平成元年宮崎県経済の回顧

平成元年宮崎県経済の回顧
―息の長い景気拡大の実現―
平成2年3月
宮崎県商工労働部
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1.平成元年の我が国経済
昭和61年11月を起点とする今回の景気上昇は丸3年を経過し、4年目に入った。拡張
期間の長さでみると、すでに「いざなぎ景気」(昭和40年10月∼45年7月、57か月)、
「岩戸景気」(昭和33年6月∼36年12月、42か月)に次ぐ戦後3番目の長さに達してい
る。
主要経済指標の動きをみると、まず実質経済成長率(GNP)については、1∼3月
期は消費税導入直前の駆け込み需要もあって前期比年率7.2%の高い成長となり、逆に
4∼6月期はその反動もあって3.0%のマイナス成長となった。税制改革に伴う短期変
動が概ね終了した7∼9月期には、12.1%の高い成長となり、力強い拡大基調が続いて
いることが確認された。10∼12月期(速報)は3.0%の成長と前期と比べて伸びは鈍化
したものの、内需を軸に拡大基調は続いている。また、年間の成長率(速報)は4.9%
増と前年(5.7%増)をやや下回った。
生産活動は、鉱工業生産指数をみると、時期及び業種によってバラツキはあったが、
総じて順調に推移し、前年比5.9%増となった。業種別では、電気機械、輸送機械とい
った機械系が好調だったほか、鉄鋼、金属製品も高い伸びを示した。
個人消費は、大型小売店販売高は、消費税の影響による短期変動はあったものの、前
年比8.3%増と高水準であった前年の伸び率(6.7%増)をも上回った。また、新車登
録台数は、高級車の買い替え需要や、一世帯で複数の乗用車を保有する家計が急増して
いることなどもあって、前年比14.1%増と前年に引き続き極めて高い伸びを示した。
投資関連は、民間設備投資は、製造業、非製造業ともに引き続き力強い拡大を続けて
いる。設備投資の目的は、当初は、研究開発や合理化、省力化のウエイトが高かったが、
最近では、むしろ設備稼働率の上昇を背景に拡販投資のウエイトも緩やかに上昇してい
る。新設住宅着工戸数は、貸家がブームの終えんから減少したが、持家や分譲住宅の支
えられ、大方の予想に反して166万戸(前年比1.3%減)の高水準を維持した。
雇用情勢は、有効求人倍率(季節調整値)は1月に1.14倍だったのが12月には1.32倍
までに上昇した。有効求人倍率が上昇しているのは、景気上昇の持続に伴い求人が大幅
−3−
に増加する一方で、求職者が引き続き減少していることによるものである。企業の人手
不足感は、非製造業では建設業、サービス業、小売業等、製造業では輸送機械、一般機
械、鉄鋼等で高くなっている。こうした人手不足は、景気拡大に伴う労働需要の増加に
加え、年齢、職種、地域など労働需給上のミスマッチの存続が背景にあり、特に中小企
業では、当面する経営上の最大の問題としてあげる企業が多くなっている。
国際収支は、輸出は、自動車は全体として減少傾向にあるものの、一般機械、化学製
品を中心にやや強含み推移しており、輸入は、それまでの輸入のすう勢を支えてきた製
品類の伸びが鈍化するとともに、全体の伸びも緩やかなものとなってきている。この結
果、貿易収支の黒字幅は縮小傾向にあり、経常収支の黒字幅も一進一退ながら縮小傾向
にある。
物価は、消費税の影響を考慮すれば、国内卸売物価、消費者物価ともに引き続き安定
基調にあると考えられる。
以上、拡大3年目の平成元年経済は、労働市場の引き締まりを伴いながらも引き続き
安定した物価の下で、主として設備投資の増加に支えられた内需主導型成長を達成した
といえよう。
2.平成元年の本県経済
(1)概況
生産活動は、鉱工業生産指数をみると、高水準であった前年水準を大きく上回り、年
間を通じ総じて好調に推移した。業種別では、電気機械、輸送機械が好調であったほか、
化学、パルプ・紙、鉄鋼なども前年水準を上回った。
個人消費は、県内主要小売店舗売り上げは、消費税の影響等もあって比較的低い伸び
率にとどまり、全国と比べてやや力強さに欠ける感は否めない。また、新車登録台数は、
4月以降車種別にバラツキはあるものの、総数では高い伸びを示した。一方、宮崎空港
利用客数はダブルトラックが実現した東京便を中心に好調に推移した結果、年間でも過
去最高を記録し、ホテル・旅館利用客数、カーフェリー利用状況はいずれも2年連続前
年比増加となった。
−4−
投資関連は、公共工事請負金額は、年前半は出遅れの感があったものの、後半以降持
ち直し、年間では前年水準を上回った。新築住宅着工戸数は、このところ頭打ち傾向が
顕著となってきているが、年間では前年を上回り、依然高水準であることは疑いない。
雇用情勢は、有効求人倍率(季節調整値)は前年に引き続き上昇傾向に終始し、建設
業など業種によっては人手不足感もでてきている。
企業倒産は、10月に大型倒産が2件発生したが、件数、負債額ともに大幅に縮小し、
比較的落ち着いた動きであった。
物価は、消費者物価指数は4月以降前年同月比上昇幅が拡大する傾向にあったが、こ
のところ安定しており、消費税上昇分を除けば落ち着いた動きであった。
以上、本県主要経済指標をみるかぎり、生産活動は総じて好調に推移し、投資関連は
このところ住宅建設の頭打ち傾向が顕著になってきたが依然水準は高く、個人消費も一
部力強さに欠ける感は否めないながらも、総じて順調に推移した。このことから、平成
元年本県経済は、好調な企業の生産活動と、個人消費や投資関連を中心とした内需の伸
びとの両面に支えられた、息の長い景気拡大が実現した。
こうした中、企業誘致は、過去最高であった昨年度を上回るペースで進んでおり、ソ
フトウエア業を中心とした情報サービス産業の相次ぐ立地や、これまで立地の少なかっ
た過疎地域にも企業進出をみるなど、新しい動きもみうけられる。また、高速道路網の
整備については、東九州自動車道の延岡−清武間が基本計画路線に決定し、九州縦貫自
動車道についても八代−人吉間の開通、えびの−人吉間の工事着工といった着実な前進
を示した。宮崎空港については、大型化に向けての整備と、東京−宮崎間のダブルトラ
ックが実現し、宮崎港についても、ターミナルビルの建設着工、平成2年4月のフェリ
ー就航に向けての申請が行われた。以上、平成元年の本県の動きを振り返ると、リゾー
ト、ニューシルバー、フォレストピアの3大構想の推進に加え、陸海空交通網の整備充
実の進展が目立った年であったといえよう。さらに、平成2年は、「 ’90 ひむかの祭典」
の本県経済・観光面への波及効果が期待され、交通、産業、文化の歯車がかみ合いなが
ら、来るべき「変化と交流の時代」に向けて、県政が大きく前進する年となろう。
−5−
(2)生産活動
企業の生産活動を表す鉱工業生産指数の動きをみると、平成元年は年平均で126.8と
高水準であった前年(年平均119.6)を大きく上回った。これは、息の長い好景気が続
く中、県内企業の生産活動は年間を通じ総じて好調に推移したことを示している。
主な業種の動きをみると、半導体集積回路や通信用機器を中心とした「電気機械」と、
自動車用部品の「輸送機械」は年間を通して好調に推移し、本県生産活動を支えた。ま
た、主力製品の合成樹脂や化学品が好調な「化学」、事務用紙の需要が多い「パルプ・
紙」、ステンレス綱向けフェロニッケルが大半を占める「鉄鋼」も前年水準を上回る生
産活動を続けた。しかし、本県製造業の中で最大のウエイトを占める「食料・飲料品」
は、主力製品であるブロイラー加工品や焼酎がやや伸び悩んだため、全体でも前年水準
をやや下回った。一方、プラスチック継手を中心とした「プラスチック」や、外国製品との競
争が激化している「繊維」は昭和60年の水準にも満たず、やや低迷している。
−6−
(3)個人消費
平成元年の主要小売り店舗売り上げ状況は、前年比1.5%増となり、比較的低い伸び
率にとどまった。これは、消費税導入の影響から前年同月比で4月から4か月連続減少
を記録したことが大きく響いている。また、このところ本県の伸び率は全国平均(前年
比8.3%増)を大きく下回っており、やや力強さに欠ける感は否めない。品目別では、
「衣料品」は高級婦人服や紳士オーダースーツなど高級衣料の売れ行きが好調で、最も
高い伸び(同3.5%増)を示した。一方、「食料品」(同0.9%増)及びVTRやエア
コン等の家電製品が低調であった「その他」(同0.2%増)は微増にとどまった。
新車登録台数は、年間で66,589台と高水準であった前年(62,553台)をも大きく上回
り、過去最高となった。車種別では消費税の導入された4月以降550CC以上の大幅増、
550CC以下の大幅減という構図が顕著に表れ、中でも2000CC以上の普通乗用車は前年の
倍以上の伸びを示した(140.8%増)のに対し、軽貨物車(17.9%減)が大幅減となった
のが象徴的であった。
宮崎空港利用客数は、昨夏から実施されたダブルトラックの好影響などにより東京便
を中心に好調に推移した。その結果、年間でもこれまで最高であった国体開催年の昭和
54年(219万人)を大きく上回り、過去最高の利用客数を記録した。一方、年半ば以降勢
いを取り戻したホテル旅館利用客数と、長い低迷状態からやや回復した感のあるカーフ
ェリー利用状況は、いずれも2年連続前年比増加となった。
−7−
(4)投資関連
平成元年の公共工事の動きをみると、件数は5,612件(前年比432件減、7.0%減)
と前年を下回ったが、請負金額は年前半は出遅れの感があったものの後半以降持ち直し、
年間では1,702億3700万円(同88億8200万円増、5.5%増)と前年水準を上回った。発
注者別に請負金額をみると、「国」は主力の建設省は微増にとどまったが、防衛庁がえ
びの送信局関連工事を中心に倍増となったほか、農水省も大型工事を中心に大幅増とな
ったため、全体では約3割増(前年比28.9%増)となった。また、ウエイトの大きい「
県」は環境保健部、企業局などは著増となったが、主力の土木部、農政水産部が微増に
とどまったため、全体でも微増(同1.2%増)となった。一方、「市町村」(同0.4%
減)、「公団・事業団等」(同16.5%減)は前年水準を下回った。
新設住宅着工戸数は、全国では63年後半以降既に頭打ち傾向にあったが、本県では元
年に入っても依然増加基調が続いていた。しかしながら、7月が前年同月比で62年4月
以来の2桁減となった後、10月から3か月連続2桁減となり、住宅着工は本県でも頭打
ち傾向が顕著になってきている。それでもなお昨年の住宅着工戸数は、16,259戸(前年
比807戸増、5.2%増)と高水準であった前年をも上回り、依然高水準であることは疑
いない。利用別では、持家は住宅金利引き上げの影響等もあって微減(同285戸減、4.
3%減)したが、貸家(同782戸増、11.7%増)、分譲住宅(同416戸増、81.7%増)
は増加した。
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(5)雇用情勢
労働需給は、有効求人数(12月13,093人、前年同月比2,077人増、18.9%増)が昭和62
年6月以降30か月連続して前年同月比2桁増の勢いで急増する一方で有効求職者数(
同13,829人、415人増、3.1%増)も昨年あたりから増加傾向に転じたものの、求人の伸び
が求職の伸びを上回っている。このため、昭和61年頃を底に大幅な改善が進んでいた有
効求人倍率(有効求人数/有効就職者数)は、平成にはいっても引き続き上昇傾向に終
始(季節調整値1月0.72倍→12月0.95倍)し、建設業など業種によっては人手不足感も
でてきている。
また、新規求人数はほとんどすべての業種で前年水準を上回っている。中でも「衣服
・その他の繊維製品」、「電気機械」を中心とした製造業及びサービス業の求人増が目
立った。
賃金雇用指数をみると、現金給与総額は着実な伸びを示しているのに対し、総実労働
時間数は概ね減少傾向にある。一方、常用雇用者数を指数化した常用雇用指数は、年半
ばまで減少基調にあったのが年半ば以降増加基調に転じた。このことから、景気拡大が
続く中、県内企業は常用雇用者数を増やす傾向にあると言えよう。
求人倍率
(倍)
1.4
1.3
1.2
1.1
1.0
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
62
有効求人倍率(季節調査値)
宮崎
全国
九州
元
63
−9−
(6)企業倒産
平成元年の倒産は、件数110件(前年比28件減、20.0%減)、負債額126億1700万円
(同51億2500万円減、20.3%減)であった。件数はピーク時の昭和59年( 268件)の4
割近くにまで減少し、ほぼ10年前の水準まで戻した。また、負債額も前年に大型倒産が
発生した関係もあって大幅縮小となり、倒産に関しては比較的落ち着いた一年であった。
今年発生した大型倒産の中では、l0月に日向市の建設業が約23億5000万円もの負債を抱
え史上6番目、建設業では過去最大の倒産となったのが目立つほか、同月には北諸県郡
の病院も約13億円の負債を抱え倒産している。
業種別では、小売業が29件と最も多く、次いで建設業の27件、サービス業の16件、な
どが多い。原因別では、放漫経営、投資過大等が大半を占め、販売不振、売掛金回収難、
他社倒産余波、赤字累積等の「不況型」は少なくなってきている。負債額別では、1億
円未満の小口倒産が圧倒的に多い(82件、74.6%)。地域別では宮崎市27件、都城市17
件、延岡市16件の順に多く、郡部では一時期手形操作失敗による連鎖的な倒産が発生し
た北諸県郡が10件と突出している。一方、日南市、串間市、南那珂郡の県南地区は5件
にとどまり、西臼杵郡、東諸県郡は倒産は発生しなかった。
倒産件数
(件)
280
260
240
220
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
倒産件数(年別)
前年比
(%)
90
80
70
件数
60
50
40
前年比
30
20
10
0
-10
-20
-30
55年 56年 57年 58年 59年 60年 61年 62年 63年 元年
−10−
(7)物価
平成元年の宮崎市の消費者物価指数は、年平均で101.8、前年比1.9%増となり、昭
和60年(2.6%増)以来の高い上昇となった。消費者物価指数は、4月以降前年同月比上
昇幅が拡大する傾向にあったが、このところ上昇幅は2∼3%の間で安定しでおり、消
費税上昇分を除けば、落ち着いた動きであったといえよう。費目別に前年同月と比較す
ると、ウエイトの高い「食料」は、生鮮野菜と酒類はやや下落したが、その他の項目が
ほとんど上昇したため2.2%の上昇となったのをはじめ、「教養娯楽」+3.8%、「教育」
+3.4%、「住居」+3.0%、「被服及び履物」+2.4%などが上昇した。一方、「光熱・水
道」-0.6%、「家具・家事用品」-0.6%、「交通通信」-0.2%は下落した。
石油製品価格は、63年12月を底に原油価格が徐々に上昇しているため、年間を通して
上昇基調で推移した。さらに、最近急速な円安の進展がみられたことから原油輸入価格
の高騰が予想され、末端石油製品価格への影響が危惧される。
指数
(60年=100)
110
前年同月比
消費者物価指数
(%)
7
全国
6
5
105
4
3
100
宮崎市
95
2
1
前年同月比
0
90
-1
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 月
63
元
−11−