ウクライナ紛争は終息するのか - 三菱UFJ証券

藤戸レポート
ウクライナ紛争は終息するのか
2015 年 2 月 9 日
激化するウクライナ紛争
ロシア隠密部隊が介入か
高まるデフォルト・リスク
「停戦合意」したはずのウクライナの紛争が激化している。国連によると、
今年になってからの死者は約 350 人、昨年 4 月からの累計では 5,350 人
以上が死亡しているとのことだ。ロシア国営放送 RTR は、ドネツク空港の奪
還を目指したウクライナ軍が撃破され、逆に包囲されて降伏を余儀なくされ
ていると報道した。ウクライナ軍は機甲部隊を投入して、東部ウクライナの解
放を目指したが、どうも「親ロシア派」に敗北しつつあるようだ。情報は断片
的だが、ウクライナ軍は旧ソ連時代の T64 戦車や装甲車も多数投入しての
攻勢だった。ところが、「親ロシア派」は機甲部隊も撃破できる武器と練達の
兵員を擁している。ニュース動画を見ると、「親ロシア派」の戦車として T72
の映像が流されており、とても単なるレジスタンスとは思えない。紛争初期の
「親ロシア派」は戦車の装備がなかっただけに、歴史博物館から第 2 次大
戦中の T34 や IS-3 を引っ張り出すドタバタぶりが、動画サイトに掲載され
ていたほどだ。ところが、今やまさに様変わりである。他にも、短距離対空ミ
サイルと機関砲を複合搭載した新型の「パーンツィリ-S1」が目撃されてい
る。ウクライナ軍の航空機やヘリコプターが撃墜されたとの報道が多数ある
が、「パーンツィリ-S1」による可能性が濃厚である。昨年 7 月にマレーシア
航空 17 便を撃墜したのも、「親ロシア派」の「ブーク」ミサイルによるものとウ
クライナ政府は批判している。つまり、「親ロシア派」は、機甲部隊から対空
防御システムも保有する近代的な軍と看做さなければならない。しかも、こう
した武器を機能させるためには十分な補給が必要だが、ウクライナ軍を逆
包囲するほど兵站は充実している。こうした事実から導き出される答えは一
つである。既にロシア軍が正規の軍服を脱いで、東部ウクライナに直接介
入していると見るべきであろう。ウクライナのポロシェンコ大統領は、ダボス
会議で、「ロシアはウクライナ東部に兵士 9,000 名、戦車や装甲車も投入し
ている」と激しく非難した。米国では、ウクライナに武器供与との動きも出て
おり、ウクライナ紛争は一段と激化・長期化する気配が漂っている。
こうした緊迫化する情勢から、ウクライナ国債の信用力を表す CDS(クレ
ジット・デフォルト・スワップ・5 年国債)スプレッドは、2/4 に 2,796 ベーシス・
ポイント(bp)まで急騰している。昨年 9/5 の「ミンスク停戦合意」時には 990
bp だったことを考えると、デフォルト(債務不履行)・リスクは 3 倍近く上昇し
たことになる。同日の CDS ワースト・ランキングを見ると、原油下落で混迷の
ベネズエラ 5,385 bp に次ぐ位置にいる(アルゼンチンはテクニカル・デフォ
ルト状態で省く)。メディア報道が集中しているギリシャが 1,501 bp であるこ
とを考えると、ウクライナの危機的状況が理解できよう(グラフ 1)。ウクライナ
国債の利回りを見ると、1 年債 124.8%、2 年債 48.5%、7 年債 23.3%、残存期
間が最も長い 9 年債で 19.9%と、イールドが完全に逆転している(2/4 時
点)。つまり、短期であればあるほどデフォルト・リスクが高いと投資家に解釈
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015020936M)
2015 年 2 月 9 日
ストラテジー
マーケット分析
されているわけだ。9 年債の利回り推移を見ると、昨年 7 月に 8.3%だった
が、混迷が深まった 12 月以降に急騰モードに移行している。ウクライナの
通貨フリブナも、昨年 2 月高値 1 ドル=8.28 フリブナから 2/5 安値 25.00
フリブナまで急落する局面があった(グラフ 2)。こうした厳しい状況が続き、
放置しておけばデフォルトに陥る可能性が濃厚なため、IMF(国際通貨基
金)はウクライナへの金融支援拡大を協議し始めた。IMF は昨春に約 170
億ドルの金融支援を決定したが、今回は 150 億ドル規模の追加支援が検
討されている模様だ。
(グラフ 1)
3,000bp に接近する
ウクライナの CDS スプレッド
CDSスプレッドの推移
(bp)
7,000
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
6,000
5,000
ベネズエラ国債
CDSスプレッド(5年)
4,000
2796
(2/4)
3,000
2,000
ウクライナ国債
CDSスプレッド(5年)
1,000
0
2014/4
(グラフ 2)
ウクライナの長期金利上昇
通貨は急落
2014/5
2014/7
2014/9
2014/11
2015/1
ウクライナの長期金利と通貨推移
(%)
(フリブナ/ドル)
24.0
4.00
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
6.00
22.0
20.40(2/2)
8.00
20.0
フリブナ
(ウクライナ・右)
18.0
10.00
12.00
16.0
14.00
14.0
16.00
12.0
18.00
20.00
10.0
22.00
8.0
6.0
4.0
2014/1
ウクライナ
9年国債利回り(左)
2014/2
2014/4
2014/6
24.00
25.0(2/5)
2014/8
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015020936M)
2
2014/10
2014/12
2015/1
26.00
28.00
2015 年 2 月 9 日
ストラテジー
マーケット分析
ウクライナ国債の過半を保有する
ところが、ウクライナ支援策は極めて複雑な状況にある。英エコノミスト誌
米投資会社
によると、ウクライナ国債の発行残高約 160 億ドルの内、実に過半の 88 億
ドルを米投資会社が保有しているとのことだ。同社で約 1,900 億ドルの国債
運用を担当しているファンドマネージャーは、新興国のエキゾチック投資が
得意である。マレーシア、メキシコ、韓国はまだ比較的流動性もあるが、ガ
ーナ、イラク、フィリピン、スリランカ、ウルグアイといったディープなエマージ
ング諸国にも大きく投資している。スタンスは徹底した安値拾いで、各国の
デフォルト・リスクが高まった局面で買い出動する。そして、IMF 等の金融支
援が実施されて正常化すれば、大きな利益を確保するというパターンだ。ユ
ーロ危機に際してのアイルランド投資でも成果を挙げており、彼が運用する
中核ファンドは、過去 10 年間で年率 8%をマークしているとのことだ。
したがって、ウクライナ金融支援は、結果的に米投資会社支援という奇
「ウクライナ支援=米投資会社支 妙な性格を持ってしまう。こうした背景を認識している EU(欧州連合)の腰
援=ロシア支援」の複雑な構造
が引けているのとは逆に、何故かオバマ大統領は支援に積極的である。も
う一つは、紛争当事国のロシアが、対ウクライナで巨額の債権を保有してい
ることだ。旧ソ連時代からの濃密な関係を考えれば当然であり、ウクライナ
は天然ガスを始めとするエネルギーの多くをロシアに依存している。つまり、
ウクライナ支援は、米投資会社支援であり、ロシア支援にもなるという複雑な
構造なのだ。EU の中でもロシアに多くの権益を持つドイツや、アルバータ
州にウクライナ移民の多いカナダも支援に積極的など、各国の利害損得も
微妙に絡んできている。こうした錯綜した状況下で、「親ロシア派」がウクライ
ナ東部の実効支配を強めれば、いよいよ各国の「チキン・レース」の様相が
強まることになる。軍事・外交的な側面以外に、ウクライナ問題は極めて難
解な要素を包含している。
好調な欧州株のアキレス腱
ECB(欧州中銀)が、事実上オープンエンドの量的緩和策を発表して以
来、欧州株は堅調が続いている。年初来のパフォーマンス(為替考慮なし)
は、ドイツ DAX 指数+11.2%、フランス CAC 指数+10.0%、イタリア MIB 指
数+9.5%と軒並み好調である。これに対して、S&P500 種指数+0.1%、ナスダ
ック総合指数+0.6%、日経平均+0.3%、TOPIX+0.1%と、日米株は欧州株の
後塵を拝している(2/5 時点)(グラフ 3)。実体経済の状況では、米国が傑出し
た状況にあるのは言うまでもないが、こと株価パフォーマンスでは欧州が突
出した成果を挙げている。やはり、時期はともかくとしても次の一手が利上げ
の米国、昨秋に追加緩和に踏み切った日本に比べて、何と言っても ECB の
追加緩和策は新鮮である。今年になって、利下げ、量的緩和、預金準備率の
引き下げ等、金融緩和に踏み切った主要国は 14 を数える。緩和策が新鮮
であればあるほど、株価に強いインパクトを与えるのは自明の理だ。ドイツ
DAX 構成銘柄の年初来パフォーマンスを見ると、ダイムラー+20.0%、BMW
+18.8%等、日本でも御馴染みの輸出関連株が好調である(グラフ 4)。デフレ
状況にある経済が底打ちし、緩和策によってユーロ安が進行すると見れ
ば、世界に冠たるドイツの自動車メーカーが買われるのは自然であろう。し
かし、もしウクライナ・ロシアのリスクが極限まで高まれば、地理的・歴史的な
関係の深さから、最もダメージを受けるのは欧州株であることは言うまでもな
い。好調欧州株の裏で、ウクライナ問題の推移には細心の注意を要する。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015020936M)
3
2015 年 2 月 9 日
ストラテジー
マーケット分析
(グラフ 3)
際立つ欧州の
株価パフォーマンス
株価指数のパフォーマンス(2014/12末~2015/2/5)
11.2
DAX(独)
10.0
CAC40(仏)
9.5
MIB指数(伊)
0.6
ナスダック総合
日経平均
0.3
TOPIX
0.1
S&P500
0.1
0.0
(グラフ 4)
上値追いとなる独輸出関連株
(自動車株)
(出所)BloombergのデータよりMUMSS作成
2.0
4.0
6.0
8.0
10.0
12.0 (%)
ドイツ自動車株の株価推移
(ユーロ)
120.0
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
106.6(2/4)
110.0
100.0
BMW
90.0
82.7(2/5)
80.0
ダイムラー
70.0
60.0
50.0
2014/1
高まるロシア正規軍の介入リスク
2014/2
2014/4
2014/6
2014/8
2014/10
2014/12
もし、ウクライナのデフォルトが具体性を帯びてくるか、プーチン大統領が
隠密行動をかなぐり捨ててロシア正規軍の大量投入となれば、「リスク・オ
フ・モード」のトリガーとなるのは間違いない。その場合には、欧州だけでな
く、グローバルな波乱相場となろう。昨秋の段階では、まだ極めて限られた
テール・リスク(確率は低いが発生すると非常に巨大な損失をもたらすリス
ク)と見ても良かった。ところが、ウクライナの CDS スプレッドのカーブが示す
ように、リスクは増大しつつある。さらに気になるのは、ロシア国営放送 RTR
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015020936M)
4
2015 年 2 月 9 日
ストラテジー
マーケット分析
メルケル・オランド・プーチン会談
が、毎朝ウクライナ軍の攻撃で路頭に迷うロシア系市民をレポートしている
ことだ(NHK 衛星放送で御覧になれる)。ウクライナ軍の砲撃で粉砕された
アパートや、親族を亡くして嘆き悲しむ人々の姿が、これでもかとばかりに
報じられている。毎朝こうした場面を見せられると、「プーチンなんとかしろ」
という気持ちが自然に膨張してくる。ある意味では見事なメディア・コントロ
ールだ。世界から批判され続けても、プーチン大統領の高支持率は揺るぎ
がない。外圧が高まれば高まるほど、ロシア国民は一致団結して為政者を
支持するのは、歴史的な事実である。
こうしたウクライナの深刻な状況を放置できず、独メルケル首相と仏オラ
ンド大統領が、2/5 からキエフ、モスクワを訪問している。2/6 にはプーチン
大統領と両首脳が協議する予定だが、新たな和平に向かっての合意が実
現できなければ、武力衝突は激化することになろう。ロシアの譲歩がなけれ
ば、米・EU の追加経済制裁発動が濃厚となる。ヘッジファンドが「リスク・オ
フ」ポジションへシフトすれば、日本株も巻き込まれるのは避けられない。日
本では、ギリシャ問題の過剰報道・ウクライナ問題の過小報道が常態化して
いるが、今年の大きなリスクとして意識しておくべきであろう。
世界経済の鈍化を反映し始めた
一方、米国は先進国で傑出した回復モードにあるが、直近発表された
米国の外需
経済統計の中に、世界経済鈍化の影響が顕在化している点には注意が必
要となろう。10~12 月期の実質 GDP 成長率は 2.6%(前期比年率)となった
が、原油・ガソリン価格の下落で個人消費が+4.3%と伸びたことが大きく貢
献していた(グラフ 5)。しかし、設備投資は+1.9%と前期の+8.9%から急低下
している。この傾向は 12 月の製造業受注、耐久財受注の鈍化傾向でも確
認されているが、エネルギー関連の設備投資が急減していることが背景に
ある。オイル・メジャーや鉱山メジャーは、資源価格の下落から相次いで設
備投資抑制を発表している。特にエネルギー開発の中心であったテキサス
(グラフ 5)
個人消費が引っ張る米国経済
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015020936M)
5
2015 年 2 月 9 日
ストラテジー
マーケット分析
の景況感は悪化しており、地区連銀経済報告でもダラス連銀地区の減速が
鮮明になっている。また GDP 統計では、純輸出の寄与度が▲1.02%pt と前
期の+0.78%pt から急低下し、成長率を押し下げる要因になっていたことに
注目すべきであろう。これは、明らかに世界経済の鈍化が米国の輸出減と
なって表れていることを意味する。12 月の貿易収支統計でも、その傾向は
鮮明化しており、輸入が前月比+2.2%の 2,414 億ドルと過去最大になった
のに対し、輸出は同▲0.8%と停滞している。この結果、貿易赤字額は 466
億ドルと前月比+17.1%膨張した(グラフ 6)。さらには、ISM 製造業景況指数
でも、輸出指数が 49.5 と 50 割れに陥った。これは、2012 年 11 月以来のこ
とである。GDP の 7 割を占める個人消費は堅調で、消費者信頼感指数も
高水準で推移している。健全な回復は続いているが、世界経済の鈍化とド
ル高によって外需が鈍化し、成長率が想定よりも軟化する可能性を留意す
べきであろう。
(グラフ 6)
輸入拡大(過去最大)で
米貿易赤字拡大
米国貿易収支の推移
(億ドル)
(億ドル)
2,800
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
1,200
輸入金額(右)
2414
(2014/12)
2,400
2,000
700
1949
(2014/12)
1,600
輸出金額(右)
200
1,200
800
-300
貿易収支(左)
▲466
(2014/12)
-800
0
2000
米企業業績は減益も原油価格の
反転で切り返す
400
2002
2004
2006
2008
2010
2012
2014
2016
マクロ統計に加えて、ミクロの企業業績もパッとしない。トムソン・ロイター
によれば、S&P500 種構成企業の 1~3 月期業績は 2/4 時点で前年比▲
1.4%の減益である。1/1 時点の予想が+5.3%であったことからすれば、かな
りの下振れと言えよう。業種ごとに 1/1 時点の予測と比較してみると、やはり
エネルギーが▲32.2%→▲61.8%と大幅下方修正だが、素材+17.0%→+
0.6%、資本財+11.5%→+6.7%、ハイテク+10.2%→+6.2%といったセクター
も下振れが目立つ(グラフ 7)。人気のネット関連では、アマゾンはここ数期の
不振を脱して株価も好調、ネットフリックス、ツイッターも堅調だが、アリババ・
グループの収益は期待に届かず、株価は昨年 11 月高値 120.0 ドルから
2/5 には 86.1 ドルにまで下落している。日本のソフトバンクの株価が、足下
で冴えない要因の一つでもある。また、「モメンタム・ストック」の性格が強い
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015020936M)
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2015 年 2 月 9 日
ストラテジー
マーケット分析
(グラフ 7)
エネルギー中心に
米企業業績見通しが下方修正に
15/1Qの業種別EPS予想の変化(前年比)
(%)
30.0
20.0
17.0
11.5
10.0
11.1
9.1
10.2
6.2
6.7
0.6
0.0
-10.0
-20.0
-30.0
-32.2
-40.0
-50.0
14/7/1
14/10/1
15/1/1
15/2/4
(出所)トムソン・ロイター資料をもとにMUMSS作成
(備考)最終値は2015/2/4時点
-60.0
-61.8
-70.0
資本財
素材
エネルギー
ハイテク
ヘルスケア
パンドラメディア、イェルプは急落と、個別企業によってマチマチの展開だ。
こうしたマクロ、ミクロを受けて、1 月の米株式は調整色が強かった。ダウ工
業株 30 種平均は、昨年 12/26 高値 18,103 ドルから 1/29 安値 17,136 ド
ルと約 1,000 ドルの調整である。ところが、WTI 原油先物価格が反発に転じ
たことを契機に切り返しに転じ、2/2 からの 4 日間で 720 ドル高と 1 月下落
の相当部分を奪還することになった(グラフ 8)。やはり、原油価格が大きなポ
イントである。
(グラフ 8)
原油先物の反発で
NY ダウも急騰
NYダウと原油先物(WTI)の推移
(ドル/バレル)
(ドル)
120
18,500
17889
(2/5)
110
18,000
100
WTI(原油先物・左)
90
17,500
80
17037
(2/2)
70
60
17,000
16,500
NYダウ(右)
50
16,000
40
(出所)AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
30
2014/4
2014/5
2014/6
2014/8
2014/9
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015020936M)
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2014/11
2014/12
2015/1
15,500
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ストラテジー
マーケット分析
強気と弱気が激しく交錯する原油
相場
(グラフ 9)
リグ稼働数が
3 年ぶりの低水準
WTI 原油先物価格が反発した材料は、ベーカー・ヒューズが 1/30 に発
表したリグ(原油掘削機器)稼働数が 1,223 基と 3 年ぶりの低水準になった
ことだ(グラフ 9)。これが、将来的な需給改善に繋がると見て、ショート・カバ
ーを誘発したものと思われる。WTI 原油先物価格は、1/29 安値 43.5 ドル
から 2/3 高値 54.2 ドルまで急反発する局面があった。ところが、翌 2/4 に
は 47.9 ドルまで突っ込む荒っぽさだ。弱気と強気が激しく交錯して、極め
てボラティリティの高い展開となっている。リグ稼働数の減少はあるが、足下
の原油在庫は膨張の一途である。DOE(米エネルギー省)の週間在庫統計
では、4 億 1,306 万バレルと前週比 633 万バレルの増加で、史上最高を更
新中である(1/30 時点)(グラフ 10)。1/9 からの 4 週間で、原油在庫は実に
3,067 万バレルの急増だ。IEA(国際エネルギー機関)、OPEC(石油輸出国
機構)共に、石油需要を下方修正している状況であり、欧州、中国、新興国
の景気鈍化を勘案すれば、容易には需給は改善しないものと思われる。し
たがって、足下ではヘッジファンドの思惑的な売買で、激しい振幅となって
いるが、本格的な底入れには相当な時間を要すると見るべきであろう。ダウ
構成銘柄には、エクソン・モービル、シェブロンがあり、どうしてもブレが大き
くなってしまう。米株の切り返しは急だが、なお振幅の大きな展開を想定し
ておくべきであろう。
(台)
(バレル/ドル)
リグ稼働数と原油先物(WTI)価格推移
1,800
140
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
1,600
120
WTI(原油先物)
1,400
100
1223
(1/30)
1,200
1,000
80
60
リグ稼働台数(左)
800
600
2011/1
米株の引け際 1 時間の動きが日
本株の方向性を決定
40
2011/8
2012/3
2012/9
2013/4
2013/11
2014/6
2015/1
20
日経平均は米株のブレを反映して、200~300 円前後の騰落が続いて
いる。引け際 1 時間の米株価の動きを、そのまま東京で再演しているような
ものだ。期待された企業業績は上方修正ながらも、ほぼ事前予想の範囲内
の結果が多い。メディアでは「上方修正ラッシュ」の如き報道だが、アナリス
ト・コンセンサスを大幅に上回る企業は、それほど多くない。日本市場の決
算発表に対する株価反応はアメリカナイズされており、企業の当初見通しに
対する上方修正は、ほとんど織り込み済である。名実ともに、アナリスト予想
を上回るポジティブ・サプライズにならない限り、株価の躍動感は乏しい。そ
れどころか、「予想どおり」の場合には利喰い急となるケースが少なくない。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015020936M)
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2015 年 2 月 9 日
ストラテジー
マーケット分析
(グラフ 10)
過去最高に積み上がった
米国の原油在庫
デジタル時代の「決算プレイ」は
過激
「ロング&ショート」のアンワインド
決算発表をイベントとして捉え、思惑的な売買を行う「決算プレイ」は、昔
からある。スロット・マシンの如き「速戦即決」を期待する目先筋は、「兜町の
華」でもある。好決算期待銘柄を、先回りして買うといったオーソドックスなも
のだった。ところが、アナログ時代の「決算プレイ」に比べると、デジタル時
代の「決算プレイ」は過激である。昔は、信用取引の個人が「決算プレイ」の
主役だったが、今はヘッジファンドに覇権が移っている。しかも、「ロング&
ショート型」のヘッジファンドが、膨大なロットで売買を行うと異常な値動きが
現出する。典型的なのは、2/5 のソニーと日立製作所の株価の動きだ。決
算に対するアナリストの評価は、「ソニー○・日立●」だった。ソニーが
2015/3 期に営業利益で 200 億円と黒転したのは予想を上回り、日立の 10
~12 月期は期待外れのものだった。これで、「ソニー買い・日立売り」となる
のは分かる。しかし、ソニーの株価が一時ストップ高(500 円高)、日立が 1
割安となるのは、どう見てもオーバー・アクションである(グラフ 11)。2/5 の東
証一部売買代金ランキングでは、1 位ソニー2,214 億円、2 位日立 1,034 億
円だった。ロング・オンリー(買い専門)の機関投資家や、個人だけではこの
猛烈な商いは形成し難い。明らかに、「ソニーをとことん買い上がり・日立を
徹底的に売る」投資家が存在したことを意味する。ここからは推測だが、「ロ
ング&ショート型」ヘッジファンドが、①「日立買い・ソニー売り」の既存ポジ
ションのアンワインド(巻き戻し)を行った、②新規で「ソニー買い・日立売り」
のポジションを形成した、という 2 パターンが考えられる。おそらく、私見で
は①のパターンが 7~8 割を占めていたものと思われる。アンワインドの場
合には、ほとんど成り行き注文に近い形で執行されるのが一般的だ。この猛
烈なオーダーが、ソニーを売っていた個人信用取引の 508.9 万株の買戻し
を誘発し、同様に日立の信用買い 1,891 万株の投げ売りを強いたものと思
われる(1/30 時点)。後は、異常な株価に群がるデイ・トレーダーが総仕上
げをしたのだろう。結果的には、何とも異様な値動きの完成というわけだ。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015020936M)
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2015 年 2 月 9 日
ストラテジー
マーケット分析
(グラフ 11)
決算発表を受けて
「ソニー買い・日立売り」が進行
ソニーと日立の株価推移
(円)
(円)
1,200
4,000
(出所)AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
3269.0
(2/5)
1,150
3,500
1,100
3,000
ソニー(右)
1,050
2,500
1,000
950
2,000
900
1,500
850
日立(左)
1,000
800
500
750
700
「いい物は買われ・悪いものは売
られる」原点回帰へ
藤戸 則弘
投資情報部長
768.2
(2/5)
10/1
10/21
11/10
11/28
12/17
1/9
1/29
0
2/5 には、東スポが報じるような大見出しで最高決算を伝えられたトヨタ
が 74 円安となり、株価不振が続いて下方修正発表のホンダが 50 円高とな
る奇妙な光景も現れた。明らかに「トヨタ買い・ホンダ売り」のアンワインドが
ベースにあるものと思われる。兜町の伝統では、「好決算織り込み済・悪材
料出尽くし」という表現が用いられてきたが、とてもそんな生易しいものでは
ない。好業績が売られ、下方修正が買われるという歪な現象は、ナイーブな
投資家を動揺させてしまう。ヘッジファンドが関与すれば、株価指数だけで
はなく、個別銘柄もブレが極めて大きくなるのだ。さらには、好調だった食
品、薬品等のディフェンシブ株が売られ、低迷していた不動産、金融が買
われる「リターン・リバーサル」の動きも加わっている。単純に見ると、「何を
買っていいのかわからない」といった心境に陥ることだろう。しかし、心配す
ることはない。決算発表期のドタバタのポジション調整が終わると、「いい物
は買われ・悪いものは売られる」原点に回帰する。したがって、処方箋は明
瞭だ。好業績にもかかわらず、需給要因で売られた銘柄群を中期的な視点
で拾えば良い。短期ドタバタ劇は、格好の拾い場と考えるべきであろう。
全体観としては、ボックス往来との解釈に変化はない。海外不透明感や
景気・企業業績を考慮すると、日経平均が 12 月高値突破から一段高とな
るのは時期尚早である。「下げて強気・上げて弱気」の姿勢を維持したい。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015020936M)
10
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