アジアにおける 日中経済協力への期待

2007年11月16日
アジアにおける
日中経済協力への期待
ジェトロ・アジア経済研究所
丸屋 豊二郎
1
1.デフアクトベースで進む東アジア経済統合
【図1】日・中・韓・ASEANの貿易結合度
中 国
1.97
(1.91)
3.73
(2.42)
韓 国
2.45
(3.28
)
2.30
(1.72)
1.40
(1.06)
日 本
3.35
2.50
(3.01)
(2.45)
1.87
2.46
(2.23)
(2.64)
1.70
(1.34)
1.85
(2.06)
1.61
(0.94)
(注1)貿易結合度は、下記のとおり
(A国の輸出額に占めるB国のシェア)
(世界の輸出額に占めるB国のシェア)
ASEAN
(注2)上段2005年、下段1995年
<東アジアの貿易結合度>
・日・中・韓・ASEAN間の双方向貿易結合度が1以上、過去10年間で貿易結合度は上昇
・日本からの輸出、中国への輸入に偏重した貿易構造
・ASEANは日本との貿易結合度が高いが、最近では中国との貿易結合度が上昇
2
1.デフアクトベースで進む東アジア経済統合
・日本を追い越した中国の域内輸入・貿易比率
中国の域内輸入比率:15.6%(95年)→20.0%(00年)→25.1%(05年)
日本の域内輸入比率:17.9%(95年)→18.6%(00年)→18.7%(05年)
中国の域内貿易比率:28.5%(95年)→33.3%(00年)→45.3%(05年)
日本の域内貿易比率:47.4%(95年)→43.4%(00年)→41.9%(05年)
・日本と中国で、東アジア域内貿易の77%(05年)
(GDPは約8割)
→東アジア経済統合のキープレーヤー、日本、中国
3
1.デファクトベースで進む東アジア経済統合
【図2】中国貿易を牽引する在中国外資系企業
-中国の輸出入に占める外資系企業の比率:1995、2000、2005年-
韓国
45.1 (00)
55.4 (05)
59.1(00)
76.4 (05)
38.6 (95)
56.0 (00)
66.6 (05)
中国
37.1 (95)
49.6 (00)
65.9 (05)
台湾
日本
58.7 (95)
68.5 (00)
72.9 (05)
54.3 (97)
56.6 (00)
71.0 (05)
70.7 (95)
64.8 (00)
78.5 (05)
49.6 (00)
59.8 (05)
(注)単位は%、()内は暦年
(出所)国家統計局資料から
作成
ASE
AN5
<中国貿易を牽引する在中国外資系企業>
・在中国外資系企業の貿易増加が、中国全体の貿易額を押し上げる
・東アジアでの外資系企業による生産ネットワークが中国貿易を牽引
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2.東アジア経済統合の中核をなす日中経済連携
(1)拡大する日中間貿易・投資
第3図 日本の対中国直接投資と対中国貿易の推移
(億円)
(10億ドル)
120
100
6,000
輸出
輸入
投資額
第1次投資ブーム
第2次投資ブーム
第3次投資ブーム
5,000
80
アジア経済危機
(1997)
WTO加盟
(2001末)
60
4,000
3,000
プラザ合意
(1985)
40
天安門事件
(1989)
南巡講話
(1992)
2,000
IMF加盟
(1980)
20
1,000
0
0
1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
・第3次投資ブームで貿易も投資も急増
<日中貿易> 1999~2005( 6年間): 年平均増加率19.1%(同輸出22.8%、同輸入16.7%)
<対中投資> 1999~2004( 5年間): 年平均増加率41.7%(03、04年は、同50%を超える)
・しかし、対中投資は2005年をピークに減少へ、(製造業投資は2006年がピーク)
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2.東アジア経済統合の中核をなす日中経済連携
(2)日中貿易・投資を牽引する機械産業
第4図 日本の対中輸出の商品別構成の推移
100%
その他
医療機器、光学機器、時
輸送機械
医療機器、光学機器、時計等
輸送機械
80%
機械
機 械
60%
金属製品
40%
非金属鉱物性製品
金属製品
繊維・同製品
20%
化学製品
0%
1980
1982
1984
1986
1988
1990
1993
1995
1997
1999
2001
2003
2005
履き物
繊維・同製品
紙・板紙
木材・コルク製品
ゴム製品
皮・毛皮製品
化学製品
動植物製油脂
鉱物性燃料
原料
食料・飲料・たばこ
(備考)1.品目分類については、SITCコードによる品目区分(1桁又は2桁)をもとに、関連する品目を統合して計算した。
2.輸出金額(ドルベース)での商品別構成比。
(資料)国連「COMTRADE」から作成。
<日本の対中輸出構造>
・80年代後半から金属に代わって機械がシェアを拡大
・化学は一定のシェアを維持、輸送機械は安定的に推移、医療機器・光学機器・時計等はシェア拡大
・2005年の商品別構成: 機械類(46%)、化学(13%)
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2.東アジア経済統合の中核をなす日中経済連携
(2)日中貿易・投資を牽引する機械産業
第5図 日本の対中輸入の商品別構成比の推移
100%
その他
医療機器、光学機器、時計等
80%
輸送機械
機 械
機械
60%
鉱物性燃料
金属製品
40%
非金属鉱物性製品
繊維・同製品
履き物
繊維・同製品
原料
20%
食料・飲料・たばこ
0%
1980
1982
1984
1986
1988
1990
1993
1995
1997
1999
2001
2003
2005
紙・板紙
木材・コルク製品
ゴム製品
皮・毛皮製品
化学製品
動植物製油脂
鉱物性燃料
原料
食料・飲料・たばこ
(備考)1.品目分類については、SITCコードによる品目区分(1桁又は2桁)をもとに、関連する品目を統合して計算した。
2.輸出金額(ドルベース)での商品別構成比。
(資料)国連「COMTRADE」から作成。
<日本の対中輸入構造>
・80年代は原燃料から繊維・同製品、90年代に入って機械の輸入が急増
・2005年の商品別構成: 機械類(36%)、繊維・同製品(20%)
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2.東アジア経済統合の中核をなす日中経済連携
(3)垂直貿易から水平貿易へ向かう機械貿易
第6図 中国の日本からの機械輸入構成比の推移
100%
消費財
80%
消費財
資本財
部品
加工品
60%
資本財
素材
40%
部品
20%
加工品
素材
0%
1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
<中国の日本からの機械輸入>
・90年代前半: 最終財が約3分の2(資本財58.4%、消費財6.4%)、中間財は約3分の1(部品34.0%、加工品1.1%)
・2005年: 最終財は4割(資本財37.2%、消費財3.5%)、中間財は6割(部品54.5%、加工品4.8%)へ上昇
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2.東アジア経済統合の中核をなす日中経済連携
(3)垂直貿易から水平貿易へ向かう機械貿易
第7図 日本の中国からの機械輸入構成比の推移
100%
消費財
80%
消費財
資本財
部品
加工品
60%
資本財
素材
40%
20%
部品
加工品
素材
0%
1980
1982
1984
1986
1988
1990
1992
1994
1996
1998
2000
2002
2004
<日本の中国からの機械輸入>
・90年代以降は、部品と資本財が急増、日本の中国からの機械輸入を牽引
・2005年には最終財が6割弱(消費財10.0%、資本財47.3%) 、中間財が4割強(部品37.2%、加工品5.5%)
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2.東アジア経済統合の中核をなす日中経済連携
(3)垂直貿易から水平貿易へ向かう機械貿易
第8図 日本の対中国貿易特化係数(機械産業)の推移
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
素材
0.0
加工品
-0.2
部品
-0.4
資本財
-0.6
消費財
-0.8
-1.0
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
貿易特化係数=(輸出-輸入)÷(輸出+輸入)×100
<機械産業の生産工程別貿易特化係数の推移>
・日本の圧倒的な輸出超過から双方向貿易へ: 最終財(資本財、消費財)、中間財(部品、加工品)とも低下傾向
→日本企業の現地生産の拡大とともに中国からの機械輸入が拡大
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2.東アジア経済統合の中核をなす日中経済連携
(3)垂直貿易から水平貿易へ向かう機械貿易
<機械産業の日中間生産分業>
・直接投資による現地生産を契機に中国からの機械輸入が増加。
まず、90年代に入ってカメラ、めがねなどの逆輸入
↓
エアコンや家電製品などの消費財全般
一般機械、家電などの加工品や一部の資本財に波及
部品も緩やかに特化係数が低下
↓
垂直貿易(分業)から水平貿易(分業)へ
・こうした中、電気機械部品や精密機械部品・完成品、それに自動車な
ど高い技術を要する製品の特化係数は比較的高い水準を保っている
(素材は対象品目が少ないが、圧倒的に特化係数は1に近い)。
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2.東アジア経済統合の中核をなす日中経済連携
(4)ハイテク貿易比率の上昇
第9図 中国の輸入に占めるハイテク製品の金額とシェアの推移
(億㌦)
100
(%)
30
90
25
80
24%
70
20
60
50
15
40
10
30
20
5
10
0
0
1995
1996
資本財額
1997
消費財額
1998
部品額
1999
2000
加工品額
2001
資本財%
2002
消費財%
2003
2004
部品%
2005
加工品額
<2000年以降、ハイテク貿易(金額、シェア)が急増>
・ 中国の輸入に占めるハイテク比率: 10%(95年)→15%(2000年)→20%(05年)
・2003年頃からハイテク製品比率の伸び率は緩慢に: 資本財22%(03年)→20%(05年)、部品24%(03,05年)
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2.東アジア経済統合の中核をなす日中経済連携
(4)ハイテク貿易比率の上昇
第10図 日本の輸入に占めるハイテク製品の金額とシェアの推移
(億㌦)
60
(%)
40
35
50
30
40
25
30
20
15
20
10
10
5
0
0
1995
資本財額
1996
1997
消費財額
1998
部品額
1999
2000
加工品額
2001
資本財%
2002
消費財%
2003
2004
部品%
2005
加工品%
<2000年以降、ハイテク貿易(金額、シェア)が急増>
・ 中国の輸出に占めるハイテク比率: 2%(95年)→6%(2000年)→8%(05年)
・2003年からハイテク製品比率の伸び率は緩慢に: 資本財20%(03年)→18%(05年)、部品32%(03年)→31%(05年)
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3.日中経済関係の課題と展望
(1)日中経済関係の問題点
・日中貿易高度化の動きが緩慢に
①2000年以降、垂直貿易から水平貿易への動きが緩慢
②2003年以降、ハイテク製品比率の伸びも緩慢
・日本企業の対中国投資も一巡
①2005年をピークに対中投資は緩やかな減少へ
②対中製造業投資も2006年をピークに減少へ
③2007年に入って非製造業投資が急増
(非製造業比率:05年22%、06年21%、→07年上期32%)
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3.日中経済関係の課題と展望
(2)相互補完関係にある日中経済
・日本:少子高齢化の進展で、生産・消費拡大は見込めない
中国:生産基地としてだけでなく、大市場としても期待される
・相互補完関係にある日中製造業
バリューチェーン展開(研究・デザイン、調達、組立、販売)での
日中棲み分け
・中国経済の構造問題解決には日本の技術力が必要
企業の効率化・産業の高度化(産業技術開発)、省エネ・資源節約・
環境対策、サービス産業、内陸部の開発などに日本の協力が必要
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3.日中経済関係の課題と展望
(3)高まる日中経済連携への期待
・日本企業の日中FTA/EPAへの期待
図11 最もビジネスチャンスが期待できるFTA
図12 日中FTAの必要性
無回答, 6%
その他, 22%, 22%
日中FTA, 31%, 31%
必要と思わない,
4%
どちらかといえば
必要と思わない,
5%
中国・アセアン, 2%,
2%
必要, 40%
日本・インドネシア,
2%, 2%
わからない, 21%
日本・韓国, 5%, 5%
日・アセアン10, 6%,
6%
東アジア13か国,
22%, 22%
日本・タイ, 10%,
10%
どちらかといえば
必要, 24%
・中国企業の中日FTAに期待
中日FTAに「肯定的」(71%)、「普通」(29%)、「否定的」(0%)
FTA締結に至までの機関:「5年以内」(33%)、「10年以内」(26%)
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3.日中経済関係の課題と展望
(3)高まる日中経済連携への期待
・日中FTA/EPAが両国経済に与える影響
表1 日中FTAの経済押し上げ効果:2005年に50%削減、2010年に100%撤廃のケース
(%)
シナリオ
関税撤廃
中国 NTB撤廃
関税撤廃+NTB撤廃
関税撤廃
日本 NTB撤廃
関税撤廃+NTB撤廃
(出所)アジア経済研究所
2005
0.04
0.07
0.12
0.00
0.00
0.00
GDP
2010
0.05
0.25
0.32
0.01
0.02
0.03
2015
0.06
0.25
0.34
0.01
0.04
0.05
2005
2.01
2.07
4.32
2.89
1.75
5.18
輸出
2010
3.78
3.77
8.97
6.32
4.50
14.76
2015
3.08
3.18
7.49
5.74
4.12
13.27
2005
9.02
3.15
13.96
1.66
0.34
2.17
輸入
2010
21.91
9.79
46.57
4.09
2.02
7.10
2015
20.81
8.77
43.12
4.30
2.94
8.29
<分析結果>
①関税撤廃よりも非関税障壁撤廃の方が効果が大きい
②関税と非関税障壁を同時に撤廃した時の相乗効果が非常に大きい
③日中FTAは早期に結べば結ぶほど経済効果が大きい
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