米国主要企業の決算動向

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2016 年 2 月 15 日
米国主要企業の決算動向
市場調査部エコノミスト
2 四半期連続で悪化、2015 年通期では横這いに
03-3591-1420
大塚理恵子
[email protected]
○ 米主要企業の2015年10~12月期の決算では、S&P500指数採用企業全体でEPS(1株当たり利益)
が2四半期連続で減益の公算が大きい
○ 2015年通期では、期初に5%程度の増益が予想されていたが、期中に下方修正され概ね横這いとな
った模様。利益減額の約半分はエネルギー業種が占め、想定以上の原油安が最大の下振れ要因
○ 2016年後半に業績改善傾向に復する予想だが、2015年に続き原油価格はリスク要因であり、下振れ
リスクは大きい。下振れ懸念が高まる局面ではダウ平均が15,000ドルを下回るまで下落する展開も
1. 米主要企業の 2015 年 10~12 月期の決算概要
米国の主要企業の 2015 年 10~12 月期の決算が出揃ってきた。2 月 11 日時点で S&P500 指数採用企業の
約 7 割超が発表を終えた。米企業の業績は、2015 年を通してドル高や原油安、中国をはじめとする新興国
の景気減速の影響により改善ペースの鈍化が続き、7~9 月期には S&P500 指数採用企業のEPS(1 株当た
り利益)の増益率(前年同期比)が約 6 年ぶりにマイナスに転落した。トムソン・ロイターの調査によれ
ば、10~12 月期についても、決算発表シーズン
図表 1
S&P500 採用企業のEPS推移と予想
直前となる 12 月末時点のEPSの予想増益率
全体
資本財・サービス
素材
(同)は▲3.7%と 7~9 月期の▲0.8%からさらに
減益幅が拡大する予想となっていた。決算発表が
一般消費財・サービス
情報技術
エネルギー(右目盛)
(%)
(%)
進んだ 2 月 11 日時点では、▲3.9%と予想をさら
20
に上回る減益幅となる公算が大きくなっている。
15
業種別に 10~12 月期の増益率を見てみると、資
10
50
予想
源価格の下落を背景に、エネルギーのEPSの増
30
10
5
▲ 10
益率(同)が▲75%を超える大幅減益となった他、
0
素材も▲17.3%の減益と減益幅が大きい。エネル
▲ 30
ギーは 2014 年 10~12 月期から 5 四半期連続の減
▲5
益で、減益幅も拡大傾向にある。また、その他の
▲ 10
業種でも情報技術、資本財・サービス、生活必需
▲ 15
品が小幅ながら減益となったようだ。情報技術は
▲ 20
▲ 50
▲ 70
▲ 90
15/1Q 15/2Q 15/3Q 15/4Q 16/1Q 16/2Q 16/3Q 16/4Q
海外の売上高比率が 60%程度と最も高い業種で
(注)15/4Qについては、2月11日までに決算発表を終えた企業の実績と未発表の企業
の予想が混在。
(資料)Thomson Financial First Callより、みずほ総合研究所作成
あり、ドル高の影響を受け易い。また、資本財・
1
サービスはドル高に加え新興国経済の減速も業績の重荷となったと見られる。一方、高いEPSの増益率
(前年同期比)であったのは、通信の 20.1%、一般消費財・サービスの 11.2%といった内需関連に加え、
ヘルスケアの 8.3%であった。ヘルスケアについては、海外売上高比率が 50%を超えており、ドル高の逆
風下でも高い増益率を確保している。市場規模の拡大が見込まれる、或いは高い技術力を持つ分野の米国
企業の強さを裏付ける結果となった。主要企業の個別決算に目を向けてみると、ダウ平均株価の採用銘柄
のうち、2 月 3 日までに決算発表を終えた 25 社のうち、17 社が減収、16 社が減益という結果であった(図
表 2)。特にエネルギーと素材の売上高減が約▲30%と大きい他、資本財関連の企業も全て減収であり、
減収率が▲20%程度に及んでいる企業が目立つ。売上の減少が小幅に留まっている企業ではコスト削減等
により、利益段階で増益を維持した企業もあるが、減収幅が大きい企業ではこうした取り組みで吸収しき
れないのが実情であるだろう。
2.
主要企業の 2015 年通期決算概要と 2016 年の業績見通し
(1)原油価格の下振れを主因に徐々に下方修正され、横這いとなった 2015 年企業業績
2015年10~12月期と併せて多くの企業で2015年通期の企業業績も発表されているが、S&P500採用企業の
2015年通期の利益は、実額で前年比1.1%(次頁図表3)、EPSでも前年比0.2%程度と概ね横這いとなっ
たようだ。年ベースでも2010年以降改善基調が続いていた企業業績は、2009年以来の踊り場を迎えている。
図表 2
会社名
業種
米主要企業の業績推移と予想
10~12月期
増収率
(前年比、%)
10~12月期
増益率
(前年比、%)
2015年
増収率
(前年比、%)
2015年
増益率
(前年比、%)
2016年
予想増収率
(前年比、%)
2016年
予想増益率
(前年比、%)
Chevron Corp
エネルギー
▲ 34.4
赤字化
▲ 34.7
▲ 69.0
▲ 18.9
▲ 38.7
Exxon Mobil Corp
エネルギー
▲ 28.5
▲ 58.3
▲ 34.7
▲ 50.3
▲ 18.8
▲ 35.4
素材
▲ 28.2
赤字化
▲ 30.3
▲ 32.4
▲ 2.1
5.7
資本財
▲ 22.6
赤字化
▲ 14.8
▲ 25.0
▲ 10.2
▲ 28.1
4.1
EI du Pont de Nemours & Co
Caterpillar Inc
資本財
▲ 22.0
▲ 51.7
▲ 21.3
▲ 21.6
9.1
Procter & Gamble Co/The
家庭・パーソナル用品
▲ 16.1
▲ 2.4
▲ 8.2
▲ 17.3
▲ 14.3
1.4
United Technologies Corp
資本財
▲ 15.9
赤字化
▲ 13.3
▲ 10.6
1.0
▲ 4.1
Microsoft Corp
ソフトウェア
▲ 10.1
▲ 14.8
7.8
▲ 2.9
▲ 1.5
2.5
International Business Machines Corp
ソフトウェア
▲ 8.5
▲ 19.1
▲ 11.9
▲ 12.2
▲ 4.5
▲ 12.7
▲ 6.1
General Electric Co
総合金融
▲ 7.9
▲ 37.9
▲ 2.2
▲ 5.4
▲ 1.5
3M Co
資本財
▲ 5.5
▲ 11.9
▲ 4.9
▲ 0.7
▲ 0.0
2.4
Boeing Co/The
資本財
▲ 3.7
▲ 30.0
5.9
22.0
▲ 1.9
▲ 25.6
消費者サービス
▲ 3.5
9.9
▲ 7.4
▲ 1.2
▲ 5.3
▲ 1.0
総合金融
▲ 3.5
▲ 64.7
▲ 2.1
5.3
▲ 1.2
▲ 5.3
Merck & Co Inc
医薬品・バイオテク
▲ 2.5
▲ 86.6
▲ 6.5
▲ 0.2
1.5
2.1
Johnson & Johnson
医薬品・バイオテク
▲ 2.4
27.5
▲ 5.7
2.0
2.1
2.2
保険
American Express Co
McDonald's Corp
Goldman Sachs Group Inc/The
▲ 0.8
▲ 16.6
▲ 1.3
▲ 5.6
1.6
▲ 16.4
半導体
1.3
▲ 1.3
▲ 0.9
▲ 0.2
6.8
9.0
銀行
1.4
10.2
▲ 1.3
▲ 5.3
3.3
9.0
テクノロジー・ハード
1.7
1.9
27.9
35.1
▲ 1.9
▲ 6.0
Travelers Cos Inc/The
Intel Corp
JPMorgan Chase & Co
Apple Inc
電気通信
3.2
黒字化
3.6
22.4
0.2
▲ 0.1
NIKE Inc
耐久消財・アパレル
4.1
19.8
10.1
21.5
7.2
14.4
Visa Inc
ソフトウェア
5.4
23.7
9.3
12.5
8.7
6.1
医薬品・バイオテク
7.1
▲ 50.8
▲ 1.1
▲ 5.3
5.7
3.5
ヘルスケア機器
30.4
10.2
20.4
11.0
15.3
19.6
Verizon Communications Inc
Pfizer Inc
UnitedHealth Group Inc
(注)網掛けは特に2015年の減収・減益幅が顕著であった企業。
(資料)Bloombergより、みずほ総合研究所作成
2
業種別には、エネルギーが▲59.2%と通期の利益実額でも大幅な減益、素材が▲7.2%の減益であった。10
~12月期にEPSの前年同期比がマイナスであった情報技術や資本財・サービス、生活必需品も通期では
増益に踏み止まった。通期の利益で10%を超える高い伸びを見せたのは、10~12月期も堅調さを維持して
いた、一般消費財・サービス、ヘルスケア、情報通信であった。2014年から2015年への利益の実額の変化
に対する業種別の寄与度を見てみると、エネルギーが約▲6.5%程度全体を押し下げており、エネルギー業
種の利益減額の影響の大きさが分かる(図表4)。
期初時点の2015年業績予想を振り返ってみると、S&P500採用企業全体で5%程度の増益率が予想されてい
た。しかし、春先には2%、夏場には1%と徐々に下方修正されていき、最終的には横這いに着地した。利
益実額では、期初の予想利益金額から約4%下方修正されている。期初の利益予想から下振れる要因となっ
た業種は何であったのか。期初と現在の予想利益の変化に対する寄与度を見てみると、やはりエネルギー
が▲2%と▲4%の減額の約半分を占める。期初のエネルギーの2015年のEPS前年比は▲40%と大幅な減
益が予想されていたものの、想定以上の原油安の進行に▲60%という減益幅に拡大した。期初からの利益
予想の変化に対する寄与度では、次いで消費関連(一般消費財・サービスと生活費必需品の合計)が▲1%、
資本財・サービスが▲0.5%の寄与度となっている。消費関連については、相対的には高い利益の伸び率を
維持しているものの、期初の一般消費財・サービスの2015年の増益率は16%程度と現時点の12%より高い
伸びが予想されており、米国経済を支える個人消費についても期初の想定程ではなかったようだ。
(2)2016 年は後半を中心に業績改善ペースが強まる予想だが、下振れ懸念も大きい
2016年の業績予想に目を向けてみると、トムソン・ロイターの調査ではS&P500採用企業全体で利益実額
ベース4%程度の増益が見込まれている。2015年に続き一般消費財・サービスや金融、ヘルスケア等で好業
績が予想されている一方、減益が予想されているのはエネルギーのみで減益幅は▲46%に縮小する見込み
図表 3
S&P500 採用企業の業績推移と予想
その他
資本財・サービス
金融
図表 4
ヘルスケア
消費関連
情報技術
(10億ドル)
1,200
14
800
その他
ヘルスケア
資本財・サービス
消費関連
金融
情報技術
エネルギー
(%)
12
(%)
1,000
利益成長率への業種別寄与度
50
10
40
8
30
6
4
20
600
2
10
0
400
0
200
0
▲ 200
07
08
09
10
11
12
13
14
▲2
▲ 10
▲4
▲ 20
▲6
▲ 30
15 16
(予) (予) (年)
▲8
(資料)Datastreamより、みずほ総合研究所作成
予想
2011年
2012年
2013年
2014年
(資料)Datastreamより、みずほ総合研究所作成
3
2015年
(予)
2016年
(予)
だ。
四半期のEPSの増益率(前年同期比)の予想では、2016年1~3月期までは全体でマイナスが予想され
ているものの、4~6月期に横這い圏に戻し、7~9月期以降は改善に復する予想となっている(1頁図表1)。
特にエネルギーと素材については2016年10~12月期のEPS増益率(同)がそれぞれ34%、21%とV字回
復を辿ることとなっている。アナリストによる個別企業の業績予想を見てみても、素材やエネルギー関連
企業の2016年の業績予想は改善、或いは減益幅が縮小する予想である(2頁図表2)。こうした予想は原油
価格が2016年後半にかけて緩やかに反発するとの前提に立っていると考えられる。しかし、上述の通り、
2015年も期初には5%程度の増益が見込まれた一方、原油価格が想定以上に下落しエネルギー等の業種の予
想利益の減額が行われてきた経緯がある。原油価格については、依然WTI先物価格が30ドル前後という
低位で不安定な推移が続いており、中国経済をはじめ世界経済の不透明感が高まりつつある中では、2016
年も原油価格動向に伴う業績下方修正リスクは大きい。
3. 米国株式相場の見通し
2015年は夏場に中国の人民元切り下げをきっかけとした大幅な調整を挟み、年終盤にかけて一部取り戻
したものの、ダウ平均の年間騰落率は2008年以来となるマイナスであった。一旦落ち着いた金融市場や底
堅い米景気を背景にFRBは2015年12月に利上げに踏み切ったものの、2016年入り後、再び原油価格の下
落と中国元安・株安を警戒し、世界的に株価が急落する展開となった。ECBによる金融緩和策強化の示
唆(1/21)、日銀による追加緩和策の発表(1/29)といった各国の緩和的な金融政策継続の姿勢を好感し
一部取り戻したものの、冴えない企業業績や改善ペースの鈍化が顕著である経済指標から米国経済の先行
きにも警戒感が高まりつつあり、上値の重さも目立つ。機関投資家に対するアンケート調査によれば、米
国株への強気派が年初以降急減し、弱気派は
図表 5
2009年以来の高い水準に上昇している。FRB
による利上げのペースに関する不透明感も投資
家心理の重荷となっているだろう。FOMCの政策
金利見通しによれば、2016年は4回の利上げが想
定されており、早ければ直近3月のFOMCでの利上
予想EPSに基づく想定株価と実績
(ドル)
18,500
18,000
17,500
げの可能性も残存している。金融市場では、各
国の国際協調を含めた政策対応を期待する向き
もあるが、仮に米国の3月の利上げが見送られる
17,000
16,500
公算が大きくなれば、株式市場では一旦は安心
感が広がると考えられる。しかし、株価の本格
的な反転には企業業績及び米景気の明確な改善
16,000
想定株価(PER15倍)
15,500
の確認が条件となるだろう。企業業績について
は、上述の通り、2016年後半から徐々に改善基
実績(月中平均)
15,000
14/01
調に復す見通しだが、前半にかけては株価も上
14/07
15/01
15/07
16/01
(注)1.想定株価はPER15倍として算出。
(注)2.予想EPSは2016年2月1日時点のデータ。
(資料)Datastream、Bloombergより、みずほ総合研究所作成
値の重い展開が予想される。
4
16/07
(年/月)
バリュエーション面で株価の水準を考察してみると、ダウ平均株価の予想PERは史上最高値を更新し
た2015年5月頃の16倍台から2016年1月には14倍台に低下しており、割高感は後退している。一方、2016年
の予想EPS(1月末時点)からPERを15倍と仮定した想定株価は、ダウ平均で16,000ドル程度と足元の
株価と同水準であり、割安感がある訳ではない(前頁図表5)。2016年の予想EPSは前年比約5%の増益
が見込まれているが、原油価格や新興国経済の動向により下方修正される可能性が高いと予想される。仮
に2016年のEPSが前年比横ばいであった場合の想定株価はダウ平均で15,500ドル程度、5%減益であった
場合は14,800ドル程度まで下落する。2016年後半に業績の持ち直しに伴い株価も徐々に上昇基調に復する
のがメインシナリオではあるが、原油価格の下落等に伴い業績下振れ懸念が台頭する場面では一時的にダ
ウ平均株価が15,000ドルを下回る水準まで下落する展開もあり得るだろう。
●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに
基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。
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