4)
ECB量的
緩和発表
(2015/1)
3月から実施
9000
7000
10.0
60.0
5.0
50.0
0.0
大企業
全産業
-5.0
-10.0
-15.0
2012
Ⅰ
BSI(左)
街角景気
先行きDI(右)
2013
2014
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015041334M)
2
40.0
Ⅱ
2015
30.0
2015 年 4 月 13 日
ストラテジー
(グラフ 3)
SQ を除くと 3 兆円に満たない
東証一部売買代金
日経平均と東証1部売買金額の推移
(億円)
(円)
140,000
20006
(4/10)
(出所) AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
22,000
20,000
120,000
16320
(12/30)
15942
(5/23)
100,000
18,000
16,000
14,000
日経平均
(右メモリ)
80,000
12,000
60,000
10,000
8,000
東証1部売買金額
(左メモリ)
40,000
6,000
20,000
4,000
0
2012/1
特段の材料がなくても上昇する
「グローバル金融相場」
2012/6
2012/11
2013/4
2013/9
2014/2
2014/7
2014/12
2,000
② 「特段の材料がない日でも日経平均はスルスルと上がるが?」
上げ材料が見当たらないにもかかわらず、株価が上昇して記事が書きに
くい、とこぼす記者は少なくない。例えば、4/7 の米株市場では、ダウ工業
株 30 種平均が 5 ドル安、ナスダック総合指数も▲7 だったが、それを受け
た日本では日経平均が 242 円高となった。為替は若干円安方向に振れた
が、それで 200 円以上の上昇とは思えないとの声が多かった。朝起きると、
米国市場の動向から日本株相場を占うのは、投資家の標準的な行動パタ
ーンである。しかし、日本株と米株は以前ほど強い相関を示さなくなってい
る。日本株の変動要因として浮上しているのは、欧州株の騰落だ。例えば、
4/7 は独 DAX 指数+1.3%、仏 CAC 指数+1.5%、伊 MIB 指数+1.7%と軒
並み高だった。やはり、今回の 1/16 安値 16,592 円からの上昇相場は、
ECB(欧州中銀)の量的緩和政策が最大の要因である。年初来パフォーマ
ンスを見ると、主要国の中では、独+24.0%、仏+21.9%、伊+25.2%といず
れも 20%を超える良好なパフォーマンスだ。ユーロ圏では、ポルトガル PSI20 指数の+31.8%も目を引く。これと双璧なのが、上海総合指数の+22.3%
である。この先頭集団に次ぐ形で、日経平均が+14.2%と後を追っている。
これに対して、米ダウ工業株 30 種平均は+0.7%、ナスダック総合指数でも
+5.0%に過ぎない(4/9 時点。ブルームバーグ・データ。為替考慮なし)(グラ
フ 4)。明白な事実は、欧州、中国、日本の各中銀が緩和政策を継続、ある
いは一段と強化する方向にあることだ。「次の一手が利上げ」の米国とは、
大きなパフォーマンス格差が付き始めているのは事実なのだ。これこそが、
「グローバル金融相場」の実態である。したがって、日本株単独の上昇では
ないことがポイントである。金融緩和国の同時株高と看做さなければならな
い。金融相場の本質は需給相場である。欧州株の上昇でリスク許容度が高
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015041334M)
3
2015 年 4 月 13 日
ストラテジー
(グラフ 4)
欧州市場がリードする
2015 年の株価指数
株価指数のパフォーマンス(2014年末~4/9)
31.8
PSI-20
25.2
MIB指数(伊)
24.0
DAX(独)
22.3
上海総合
21.9
CAC40(仏)
14.2
日経平均
5.0
ナスダック総合
*PSI-20はポルトガル
0.7
NYダウ
-5.0
0.0
(出所)BloombergのデータよりMUMSS作成
5.0
10.0
15.0
20.0
25.0
30.0
(%)
まった投資家が、日本市場にもマネーを振り向ければ、特段の材料がない
中でも株価はスルスルと上がって行くことになる。4 月 3 日と 7 日に、国内
証券 2 社の株式投信設定が約 1,700 億円あったことも需給面の押し上げ
要因であり、4/10 のオプション SQ に向けた思惑的な売買も株高には寄与
したことだろう。しかし、「グローバル金融相場」の継続が、株価上昇の最大
要因である。
4/30 追加緩和説は「兵力の逐次
投入」か
③ 「日銀追加緩和の有無。実施するとすればそのタイミングは?」
一部では、4/30追加緩和策が喧伝されている。英調査会社の一部では、
「4/30追加緩和で日経平均21,000円・円/ドル相場140円」との「大胆予想」
を出しているところもある。何やら「星占い」のレベルに近い気もするが、足下
の実体経済や、消費増税の影響分を控除した消費者物価(除く生鮮・前年
比)がゼロ%に沈んでいることを見れば、あり得るとのロジックは成り立つだろ
う。日銀の黒田総裁は、「シナリオと実勢との乖離が生じれば、躊躇なく政策
発動を行う」と表明していることも事実だ。しかし、一方では、帝国陸軍伝統
の「兵力の逐次投入」はしないとも述べている。2013年4月の「異次元緩和」
から、昨年10月の追加緩和までは約1年半であった。半年でさらなる追加緩
和は、「兵力の逐次投入」に該当するのか否か。しかも、昨秋の追加緩和で
拡大したETF(上場投信)の買入れ枠3兆円は、なお2兆1,572億円残ってい
る(4/6時点)(グラフ5)。さらなる枠の拡大は「屋上屋を架す」感が強い。
私見では 10 月追加緩和
「追加緩和」という四文字熟語は、一人歩きしている感が強い。実際、今
以上の追加となると、何を行うのだろうか。年 80 兆円のマネタリー・ベースの
拡大を 100 兆円超にするのか。あるいは流動性の低下が危惧されている国
債市場で、現行の 80 兆円の長期債買入れ枠を、さらに拡大するのだろうか
(表 1)。買入れ対象長期国債のデュレーションを 7~10 年から、一段と長期
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4
2015 年 4 月 13 日
ストラテジー
(グラフ 5)
ETF の購入余力が残る
日本銀行
(億円)
110,000
(円)
日銀ETF購入と日経平均
6兆8000億円
(2015年末)
(出所)AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
100,000
22,000
19937
(4/9)
20,000
90,000
量的・質的
金融緩和
第1弾
(2013/4)
80,000
70,000
60,000
16291
(12/30)
15627
(5/22)
18,000
2015年
年間 3兆円
日経平均(右メモリ)
量的・質的
金融緩和第2弾
(2014/10)
50,000
8,000
7946億円購入
2015年以降
日銀ETF購入額
(左メモリ)
(表 1)
限界に近づく日銀の緩和手段
4兆6428億円
(4/6時点)
2014年
年間 1兆円
10,000
2011/7
2012/1
2012/7
2013/1
14,000
10,000
8534(12/10)
30,000
0
2011/1
16,000
12,000
40,000
20,000
24,000
2013/7
2014/1
2014/7
2015/1
6,000
4,000
2,000
0
2015/7 2015/12
【日銀のマネタリーベースの目標とバランスシートの見通し】
(単位:兆円)
見通し
12年末
(実績)
13年末
(実績)
14年末
(見通し)
これまでの年間増
加ペース
マネタリーベース
138
202
275
60-70兆円
(バランスシート内訳)
長期国債
平均残存期間
CP等
社債等
ETF
J-REIT
貸し出し支援基金
89
n.a.
2.1
2.9
1.5
0.11
3.3
142
3年弱
2.2
3.2
2.5
0.14
13
200
7年程度
2.2
3.2
3.8
0.18
18
50兆円
資産計
158
224
297
87
47
90
107
93
177
銀行券
当座預金
1兆円
約300億円
今後の年間増加
ペース
約80兆円
約80兆円
7-10年程度
残高維持
残高維持
約3兆円
約900億円
(出所)日銀のデータをもとにMUMSS作成
化するのか。J-REIT(不動産投信)は流動性から見ても、これ以上日銀がロ
ットを増やすことは困難である。新機軸を打ち出さないとしたならば、やはり
力点は ETF の買入れ枠増大になるものと思われる。例えば、ETF の買入
れが進行して、残枠が数千億にシュリンクした時点では、年 5 兆~6 兆円
(日銀はインパクトのある増枠を志向しているようだ)の増枠はあり得よう。「池
の中の鯨」の感は否定できないが、ETF は新たに組成することが可能であ
る。現在、日銀は ETF を 1 日当たり約 350~360 億円単位で、株式相場が
前日比下落時に買入れを実行している。1~3 月期の買い入れ実績は
7,229 億円であり、単純に 3 倍すれば 9 月末時点で残枠は 8,313 億円とな
る。株式市場から追加緩和の時期を見る限り、もし追加緩和があるとすれば、
10 月の展望レポート発表のタイミングと見るのが、最も妥当性があるようだ。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015041334M)
5
2015 年 4 月 13 日
ストラテジー
個人は押し目買い・戻り売り姿勢
を堅持
④ 「個人の長期投資の買いは増えているのか?」
幾度か指摘したが、株式需給は断片的な情報ではなく、東証発表の投資
主体者別売買動向で確認しなければならない。年初から、「NISA」や個人投
資家の動きに触れている記事が少なくない。いずれも、1,694 兆円の膨大な
個人金融資産が動き出したというポジティブな内容だ(昨年 12 月末時点。
日銀「資金循環勘定」及び投信協会のデータ)。しかし、東証データにおい
て、個人(現金)は調整色が濃かった 1 月相場で 879 億円の買い越しだっ
たが、2 月▲1 兆 4,166 億円、3 月▲4,072 億円の売り越しだ。個人(信用)
は短期売買が主であり、需給を左右する存在とはなり得ない。相場の振幅
を拡大する機能を持つ投資主体である。つまり、個人投資家は、新規の買
いを行う人も登場しているが、既存の株主が相場上昇局面で利益確定売り
を行っているのが実態だ。投信はどうか。直近の相場でも、大型の新規設定
が株価にインパクトを与える局面もあった。しかし、東証データでは、1 月 432
億円の買い越し、2 月▲1,120 億円、3 月▲1,255 億円の売り越しだ(表 2)。
4/3 には、日本株投信の新規設定(1,062 億円)があったが、この日を含め
た 3/30~4/3 の週で、投信は僅か 53 億円の買い越しだった。つまり、新規
投信の設定はあったが、それに匹敵する既存投信の売りがあったのだ。過去
4 年間の投信売買動向を見ると、2011 年▲1,386 億円、12 年 460 億円、13
年 4,267 億円、14 年▲2,105 億円とマチマチの展開だ。アベノミクス相場全
盛期であった 2013 年の買いがやや目立つが、相場の帰趨を握るような投
資主体ではない。メディアの記事では、「個人が買っている」とか、「投信が
主役になる」とのフレーズを良く目にする。そりゃ鈴木さんや佐藤さんは買っ
ているかもしれない。しかし、山田さんや渡辺さんは売っている事実を投資
主体者別売買動向が明らかにしている。やはり、個人投資家が需給面で重
みを持つ投資主体になるためには、一段の税制面の拡充が望まれるところ
だ。非課税枠のさらなる増額、減税期間の恒常化、損益通算等、利便性を
向上させた対応が必要となろう。現時点での改革は、まだ途上である。
(表 2)
2 月以降、売り越しに転じた
個人投資家(現金)
●投資部門別株式売買状況
区
分
年月
11年
年 12年
間 13年
14年
10月
月 11月
間 12月
動
1月
向
2月
3月
2月2週
2月3週
週 2月4週
間 3月1週
動 3月2週
向 3月3週
3月4週
4月1週
4月1週
売買シェア
外国人
(海外
投資家)
19,725
28,264
151,196
8,527
-3,774
12,586
1,976
-8,932
2,015
5,306
158
1,538
2,682
2,100
3,062
1,334
-1,191
4,454
生損保
-5,757
-6,978
-10,751
-5,038
-16
-693
-230
-323
-822
-1,043
-70
-365
-395
-273
-176
-176
-419
-225
69.1%
0.2%
(億円)
法人
金融機関
都・地銀 信託銀
-815
7,890
-1,182 -10,193
-2,830 -39,664
-1,290
27,848
112
7,598
-307
2,302
-317
6,039
180
5,262
2,809
-275
-157
-1,226
-97
1,123
-241
434
-80
599
-45
-34
181
-355
-81
-1,346
-211
509
-655
-1,194
0.3%
投信
信用
6,174
3,804
6,297
11,018
1,041
2,926
2,109
1,619
631
-8
38
-179
-233
287
141
-261
-175
-300
-1,386
460
4,267
-2,105
2,101
-2,089
2,014
432
-1,120
-1,255
-431
-110
-243
-234
-316
-212
-493
53
10,497 -10,438
5,774 -24,886
29,774 -117,282
13,189 -49,512
2,168
-789
611 -20,448
3,524
-5,483
2,643
879
-2,363 -14,166
3,009
-4,072
-666
-3,337
-993
-5,699
-502
-3,962
544
-1,712
669
-2,089
804
-709
992
438
-374
-2,556
現金
3.6%
0.7%
2.6%
13.6%
8.3%
(出所)東証のデータをもとに、MUMSS作成
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6
個人
事法
2015 年 4 月 13 日
ストラテジー
日経平均上昇の三要素
世界的な過剰流動性相場
⑤ 「日経平均は一時 2 万円の大台に達したが、その背景は?」
重複する部分もあるが、改めて整理してみよう。最大の要因は、ECB の
量的緩和策に端を発した世界的な過剰流動性相場である(グラフ 6)。ECB
で年間 7,200 億ユーロ(約 93 兆円)、日銀の 80 兆円と合わせると、170 兆
円超のマネーがバラ撒かれていることになる。これに中国、インド、インドネ
シア、トルコ、豪州、スウェーデン等々、多くの各国中銀が競うように緩和政
策を発動している。米国の「次の一手」は利上げだが、FRB のバランス・シ
ートは依然約 4.5 兆ドルに膨張したままだ。リーマンショック前のボトムから
は、5 倍化した状況を維持している。イエレン議長が言うように、政策が「な
お緩和的」であることは間違いない。各国中銀は、実体経済の回復、デフ
レ・ディスインフレの是正を主眼としているが、マネーに色はついていない。
実体経済に投入される以外に、膨れ上がったマネーが株式を始めとするリ
スク・アセットに奔流となって注ぎ込まれている。加えて、日銀には追加緩和
の可能性もある。株式市場や REIT 市場に直接介入する世界でも稀有な緩
和策だけに、さらなる発動となればインパクトは大きい。
(グラフ 6)
量的金融緩和に
踏み切った ECB
ファンダメンタルズの改善期待
第二には、景気・企業業績の浮揚期待である。原油価格の急落が象徴
的だが、広汎なコモディティ価格が下落している。原材料を輸入し、それを
加工して輸出するビジネスモデルの輸出関連企業にとっては、大きな追い
風となる。円/ドル相場も、1 ドル=120 円前後の円安水準で安定している
(グラフ 7)。昨年 4 月の消費増税の悪影響が剥落し、小売等の内需企業に
も回復感が台頭している。加えて、法人税減税等の政策対応を考えれば、
投資家の期待が膨らむのも理解できよう。年後半には、ファンダメンタルズ
の改善を伴った本格相場のシナリオを描くこともできよう。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015041334M)
7
2015 年 4 月 13 日
ストラテジー
(グラフ 7)
円安と原油価格下落が
日本経済の追い風に
(円/ドル)
(ドル/バレル)
原油先物(WTI)と円ドルの推移
125
120
110
120
100
原油先物(WTI・右)
90
115
80
110
70
60
円ドル(左)
105
50
40
100
30
(出所)BloombergのデータよりMUMSS作成
95
2014/1
2014/4
2014/7
2014/10
2015/1
2015/4
20
下値は公的マネー・上値は外国
第三には、需給要因である。日銀は、相場が下落すれば ETF の買入れ
人の好需給
を粛々と実施している。GPIF を始めとする公的年金の買いは、TOPIX のバ
リュエーションが 18 倍を超えてから影を潜めたが、調整局面では大きなサ
ポート役となるのは確実である(グラフ 8)。つまり、下値は公的マネーが支え
る「官製相場」のシステムが構築されているのだ。上値の買い手は、母国市
場の上昇で投資意欲が向上した外国人が担っている。ただし、3 月の外国
人投資家は、現物株式+5,306 億円・株式先物▲5,195 億円で、ほぼイー
ブンだった。早期に買いスタンスをとったヘッジファンドが利益確定売りを行
い、日本株の組入れに出遅れたロング・オンリーが慌てて買い向かった二
重構造には注意する必要があろう(表 3)。4 月第 1 週の外国人は、現物株
式+4,454 億円と買い増したが、株式先物は▲108 億円だった。日々の売
買手口を見ても、中期的にポジションを傾けるヘッジファンドの動きは目立
っていない。相変わらず欧州系 A 証券の HFT(高速・高頻度取引)は唸り
を上げて大ロットの売買を繰り返しているが、ヘッジファンドは相場動向を慎
重に見極めているとの印象が強い。以上の三要素が、日経平均 2 万円のメ
カニズムである。概して言えば、膨大なマネーの力と先行きの期待感を反
映した上昇相場である。これに、ファンダメンタルズの改善が期待どおりに
実現すれば、「鬼に金棒」となろう。需給面の鍵は、やはり外国人投資家
だ。特に、相場巧者のヘッジファンドの動きには注意が必要である。現状で
は、彼らは膨大なロング・ポジションを維持しているが、一部では利喰いも出
始めている。もし、調整局面を迎えるとしたら、彼らの本格的なアンワインド
(巻き戻し)である。
「期待と現実のギャップ」に注意
⑥ 「今後の株価見通しは?」
日経平均が 2 万円を超えた時のメディア、政治家の大騒ぎを見ると、期
待感は極限にまで膨らんでいる。兜町軍楽隊の強気の喇叭も、一段と大音
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015041334M)
8
2015 年 4 月 13 日
ストラテジー
(グラフ 8)
下値を支える年金資金
(億円)
日経平均と信託銀行動向
(円)
14,000
19937
(4/9)
(出所) AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
12,000
10,000
16,000
8,000
日経平均
(右メモリ)
6,000
20,000
18,000
16,291
(12/30)
15,627
(5/22)
22,000
14,000
12,000
14,445
(6/13)
4,000
10,000
2,000
8,000
0
6,000
-2,000
4,000
信託銀行売買動向
(現物・先物計:左メモリ)
-4,000
2,000
-6,000
2012/4
(表 3)
現物買い、先物売りとなった
3 月の外国人投資家
2012/8
2013/1
2013/5
2013/10
2014/3
2014/7
2014/12
●外国人投資家(現物・先物計)
月/週
2月2週
2月3週
2月4週
3月1週
3月2週
3月3週
3月4週
4月1週
先物
日経
JPX
小計
TOPIX
平均
日経
【a】
1,795 3,577
72 5,445
2,802 6,330
103 9,236
2,571 2,717
-41 5,246
-953 -384
46 -1,291
-1,072
883
121
-69
-2,068
778
85 -1,204
120 -1,259
46 -1,093
-712 -124
125
-711
0
(億円)
ミニ先物
日経
TOPIX
平均
1,974
14
510
43
-507
-2
273
-7
146 -11
-896 -55
-934 -54
596
7
小計
【b】
1,988
553
-509
267
135
-950
-989
603
先物
合計
【a+b】
7,433
9,789
4,738
-1,025
67
-2,155
-2,082
-108
現物・先物合計
現物
【c】
【a+c】
【a+b+c】
158
1,538
2,682
2,100
3,062
1,334
-1,191
4,454
5,603
10,774
7,929
809
2,993
130
-2,284
3,743
7,591
11,327
7,420
1,076
3,129
-821
-3,273
4,346
(出所)東証、大証のデータをもとに、MUMSS作成
響を奏でている。ところが、企業経営者の景況感は、日銀短観の大企業・
製造業 DI が、「12 月 12→3 月 12→6 月 10」であり(グラフ 9)、法人企業景
気予測調査の大企業・全産業の BSI も「10~12 月期 5.0→1~3 月期 1.9
→4~6 月期 1.0」というカーブを描いている。6 月に向けて、ボトムを形成す
る見通しなのだ。その慎重な見通しの中で、4 月末から決算シーズンを迎え
る。2015 年度の証券各社のアナリスト・コンセンサスは、日経平均構成銘柄
ベースで約 15%~20%増益である。ところが、日銀短観の大企業・全産業ベ
ースでは▲1.0%、法人企業景気予測調査も全産業・経常利益ベースで
0.5%の微増益だ(表 4)。このギャップは大きい。元来、日本の経営者は期
初に慎重見通しを出し、期中に上方修正というパターンを好む傾向がある。
株式市場は、既に 2 割増益を前提に走り始めているが、4 月末からの決算
では、企業サイドの「保守的見通し」が続出する可能性もある。例年 5 月は
荒れ相場となるが、「期待と現実のギャップ」が調整のトリガーとなることも頭
に置くべきであろう。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015041334M)
9
2015 年 4 月 13 日
ストラテジー
(グラフ 9)
2015 年度
慎重予想の日銀短観
(表 4)
法人企業景気予測調査
2015 年度は 0.5%増益予想
経常利益見通し(法人企業景気予測調査)
業態
2014年度
上期
下期
(%)
2015年度
通期
上期
下期
通期
製造業
5.8
5.2
5.5
▲ 1.8
8.3
3.4
非製造業
5.6
▲ 9.0
▲ 1.9
▲ 3.4
1.8
▲ 0.7
全産業
5.6
▲ 4.7
0.3
▲ 2.9
3.6
0.5
(出所)内閣府の資料をもとに MUMSS 作成
もう一点、株価指数全体の割高感はそれほど出ていないが、業種や個
「バリュエーション?そんなの関
別銘柄のバリュエーションを見ると、過熱感サインが点灯しているものが少
係ない」
なくない。幾度か触れたが、食品・薬品株はオーバー・シュート気味である。
予想 PER が 50 倍を超える企業がゾロゾロ輩出している。米国食品株は、コ
カコーラで 20.7 倍、マクドナルド 19.6 倍、ケロッグ 18.1 倍、食肉のタイソン
フーズ 11.2 倍である。薬品株も、メルク 16.9 倍、ファイザー16.8 倍、ジョン
ソン&ジョンソン 16.3 倍だ(4/9 時点。ブルームバーグ・データ)。食品、薬
品株は、景気循環の影響を受けにくいこと、相場調整時にダウンサイド・リス
クが限定的なことから、ディフェンシブ・セクターと呼ばれる。しかし、日本の
食品・薬品株は、ディフェンシブどころか極めてアグレッシブな動きを続けて
いる。もし、相場全般が軟化する局面があれば、IT 株のようなシャープな下
落を招くリスクもあろう。小売株も、インバウンド効果に加えて、昨年消費増
税で痛めつけられた反動もあって大きく上昇している。ミツコシイセタンの株
価は、1/14 安値 1,460 円から 4/10 高値 2,265 円まで+55%の上昇だ(グラ
フ 10)。同様に、J フロントも+48.7%である。アパレルでも、日経平均 2 万円
到達の立役者となったファーストリテイリングは、42.2 倍にまで買い上げられ
ている(グラフ 11)。ライバルの H&M は 26.4 倍、ZARA を傘下に持つインド
ゥストリア 33.0 倍、ギャップ 15.1 倍、アバクロ 22.2 倍だ(同)。株屋流にいえ
ば、「バリュエーションなんか関係ない。勢いだ、買いだ!」ということになる
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015041334M)
10
2015 年 4 月 13 日
ストラテジー
「勢いだ、買いだ!」相場の死角
(グラフ 10)
1 月以降、短期急騰を
演じた百貨店株
のだろう。確かに足下では御高説のとおりだが、私のファンドマネージャー
時代の経験で、最もヤラレたのは、バリュエーションを全く無視した買いだっ
た。好パフォーマンスの裏で、相場が転換した場合に傷口が深くなるリスク
を留意しよう。
5~6 月に調整となるのか否かは分からない。金融相場の本質は需給相
場であり、「行くところまで行く」のかもしれない。しかし、ファンダメンタルズ
の改善を伴った本格相場の前に、いったん調整となることも想定しておくべ
きであろう。年末の日経平均は 21,000 円程度を想定しているが、「勢いだ、
買いだ!」の相場は、鋭角的な調整を挟むことを忘れないようにしたい。
百貨店株の株価推移
(円)
2,400
2,200
ミツコシイセタン
(3099)
2,000
1,800
1,600
Jフロント
(3086)
1,400
1,200
(出所)AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
1,000
(グラフ 11)
予想 PER40 倍台で推移する
ファーストリテイリング
10/1
10/28
11/25
(倍)
12/19
1/21
2/17
3/13
ファーストリテイリング(9983)の推移
4/8
(円)
90.0
55,000
(出所) AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
50650
(4/10)
80.0
50,000
46325
(1/9)
45,000
70.0
60.0
40,000
ファーストリテイリング
(9983・右)
49.4
(4/9)
50.0
藤戸 則弘
投資情報部長
30.0
10/1
42.2
(4/10)
予想PER(左)
40.0
10/28
11/25
12/19
1/21
2/17
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015041334M)
11
3/13
4/8
35,000
30,000
25,000
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があります。
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