「モメンタム・ストックの復活」が示唆するもの

藤戸レポート
「モメンタム・ストックの復活」が示唆するもの
2014 年 7 月 7 日
「ゴープロ」の急騰
(グラフ 1)
米 IPO 株が急騰
「ゴープロ(GoPro)」のカメラを御存知だろうか?一般的には「アクション
カメラ」と呼ばれているジャンルだが、例えばスノーボードの競技者が装着し
ていれば、まさに当人しか味わえない 360 度回転のスペクタクル映像を、容
易に収録することができる。スキーの滑降やカーレース、パラシュート降下
等にも使われるが、防水タイプはスキューバダイビングにも使用可能だ。こ
の衝撃映像を自ら楽しんだり、「ユーチューブ」等に掲載して世界中で共有
できるわけだ。カカクコムの情報では、「ゴープロ」カメラの売れ筋は 25,000
~44,000 円程度で、御手頃な価格だ。カメラと言えば、日本企業の御家芸
だったが、「ゴープロ」は急速に拡大を続けている。
その「ゴープロ」が、6/26 に米NASDAQ市場に上場した(ティッカーは
GPRO)。公開価格は 24 ドルだったが、あれよあれよという間に急騰し、上
場 4 営業日目には高値 49.9 ドルをマークするに至った。早くも「大化け」で
ある。7/2 には、さすがに利益確定売りが出て 42.0 ドル・▲13.8%と押し目を
入れたが、このハイ・ボラティリティこそが投機家を魅了している(グラフ 1)。
日本でも、東証マザーズ等のIPO(新規公開株)では、よくお目にかかる現
象だが、太平洋の彼方でも興奮した投機家の活発な商いが勢いを増して
いるようだ。
(万株)
ゴープロ(GPRO)株価推移
14,000
(ドル)
60.0
(出所) BloombergのデータをもとにMUMSS作成
49.90
(7/1)
12,000
50.0
ゴープロ
(GPRO・右)
10,000
40.0
8,000
30.0
6,000
24.0ドル
(公開価格)
20.0
4,000
出来高(左)
10.0
2,000
0
0.0
6/23
6/25
6/27
7/1
7/3
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35014070731M)
2014 年 7 月 7 日
ストラテジー
モメンタム・ストックの復活
(表 1)
モメンタム株が急反発
「ゴープロ」効果もあったせいか、足下ではモメンタム・ストックと呼ばれる
ハイ・ボラティリティ株が、大幅調整の後に切り返しに転じている。今年 2~3
月に高値をつけた後に急落し、ダウ工業株 30 種平均やS&P500 種指数
も、一時的に上値を抑制される展開になっていた。ところが、モメンタム・スト
ックの中にも、高値を更新する銘柄が出始めている。以下の表を見ていた
だくことにしよう(表 1)。
銘柄名
イルミナ
ネットフリックス
トリップアドバイザー
フェイスブック
プライスライン
アレクションファーマ
テスラ・モーターズ
イェルプ
パンドラ・メディア
スリーディー・システムズ
ツイッター
スプランク
業態 1~3月高値(ドル) その後の安値(ドル)
バイオ
3/4 183.3
4/15 127.6
インターネット 3/6 458.0
4/28 299.5
インターネット 3/10 109.7
4/28 75.1
ネット/SNS 3/11 72.5
4/28 54.6
インターネット 3/7 1,378.9
5/8 1,087.2
バイオ
2/25 185.4
4/15 136.3
電気自動車 2/26 265.0
5/9 177.2
ネット/SNS 3/5 101.7
5/7 49.1
ネット/ラジオ 3/5 40.4
4/28 21.4
3Dプリンター 1/3 97.2
4/29 43.3
ネット/SNS 13年12/26 74.7 5/7 29.5
ソフト
2/28 106.1
6/3 39.3
下落率(%)
▲30.4
▲34.6
▲31.5
▲24.7
▲21.2
▲26.5
▲33.1
▲51.7
▲47.0
▲55.4
▲60.5
▲63.0
直近高値(ドル)
7/2 184.5
7/2 475.8
6/30 111.2
7/1 68.4
5/19 1,292.6
6/6 172.5
6/30 244.4
7/2 82.8
7/2 30.4
7/1 69.5
7/1 42.9
7/2 56.6
復元率(%)
高値更新
高値更新
高値更新
94.3
93.7
93.0
92.2
81.4
75.2
71.5
57.4
53.3
*7/2時点 出所ブルームバーグ
何がモメンタム・ストックかという厳密な定義はない。ただし、大別すると、ネ
ット/SNS関連、バイオ関連等のハイボラ株で、業績の変化率が顕著なものと
の解釈が妥当と思われる。既に、イルミナ、ネットフリックス、トリップアドバイザ
ーは史上最高値を更新している(グラフ 2)。3 月高値の手前で揉み合いが続
き、ダブル・トップとなるリスクもあったが、アナリストの強気レポートが出て、一
気に高値を抜く展開となった。2~3 月高値に対して 9 割以上の復元率
(グラフ 2)
史上最高値を更新した
米モメンタム株
(ドル)
(ドル)
米モメンタム株の株価推移
200
600
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
イルミナ(左)
180
500
160
140
ネットフリックス( 右)
400
120
100
300
80
トリップアドバイザー( 左)
60
12/31
200
1/28
2/24
3/20
4/15
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35014070731M)
2
5/12
6/6
7/2
2014 年 7 月 7 日
ストラテジー
を見せている銘柄もあり、状況によってはモメンタム・ストックが順次高値更
新となる可能性も否定できない。一時の弱気は消え、ブルトーンが隆盛だ。
強弱感は二極化
(グラフ 3)
赤字企業、高 PER 企業は
反発力が鈍い
ただし、モメンタム・ストックの中でも強弱感が二極化しつつある。まず第一
に、株価の調整が大きかったものと比較的軽微なものの格差が明瞭化して
いる。調整幅が 2~3 割程度で抑えられたグループは、株価の復元率が高
い。既に史上最高値を更新している 3 銘柄は、下落がいずれも 3 割台に
留まっている。これに対して、株価が半値以下にまで突っ込んだ下位グル
ープは、その後の回復も緩慢だ。第二に、株価の本格的な調整を受けて、
赤字あるいは高PER銘柄も復元力が鈍い。スプランク、イェルプは赤字であ
り、ツイッターは予想PER888.7 倍、パンドラ・メディアも 178.6 倍だ。とびっき
りの成長ストーリーで、株価上昇局面には赤字や高PERも気にならなかった
が、強烈なボディ・ブローを喰った後は、やはり足下がふらついているようだ
(グラフ 3)。フェイスブックやプライスライン、アレクションファーマをモメンタ
ム・ストックに入れるか否かは議論の分かれるところだが、予想PERは各
46.5 倍、23.7 倍、33.8 倍と比較的低水準である(ブルームバーグ)。9 割以
上の株価復元には、こうした収益面の安心感も加わっていると言えよう。
(ドル)
米モメンタム株の株価推移
140
110
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
100
120
90
イェルプ(右)
100
80
70
80
60
スプランク(左)
60
50
40
40
ツイッター(左)
20
12/31
30
20
1/28
2/24
3/20
4/15
5/12
6/6
7/2
イエレン議長の「御墨付き」でブー
しかし、モメンタム・ストックが浮上した最大の要因は、こうした個別企業
ストアップ
のファンダメンタルズではなく、イエレン FRB(連邦準備制度理事会)議長
の発言と考えている。6/18 の FOMC(公開市場委員会)後の会見で、イエ
レン議長は、「株価のバリュエーション水準が、過去の基準から広範には逸
脱しているとは思えない」と述べ、「株はバブルにあらず」との御墨付きを与
えた。これこそが、「バブル的様相」が強まっていたモメンタム・ストックに最
大の追い風となったのだ。6/18~7/2(11 営業日)の株価騰落を見ると、パ
ンドラ・メディアは 10 勝 1 敗と下落日が 1 日しかない。また、スプランク 9 勝
2 敗、ツイッター8 勝 3 敗、スリーディー・システムズ 8 勝 3 敗と、既述の表
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35014070731M)
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2014 年 7 月 7 日
ストラテジー
5
の下位にある「バブル臭漂う銘柄」ほど、勝率が異様に高い展開となってい
る。これは、まさに「イエレン効果」と呼べよう。投資家の中に「やりすぎに対
する反省」が起こっていた所に、FRB議長の御託宣があったのだ。この事態
に一番泡を喰ったのは、空売り勢である。スリーディー・システムズの場合、
空売り残高は 6/13 時点の 3,396 万株が過去 1 年間のピークだった(グラフ
4)。スプランクも 5/15 のピーク 711 万株からはやや減少したものの、6/13
時点では依然 680 万株と高水準だった。つまり、「FRBには逆らうな」の相
場格言どおりに、投機筋がショート・カバーをかけた可能性が高い。
(グラフ 4)
売方の「踏み上げ」で急騰した
スリーディー・システムズ
(万株)
(ドル)
スリーディー・システムズ株価と信用売残
8,000
110
97.28
(1/3)
100
7,000
90
49.40
(6/5)
6,000
スリーディー
・システムズ
株価(右メモリ)
5,000
80
70
60
50
4,000
3,396
(6/13)
信用売残(左メモリ)
3,000
40
30
20
2,000
10
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
1,000
2013/4
2013/6
2013/8
2013/10
2013/12
2014/2
2014/4
2014/6
0
株価は「適正」なのか
不思議なことに、「株式はバブルにあらず」と述べたイエレンFRB議長
は、「低水準のボラティリティは、レバレッジの過剰な蓄積や満期の延長とい
ったリスクテイク行動を誘発する可能性がある。こうした動きは金融の安定に
とってリスクとなり得る。特に、ハイイールド債の動きは、我々の眼に留まって
いる」と述べ、ハイイールド債を槍玉に挙げた。イエレン議長としては、
S&P500 種指数のバリュエーションが許容範囲との解釈と思われるが、その
S&P500 種の予想PERも 16.7 倍と、「適正」という水準からは徐々に乖離し
つつある(グラフ 5)。いわんや、モメンタム・ストックとなれば、「バブル臭」は
一段と強くなっているはずだ。敢えて株価を適正と判断した背景には、就任
早々の記者会見で、「利上げの時期はTapering(量的緩和政策の段階的縮
小)終了後 6 ヵ月」と口が滑って、市場が動揺した苦い記憶があるのだろう。
株高による資産効果・個人消費の拡大を期待して、「適正」としたものと思わ
れる。
「根拠なき熱狂」
バーナンキ前議長以前の FRB は、必要とあらば株式市場にも警告を発
していた。1996 年 12/5、当時のグリーンスパン FRB 議長は、IT 業界の興隆
に牽引される形で上昇した株価に対して、「根拠なき熱狂」という有名な講
演を行った。1994 年 4 月には安値 3,552 ドルだったダウ工業株 30 種平均
は、1996 年 11 月には高値 6,589 ドルまで上昇した。約 85%の上昇である。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35014070731M)
4
2014 年 7 月 7 日
ストラテジー
5
(グラフ 5)
S&P500 の予想 PER に
警戒感
(倍)
(P)
S&P500と予想PER推移
2,400
35.0
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
1,971
(2014/7)
2,000
1,576
(2007/10)
30.0
1,600
S&P500
株価指数(右)
1,200
25.0
800
666
(2009/3)
20.0
400
16.75倍
(7/3)
0
15.0
平均 15.11倍
(2002年~)
今期予想PER(左)
10.0
2002
-400
-800
2004
2006
2008
2010
2012
2014
この株価高騰の中で、グリーンスパン元FRB議長の「根拠なき熱狂」講演は
スタートしたのだ(正式な演題は「民主主義的な社会における中央銀行の
課題」)。この講演の内容は、グリーンスパン流の晦渋に満ちたもので、読み
進めるだけでもかなりの努力を要する。マーケットには、グリーンスパン流の
長広舌よりも、「根拠なき熱狂」というキャッチ・フレーズだけが迅速に広まり、
ダウは 12/17 安値 6,236 ドルまで▲5.4%の下落となった。しかし、ITバブル
の狂乱相場に拍車が掛かったのは、まさにそこからだった。結局、ダウは
2000 年 1 月高値 11,750 ドルまで駆け上がり、人々がグリーンスパン元議長
の言葉を思い出したのは、ITバブルが破裂してからだった。2002 年 10 月に
は、ダウは安値 7,197 ドルまで下落したが、高値からは▲38.7%の厳しい調
整となった(グラフ 6)。まだダウ採用の大型優良株は相対的には損害軽微だ
ったが、IT関連の花形とされた銘柄は数分の 1 にまで落ちこんで行った。例
えば、シスコシステムズの株価は 2000 年 3 月高値 82.0 ドルから 2002 年
10 月安値 8.1 ドルまで約 10 分の 1、インテルも 2000 年 8 月高値 75.8 ド
ルから 2002 年 10 月安値 12.9 ドルで約 6 分の 1 に沈んだ(グラフ 7)。ITバブ
ル期に上場したNASDAQ銘柄はさらに悲惨で、破綻・上場廃止に追い込ま
れるものが少なくなかった。タイムラグはあったものの、ITバブルの崩壊がグ
リーンスパン元議長の名声を高めることになった。その名声が失墜するの
が、リーマン・ブラザーズ破綻後であることは、「神のみぞ知る」であった。
ハト派議長の政策転換は遅滞
重要なことは、直接金融政策を発動する以前に、FRB 議長が市場に警
告を与えていたという事実である。グリーンスパンの後に就任したバーナン
キ前議長は、リーマン・ショックを克服するために、「ウォールストリートの守
護神」の如き政策と発言を繰り返した。「QE1」から「QE3」に至る量的緩和政
策を始め、深刻な状況に陥っていた企業と家計のバランスシート調整を軽
減するために、株高を企業の設備投資意欲向上と個人の消費マインド改善
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35014070731M)
5
2014 年 7 月 7 日
ストラテジー
5
(グラフ 6)
グリーンスパン議長の
「根拠なき熱狂」発言後も
「バブル相場」が継続
(ドル)
NYダウの推移(月足・1992年~2004年)
14,000
6,124
(2007/10)
11,750
(2000/1)
12,000
10,000
グリーンスパン
FRB議長
「根拠なき熱狂」発言
(1996/12)
8,000
▲38.7%
NYダウ(月足)
7,197
(2002/10)
6,000
4,000
3,552
(1994/4)
2,000
1992
(グラフ 7)
数分の 1 に急落した
IT バブル関連銘柄
1994
(出所)BloombergのデータよりMUMSS作成
1996
(ドル)
1998
2000
2002
2004
(ドル)
米ITバブルの崩壊(2000/1~2002/12)
140
100
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
82.0
(2000/3)
80
120
60
100
75.8
(2008/8)
80
40
シスコシステムズ(右)
20
60
8.1
0
(2002/10)
40
インテル(左)
-20
20
0
2000/1
-40
12.9
(2002/10)
2000/5
2000/10
2001/3
2001/8
2002/1
2002/5
-60
2002/10
の重要なアイテムと認識し、広言もしてきた。端的にいえば、FRB が株高政
策を推進するというかつてなき異常な状況だった。バーナンキ議長は去り、
イエレン議長の就任となったが、イエレン FRB は、「バーナンキの敷いたレ
ールの上を走っている」だけだ。Tapering もそうだし、ウォールストリートを守
る姿勢も同様だ。しかし、バーナンキの遺産で政策決定が可能な時間は、
次第に残り少なくなっている。バーナンキ流の「ウォールストリートの守護神」
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35014070731M)
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2014 年 7 月 7 日
ストラテジー
5
を続ければ、遠からぬ内にバブル的要素は拡大することになろう。日本の
平成バブル、IT バブル、住宅クレジットバブルも同様だが、バブルに近づ
いて行く過程は、最も投資家(投機家)が血沸き肉踊る展開になる。ダウや
S&P500 種のバリュエーションを気にしている間はまだ良いが、必ずモメンタ
ム・ストックの如き「時代の象徴」が台頭してくる。株価が「糸の切れた凧」の
ように上昇する局面が、2~3 月に続いて演じられるとなれば、その反落もま
たシビアな「レ・ミゼラブル」となるリスクが高まろう。バーナンキ時代からハト
派を貫いたイエレン議長の政策方針転換は、必ず遅滞するはずである。
回復軌道に乗った雇用
(グラフ 8)
米非農業部門雇用者数
12 ヶ月平均で+20 万人超に
(前月比)
6 月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が 28.8 万人増、失業率が
6.1%への低下となった。重要なのは、過去 12 ヵ月平均でも約 20.8 万人と、
FRBのターゲットである 20 万人増をクリアしたことだ(グラフ 8)。過去 1 年の間
には、今年 1 月の+14.4 万人や昨年 12 月の+8.4 万人といった低水準の
数値も含まれている。それだけに、雇用増のペースは評価できよう。また、27
週以上の長期失業者の比率も依然高水準ながら、前月の 34.6%から 32.8%
へと低下している。もちろん、労働参加率は 62.8%と 1978 年以来の低水準
だし、広義の失業率(フルタイム労働志向ながらパートタイムを余儀なくされ
ている人、就職難から就職活動をやめた人を含む)は 12.1%と高止まりして
いる(グラフ 9)。特に、6 月はパートタイマーが+79.9 万人、フルタイム労働者
が▲52.3 万人となり、企業経営者が労働コストの低下を志向していることが
鮮明になっている。平均時給も前月比で+0.2%、前年比で+2.0%と緩慢な
上昇に留まっている。つまり、イエレン議長が指摘する、長期失業者、労働参
加率、賃金上昇といった雇用の質的観点では、課題が残されているのは事
実だ。しかし、大きな文脈としては、最大の懸案事項であった雇用が改善トレ
ンドに乗っていることは否定できない。バーナンキ前議長が、緊急事態対応
として実施してきた異例の緩和策から脱却すべき局面が近づいている。
(万人)
(%)
米雇用情勢推移(2000/1~)
80
11.0
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
60
10.0
非農業部門
雇用者数増減(左)
40
20.8万人
<12ヶ月平均>
(2014/6)
20
9.0
8.0
0
7.0
-20
6.0
6.1%
(2014/6)
-40
5.0
-60
失業率(右)
-80
-100
2000
非農業部門
雇用者数増減
(12ヶ月平均・左)
4.0
3.0
2002
2004
2006
2008
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35014070731M)
7
2010
2012
2014
2016
2014 年 7 月 7 日
ストラテジー
5
(グラフ 9)
懸念が残る雇用の質
労働参加率は
1978 年以来の低水準
%
米国の労働参加率(=労働人口/労働可能人口)
70
69
非労働力人口、右軸
労働参加率(=労働人口/労働可能人口、左軸)
14/6
9212.0万
68
67
66
千人
100,000
95,000
90,000
労働参加率:
16~64歳人口に占める
労働人口(=働く意思の
ある人口)の比率
85,000
65
80,000
64
75,000
63
70,000
62
14/6
62.8%
61
非労働力人口:
16歳以上で就業者でもなく、完全失
業者でもない人口(通学、家事、高
齢者、職探しを諦めた等)
60
59
58
65,000
60,000
55,000
50,000
70 72 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14 16
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
タカ派はマイノリティ
リスクラバー向きの投機
日本の小型株にも影響
しかしながら、イエレン議長は、今回の雇用統計に関しても、従来どおり
の「質」の部分を重く見た評価を続ける可能性が高い。ハト派で固められた
FOMC メンバーが、利上げモードに転換するのには、なお相当な時間を要
するものと思われる。FRB の中には、セントルイス連銀のブラード総裁
(FOMC メンバーではない)のように、「多くの投資家の認識よりも、当局は
完全雇用と物価安定の目標に近づいている。利上げ開始の時期は来年 1
~3 月期の終わりと考えている」といったタカ派的認識を持つ人々もいる。し
かし、現時点ではマイノリティであることは否定できない。こうした状況が続
けば、ハト派 FRB の下で、バブルの芽はすくすくと育つことになる。
こう考えれば、米株相場は、なお堅調展開となる可能性が高い。しかも
投機マネーは膨張を続けており、「ゴープロ」の急騰に象徴されるように、リス
クラバーが株価を沸騰させる動きが継続しよう。となれば、モメンタム・ストッ
クで短期勝負という発想が出てくるのも分かる。十分な投資経験を有し、酸
いも甘いも噛み分けた人ならば、リスクテイクすることも可能だ。①既に高値
更新しているトップグループにつく、②株価復元率 8~9 割の次点グループ
を狙う、③株価深押しグループの回復に期待する、といったアプローチが考
えられよう。あくまでも、「俺に弾はあたらない」と思っているベテラン向きの
投機だ。ただし、こうしたモメンタム・ストックは、近づいている決算発表で予
想を下回る内容だった場合には、急落して 3~5 月の調整の再現となるリス
クも十分ある。手返しを速くし、損切りを躊躇しない投機家向けの勝負だ。
オーソドックスな投資家には、もちろんこんな博打はお勧めしない。ただ
し、モメンタム・ストックの動向は相場全体にも影響を与えるので、注意深く見
つめることが重用だ。投機家のマインドを知るアイテムとして、モメンタム・スト
ックをリトマス試験紙のように使うべきであろう。また、モメンタム・ストックの動
向は、日本のマザーズやJASDAQ銘柄にも影響を及ぼす点も留意したい。
マザーズが連続安の後に切り返しに転じたのも、米モメンタム・ストックが反
発に転じてからだ(グラフ 10)。日本の小型株ファンも、注目が必須である。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35014070731M)
8
2014 年 7 月 7 日
ストラテジー
5
(グラフ 10)
日経 JQ 平均が年初来高値に
マザーズ指数も戻りが急
(p)
(p)
新興市場の株価指数推移(2013~)
2,400
1,800
2,187
(1/22)
2,140
(5/14)
2,200
2,189
(7/4)
1,600
1,400
日経JQ平均(左)
2,000
1,200
938
(6/24)
1,800
1,000
800
1,600
600
東証マザーズ指数(右)
1,400
400
(出所)AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
1,200
2013/1
年金は「撃ち方止め!」
(表 2)
信託銀行の買い越し
8 週間でストップ
信託銀行の週間先物
売買差額 < 億円>
月/週
現物
先物
合計
-5 -1,074 -1,079
4月1週
4月2週
343
-639
-296
4月3週
1,206 1,010
-196
4月4週
-103
-391
-495
5月1週
1,502
-150 1,351
5月2週
522
315
837
5月3週
568
307
875
5月4週
1,782
-677 1,105
5月5週
2,499 -1,140 1,360
6月1週
1,113 -1,134
-21
6月2週
892
649
-243
6月3週
787
351
-436
6月4週
-46
-482
-529
*先物は日経 225 および TOPIX 先物の
合計値(ミニ先物は含まず)。
200
2013/4
2013/7
2013/9
2013/12
2014/3
2014/6
5~6 月の日本株相場で、需給面の主役になった信託銀行(年金勘定)
の買いに一巡感が台頭している。東証が発表した投資主体者別売買動向
では、信託銀行(年金勘定)は 5 月+6,873 億円、6 月+2,745 億円と 1 兆
円に迫る買い越しを見せた。しかし、週間動向では 6 月第 4 週に▲46 億
円となり、買い越しは 8 週連続で停止した。第 4 週は、株式先物でも▲529
億円の売り越しで、既にお伝えしたように、3 共済(国家公務員共済・地方
公務員共済・私学共済)の買いは 6 月までに執行されたようだ(表 2)。この
●投資部門別株式売買状況
区
分
年月
10年
年 11年
間 12年
13年
1月
月 2月
間 3月
動 4月
向 5月
6月
5月2週
5月3週
週 5月4週
間 5月5週
動 6月1週
向 6月2週
6月3週
6月4週
6月4週
売買シェア
外国人
法人
(海外
金融機関
投資家) 生損保 都・地銀 信託銀
32,105
-6,317
-2,451
9,629
19,725
-5,757
-815
7,890
28,264
-6,978
-1,182 -10,193
151,196 -10,751
-2,830 -39,664
-11,696
-245
75
-185
-829
-530
69
1,627
-5,807
-1,035
-192
-1,787
4,244
-346
-404
-944
-825
-297
-170
6,873
5,649
-322
-50
2,745
-1,213
33
44
522
907
-63
-115
568
-79
-43
-45
1,782
-119
-190
-7
2,499
2,516
-176
-64
1,113
1,412
-49
29
892
2,534
-70
-10
787
-813
-26
-6
-46
59.2%
0.2%
個人
事法
投信
信用
-2,731
6,174
3,804
6,297
39
1,702
1,390
-438
1,530
-98
182
512
473
326
-11
369
-128
-327
174
-1,386
460
4,267
345
1,277
-509
512
763
-2,489
497
-47
71
400
-996
-224
-387
-883
6,426 -29,197
10,497 -10,438
5,774 -24,886
29,774 -117,282
5,208
9,062
-970
-128
507
1,400
32
-2,732
-842
-4,901
317
-9,748
644
728
194
-691
-804
-1,353
-468
-2,761
-864
-3,516
421
-1,962
-366
-3,041
1,126
-1,229
現金
0.1%
3.8%
1.1%
2.3%
20.1%
10.6%
(出所)左表、上表ともに東証、大証のデータをもとに MUMSS 作成
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35014070731M)
9
(億円)
2014 年 7 月 7 日
ストラテジー
5
変化は相場動向にも表れている。年金マネーの買いは、TOPIXのバスケッ
トで執行されることが多く、6 月までは値上がり銘柄数が異常に多かった。
例えば、6/30 は日経平均が 67 円高だったが値上がり銘柄数は 1,568 に
達した。通常の相場では、1,500 銘柄の上昇となれば、300 円以上の大幅
上昇となるケースが多い。小刻みなバスケット買いの集積が、この異様な値
上がり銘柄数の増大に直結していたものと思われる。ところが、翌 7/1 の日
経平均は 164 円高ながら、値上がり銘柄数は 1,295 に低下し、それ以降も
939、705 と逓減している(グラフ 11)。こうした現象からも、年金マネーの買い
は一服と見ることができよう。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人・運
用資産額約 130 兆円の巨大公的年金)が、いつ本格的なアセット・アロケ
ーション(資産配分比率)変更に動くかは不明だが、いったん年金買いは終
息したものと考えるべきであろう。
(グラフ 11)
6/30 でピークアウトした
東証 1 部の値上がり銘柄数
(円)
日経平均と東証1部値上がり銘柄数
16,000
5,000
(出所)AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
15,490
(7/4)
4,500
15,500
4,000
15,000
3,500
日経平均
(右メモリ)
3,000
14,830
(6/13)
14,500
2,500
(社数)
14,000
2,000
1568
(6/30)
13,964(5/21)
1,500
13,500
1,000
13,000
500
東証1部上昇銘柄数(左)
0
アイフルが君臨する東京市場
12,500
4/1
4/15
4/30
5/16
5/30
6/13
6/27
一方、年金マネーの積極買いに連動するように、デリバティブのショー
ト・カバー、現物株式買いと続いた外国人投資家も、6 月第 4 週には現物
株式▲813 億円、株式先物▲97 億円で、計▲910 億円の売り越しに転じて
いる(表 3)。個人(現金)も▲1,229 億円の売り越しで、「高いところは売る」
姿勢を貫徹しているようだ。この第 4 週の最大の買い手は、個人(信用)+
1,126 億円である。「年金+外国人の連合軍」の買いが圧倒した相場から
は、株式需給が一変している。象徴的なのは、6/30~7/3 まで東証一部の
売買高・売買代金のトップはアイフルの二冠王が続いている。自由主義世
界第 2 位の市場で、アイフルがトップに君臨しているのだ。足下の主役が
個人(信用)であることの、何よりの証左であろう。この需給状況の変化を見
れば、当面の相場が材料株物色の様相が強まるのは避けられない。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35014070731M)
10
2014 年 7 月 7 日
ストラテジー
5
(表 3)
外国人投資家
6 週間ぶりに売り越し
(現物+先物)
●外国人投資家(現物・先物計)
先物
ミニ先物
月/週
東証
小計
小計
日経225
日経225 TOPIX
株価指数 【a】
【b】
-793
-348
-2
-350
5月2週
678 -1,472
5月3週 -1,071 -1,379 -2,450
23
-239
-216
5月4週
878
379 1,257
1,037
9 1,046
5月5週
1,397
772 2,169
588
14
603
6月1週
3,105
1,285 4,390
344
342
-2
6月2週 -1,696
699
19
718
-260 -1,956
6月3週
561
454 1,015
48
53
101
6月4週
792
656
16
-136
-768
-752
(億円)
先物
合計
【a+b】
-1,144
-2,666
2,302
2,772
4,732
-1,238
1,117
-97
現物・先物合計
現物
【c】
【a+c】
【a+b+c】
-1,213
907
-79
-119
2,516
1,412
2,534
-813
-2,006
-1,543
1,177
2,050
6,905
-544
3,550
-158
-2,357
-1,759
2,223
2,652
7,247
174
3,651
-910
(出所)東証、大証のデータをもとに、MUMSS作成
好決算の先回り買い
次にアクションが起こるとすれば、企業決算の発表である。7/3 には、比
較的決算発表が早く(7/23)、業績好調な日本電産の上昇が目立った(グラ
フ 12)。同様に村田製作所や航空電子、日東電工といった電子部品株も堅
調だったが、好決算を先回りするような買いと思われる。内外の機関投資家
に評価される好実態企業であり、一部のファンドは先を見越して動き始めて
いるのかもしれない。ここ 2 ヵ月は、「年金買い」といった需給の話が相場の
主役になっていたが、そろそろ投資家も食傷気味であろう。フレッシュなファ
ンダメンタルズ」の材料を欲しがっているものと思われる。まだ決算発表には
間があるが、時間をかけて好業績株を選択する局面と考える。
トリガーはモメンタム・ストック
好調な米株相場が変調するトリガーとなるのは、再びモメンタム・ストック
の急反落と考えている。多くの投資家がやり過ぎと思い、イエレン FRB でさ
えバブルを否定し難くなった時に、モメンタム・ストックの急落が始まることに
なろう。タイミングとしては秋を想定しているが、前倒しも起こり得るだろう。
(グラフ 12)
好決算期待銘柄の上昇続く
(円)
(円)
好決算期待銘柄の株価推移(2013~)
3,200
11,000
村田製
(6981・左)
10,000
2,800
9,000
航空電子
(6807・右)
8,000
2,400
2,000
7,000
日本電産
(6594・左)
6,000
1,600
5,000
1,200
4,000
800
3,000
藤戸 則弘
投資情報部長
(出所)AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
2,000
2013/1
400
2013/4
2013/7
2013/9
2013/12
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35014070731M)
11
2014/3
2014/6
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せん(金融商品取引法上の情報開示銘柄を除く)。当該外国証券の開示情報は、主要取引所の所在する国の開
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外部評価の変化、金利・為替の変動等により、投資元本を割り込むリスクがあります。
(手数料について)
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代金が193,000円以下の場合は最大2,700円(税込み))。株式は、株価の変動等により、損失が生じるおそれ
があります。
・ 外国株式の売買取引には、現地委託手数料と国内取次手数料の両方がかかります。現地委託手数料等は、その
時々の市場状況、現地情勢等に応じて決定されますので、その金額等をあらかじめ記載することはできません。
詳細はお取引のある部店までお問合せください。国内取次手数料は、約定代金に対して最大0.864%(税込
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