リサーチ TODAY 2016 年 1 月 28 日 日本企業は高付加価値の輸出で稼ぐ時代に転換 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 最近の日本の輸出伸び悩みの背景には、新興国経済の減速の影響があるが、欧米向け資本財輸出の 不振の影響もある。欧米の資本財輸入をみると、日本のシェアが低下する一方、中国のシェアが大幅に拡 大している。みずほ総合研究所は、欧米の資本財市場で日本と中国の競合状況に関するリポートを発表し ている1。欧米の資本財市場では日本と中国が競合している品目が多い一方で、高い技術優位性をもつ品 目では日本がシェアを確保していることが分かった。日本の輸出数量が伸びづらい環境は続くだろうが、高 付加価値化の進展が今後の日本の製造業の行方を左右するだろう。 日本の輸出は漸く下げ止まったが、依然として低調である。輸出伸び悩みの背景には、新興国経済の 減速があるが、これを受けた世界的な生産調整や、稼働率低下に伴う設備投資の弱さもある。また、新興 国の減速にとどまらず、欧米向けの資本財輸出の不振も少なからず影響している。欧米における資本財輸 出のシェアをみると、2000年代以降日本のシェアが低下する一方、中国のシェアが大幅に拡大している。こ のシェアの変化は、電気機械と一般機械で明確だ。下記の図表に示されるように、電気機械・一般機械で 中国にシェアを奪われた品目は、アメリカ・欧州いずれにおいても7割を超えている。電気機械では送信機 器や複写機、一般機械では自動データ処理関係の機械で中国の存在感が増している。 ■図表:中国にシェアを奪われた品目の割合 アメリカ向け 欧州向け 電気機械 85.7%(54/63) 84.1%(53/63) 一般機械 70.1%(82/117) 78.3%(94/120) (注)1.品目別(電気機械:63 品目、一般機械:123 品目)に中国と日本 のシェアを計算し、2000 年時点のシェアと 2013 年時点のシェアを比較。中国にシェアを奪われた品目とは、中国のシェアが拡大し、日本のシェアが縮小 したものを指す。 2.2000 年・2013 年ともに日本から輸出していない品目を除外。 (資料)United Nations「UN Comtrade」よりみずほ総合研究所作成 中国を中心とした新興国の技術的なキャッチアップに伴い、日本の輸出を巡る競争が激化するなか、日 本が新興国と価格だけで勝負をすることは得策ではない。他国の追随を許さない高い競争力を保つことが 今後、一層重要になる。次ページの図表は、実質輸出指数と輸出数量指数をみたものだ。実質輸出指数 は、輸出製品の品質変化(付加価値の増減)が加味されている。一方、輸出数量指数は数量の変化を表し 1 リサーチTODAY 2016 年 1 月 28 日 たもので、品質変化は反映していない。両者を比較すると、2011年半ばから実質輸出指数が輸出数量指 数を上回るようになり、その差が徐々に拡大している。これは、他国との厳しい価格競争や円高という厳し い状況が続く中、輸出品目の高付加価値化を進めることにより、日本企業が販売量と利益を確保している 状況を示している。 ■図表:日本の実質輸出指数と輸出数量指数の推移 120 (2010年=100) 実質輸出>輸出数量 110 100 90 80 70 60 実質輸出指数 50 2000 02 04 06 08 10 輸出数量指数 12 14 (年) (注)季節調整値。 (資料)日本銀行「実質輸出入」、財務省「貿易統計」よりみずほ総合研究所作成 今日の日本企業が厳しい環境でもシェアを拡大しているのが、エキスカベーター、回転容積式ポンプ、 放電管用安定器、アルファ線等を使用する機器などである。エキスカベーターには日本の建設機械を代 表する機種である油圧シャベルが含まれるが、日本のエキスカベーターは米欧で極めて高いシェアを確保 している。日本企業は輸出の数量を志向する戦略から、高付加価値化で価格を維持し着実に収益を確保 する戦略へ転換しつつあるようだ。アベノミクスにより超円高が回避されたことが価格面から輸出の追い風と なるが、高付加価値化のトレンドは変わらないだろう。「地産地消」の流れもあり日本の輸出量の改善は限ら れるが、日本企業が予想以上に戦略を転換させていることを我々は認識する必要がある。 1 坂中弥生 「輸出は高品質化で稼ぐ時代へ」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 1 月 8 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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