輸出は高品質化で稼ぐ時代へ

 日本経済
輸出は高品質化で稼ぐ時代へ
─ 欧米の資本財市場で存在感を強める中国 ─
新興国経済減速の影響から、輸出数量が伸び悩んでいる。ただ需要の弱さも一因だが、
中国などのキャッチアップによる競争激化の影響も無視できない。そうした中、高品
質化を武器に量と利益を確保する企業が少なからず存在する。輸出数量が伸びづらい
状況は今後も続くとみられるが、
高品質化による輸出拡大の余地はあろう。
日本の輸出はようやく底入れの兆しが見えてきた
一方、資本財の輸出額をみると、
増えているとはい
が、依然として低調である。2015 年 10 月の輸出数量
え、その増加額は 270 億ドル程度にとどまっている。
指数(みずほ総合研究所による季節調整値)は前月比
さらに注目すべきは、欧米向け輸出が弱含んでいる
+ 2.3%と 4 カ月ぶりに増加したものの、夏場の落ち
点である。つまり、
足元の輸出低調の一因に欧米向け
込みを取り戻すには至っていない。もちろん、輸出伸
資本財輸出の不振があるということだ。
び悩みの背景には、新興国経済の減速もさることな
がら、それを受けた世界的な生産調整や、稼働率低下
以下では、欧米向けの資本財輸出市場で何が起
こっているのかを、各国統計から確認したい。
に伴う設備投資の弱さがある。しかし、2000 年代の
輸出動向をみると、需要の低迷だけが原因というわ
欧米市場を席巻する中国製資本財
けではなさそうだ。
アメリカの資本財輸入をみると、リーマン・ショッ
伸び悩む資本財輸出
輸出に占める各品目のシェアをみると、2000 年代
に入って大きな変化が生じている。
図表1は、
生産工程
ク後の一時期を除き、概ね増加傾向が続いている。
●図表1 日本の輸出品目別シェアの推移
(%)
消費財
資本財
中間財
素材
100
別(素材、加工品、部品、資本財、消費財)のシェアの推
18
19
28
26
53
54
2000
05
17
17
23
22
59
59
10
13
移をみたものである。これをみると、中間財(部品+加
工品)の割合が着実に高まっていることがわかる。こ
れは、東アジア向けを中心に中間財輸出が大幅に伸び
50
ているからだ。事実、中間財の輸出金額は、
2,686 億ド
ル(2000年)から4,513億ドル(2013年)へと13年間で
1.7 倍になった(図表 2)
。しかも、増加額の大半が東ア
ジア向けである。それだけ東アジアとの結びつきが強
くなった、言い換えると、中国を中心としたアジア諸
国の影響を受けやすくなったということだ。
0
(年)
(資料)独立行政法人経済産業研究所「RIETI-TID 2013」
より、みずほ総合研究
所作成
3
日本経済
2013年の資本財輸入額は、2000年対比69%増となっ
ている。欧州連合(EU)においても同様で、2013年の
アは8%から3%に縮小している。
中国のシェア拡大のなかには、中国が「世界の工
資本財輸入は2000年対比+82%と急拡大している。
場」として台頭し、部品を他国から輸入し中国で組み
つまり、日本からのアメリカ・EU 向け資本財輸出の
立て、最終製品として輸出している分も含まれる。た
減少は、現地の需要が減少したことが原因ではない。
だ、それを踏まえても拡大は顕著であり、日本の欧米
むしろ市場の拡大を取り込めず、シェアを低下させ
向け資本財輸出不振の背景には、中国との競争激化
たことが問題といえる。
があることは間違いなさそうだ。
そこで、次にアメリカと EU の資本財輸入につい
て、輸入元別のシェアをみてみることにしよう。
中国がシェアを伸ばした品目は7割超
アメリカの資本財輸入における各国のシェアをみ
ると、日本が低下する一方で、中国のシェアが急上昇
それでは、日本が中国にシェアを奪われた品目は
している。2000 年と 2013 年のシェアを比較すると、
どの程度あるのか。それを確認するために、アメリ
日本のシェアは 17%から 7%へ低下しているのに対
カ・EUの資本財輸入について、品目別(電気機械:63
し、中国は 10%から 39%まで拡大し、存在感を強め
品目、一般機械:123 品目)に中国と日本のシェアを
ている。業種別では、電気機械で中国のシェアが 4%
計算し、2000年から2013年の変化をみてみた。
から 17%に、一般機械では 3%から 17%に拡大して
図表 3 に示す通り、中国にシェアを奪われている
いるのが際立つ。一方で日本のシェアをみると、
電気
品目(日本のシェアが低下し、中国のシェアが拡大し
機械では4%から2%に、一般機械では9%から4%に
ている品目)は、アメリカ・EUいずれにおいても7割
低下している。
を超えていることがわかる。
この傾向は EU も同様だ。EU の資本財輸入におい
アメリカでは、電気機械の 86%、一般機械の 70%
ても中国のシェアが上昇している。EU では EU 域内
でシェアを奪われている。電気機械では送信機器や
の取引が全体の 6 割弱を占めているものの、それ以
複写機といった品目で中国シェアの大幅な拡大が確
外の国々を比較すると、中国のシェアが 4%(2000
認された。また、一般機械では、自動データ処理関連
年)から 17%(2013 年)に拡大する一方、日本のシェ
の機械で中国の存在感が増している。
EUにおいては、電気機械の84%、一般機械の78%
●図表2 中間財・資本財の仕向地別輸出金額(日本)
東アジア
(億USドル)
で中国製品にシェアを奪われているとの結果となっ
【資本財】
【中間財】
アメリカ
EU
た。中国が大幅にシェアを拡大している品目がアメ
その他
リカと重複していることも判明した。
(億USドル)
2,000
5,000
4,000
よく指摘されることだが、中国の技術的なキャッ
1,500
●図表3 中国にシェアを奪われた品目数の割合
3,000
アメリカ向け
1,000
欧米の
不振が目立つ
東アジアが拡大
2,000
500
1,000
0
2000
05
10
13(年)
0
2000
05
10
13 (年)
(資料)独立行政法人経済産業 研究所「RIETI-TID 2013」
より、みずほ総合研究
所作成
4
EU向け
電気機械
86%
(54/63)
84%
(53/63)
一般機械
70%
(82/117)
78%
(94/120)
(注)1. 品目別(電気機械:63 品目、一般機械:123 品目)に中国と日本のシェア
を計算し、2000 年時点のシェアと 2013 年時点のシェアを比較。中国に
シェアを奪われた品目とは、中国のシェアが拡大し、日本のシェアが縮
小したものを指す。
2. 2000年・2013年ともに日本から輸入していない品目を除外。
(資料)United Nations
「UN comtrade」
より、みずほ総合研究所作成
チアップを反映して、中国製品が欧米でシェアを伸
すます重要となる。しかも、こうした動きを先取りす
ばしていることが浮き彫りとなった格好だ。
る企業は、足元で徐々に増えている。
実際、統計をみると、輸出の量を追うのではなく、
厳しい環境下でシェアを伸ばす品目も
高付加価値化を進める動きが確認できる。図表 4 は
実質輸出指数(品質変化に加え、品質変化以外の価格
ただ注目すべきは、このような環境下でも日本が
変動を加味)と輸出数量指数(品質変化以外の価格変
シェアを拡大している品目があることである。エキ
動のみ加味)の動きをみたものである。2011 年半ば
スカベーター(SITC コード 7232)、回転容積式ポン
から実質輸出指数が輸出数量指数を上回るようにな
プ(同7425)
、放電管用安定器(同77123)
、アルファ線
り、その差が徐々に拡大していることがわかる。他国
等を使用する機器(同77422)
などが該当する。
との激しい価格競争や円高という厳しい環境が続い
とりわけ、アメリカ・欧州において高いシェアを維
たなかで、輸出品目の高付加価値化を進めることに
持しているのが、エキスカベーターである。エキスカ
より、企業は販売量と利益を確保しようとした様子
ベーターには、日本の建設機械を代表する機種であ
がみてとれる。
る油圧ショベルが含まれている。
「地産地消」の流れもあり、現地生産化が進むなか、
エキスカベーターのシェアの変化(2000年→2013
今後も輸出数量が伸びづらい状況は続くとみられ
年)をみると、アメリカでは、日本のシェアが 44%か
る。しかし、技術優位性を高め、輸出品の高付加価値
ら55%に上昇する一方、中国のシェアは2013年時点
化を進めることで、存在感を示すことは可能だ。国内
でも 1%に過ぎない。EU では、日本のシェアが 47%
回帰も重要だが、為替や外部環境に左右されにくい
から 54%にまで拡大、中国シェア(3%)との差も非
体質作りこそが日本の製造業復権のカギを握るとみ
常に大きい。
ている。
日本のエキスカベーターが高いシェアを維持でき
ているのは、
高い技術優位性があるからに他ならない。
みずほ総合研究所 経済調査部
日本における建設機械の生産は第 2 次世界大戦後に
主任エコノミスト 坂中弥生
なって本格的に始まったとされる。当初は技術の進ん
[email protected]
でいた欧米メーカーとの提携により油圧ショベルの
生産をしていたが、その後、狭い作業現場で効率よく
作業できるような油圧ショベルのニーズが国内で高
●図表4 実質輸出指数と輸出数量指数の推移
(2010年=100)
120
まった結果、
他国にはない創意工夫がなされた。
こうし
110
実質輸出指数
輸出数量指数
実質輸出>輸出数量
た創意工夫が油圧ショベルに搭載する基幹部品に関
する技術力を高め、
それが競争力の源泉となって、
海外
市場での高いシェアにつながっているのである。
100
90
80
高付加価値品の輸出で稼ぐ時代に
70
新興国のキャッチアップに伴って、価格競争が激
化するなか、日本が新興国と価格だけで勝負をする
ことは難しい。先のエキスカベーターのように、他国
の追随を許さない高い競争力を保つことが、今後ま
60
50
2000
03
06
09
12
15
(年)
(注)季節調整値。
(資料)日本銀行
「実質輸出入」、財務省
「貿易統計」より、みずほ総合研究所作成
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