国際的な金融規制改革の動向(9訂版)(PDF/1.24MB)

国際的な金融規制改革の動向(9訂版)
2015年3月31日
金融調査部 主任研究員 佐原 雄次郎
Copyright Mizuho Research Institute Ltd. All Rights Reserved.
目次(本編)
項目
主な内容
1.国際的な金融規制改革の全体像
ページ
3
2.バーゼルⅢ
・自己資本比率
・レバレッジ比率
・流動性規制(LCR・NSFR)
・自己資本規制の簡素さ・比較可能性の向上
・銀行勘定の金利リスク(IRRBB)の取り扱い
3.SIFIs(システム上重要な金融機関)対応
・金融機関の実効的な破綻処理
・G‐SIBsの指定、G‐SIBサーチャージ
・TLAC(G‐SIBsに対する破綻時損失吸収力要件)
21
4.店頭デリバティブ市場改革
・清算集中義務
・中央清算されない取引に係る証拠金規制
26
5.シャドーバンキング問題への対応
・MMF規制改革
・証券化リスク・リテンション
31
6.その他の国際的な改革
・大口エクスポージャー規制
・データ報告・集約
・リスクアペタイト・フレイムワーク(RAF)
35
7.各国独自の動き
・高リスク業務の隔離(ボルカー・ルール等)
・外国銀行規制(米国FBO規制)
・金融セクターへの課税
39
8.今後の方向
6
47
1
目次(付録:規制改革の銀行ビジネス・金融市場への影響)
項目
付録1 規制改革の銀行ビジネスへの影響
ページ
49
(1) 自己資本の増強
50
(2) エクスポージャーの圧縮
51
(3) 保有資産の変化
53
(4) 資金調達構造の変化
55
(5) 高リスク業務の撤退・縮小
56
(6) コンプライアンス・コストの増大
57
(7) 健全性の変化
58
(8) 貸出の動向
60
(9) 収益性の変化
62
(10)経営戦略の分化
64
付録2 規制改革の金融市場への影響
65
(1) 市場流動性の低下
66
(2) 金融仲介チャネルの変化
69
2
1.国際的な金融規制改革の全体像
2.バーゼルⅢ
3.SIFIs(システム上重要な金融機関)対応
4.店頭デリバティブ市場改革
5.シャドーバンキング問題への対応
6.その他の国際的な改革
7.各国独自の動き
8.今後の方向
付録1:規制改革の銀行ビジネスへの影響
付録2:規制改革の金融市場への影響
3
1.(1) 危機で明らかになった問題と改革の主な分野
 米国サブプライム問題を契機とした金融市場の混乱は、2008年9月のリーマンショックを経て、世界的な金融危機
に発展
 金融危機で明らかになった問題へ対処するため、再発防止に向け幅広い分野で金融規制の改革が進展
金融危機で明らかになった問題



金融機関の収益極大化のための過大なリスクテイク
過大なリスクテイクの背後に潜むモラルハザード(大き過ぎて潰せない問題)
金融商品の複雑化とリスクの見えにくさ

金融市場の国際化によるリスクの広がり
危機の再発防止に向けた改革
銀行の健全性の強化
(バーゼルⅢ)
システム上重要な
金融機関への対応
金融市場の透明性・
安定性の確保
自己資本比率の強化
破綻処理の枠組整備
店頭デリバティブ
レバレッジ比率
資本の上乗せ
MMF
銀行からの
高リスク業務の隔離
米国ボルカー・ルール
証券化
英国リテール・リングフェンス
流動性規制
破綻時の損失吸収力
レポ・証券貸借
4
1.(2) 国際的な検討の枠組み
 G20諸国の合意(首脳会合、財務大臣・中央銀行総裁会議等)により、改革の大きな方向性を提示
• FSB(金融安定理事会)、バーゼル委(バーゼル銀行監督委員会)等の国際機関が具体的な改革に係る原則を策
定
• 各国当局は、国際合意に基づき、国内法、ルールを制定し、規制・監督を実施
• ただし、各国当局の独自規制導入や、国際合意より厳しい規制を導入する動きも存在
【 金融規制改革の国際的な検討の枠組み 】
G20
合意・声明等
報告・提言
メンバー:
G20諸国等の財務相・中央銀行・監
督当局および国際機関等
FSB(金融安定理事会)
証券
IOSCO
(証券監督者国際機構)
銀行
保険
バーゼル委
(バーゼル銀行監督委員会)
IAIS
(保険監督者国際機構)
合意された原則
意見等
各国当局
メンバー:
各国・地域の銀行監督当局や中央
銀行等
監督・規制
意見等
金融機関
(資料) みずほ総合研究所作成
5
1.国際的な金融規制改革の全体像
2.バーゼルⅢ
3.SIFIs(システム上重要な金融機関)対応
4.店頭デリバティブ市場改革
5.シャドーバンキング問題への対応
6.その他の国際的な改革
7.各国独自の動き
8.今後の方向
付録1:規制改革の銀行ビジネスへの影響
付録2:規制改革の金融市場への影響
6
2.(1) バーゼルⅢの全体像
 バーゼル委は、 2010年12月にバーゼルⅢテキストを公表。国際的に活動する銀行に対する規制を強化
• 自己資本比率の強化(保有する資産に対して十分な自己資本を確保)
• レバレッジ比率の導入(自己資本比率を補完)
• 流動性規制(流動性カバレッジ比率、安定調達比率)の導入(銀行の資金繰り破綻を防止)
【 銀行のバランスシートとバーゼルⅢ(イメージ) 】
資産
負債
流動
流動
流動性カバレッジ比率の導入
ストレス下での資金流出に対応可能
なレベルの高品質な流動資産を確保
自己資本比率の強化
固定
自己資本
安定調達比率の導入
売却困難な資産に対し、
中長期的に安定的な調達を確保
最低水準の引き上げ
資本の質の向上
補完
レバレッジ比率の導入
固定
低リスクウェイト資産の積み上げ
による過度なレバレッジを抑制
(資料) みずほ総合研究所作成
7
2.(2) 自己資本比率の強化
① 普通株式等Tier1新設、Tier1最低水準引き上げ
 金融機関の健全性をより強化するため、自己資本のうち、より損失吸収力の高いTier1資本を重視
 Tier1のうち特に損失吸収力の高い普通株式等から構成される普通株式等Tier1(CET1)、Tier1、総自己資本(Tier1+
Tier2)の各々について、リスクアセット額に対する最低比率を設定
 バーゼルⅢ最終文書では、最低比率を普通株式等Tier1で4.5%、 Tier1で6% 、総自己資本で8%に
【 普通株式等Tier1の新設、Tier1最低水準の引き上げ 】
<バーゼルⅡ>
<バーゼルⅢ>
≧4%
Tier1
≧4.5%
Tier2
普通株式等Tier1(CET1)
≧ 8%
リスクアセット
Tier1
≧6%
Tier2
≧ 8%
リスクアセット
(信用リスク+マーケットリスク+オペレーショナルリスク)
信用リスク
資産の各項目にそれぞれのリスク
ウェイトを乗じて得た額の合計額
マーケットリスク
資産の市場変動リスクの相当額
オペレーショナルリスク
事務事故・システム障害・不正行為等
で損失が生じるリスクの相当額
(資料) 金融庁資料より、みずほ総合研究所作成
8
2.(2) 自己資本比率の強化
② 自己資本への算入対象の厳格化
 その他Tier1・Tier2に算入可能な資本性商品の条件は厳格化
• 金利ステップアップ条項不可、トリガー事由発生時に当局の裁量下で元本削減・普通株転換による損失吸収が
可能となる契約条項(Point of Non-Viability(PONV)条項)が必要など
 控除項目も、対象範囲の拡大や控除方法の厳格化など規制強化の方向
• 連結外金融機関向け出資の控除対象は、従来の国内預金取扱金融機関から銀行・証券・保険を含む国内外の
金融機関に拡大
【 主な控除項目の見直し 】
【 自己資本の区分 】
主な対象
バーゼルⅡ
バーゼルⅢ
銀行、証券、保険を含む国内外の金融機関について
項目
内容
下記を控除
Tier1
普通株式等
Tier1(CET1)
その他Tier1
○ 普通株および内部留保
(その他包括利益(その他有価
証券評価差額金等)を含む)
▲控除項目
○ 優先株
○ その他高い損失吸収力を有する資本性商品
※会計上負債に分類されるものは元本削減や普通株転
換の仕組みが必要、金利ステップアップ条項不可 等
○ 一部の優先出資証券、劣後債、劣後ローン
Tier2
※実質破綻時に元本削減や普通株転換が必要、金利ス
テップアップ条項不可 等
①資本嵩上げ目的の持合
・国内預金取扱 → 全額控除
連結外金融機 金融機関への意 ②普通株10%以下出資先
→ 自己の普通株式等Tier1部分の10%超相当分を控除
関向け出資 図的保有
③普通株10%超出資先
・関連会社向け → a.普通株について自己の普通株式等Tier1部分の
10%超相当分を控除(注)
出資
b.その他資本について全額控除
のれん以外の
(控除対象外)
無形資産
全額控除
前払年金費用 (控除対象外)
全額控除
主要行につき、 ・繰越欠損金については全額控除
繰延税金資産 Tier1の20%超 ・会計と税務の一時差異に基づくものは、自己の普通株
相当分を控除
式等Tier1部分の10%超相当分を控除(注)
○ 一般貸倒引当金 等
(資料) みずほ総合研究所作成
(注)10%超出資先の普通株出資相当額と一時差異に係る繰延税金資産相当額は、モーゲージ・
サービシング・ライツ(日本国内では該当なし)と併せて、自己の普通株式等Tier1の最大
15%までが控除対象外。
(資料)金融庁資料より、みずほ総合研究所作成
9
2.(2) 自己資本比率の強化
③ 各種資本バッファーの導入
 各種資本バッファーを新たに導入。水準を下回った場合、配当等の社外流出を制限
• 資本保全バッファー・・・2.5%を各行一律に上乗せ
• カウンターシクリカル資本バッファー・・・ 0~2.5%を景気過熱時に各国当局の判断で上乗せ
• G‐SIBサーチャージ・・・グローバルなシステム上重要な銀行(G‐SIBs)に対して1.0~2.5%を上乗せ(後述P.24)
【 所要自己資本の最低水準と各種資本バッファー 】
普通株式等Tier1
(控除項目控除後)
最低水準
4.5%
資本保全バッファー
2.5%
所要資本 (注)
7.0%
Tier1
総自己資本
6.0%
8.0%
各行一律に上乗せ
8.5%
10.5%
カウンターシクリカル資本バッファー
0~2.5%
景気過熱時に各国当局の判断により上乗せ
G-SIBs向け追加的資本賦課
1~2.5%
G-SIBsに対して上乗せ
(注) カウンターシクリカル資本バッファーおよびG-SIBサーチャージの両方とも対象外の銀行の場合
(資料) バーゼル委資料より、みずほ総合研究所作成
10
2.(3) レバレッジ比率の導入
 自己資本対比で過大な資産の積み上げを抑制するため、リスクベースの自己資本比率を補完するものとしてレバレッ
ジ比率を導入
• リスクウェイトによる調整等を行わない簡素な指標とすることで、リスクウェイトの低い資産の積み上げによる過度
なレバレッジを抑制
• 2013年1月から2017年1月までの試行期間において最低水準を3%としてテスト
• 2018年1月から第1の柱へ移行(最低所要水準を設定)することを視野に入れつつ、2017年までに定義および水
準について最終的な調整が行われる予定
【 レバレッジ比率の概要 】
試行期間中の試験的な
最低水準
Tier1
レバレッジ比率=
エクスポージャー
○ 以下4つのエクスポージャーの合計
①オンバランス項目
②デリバティブ取引
③レポ取引等の証券金融取引(SFT)
④オフバランス項目
○ 基本的に会計上の数値を用い、リスク
ウェイトによる調整を行わない
(資料) みずほ総合研究所作成
≧ 3%
【 レバレッジ比率に係るスケジュール 】
2013
2014
2015
開示開始
試
行
期
間
2016
2017
定義・水準の最終調整
2018
第1の柱への移行を視野
(資料) みずほ総合研究所作成
11
2.(4) 流動性規制の導入
① 流動性カバレッジ比率(LCR)
 流動性カバレッジ比率(LCR) は2015年から段階的に実施され、2019年に完全実施予定
• 金融危機の際の資金繰り悪化の教訓を踏まえ、 30日間のストレス下での資金流出に対応できるよう、 良質な流
動資産の確保を求める規制
【 流動性カバレッジ比率(LCR)の概要 】
掛け目
項目例
レベル1資産
適格流動資産
≧100%
30日間のストレス期間の純資金流出額
(30日間の資金流出 - 30日間の資金流入)
現金、中銀預金、国債(リスクウェイト0%、
リスクウェイト0%でない母国国債)
国債(リスクウェイト20%)、高品質(AA-
レベル2A資産 以上)な非金融社債・カバードボンド・事
業会社CP
85%
75%
RMBS(AA以上)
レベル2B資産 一部の非金融社債(A+~BBB-)・上場
株式
項目例
金融機関からの無担保調達
事業法人等からの無担保調達
ホールセール
レベル2B資産を担保とした調達
調達
レベル2A資産を担保とした調達
レベル1資産を担保とした調達
リテール預金
準安定預金
安定預金
掛け目
100%
40%・20%
50%・25%
15%
0%
10%
5%
項目例
金融機関・中銀向け健全債権
リテール、事業法人、政府・公共部門向け健全債権
適格流動資産以外を担保とするレポ運用
リバース・ レベル2B資産を担保とするレポ運用
レポと
レベル2A資産を担保とするレポ運用
証券借入
レベル1資産を担保とするレポ運用
100%
50%
掛け目
100%
50%
100%
50%・25%
15%
0%
(資料) 金融庁資料より、みずほ総合研究所作成
12
2.(4) 流動性規制の導入
② 安定調達比率(NSFR)
 安定調達比率(NSFR)は2018年から実施予定
• 金融危機の際の資金繰り悪化の教訓を踏まえ、売却が困難な資産の保有に対して、中長期的に安定的な調達
(負債・資本)を求める規制
【 安定調達比率(NSFR)の概要 】
利用可能な安定調達額(資本+預金・市場性調達の一部)
≧100%
所要安定調達額(資産)
項目例
長期貸付(1年以上)
デリバティブ資産-デリバティブ負債≧0の場合のデリバティブ・ネット資産額
デリバティブに関連して差し入れている当初証拠金
短期貸付
1年未満のリテール・法人向け、6カ月以上1年未満の金融機関向け
6カ月未満の金融機関向け
レベル2B資産
適格流動資産
レベル2A資産
レベル1資産
項目例
長期負債(残存1年以上)
リテール預金(残存1年未満または満期なし)
法人預金(残存1年未満または満期なし)、オ
ペレーショナル預金、金融機関からの借入
(残存6カ月以上1年未満)
金融機関からの借入(残存6カ月未満)
掛け目
100%
90%・95%
50%
0%
掛け目
65%・85%・100%
100%
85%
50%
10%・15%
50%
15%
5%
(資料) 金融庁資料より、みずほ総合研究所作成
13
2.(5) 見直し中の事項
① トレーディング勘定の抜本的な見直し
 バーゼル委は、金融危機においてトレーディング勘定のリスクが十分に捕捉されていなかったことを踏まえ、2009年7月
にトレーディング勘定におけるリスク捕捉の強化(いわゆるバーゼル2.5)を公表
 しかし、バーゼル2.5は危機への応急措置的なものであったため、バーゼル委は、トレーディング勘定の抜本的な見直
しを進めている
• 2012年5月、2013年10月、2014年12月に市中協議文書を公表
【 トレーディング勘定の抜本的見直しの主な項目 】
項目
目的
内容
銀行勘定とトレーディング勘定
の境界の見直し
勘定間の差異に基
づく規制裁定行為の
防止
• トレーディング勘定への分類が想定される商品と分類すべきでない商品を例示
• 両勘定間の付け替えを原則禁止
• 上場株式や株式ファンドはトレーディング勘定に分類
信用リスクの取り扱い
適切な信用リスクの
計測
• 証券化エクスポージャーは新たな標準的方式で計測
• その他は①デフォルト・リスク、②スプレッド・リスク(格付け遷移を含む)に係る
各資本賦課の合計
期待ショートフォール(Expected
Short fall:ES)の導入
テイル・リスクのより
的確な捕捉
• リスク計測手法を「VaR(信頼水準99%)」から「期待ショートフォール(閾値
97.5%)」に移行
流動性ホライズンの導入
市場流動性リスクの
包括的勘案
• 市場ストレス時におけるリスク商品のエクスポージャー解消に要する期間を現
状の10日間から5つの流動性ホライズンに細分化し、ES算出時に勘案
ストレス時のデータを用いた資
本水準の設定
市場ストレス時の十
分な自己資本確保
• ストレス期間のデータに基づくリスク量に水準調整を行う枠組みに移行
標準的方式と内部モデル方式
の関係強化
比較可能性の促進
• 全銀行に標準的方式に基づく計測および同方式に基づくデスク(部門)毎の所
要自己資本の開示を義務化
(資料) みずほ総合研究所作成
14
2.(5) 見直し中の事項
② 銀行勘定の金利リスク(IRRBB)の取り扱い
 現行の枠組みでは、銀行勘定の金利リスク(IRRBB)は第2の柱(監督上の対応)の対象。アウトライヤー基準に該当した
銀行は、監督当局による早期警戒の対象となる
 現在、バーゼル委では、以下の理由から、銀行勘定の金利リスクの取り扱いについて、見直しを検討中
① トレーディング勘定の金利リスクが第1の柱(資本賦課)の対象であり、両勘定間での規制回避行為が問題とさ
れていること
② 世界的な低金利が続いており将来の金利上昇に対する備えが必要であること
【 アウトライヤー基準 】
銀行勘定の金利リスク量(経済価値低下額)が総自己
資本(Tier1とTier2の合計額)の20%を超える場合、アウ
トライヤー基準に該当
【 トレーディング勘定の抜本的見直しの第2 次市中協議
文書(2013年12月)の要旨(抜粋 ) 】
バーゼル委は、銀行勘定における金利リスク及
びクレジット・スプレッド・リスクについても、第1 の柱
※ 銀行勘定の金利リスク量:以下のいずれか
における資本賦課の対象とする必要性について検
① 金利がイールド・カーブに沿って2%上下に平行移
動した場合のリスク量
討している。
② 保有期間1年、観測期間最低5年で測定される99
パーセンタイルと1パーセンタイルの金利変動のリ
スク量
(資料) 金融庁資料より、みずほ総合研究所作成
(資料) 金融庁資料より、みずほ総合研究所作成
15
2.(5) 見直し中の事項
③ 自己資本規制の簡素さ・比較可能性の向上
 自己資本規制の枠組みの複雑化に伴う銀行間の比較可能性の低下等の問題指摘を受けて、バーゼル委は自己資本
比率のばらつき軽減に取り組み中
• 2013年7月、バーゼル委は、「規制枠組み:リスク感応度、簡素さ、比較可能性のバランス」と題するディスカッショ
ン・ペーパーを公表
• 2014年11月、バーゼル委は、「銀行の規制資本比率計測における過度なばらつきの削減にかかるG20向け報告
書」を公表
 具体的には、自己資本比率の比較可能性を高めるため、内部モデル利用に係る各国・各銀行の裁量を小さくするとと
もに、標準的手法を見直し、当該手法に基づく資本フロア(所要自己資本の額の下限)を導入する方向
【 バーゼル委「銀行の自己資本比率計測における過度なばらつきの削減」(2014年11月)で示された政策対応 】
項目
内容・方向
ステータス・予定
標準的手法の見直し
信用リスク、マーケットリスク、オペレーショナルリスク、のそ
れぞれの標準的手法について見直し
・それぞれのリスクについて市中協議文書公表済み
・いずれも2015年中に最終化される予定
新たな資本フロアの導入
バーゼルⅡへの移行措置から、標準的手法に基づく恒久的
な資本フロアへ
・2014年12月に市中協議文書を公表済み
・2015年中に最終化される予定
信用リスクに係る内部格付
手法の見直し
パラメータ推計の制約、標準的手法との定義の整合性確保、 ・2015年半ばまでに市中協議文書を公表する予定
内部モデル手法に関する詳細なガイダンス
・2015年中に最終化される予定
マーケットリスクに係る内部
モデル方式の見直し
内部モデルの整合性強化
・第2次市中協議完了済み
・2015年中に最終化される予定
リスクウェイトによる調整を行わない非リスクベースの指標を
導入し、リスクベースの自己資本比率を補完
・2013年~2017年:試行期間
・2015年:銀行による開示が開始
・~2017年:定義・水準の調整
・2018年:本格導入(予定)
レバレッジ比率の導入
(資料) みずほ総合研究所作成
16
2.(6) バーゼルⅢの段階的導入
 バーゼルⅢは2013年1月1日に段階的導入開始 。完全実施は2019年1月の予定
【 バーゼルⅢの段階的導入 】
普通株式等Tier1最低水準
2014
2015
2016
2017
2018
2019
4.0%
4.5%
4.5%
4.5%
4.5%
4.5%
0.625%
1.250%
1.875%
2.5%
資本保全バッファー
自己資本比率
G-SIBサーチャージ
1.0%~2.5%
段階的に導入
普通株式等Tier1+資本保全バッファー
4.0%
4.5%
5.125%
5.750%
6.375%
7.0%
普通株式等Tier1からの控除項目に係る経過措置
20%
40%
60%
80%
100%
100%
Tier1最低水準
5.5%
6.0%
6.0%
6.0%
6.0%
6.0%
総自己資本最低水準
8.0%
8.0%
8.0%
8.0%
8.0%
8.0%
総自己資本最低水準+資本保全バッファー
8.0%
8.0%
8.625%
9.250%
9.875%
10.5%
Tier1またはTier2に算入できなくなる資本項目
レバレッジ比率
流動性カバレッジ比率(LCR)
安定調達比率(NSFR)
2013年から10年かけて段階的に廃止
試行期間:2013年1月~2017年1月
開示開始:2015年1月
60%
70%
第1の柱に
移行
80%
90%
100%
最低基準の
導入
(注)全ての日付は1月1日時点。白抜き部分は移行期間。
(資料)バーゼル委資料より、みずほ総合研究所作成
17
(ご参考)自己資本比率の達成状況
【 G-SIBsの自己資本比率の推移 】
【 G-SIBsの資本不足額の推移 】
Tier2
Tier2
その他Tier1
その他Tier1
普通株式等Tier1
普通株式等Tier1
900
14%
800
12%
700
10%
600
8%
500
400
6%
300
4%
200
2%
100
0%
0
2011年
6月
11年
12月
12年
6月
12年
12月
13年
6月
(資料) バーゼル委資料より、みずほ総合研究所作成
13年
12月
14年
6月
2011年
6月
11年
12月
12年
6月
12年
12月
13年
6月
13年
12月
14年
6月
(資料) バーゼル委資料より、みずほ総合研究所作成
18
(ご参考)レバレッジ比率の達成状況
【 G-SIBsのレバレッジ比率の推移 】
【 G-SIBsのTier1、リスクアセット、エクスポージャー、総資産の推移 】
5.0%
Tier1
リスクアセット
4.5%
エクスポージャー
(レバレッジ比率の分母)
会計上の総資産
4.0%
2011年6月=100
3.5%
150
3.0%
140
2.5%
130
2.0%
120
1.5%
110
1.0%
100
90
0.5%
80
0.0%
2011年
6月
11年
12月
12年
6月
12年
12月
(資料) バーゼル委資料より、みずほ総合研究所作成
13年
6月
13年
12月
14年
6月
2011年
6月
11年
12月
12年
6月
12年
12月
13年
6月
13年
12月
14年
6月
(資料) バーゼル委資料より、みずほ総合研究所作成
19
(ご参考)流動性規制の達成状況
【 G-SIBsのLCR・NSFRの水準 】
LCR
【 世界224行の適格流動資産保有量の項目別割合 】
NSFR
レベル1 現金、引き出し可能な中銀預金:35.0%
最大値
159.8%
149.9%
レベル1 リスクウェイトが0%の国債等:49.4%
第3四分位数
132.5%
112.7%
レベル1 リスクウェイトが0%でない国債等:4.2%
中央値
124.7%
104.0%
第1四分位数
114.6%
96.0%
92.2%
69.3%
125.9%
110.3%
最小値
加重平均
レベル2A リスクウェイトが20%の公債等:5.4%
レベル2A 非金融社債(AA-以上):1.8%
レベル2A カバードボンド(AA-以上):2.1%
(注) 2014年6月30日時点。
(資料) バーゼル委資料より、みずほ総合研究所作成
レベル2B RMBS:0.3%
レベル2B 非金融社債(BBB-~A+):0.5%
レベル2B 非金融普通株式:1.2%
(注) 2014年6月30日時点。
(資料) バーゼル委資料より、みずほ総合研究所作成
20
1.国際的な金融規制改革の全体像
2.バーゼルⅢ
3.SIFIs(システム上重要な金融機関)対応
4.店頭デリバティブ市場改革
5.シャドーバンキング問題への対応
6.その他の国際的な改革
7.各国独自の動き
8.今後の方向
付録1:規制改革の銀行ビジネスへの影響
付録2:規制改革の金融市場への影響
21
3.(1) 金融機関の実効的な破綻処理
① 国際的な取り組み
■ FSB「金融機関の実効的な破綻処理の枠組みの主要な特性」
 2011年11月、FSBは「金融機関の実効的な破綻処理のための枠組みの主要な特性」を公表
• 「大き過ぎて潰せない」問題に対処し、金融システムへの悪影響や納税者負担を回避しつつ、秩序ある破綻処理
を可能とするための取り組み
【 FSB「金融機関の実効的な破綻処理の枠組みの主要な特性」(2011年11月)の概要 】
 各国の破綻処理制度の改善(各国当局が有すべき破綻処理の権限を整理)
 G-SIFIごとに再建・破綻処理計画(RRP:recovery and resolution plan)を策定
 G-SIFIごとに破綻処理のしやすさを評価(resolvability assessments)
 G-SIFIごとに危機管理グループ(CMG:crisis management group、母国当局及び主要なホスト当局が参加)を設置
 破綻処理コストの負担方式としてベイル・イン(債権者に負担を負わせる方式)を提唱
(資料) みずほ総合研究所作成
■ デリバティブ市場における早期解約権の一時停止
 金融危機時にデリバティブ市場において早期解約権が行使され、危機が深化・伝播した経験を踏まえて、FSBは、早期
解約権行使の一時停止を可能とすることに取り組み中
• 各国は上記FSB原則に沿って早期解約権行使の一時停止を可能とするための国内の制度整備を実施
• ISDA(国際スワップ・デリバティブ協会)は、クロスボーダーの破綻処理における早期解約権の一時停止を対外的
にも有効とするため、ISDAマスター契約のプロトコル(協定)を策定
• 主要なグローバルな銀行18行は2014年10月までに本プロトコルの採用に合意済み。FSBは、全てのG‐SIBsとその
他のデリバティブ取引のエクスポージャーが大きい主体に対して、2015年末までの本プロトコルの採用を要求
22
3.(1) 金融機関の実効的な破綻処理
② 各国の取り組み
■ 米国
 2010年7月に成立したドッド・フランク法により、「秩序立った清算権限(OLA)」を導入
• 預金保険対象外の金融システムに影響を与え得る金融会社が対象(資産500億ドル以上の銀行持株会社、ノン
バンクSIFIs、その他の金融会社)
• FDIC(米連邦預金保険公社)は管財人として、ブリッジ金融会社設立等ほぼ銀行破綻処理と同等の権限を行使
 同じくドッド・フランク法により、大規模金融機関に対し、破綻時を想定した対応計画(いわゆるリビング・ウィル)の当局
宛提出と定期的な更新を義務付け
■ EU
 2014年5月、銀行再建・破綻処理指令(BRRD)を最終採択。2015年1月適用開始
• ブリッジバンクや他銀行への事業移転等の破綻処理権限の各国当局への付与を規定
• システム上重要な金融機関について再建・破綻処理計画の策定を規定
■ 日本
 2013年金商法等改正において、「金融機関の秩序ある処理の枠組み」を導入
• 対象は、預金金融機関・保険会社・証券会社・金融持株会社およびその子会社
• 債務超過の場合、重要な市場取引等を承継金融機関に引き継ぎ、履行を確保しつつ、破産法制に基づき金融機
関を処理
〇 また、金融庁は、金融モニタリング基本方針において、G‐SIBsに対して再建計画の策定・改訂を求めることや当局にお
いて処理計画の策定に向けた取り組みを進めることを明記
23
3.(2) G-SIBsの指定、G-SIBサーチャージ
 2011年11月、バーゼル委は、G‐SIBs(グローバルなシステム上重要な銀行)に対して1.0%~2.5%の普通株式等Tier1の
上乗せ(G‐SIBサーチャージ)を求める規制を公表。 2016年から段階適用、2019年に完全実施の予定
 2011年11月、FSBは、G‐SIBsに該当する29グループのリストを公表し、以後毎年更新(2014年11月時点では30グループ)
• G‐SIBsの選定は、規模、相互連関性、代替可能性、国際的活動、複雑性の5つの基準に対応した12の指標をスコ
ア化して判断
【 G-SIBsのリスト(2014年11月時点) 】
上乗せ水準 グループ数
銀行グループ名
3.5%
0
2.5%
2
HSBC(英)、JPモルガンチェース(米)
2.0%
4
バークレイズ(英)、BNPパリバ(仏)、シティ(米)、ドイツ銀行(独)
1.5%
6
バンク・オブ・アメリカ(米)、クレディ・スイス(瑞)、ゴールドマン・サックス(米)、三菱UFJ(日)、
モルガン・スタンレー(米)、RBS(英)
1.0%
18
中国農業銀行(中)、中国銀行(中)、BNYメロン(米)、BBVA(西)、BPCE(仏)、
クレディ・アグリコル(仏)、中国工商銀行(中)、ING(蘭)、みずほ(日)、ノルデア(スウェーデン)、
サンタンデール(西)、ソシエテ・ジェネラル(仏)、スタンダード・チャータード(英)、ステート・ストリート(米)、
三井住友(日)、UBS(瑞)、ウニクレディト(伊)、ウェルズ・ファーゴ(米)
計
30
-
-
(資料) FSB資料(2014年11月)より、みずほ総合研究所作成
24
3.(3) TLAC(G-SIBsに対する破綻時損失吸収力要件)
 2014年11月、FSBはTLAC(Total Loss‐Absorbing Capacity、G‐SIBsに対する破綻時損失吸収力要件)の基準案を公表
•
巨大銀行に対して、破綻時に備えた損失吸収力を確保させる取り組み
• 2015年中に国際基準最終化の予定。適用時期は、早くとも2019年1月
【 TLACの最低要件(リスクアセットベース) 】
TLAC適格債務
G-SIBsの
所要TLAC
16~20%
○ TLAC適格債務の必要条件
・ 残存期間が1年以上であること
・ 無担保であること
一般の銀行の
所要自己資本
・ 破綻処理エンティティー(邦銀の場合はグループ最上
位の持株会社となることが想定)によって保有されて
いること
バーゼルⅢ適格自己資本
(除く資本バッファー)
:8%以上
G-SIBsの
所要自己資本
資本バッファー(普通株式等Tier1)
資本保全バッファー:2.5%
カウンターシクリカルバッファー:0~2.5%
G-SIBs資本上乗せ:1~3.5%
・ 劣後性要件(①預金保険で保護される預金、②デリバ
ティブ負債、等に劣後すること)の充足
○ このほか、邦銀については、預金保険制度の強靭性が
考慮され、 TLACの最低要件の計算上、リスクアセット
対比2.5%またはそれ以上を分子に加算することが可能
となる見込み
(資料) みずほ総合研究所作成
25
1.国際的な金融規制改革の全体像
2.バーゼルⅢ
3.SIFIs(システム上重要な金融機関)対応
4.店頭デリバティブ市場改革
5.シャドーバンキング問題への対応
6.その他の国際的な改革
7.各国独自の動き
8.今後の方向
付録1:規制改革の銀行ビジネスへの影響
付録2:規制改革の金融市場への影響
26
4.(1) 店頭デリバティブ市場改革の全体感
 店頭デリバティブ取引について、中央清算機関(CCP)の利用や取引情報蓄積等を促進(各国で規制が順次導入)
 中央清算されない店頭デリバティブ取引については、証拠金規制を導入(2016年9月1日から段階適用開始予定)
• リーマンショック時に、CDS等の店頭デリバティブ市場においてカウンターパーティ・リスクの高まりにより急速な金
融危機の伝播が見られた反省を踏まえ、市場の透明性・安定性を改善
【 店頭デリバティブ市場改革のイメージ 】
金融危機時のデリバティブ
市場の問題点
① 清算集中義務(標準化された取引)
A
B
取引情報
中央清算
機関
A
B
C
D
当
中央清算機関の利用が促進され影響の波及を遮断
② 証拠金規制(清算集中されない場合)
C
D
A
B
証拠金
市場の誰かが破綻した場合、取引
相手を通じてその影響が伝播する
可能性(
)
証拠金
(資料) 金融庁資料より、みずほ総合研究所作成
C
取引情報
蓄積機関
(TR)
取引
情報
局
D
市場の誰かが破綻しても、取引相手は証拠金を受領してい
るため、取引相手を通じた影響の伝播は回避
27
4.(2) 店頭デリバティブ市場改革の経緯
 2009年9月のG20ピッツバーグ・サミットにおいて、2012年末を期限とした店頭デリバティブ市場改革に合意
【G20ピッツバーグ・サミット首脳声明抜粋(2009年9月)】
遅くとも2012年末までに、標準化されたすべての店頭デリバティブ契約は、適当な場合には、取引所又は電子取引基盤を
通じて取引され、中央清算機関を通じて決済されるべきである。店頭デリバティブ契約は、取引情報蓄積機関に報告され
るべきである。
(注)下線はみずほ総合研究所。
(資料)外務省
 2011年11月のG20カンヌ・サミットにおいて、中央清算されない店頭デリバティブ取引に関する証拠金規制の導入に合意
 2012年4月、BIS支払・決済システム委員会(CPSS)と証券監督者国際機構(IOSCO)は、中央清算機関(CCP)や取引情報蓄
積機関を含む金融市場インフラをより強固なものとすべく、「金融市場インフラのための原則」を策定
• CCPや取引情報蓄積機関の要件について国際的な基準を規定
28
4.(3) 中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制
 2013年9月、バーゼル委とIOSCOが「中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制の最終枠組み」を公表
 2015年3月、バーゼル委とIOSCOは枠組みを改訂
• 実施時期を9カ月延期。2016年9月1日から順次導入に変更(改訂前は2015年12月1日から順次導入)
• 各国規制の調和に向けて当局・業界間の調整を続けていく方針を表明
【 バーゼル委・IOSCO「中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制の最終枠組み」(2013年9月)の概要 】
適用対象となる取引
• 中央清算されない全てのデリバティブ取引
(現物決済型為替スワップ・フォワード取引は本枠組みの対象外)
適用対象となる業者
• 中央清算されないデリバティブ取引を扱う全ての金融機関及びシステム上重要な非金融機関(政府系機関・中
央銀行等を除く)間の取引について、当初証拠金と変動証拠金を、相互に授受
当初証拠金
• 取引相手がデフォルトした場合にデリバティブ取引を再構築するまでに想定される将来の時価変動をカバー(保
有期間10日、信頼区間99%)
• 証拠金率は、当局により承認された内部または第三者のモデル、あるいは、標準化された表を用いて算出
変動証拠金
• 既に発生している時価変動額をカバー
• 十分に高い頻度(例えば日次)で計算され、支払われるべき
実施時期(注)
• 変動証拠金:2016年9月1日から2017年3月1日にかけて段階的に導入(※)
• 当初証拠金:2016年9月1日から2020年9月1日にかけて段階的に導入(※)
※中央清算されないデリバティブ取引の想定元本が3兆ユーロ以上の適用主体同士の取引から順次導入
(注)実施時期については2015年3月のバーゼル委・IOSCOによる枠組みの改訂を踏まえた内容
(資料)金融庁資料より、みずほ総合研究所作成
29
4.(4) 店頭デリバティブ市場改革の各国における取り組み
 清算集中義務については、多くの法域で施行段階
• 日本・米国は施行済みであり、対象範囲や対象業者が順次拡大中
• EUは施行のためのルールが未採択であるものの、2015年末までに金利スワップに係る清算集中義務が適用開
始となる見込み
 中央清算されない取引に係る証拠金規制は、2016年9月から段階適用開始の予定
• 日本・米国・EUともルール案を公表済みであるものの未採択
【 各国における施行のための規則の状況 】
取引情報の報告義務
清算集中義務
取引所または電子取引基盤
の使用義務
中央清算されない取引に係
る証拠金規制
米国
部分的に施行済み
部分的に施行済み
部分的に施行済み
未採択
(ルール案公表済み)
EU
施行済み
未採択
(ルール案公表済み)
未採択
(ルール案公表済み)
未採択
(ルール案公表済み)
日本
施行済み
施行済み
未採択
(ルール案公表済み)
未採択
(ルール案公表済み)
(注)2014年11月時点。
(資料) FSB資料より、みずほ総合研究所作成
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1.国際的な金融規制改革の全体像
2.バーゼルⅢ
3.SIFIs(システム上重要な金融機関)対応
4.店頭デリバティブ市場改革
5.シャドーバンキング問題への対応
6.その他の国際的な改革
7.各国独自の動き
8.今後の方向
付録1:規制改革の銀行ビジネスへの影響
付録2:規制改革の金融市場への影響
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5.(1) シャドーバンキング問題への対応の背景
 銀行および銀行グループへの規制強化に伴う規制回避の動きに対処するため、非銀行金融セクター(シャドーバンキ
ング・セクター)への規制・監督も強化
• シャドーバンキングとは、ヘッジファンド、MMF(マネー・マーケット・ファンド)など、実質的に銀行に類似した信用
仲介活動を行っている銀行以外の主体・活動のこと
【 シャドーバンキングのイメージ 】
銀行システム
貸出/運用
預金
規制の緩い方へ資金の
流れがシフトする可能性
預金者・投資家
企業・金融機関
銀行
シャドーバンキングシステム
ヘッジファンド等
債券投資
持分保有
(資料) 金融庁資料より、みずほ総合研究所作成
32
5.(2) シャドーバンキング問題への対応に係る検討分野
 G20の要請を受け、FSBは2011年10月、「シャドーバンキングの監督および規制の強化に関する勧告」を公表、カンヌ・サ
ミットでその内容を承認
• 合意された5つの検討分野について、FSB・バーゼル委・IOSCOから最終報告書が公表済
【 カンヌ・サミットにおいて合意された5つの検討分野と提言内容 】
検討分野
主な提言内容
銀行のシャドーバンキングへの関与
• ファンド向け出資の自己資本規制上の取扱い
• 大口エクスポージャー規制
マネー・マーケット・ファンド(MMF)
• 安定的基準価額方式から変動的基準価額方式(組入証券を市場価格など公正な価格で評価し
基準価額を算定する方式)への移行
• 安定的基準価額方式を維持する場合、損失吸収措置およびMMFからの資金流出防止措置
MMF以外のシャドーバンキング主体
• MMF以外のシャドーバンキング主体についてリスクを査定し、必要な場合に政策措置を実施
証券化商品
• 証券化商品の発行者等への適切なインセンティブの付与(証券化リスク・リテンション)
• 投資家の投資判断に資する十分な情報開示
レポ・証券貸借取引
• レポ・証券貸借取引の担保について、一定水準以上の掛け目(ヘアカット)の設定を義務付け
• レポ・証券貸借取引市場に関する国際的なデータ収集と集計
(資料)金融庁資料より、みずほ総合研究所作成
【 MMF規制改革、証券化リスク・リテンションに関する各国の取り組み 】
MMF規制改革
米国
EU
日本
証券化リスク・リテンション
2014年7月にSEC(米証券取引委員会)がルール最終化
2014年10月にドッド・フランク法に基づくルールを最終化
2013年9月にルール案公表
2014年7月にCRR(EU資本要件規則)に基づく技術的基準が発効
MRFについて、緊急時の支援を損失補てん禁止の対象外とする法改正
を行い、2014年12月に施行。引き続き対応を検討中
2014年9月に監督指針案を公表
(資料)みずほ総合研究所作成
33
5.(3)シャドーバンキングの監視と規制の強化に向けた 2015年のロードマップ
 G20は、2014年11月のブリスベン・サミットにおいて、シャドーバンキングの監視と規制の強化に向けた2015年のロード
マップを承認
【 シャドーバンキングの監視と規制の強化に向けた2015年のロードマップ(一部) 】
実施時期
主な内容
2014年第4四半期~
2015年第1四半期
2015年に全てのFSBメンバーと包括的な情報共有エクササイズを始めるために、MMF以外のシャドーバンキング主
体のための政策枠組みに含まれる情報共有プロセスを改善
2015年第2四半期
清算集中されない証券金融取引に係る最低ヘアカット率をノンバンク間の取引に適用する作業を最終化
2015年第2四半期
各国・地域におけるMMF規制改革の進捗に対するレベル1ピアレビュー(導入の適時性に関するレビュー)の最終結
果を公表
2015年第2四半期
各国・地域における証券化リスク・リテンションを含む証券化に関連するインセンティブ調整の実施に対するレベル1
ピアレビューの最終結果を公表
2015年
各国・地域のMMF以外のシャドーバンキング主体のための政策枠組みの実施に関するピアレビューを実施
2015年末
証券金融取引のグローバルなデータ収集・集計に関する基準とプロセスに係る作業を最終化
2015年末
清算集中されない証券金融取引に係る最低ヘアカット率をバーゼルⅢの枠組みに統合
(資料)みずほ総合研究所作成
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1.国際的な金融規制改革の全体像
2.バーゼルⅢ
3.SIFIs(システム上重要な金融機関)対応
4.店頭デリバティブ市場改革
5.シャドーバンキング問題への対応
6.その他の国際的な改革
7.各国独自の動き
8.今後の方向
付録1:規制改革の銀行ビジネスへの影響
付録2:規制改革の金融市場への影響
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6.(1) 大口エクスポージャー規制
■ 目的等
 個々の銀行および金融システム全体の健全性を確保するため、同一取引先グループに対する信用供与に限度額を設
けるもの。受信者に対するエクスポージャーの計測、合算、管理の方法の一貫性の確保等のため、バーゼル委を中心
に検討
■ 国際的な議論
 2014年4月、バーゼル委が「大口エクスポージャーの計測と管理のための監督上の枠組み」の最終規則を公表。2019
年1月から適用開始(経過措置なし)
[主な提案内容] ①適格資本を総自己資本(Tier1+Tier2)からTier1に厳格化
②G‐SIBs間の信用供与等限度額を適格資本の15%に抑制(通常は適格資本の25%)
③受信者側合算の範囲を「支配関係」および「経済的相互依存関係」で判断
■ 日本における対応
 2013年6月、大口信用供与等規制の強化を含む平成25年金商法等改正法が成立(大口信用供与等規制の強化について
は2014年12月に施行)
• 1998年銀行法改正を最後に見直しが行われていない中、まずは国際的な標準レベルにまで引き上げることが目的
[主な改正点] ①信用供与等の対象の拡大(銀行間取引、デリバティブ、コミットメントライン等)
②受信者側がグループの場合の信用供与等限度額の引き下げ(自己資本の40%⇒25%)
③受信側合算範囲の拡大(実質支配力基準の導入等)
• 上記のバーゼル委最終規則のうち本改正法で対応していない部分については、将来的に更なる法令改正を行う見
込み
36
6.(2) データ報告・集約
■ データギャップへの対応
 金融危機時に監督当局が利用するデータにギャップがあることが問題となったことを受けて、FSBは、システミック・リス
クの評価・特定に必要なデータの整備に取り組み中
【 データギャップへの対応の実施状況 】
対象情報
実施時期
フェーズ1
G‐SIBsの最大カウンターパーティ・主要なリスクファクター(カウンターパー
ティの国・セクターなど)へのエクスポージャー
2013年3月に開始済み
フェーズ2
G‐SIBsの各金融機関への債務についての情報(最大の資金供給者への集
中度合い、主な資金調達手段について評価することが目的)
2015年半ばに開始
フェーズ3
国・セクター・金融商品・通貨・満期によって分類された粒度が高く比較可能
なバランスシートのデータ
共通データテンプレートを2015年の早い時期に最終化し、
2016年8月から定期的な報告を開始予定
(資料)みずほ総合研究所作成
■ バーゼル委 「実効的なリスクデータ集計とリスク報告に関する諸原則」
 2013年1月、バーゼル委は、銀行のリスクデータ集計能力や内部のリスク報告実務の強化を目的として、「実効的なリ
スクデータ集計とリスク報告に関する諸原則」の最終版を公表
• G‐SIBsには2016年初めまでの完全実施を義務付け、D‐SIBsについても認定から3年後にはその適用を強く勧奨
■ グローバルLEI(Global Legal Entity Identifier)
 金融取引の実態把握強化のため、取引主体毎に共通の識別子を付与する取り組み
• 2013年1月、 LEIシステム全体のガバナンス機関である規制監視委員会(ROC)が発足
• 2014年7月、 LEI情報の管理などグローバルな業務・システムに関する基準の策定を担う中央業務機関(COU)を
設立
37
6.(3) リスクアペタイト・フレームワーク(RAF)
 金融危機時に明らかになった金融機関のモラルハザードの問題等に対処するため、FSB・バーゼル委は、コーポレート
ガバナンスの強化に向けた取り組みを加速
• 2010年10月、バーゼル委は「コーポレート・ガバナンスを強化するための諸原則」を公表
• 2011年10月、FSBは「金融監督の効果に関する進捗報告」を公表
• 2013年11月、FSBは「実効的なリスクアペタイト枠組みに係る原則(最終報告書)」を公表
 こうした中、主要な欧米金融機関はリスクアペタイト・フレームワーク(RAF)を整備。日本においても、金融庁は金融モニ
タリング基本方針において主要行等のRAFの構築状況を検証することを明記
• RAFとは、経営陣等がグループの経営戦略等を踏まえて進んで受け入れるリスクの水準(リスクアペタイト)につ
いて対話・理解・評価するためのグループ内共通の枠組み
【 リスクアペタイト・フレームワーク(RAF)の主なポイント 】
•
RAF運営に係る取締役会等の責任を明確に規定
•
業務戦略、資本戦略、財務戦略、報酬プログラムとの連携
•
強固なリスク文化の確立と、組織全体にわたる徹底・浸透
•
リスク管理部署とビジネスラインとの健全なリスクコミュニケーション
•
リスクアペタイトステートメントによるリスクアペタイトおよびRAFに係る方針の表明
(資料)みずほ総合研究所作成
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1.国際的な金融規制改革の全体像
2.バーゼルⅢ
3.SIFIs(システム上重要な金融機関)対応
4.店頭デリバティブ市場改革
5.シャドーバンキング問題への対応
6.その他の国際的な改革
7.各国独自の動き
8.今後の方向
付録1:規制改革の銀行ビジネスへの影響
付録2:規制改革の金融市場への影響
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7.(1) 【米国】ドッド・フランク法
 米国は金融危機後、規制改革を積極的に推進、2010年7月に包括的な金融規制改革法(ドッド・フランク法)が成立
• システム上重要な金融機関に対する金融監督体制整備、リスクの高い業務に対する規制(ボルカー・ルール等)、
金融機関の破綻に伴う納税者負担の回避、消費者・投資家保護等が改革の中心的課題
• 全15章からなる大規模な法律。規制緩和により金融ビジネスの活性化を図ろうとしてきた従来の方針を大きく転
換し、多くの点で規制を強化する内容
【 ドッド・フランク法の構成(一部)) 】
章
主な内容
第1編 金融の安定
FSOC(金融安定監督評議会)の新設、FSOCによるノンバンクSIFIsの指定
第2編 秩序だった清算の権限
FDIC(連邦預金保険公社)主導の破綻処理
第3編 OCC(通貨監督庁)、FDIC、FRB(連邦準備制度理
事会)への権限移管
OTS(貯蓄金融機関監督庁)の廃止
第5編 保険
第6編 銀行等の規制の改善
ボルカー・ルール
第7編 ウォール街の透明性・説明責任
デリバティブ規制
第9編 投資者保護と証券規制の改善
証券化リスク・リテンション、報酬規制、コーポレートガバナンス、信用格付会社
第10編 CFPB(金融消費者保護局)
CFPBの新設
(資料)みずほ総合研究所作成
40
7.(2) 高リスク業務の隔離
① 【米国】ボルカー・ルール
 ボルカー・ルールとは、銀行によるリスクの高いトレーディングやファンド投資の原則禁止(ドッド・フランク法第619条)、
金融機関の大規模合併の禁止(同法第622条、ルール未確定)を規定するルールであり、ドッド・フランク法第619条部
分の最終ルールは2013年12月に確定
• 銀行とその関連会社、銀行持株会社による自己勘定トレーディングを原則禁止(国債等の取引、顧客のために行
う取引、ヘッジ目的取引等は許容)
• 同様に、ヘッジファンドやプライベート・エクイティ・ファンドへの出資等を原則禁止(当該ファンドの受入出資金全
体の3%以内かつ出資銀行等のTier1資本の3%以内の金額については許容)
 最終ルールは2014年4月に施行、一部の報告義務を除いて2015年7月に全面実施の予定
【 ボルカー・ルール(ドッド・フランク法第619条部分)の主な内容 】
対象金融機関
・預金保険対象預金を取り扱う金融機関及び当該金融機関を支配する会社
・1978年国際銀行法上、銀行持株会社として扱われる会社
・上記の子会社・関連会社 ※米国に拠点を有する米国外の銀行グループも対象
自己勘定トレーディングの原則禁止
・引受業務やマーケットメイク業務に関する取引
規制内容
例外 ・リスク削減のためのヘッジ目的の取引
取引 ・①米国、②(米国外の銀行が米国拠点で取引を行う場合)銀行の母国、③(米国銀行が外国拠点で取引を行う場合)
外国拠点の所在国、の国債など政府関連債務の取引 ほか
例外取引の一部は
一定の要件を満た
す必要あり
ヘッジファンド、プライベート・エクイティ・ファンドへの出資等の原則禁止
例外 ・ファンドの受入出資金全体の3%以下かつ当該銀行のTier1資本の3%以下となる金額で行われる出資
取引 ・リスク削減のためのヘッジ目的の取引 ほか
法令遵守のための ・コンプライアンス・プログラム(最終ルールの遵守状況をチェックする内部計画)の作成
・トレーディング業務に関する定量的データの報告 ほか
実施事項
スケジュール
2014年4月 最終ルール施行
2014年6月 定量的データの報告開始(連結トレーディング資産・負債が500億ドル以上の銀行の場合。その他の銀行も順次実施)
2015年7月 全面実施
(資料) みずほ総合研究所作成
41
7.(2) 高リスク業務の隔離
② 【英国】リテール・リングフェンス、【EU】銀行構造改革案
■ 【英国】リテール・リングフェンス
 2011年9月、銀行業務に関する独立委員会(ヴィッカーズ委員会)が、預金を中心とする家計や中小企業に不可欠な銀
行サービスを分離し、独立したエンティティとすることを義務付ける案(リテール・リングフェンス案)を提示
• リングフェンスの対象となる銀行にはリスクの高い業務を禁止するとともに、高い自己資本比率を義務付け、健全
性を確保
 2013年12月、リテール・リングフェンス実施のための法案が成立。2019年までの実施を予定
■ 【EU】銀行構造改革案
 2012年9月、EU銀行セクターの構造改革に関する欧州委員会の諮問を受けた専門家グループが報告書を公表(リーカ
ネン報告)。自己勘定取引、デリバティブ取引、ファンド投資やファンド向け貸出等を、預金取扱銀行とは別のエンティ
ティで行うことを提言
 2014年1月、上記提言を受けた欧州委員会が、EUの大手銀行約30行を主な対象とする銀行セクターの構造改革案を
公表
• 銀行自身の利益獲得のみを目的とする自己勘定トレーディングを原則禁止
• トレーディング業務のリスクが一定の水準を超える銀行から一定のトレーディング業務を分離・別会社化
42
7.(3) 【米国】FBO(外国銀行)規制
 2014年2月、 FRBは、ドッド・フランク法第165条に基づき、米国内外の大手銀行に対する監督・規制を強化するための最
終ルールを公表
• 一定規模以上の外国銀行に対しては、米国での中間持株会社(IHC)の設立を義務付けるほか、米国での業務に
基本的に米国の銀行持株会社と同等の健全性要件等を適用
• 外国銀行への適用開始は2016年7月(一部規定を除く)
【 ドッド・フランク法第165条・166条に基づく大規模銀行規制強化ルール(外国銀行部分)の概要 】
外国銀行の
規模
項目
連結総資産(グローバルベース) 50 0億ドル以上
合算米国資産5 00 億ドル以上
米国非支店資産50 0億ドル以上
米国非支店資産50 0億ドル未満
合算米国資産5 00 億ドル未満
連結総資産(グローバルベース)
1 00億ドル以上5 00 億ドル未満
米国中間持株会
米国中間持株会社(米国IHC)の設立
社の設立義務
自己資本要件
対象外
米国IHCによる、米国の銀行持株会社と同じ方法での、
①自己資本要件の充足、②自己資本ストレステストの
実施、③資本計画の策定
①バーゼル委の枠組みに準拠する本国の自己資本基準を満たしていることのFRBへの報告、 同左(但しストレステスト結果の 一定の要件を満たす本国の自己資本
②一定の要件を満たす本国の自己資本ストレステストの枠組みの遵守、FRBへの報告
FRB宛報告に係る要件は無い) ストレステストの枠組みの遵守
流動性要件
①流動性管理(包括的なキャッシュフローの予測、緊急時の資金調達計画の策定、
流動性リスクの限度の測定、流動性リスク監視のための手続きの制定、等)、
②月次での流動性ストレステストの実施、③流動性バッファーの保持、
④本国で義務付けられている流動性テストの結果および流動性バッファーのFRBへの報告
内部的な流動性ストレステスト
の実施、年次でのFRBへの報告
リスク管理要件
米国リスク委員会、米国最高リスク責任者の設置
リスク管理に係る体制整備
負債比率制限
FSOC(金融安定監督評議会)による決定を受けた場合、①米国IHCまたは米国子会社による負債比率15以下の維持、
②米国支店による前四半期の総負債(日次の値の平均値)に対して108%以上の適格資産の維持
※負債比率:総負債÷(総株主資本-のれん)、遵守期限:FSOC(またはFRB)から書面による通知を受けた後180日以内
与信集中制限
単一カウンターパーティーに対する与信上限(ルール未確定、検討中)
対象外
リスク管理に係る体制整備
※対象:株式を公開している銀行
対象外
一部の銀行に対するドッド・フランク法第166条の早期是正措置の適用(ルール未確定、検討中)
早期是正措置
(資料)みずほ総合研究所作成
43
7.(4) 【EU】銀行同盟
■ 経緯
 2012年5月、欧州委員会のバローゾ委員長が、銀行監督、破綻処理、預金保険の制度をEUレベルで統一する銀行同
盟(Banking Union)案を提唱
 同年6月のユーロ圏首脳会議で、欧州安定メカニズム(ESM)による銀行への資本注入の前提として、欧州中銀(ECB)に
よるSSMの創設を決定
■ 単一監督メカニズム(SSM:Single Supervisory Mechanism )
 2014年11月以降、ユーロ圏内を中心とするSSM参加国の銀行監督の権限をECBに一元化
• ECBは一部の重要な銀行(130行前後)を直接監督するとともに、ユーロ圏の全銀行(約6,000行)に対する監督責
任を負う
 監督一元化に先立ち、ECBは「包括的な審査(Comprehensive Assessment)」を実施、2014年10月に結果を公表
• 審査対象は、ECBの直接監督の対象となる可能性が高い128行
• 資本不足が判明した銀行に対しては、資本増強をはじめとする改善措置を要求
■単一破綻処理メカニズム(SRM:Single Resolution Mechanism)
 SSM参加国における個別銀行の破綻処理について、 「単一破綻処理委員会」が、①ECBと協調した破綻処理の必要性
判断、②破綻処理方針の策定、を一元的に実施(2016年1月に本格運用開始)
 銀行セクターが拠出する「単一破綻処理基金」(8年間で550億ユーロを積み立て)が破綻処理に必要な資金を供給
44
7.(5) 金融セクターへの課税
~【英国】銀行税、【EU】金融取引税(FTT)
■ 【英国】銀行税
 銀行が経済にもたらす潜在的なリスクに対し、公平かつ実質的な負担を課すため、2011年1月から銀行課税(Bank Levy)を導入
【 英国銀行税の概要 】
課税対象
• 英国の銀行、銀行グループ、ビルディング・ソサエティ(住宅金融組合)のグローバル連結バランスシート
• 外国銀行の支店等の英国内バランスシート
税額
• 税額=〔対象銀行等の総負債+純資産-(Tier1資本+預金保険対象預金等)〕×税率
税率
• 短期負債に対する税率:0.21%(2015年4月以降の税率)
• 株主資本・長期負債に対する税率:0.105%(同上)
(資料) みずほ総合研究所作成
■ 【EU】金融取引税(FTT)
 2011年9月、欧州委員会が以下の目的で金融取引税(FTT:Financial Transaction Tax)に係る指令案を公表
• 金融機関による金融危機コストの公平な負担
• 金融市場の効率性に資することのない取引に対するインセンティブの抑制
• EUレベルで統一された制度の導入による域内での競争上の歪みの除去
 EU全域での導入には賛成が得られず、EU加盟11カ国のみで「強化された協力」手続による導入に方針転換、2013年2
月に欧州委員会が改めて指令案を公表
 指令案の審議が予定通りに進まない中、2014年5月、EU加盟10カ国が共同声明を公表。遅くとも2016年1月までに株式
と一部のデリバティブを対象とした金融取引税を導入する方針を表明
45
7.(6) ストレステスト
 米国におけるFRBによるDFAST(ドッド・フランク法に基づくストレステスト)・CCAR(包括的な資本分析・レビュー)やEUにお
けるECBによる包括的な審査(comprehensive assessment)など、欧米では銀行監督の新たな手段としてストレステスト
の活用が本格化
 バーゼル委は、2015年1月に公表した「2015年・2016年の作業計画」において、ストレステストについて、各国の取り組
みを調査し、バーゼル規制の枠組みにおける役割を検討する方針を提示
【 ストレステストの一般的な構造 】
モデル
シナリオ
デフォルト率
への影響
外因的な
ショック
マクロ経済へ
の影響
結果
カウンターパー
ティ信用リスク
銀行への
総合的な
影響
貸出人の収益
への影響
資産価格への
影響
流動性リスク
マクロフィードバック
(資料) バーゼル委資料より、みずほ総合研究所作成
46
1.国際的な金融規制改革の全体像
2.バーゼルⅢ
3.SIFIs(システム上重要な金融機関)対応
4.店頭デリバティブ市場改革
5.シャドーバンキング問題への対応
6.その他の国際的な改革
7.各国独自の動き
8.今後の方向
付録1:規制改革の銀行ビジネスへの影響
付録2:規制改革の金融市場への影響
47
8.今後の方向
 G20ブリスベン・サミット(2014年11月)首脳宣言では「我々は、金融危機に対応して我々が行った中核的なコミットメント
の重要な面を達成した」とされた
 FSBは、今後の取り組みとして、以下を掲げている
• 合意した改革の完全・整合的・迅速な施行
• 危機後の改革の残された部分の最終化
• 新たなリスク・脆弱性への対応
【 国際的な金融規制改革の主な予定 】
・米国ボルカー・ルール(2015年7月)
・バーゼルⅢ資本保全バッファー・G‐SIBサーチャージ(2016年1月)
近く適用開始となる規制
・米国FBO(外国銀行)規制(2016年7月)
・中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制(2016年9月)
・TLAC(G‐SIBsに対して破綻時に備えた損失吸収力を確保させる規制)の最終化
FSBによる今後の取り組み
・銀行以外の主体(保険会社、資産運用会社、CCPなど)に係る「大き過ぎて潰せない」問題への対応
・新たなリスク・脆弱性(資本市場の脆弱性、金融機関の不適切な行為など)への対応
バーゼル委による
・自己資本比率の簡素さ・比較可能性の向上(標準的手法の見直し・資本フロアの導入など)
今後の取り組み
・ソブリンリスク、銀行勘定の金利リスクの規制上の取扱いに関する検討
・レバレッジ比率の定義・水準の調整
・多数存在する規制枠組みの相互作用の調査
・ストレステストについて、各国の取り組みの調査、バーゼル規制枠組みにおける役割の検討
(資料) みずほ総合研究所作成
48
1.国際的な金融規制改革の全体像
2.バーゼルⅢ
3.SIFIs(システム上重要な金融機関)対応
4.店頭デリバティブ市場改革
5.シャドーバンキング問題への対応
6.その他の国際的な改革
7.各国独自の動き
8.今後の方向
付録1:規制改革の銀行ビジネスへの影響
付録2:規制改革の金融市場への影響
49
付録1(1).自己資本の増強 ~各国大手銀行は自己資本を積み上げ
○ 各国大手銀行は、自己資本比率規制の強化を受けて、自己資本を順調に積み上げ
・ 金融危機の直後を除き、基本的には収益により自己資本を積み増し。ただし、欧銀を中心に断続的に増資が継続
――― レバレッジ比率やストレステスト対応等から、ドイツ銀行やバークレイズなどは、2013~14年にかけて増資を実施
【 世界大手102行の自己資本額推移 】
【 直近の増資事例 】
(10億ユーロ)
ドイツ銀行
3,500
3,000
2014/5の増資により、普通株式等
Tier1比率は9.5%から12.0%に上昇
(CRD4完全適用ベース)
2,500
Tier2
2,000
1,500
その他Tier1
1,000
普通株式等Tier1
• 30億ユーロ増資(2013/4)
• 85億ユーロ増資(2014/5)
バークレイズ
• 58億ポンド増資(2013/7)
(資料) 各行発表資料より、みずほ総合研究所作成
500
0
2011年 11年
6月 12月
12年
6月
12年
12月
13年
6月
13年
12月
14年
6月
(資料) バーゼル委資料より、みずほ総合研究所作成
50
付録1(2) エクスポージャーの圧縮
① 欧銀中心に、エクスポージャー圧縮中
○ 欧銀はレバレッジ比率規制に対応すべく、資産規模に対し収益性の低い事業を縮小するなど、レバレッジ比率のエクス
ポージャー(分母)を圧縮中
・ 米銀も危機以前に比べ総資産増加が鈍化
【 各国大手銀行の総資産推移(2006年末=100)】
(%)
140
バーゼルⅢ
テキスト公表
エクスポージャー削減事例
130
バークレイズ
約4,000億ポンド
の資産削減
(総資産の約
30%)
(2014/5公表)
• デリバティブ・コモ
ディティ・エマージン
グ商品等、投資銀行
部門の資産を中心
に、非中核部門に移
管(約8割がFICC関
連資産)
ドイツ銀行
• 約1,200億ユーロ
の資産削減
(2012/12公表)
• 米国資産約
1,000億ドル削減
(2014/2公表)
• 投資銀行部門の資
産を中心に、非中核
部門に移管(約5割
がトレーディング関
連資産)
米銀
欧銀
120
邦銀
110
100
90
06
(注)
07
08
09
10
11
12
13 (年)
米銀:大手6行の合計
欧銀:大手14行の合計(ポンド、ドル建て決算の銀行については、各
年末の為替相場にてユーロ変換)
邦銀:みずほフィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住
友フィナンシャルグループの合計
(資料)各行決算資料より、みずほ総合研究所作成
(資料) 各行発表資料より、みずほ総合研究所作成
51
付録1(2) エクスポージャーの圧縮
② 欧米大手銀行のFICC収入は縮小
○ 自己資本比率規制強化やレバレッジ比率規制導入に伴い、資本を要するFICC(Fixed Income, Currencies and
Commodities、債券・為替・コモディティー)業務を縮小
・ バランスシート負荷が少ないプライマリー業務は堅調な一方、トレーディング業務収益は、2009年をピークに減少傾向
・ レバレッジ比率規制は、低リスクアセットである国債等を売却する誘因となる
【 投資銀行部門の収入推移】
【 プライマリー業務 】
(10億㌦)
株式引受
債券引受
【 セカンダリー業務 】
債券・為替・コモディティ・トレーディング
株式トレーディング
(10億㌦)
M&A等
14
40
12
30
10
20
8
10
6
0
4
(10)
2
(20)
0
06
(注)
07
08
09
10
11
12
13
JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、ゴールドマン・サックス、
モルガンスタンレー、ドイツ銀行、クレディ・スイス、UBSの合計
(資料) 各行決算資料より、みずほ総合研究所作成
14
06
(年)
07
08
09
10
11
12
13
14
(年)
(注)
JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、ゴールドマン・サックス、
モルガンスタンレー、ドイツ銀行、クレディ・スイス、UBSの合計
(資料) 各行決算資料より、みずほ総合研究所作成
52
付録1(3) 保有資産の変化
① 流動性規制を受け高品質流動資産の積み増し
○ 一方で、米国では、LCR(流動性カバレッジ比率)の算定上有利な「高品質な流動資産」を増やす動き
・ 大部分を現金、一部を政府系機関MBS(Agency mortgage backed securities)や米国債積み増しで確保
・ LCR規制対象の大手銀行は、対象外の小銀行に比べ、預金の増加を貸出ではなく現金や有価証券の保有に充てる傾向
【 米国商業銀行の流動性資産残高の推移 】
(兆㌦)
2.5
2.0
【 米国商業銀行のバランスシート項目の年間増減 】
(%)
34
現金
A-MBS
米国債等
(米国債等+A-MBS+現金)/総資産 (右軸)
32
30
(10億㌦)
700
600
500
1.5
28
1.0
26
400
68.6 その他
51.6 純債務
小銀行
その他
182.4 貸出
92.3 ホールセール
資金
206.1 有価証券
300
純債務
50.7
28.3 ホールセール
資金
預金
200
0.5
大手銀行
405.8
24
228.6 貸出
215 現金
100
0.0
194.4
22
2010
10
(注)
負債
20
11
12
13
14
2009年末残高を基準とする推移。米国債等はエージェンシー債を含む。
A-MBSはエージェンシーMBS。
(資料) FRBより、みずほ総合研究所作成
預金
27.9 有価証券
0
-0.5
その他
資産
負債
資産
-100
(注) 2013年12月~2014年12月の年間増減
(資料) FRBより、みずほ総合研究所作成
53
付録1(3) 保有資産の変化
② 売却可能金融資産から満期保有投資にシフト
○ 米銀で売却可能金融資産(Available For Sale:AFS)から満期保有投資(Held To Maturity:HTM)へのシフトが顕著。
2013年7月の米国内バーゼルⅢルール最終化により、AOCIフィルターの廃止(右下図)が決まったことが一因
・満期保有投資拡大で保有有価証券残高が拡大した面も
【 AOCIフィルターの廃止 】
【 保有目的別にみた米銀保有証券残高の推移 】
(10億㌦、2008年平均=0)
米国内バーゼルⅢ
ルール最終化
1,000
800
AOCIフィルターの廃止
売却可能⾦融資産(AFS)
※AOCI
600
※AOCIフィルター :AOCIに計上されるAFSの公正価値変
動額などについて、自己資本比率の計
算に含めないことを許容する規定
400
満期保有投資(HTM)
200
:Accumulated Other Comprehensive
Income(その他包括利益累計額)
0
▲ 200
2008
09
10
11
12
13
14
15
規制資本の計算に先進的手法を採用している米国
大手銀行は、AFSの公正価値変動額を自己資本比
率の計算に含める必要
(注) 付保預金金融機関。2008年の平均残高をゼロとした推移。
(資料) FDIC資料より、みずほ総合研究所作成
54
付録1(4) 資金調達構造の変化 ~流動性規制も踏まえ安定的調達構造に転換
○ 米銀は流動性規制も踏まえ、資金調達のうち市場性調達の削減・預金の増加、市場性調達の年限長期化等の動き
・預金のうち、大口預金については、流動性規制(のLCR)上マイナスに作用することから、2014年12月より、一部の大手
銀行において、一定以上の口座残高を保有する顧客に対し、口座維持手数料を導入との報道も(Bloomberg )
【 米商業銀行の資金調達構造の変化】
市場性調達等
その他
預金
預金/総負債(右軸)
(兆ドル)
5
【米商業銀行の市場性調達等の年限別シェア推移】
(%)
80
78
4
100%
90%
80%
76
3
2
74
60%
72
50%
70
1
70%
市場性調達の
年限を長期化
0
66
-1
07
08
09
10
11
(注) 2006年末残高を基準とする推移
(資料) FRB資料より、みずほ総合研究所作成
12
13
14 (年)
64
16-29年
10-15年
40%
4-9年
2-3年
30%
68
30年以上
1年
20%
10%
0%
06
07
08
09
10
11
12 (年)
(資料) McKinsey & Company, Between deluge drought: The future of US bank
liquidity and fundingより、みずほ総合研究所
55
付録1(5) 高リスク業務の撤退・縮小 ~バーゼルⅢやボルカー・ルールの影響を受けて
○ 欧米大手銀行においては、金融規制強化の影響が大きい業務から撤退する動きが継続
・ 多くの銀行が、自己勘定取引、プライベート・エクイティ(PE)、ヘッジファンド(HF)等の業務を撤退・縮小
【 主な撤退・縮小業務】
国
銀行名
自己勘定取引
PE/HF投資
その他
ゴールドマン・サックス
■ プロップ・トレーダーを資産運用部門に異動
(一部KKRに移籍)
モルガン・スタンレー
■ 自己勘定取引部門のスピン・オフ
■ ランズドーン・パートナーズ(HF)の売却を計画
■ 現物コモディティの一部撤退
■ プロップ・トレーダーを資産運用部門に異動
■ One Equity Partners(PE)資産の一部売却
■ 現物コモディティの一部売却
■ アジアのハイイールド債投資事業の撤退
米 JPモルガン・チェース
欧
ボルカー対応
バンク・オブ・アメリカ
■ プロップ・トレーダーを他部門へ異動
■ 現物コモディティの縮小
シティ・グループ
■ カスタマー・デスクを含め、プロップ・トレー
ダーを他部門へ異動
バークレイズ
■ キャピタル・アービトラージ部門をスピン・オフ
RBS
■ 自己勘定取引部門の大幅縮小
■ コモディティ事業の売却
■ RBSスペシャル・オポチュニティーズ・ファンド(PE)の
■ 株式トレーディング、プロジェクト・ファイナンス、ノンコンフォーミ
持分売却
ングABS、ECM、M&Aから撤退
クレディ・スイス
■ プロップ・トレーダーを資産運用部門へ異動
■ DLJマーチャント・バンキング・パートナーズ(PE) をス
■ FICCの縮小(金利、コモディティの一部、為替)
ピン・オフ
UBS
■ プロップ・トレーダーを資産運用部門へ異動
■ ヘッジファンド部門のスピン・オフ
■ PE持分の売却(複数)
■ FICCの縮小(標準化された取引等、シンプルなト
レーディング業務に集中)
■ 一部のエマージング市場商品から撤退
■ FICCの大幅縮小(実質撤退)(除く為替)
(資料) 報道資料より、みずほ総合研究所作成
56
付録1(6) コンプライアンス・コストの増大
○ 規制対応に向けた体制整備も大きな負担に
【 JP Morgan Chaseの規制対応コスト 】
項目
経営資源投入量
自己資本比率
CCAR (Comprehensive Capital Analysis and Review、米国のストレステスト)
レバレッジ比率
自己資本比率
流動性規制
LCR
NSFR
破綻処理制度
ストレス時の回復策や破綻処理策の策定
マネーロンダリング
アンチ・マネー・ローンダリング(AML)システム
個別の業務規制
住宅ローン
証券化
デリバティブ
その他ボルカールールにより制限を受ける業務
500人
400人
500人
8,000人
研修:~10万時間
システム構築等:100万時間
システム構築等:3.5万時間
700人
300人
規制・コンプライアンス・リスク管理対応のために、13,000人を動員、追加コストは20億ドルにも
(資料) JP Morgan Chase資料より、みずほ総合研究所作成
57
付録1(7) 健全性の変化
① 各行とも自己資本比率は概ね達成済み
○ 普通株式等Tier1(CET1)比率については、各行とも現行所要水準を達成済み
【 各行の普通株式等Tier1比率の状況 】
(%)
18
CET1比率
現行所要水準
16
14
12
10
8
6
4
2
0
米銀
英銀
欧銀(英国の銀行を除く)
邦銀
(注1) 現行所要水準=最低所要水準4.5% + 資本保全バッファー2.5% + カウンターシクリカル資本バッファー0% + G-SIBsサーチャージ1.0~2.5%
(注2) 完全適用ベース・先進的手法。但しノルディアについては段階的施行ベース
(注3) みずほは14/9末時点、他は14/12末時点の値
(資料) 各行資料より、みずほ総合研究所作成
58
付録1(7) 健全性の変化
② レバレッジ比率は改善途上
○国際合意の3%(試行期間中の試験的な最低水準)については概ね達成しているものの、各国国内基準や国際合意の最低
水準の調整(~2017年)も見据え、多くの銀行が改善途上
【 各行のレバレッジ比率の状況 】
<米国基準>
最低水準3%
+大手行向け
バッファー2%
(%)
8
7
<国際合意>
3%
(試行期間の試験
的な最低水準)
6
5
4
3
2
1
0
米銀
英銀
欧銀(英国の銀行を除く)
邦銀
(注) ウェルズ・ファーゴは14/3末時点で7%以上と公表、みずほは14/9末時点、他は14/12末時点の値
(資料) 各行資料より、みずほ総合研究所作成
59
付録1(8) 貸出の動向 ① 貸出残高の推移
○ 米銀の貸出残高は拡大に転じるも伸びは依然として緩やか、欧州は依然マイナス圏
【 貸出残高の推移 】
【 米銀 】
(兆ドル)
12
その他
消費者信用
住宅向け貸出残高
商業向け貸出残高
伸び率(前年同月比、右軸)
【 欧銀 】
貸出残高
伸び率(前年同月比、右軸)
(兆ユーロ)
(%)
15
【 邦銀 】
(%)
貸出残高
伸び率(前年同月比、右軸)
(10兆円)
(%)
45
15
10
44
10
16
15
15
10
10
8
5
14
5
43
5
6
0
13
0
42
0
4
-5
12
-5
41
-5
2
-10
11
-10
40
-10
-15
(年)
10
-15
14 (年)
39
0
06 07 08 09 10 11 12 13 14
(資料)FRB資料より、みずほ総合研究所作成
06
07
08
09
10
11
12
13
(資料)ECB資料より、みずほ総合研究所作成
06 07
08
09 10
11 12
13
-15
14 (年)
(資料)日本銀行資料より、みずほ総合研究所作成
60
付録1(8) 貸出の動向
② 預貸率・預貸ギャップの推移
○金融危機後、米銀の預貸ギャップは拡大し高水準継続、有価証券保有額は拡大に
○欧銀の預貸率は低下傾向にあるが、依然水準は高い
【 預貸率・預貸ギャップ・有価証券保有残高の推移】
【 米銀 】
(兆㌦)
3.0
預貸ギャップ
有価証券保有額
預貸率(右軸)
2.5
【欧銀】
(%)
130
120
(兆ユーロ)
7
6
5
2.0
110
1.5
100
4
3
預貸ギャップ
有価証券保有残高
預貸率(右軸)
【邦銀】
(%)
130
120
90
0.5
80
0.0
70
-0.5
60
06 07 08 09 10 11 12 13 14 (年)
(資料)FRB公表資料より、みずほ総合研究所作成
1
0
-1
-2
-3
30
25
110
20
100
2
1.0
(10兆円)
90
預貸ギャップ
有価証券保有残高
預貸率(右軸)
(%)
130
120
110
100
15
90
80
10
70
5
70
60
06 07 08 09 10 11 12 13 14 (年)
0
60
06 07 08 09 10 11 12 13 14 (年)
(注) 預貸率及び預貸ギャップは、インターバンク向け
貸出、預金を除く
(資料)ECB公表資料より、みずほ総合研究所作成
80
(資料)日本銀行公表資料より、みずほ総合研究所作成
61
付録1(9) 収益性の変化
① 規制強化を受けROE・ROAとも危機前水準より低下
○ 一部業務の縮小や規制対応コストの増加に伴い、欧米大手銀行は、ROE、ROAとも、危機前水準には戻らず
【 ROEの推移 】
(%)
25.0
米銀
【 ROAの推移 】
欧銀
(%)
1.4
邦銀
欧銀
邦銀
1.2
20.0
1.0
15.0
0.8
10.0
0.6
5.0
0.4
0.0
0.2
-5.0
0.0
-10.0
-0.2
-15.0
06
(注)
米銀
07
08
09
10
11
12
-0.4
13 (年)
米銀:大手6行の合計
欧銀:大手14行の合計
邦銀:みずほフィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャ
ルグループの合計
(資料)各行決算資料より、みずほ総合研究所作成
06
07
08
09
10
11
12
13 (年)
(注)
米銀:大手6行の合計
欧銀:大手14行の合計
邦銀:みずほフィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャル
グループの合計
(資料)各行決算資料より、みずほ総合研究所作成
62
付録1(9) 収益性の変化
② 業績の先行きへの期待感低下から株価低迷
○ 規制改革を受けた業績の先行きへの期待感低下から、欧米大手銀行の株価は金融危機前水準に届かず
【 株価の推移(2007/1/1=100)】
120
100
80
米銀
60
欧銀
邦銀
40
20
0
07
08
09
10
11
12
13
14
15
(年)
(注)
米銀:大手6行の平均
欧銀:大手12行の平均
邦銀:みずほフィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループの平均
(資料)Bloombergより、みずほ総合研究所作成
63
付録1(10)経営戦略の分化 ~業務数減少か海外業務を縮小
○ 金融規制強化が続くなか、欧米大手銀行の経営戦略は大きく3つに分化
・ 多くは、業務数減少、あるいは海外業務縮小
――― いずれも、バランスシートの負担が少ない、アセットマネジメント、ないしトランザクションは強化
【 欧米大手銀行における経営戦略の分化 】
グローバル
アセットマネジメント
スペシャリスト
重視
小← 業務の数 →大
グローバル
ユニバーサルバンク
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大
重視
グローバル展開
←
トランザクション
小
→
リージョナル
リージョナル
プレーヤー
ユニバーサルバンク
(資料)みずほ総合研究所作成
64
1.国際的な金融規制改革の全体像
2.バーゼルⅢ
3.SIFIs(システム上重要な金融機関)対応
4.店頭デリバティブ市場改革
5.シャドーバンキング問題への対応
6.その他の国際的な改革
7.各国独自の動き
8.今後の方向
付録1:規制改革の銀行ビジネスへの影響
付録2:規制改革の金融市場への影響
65
付録2(1)市場流動性の低下
① 低マージン・資本費消型レポ調達の縮小
○ 米国におけるレポ市場を通じた資金調達規模はこの2年で10%以上縮小
・ レポ取引は、証券市場の仲介者や参加者の資金流動性を支える仕組みで、証券市場の市場流動性に大きな影響
・ レポ等証券金融取引(SFT)の縮小は、レバレッジ比率の改善要因(分母の圧縮)
【 米国レポ市場 】
【 米国トライパーティ・レポ市場 】
(10億㌦)
(10億㌦)
1900
3000
1800
レポ
2500
1700
リバース・レポ
2000
1600
1500
1400
1500
2013
(注) 2013年4月以前は統計が連続しないため表示していない。
(資料) ニューヨーク連銀より、みずほ総合研究所作成
2014
2013
2014
(資料) ニューヨーク連銀より、みずほ総合研究所作成
66
付録2(1) 市場流動性の低下
② ディーラーのリスクテイキング能力・意欲の低下
○ レバレッジ比率規制やボルカー・ルールなどの新たな規制の影響を受け、米国ではトレーディング在庫が減少
○ プライマリーディーラーの純買い持ち高(米国債)も減少。ストレスに脆弱な流動性の低い市場に
【 米国における債券(米国債以外)のトレーディング在庫 】
(10億㌦)
400
(10億㌦)
トレーディング在庫(左軸)
取引量(右軸)
350
160
1000
140
800
トレーディング
在庫が減少
200
150
(10億㌦)
1200
300
250
【 米プライマリーディーラーの純買い持ち高(米国債) 】
600
400
120
100
80
60
40
100
200
50
0
0
2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
(資料)IMF資料より、みずほ総合研究所
20
0
2013
2014
2015
(注) TIPS含む。プラスは買い持ち(ロング)、マイナスは売り持ち(ショート)。
(資料) ニューヨーク連銀より、みずほ総合研究所作成
67
付録2(1) 市場流動性の低下
③ フェイル増加、ボラティリティ拡大
○ 米国レポ市場では、2014年半ば以降、フェイル(債券受け渡しの遅延)が頻発。FRBによる資金吸収が始まれば、フェイル
が一段と増えるおそれ
・ 2014年10月15日の米国債利回り急低下(フラッシュ・ラリー、flash rally)は、経済指標の弱さに低流動性が加わったため
(10億㌦)
【 米国債のフラッシュ・ラリー 】
【 フェイル発生金額の推移 】
(%)
250
2.35
200
2.25
レポ市場において
フェイルが増加
150
2.15
100
2.05
50
1.95
0
2013
2014
(注) 米国債レポ取引。TIPS含む。
(資料) ニューヨーク連銀より、みずほ総合研究所作成
1.85
10月14日
14
1日の間に利回りが
大きく変動
15日
15
16日
16
(注) 2014年10月14日~16日の1分間隔(目盛は1時間)の10年債利回り推移。
(資料) Bloombergより、みずほ総合研究所作成
68
付録2(2) 金融仲介チャネルの変化
① 民間証券化市場はいまだ回復ならず
○ 金融危機および、バーゼル2.5をはじめとする危機後の証券化商品に対する規制強化で、民間証券化市場は低迷
・ 欧米のリスクリテンション規制が証券化市場の回復を促すのか、障害となるのか、今のところは未知数
【 証券化商品に対する規制 】
【 欧米の民間証券化商品発行額(商品別) 】
(兆㌦)
その他
3.0
CDO
ABS
MBS
2.5
バーゼル2.5
トレーディング勘定の証券化商
品につき原則銀行勘定と同様
の取扱いを適用
(2009年7月に公表)
証券化商品の
資本賦課枠組
みの見直し
バーゼルⅢの一環として、銀行
勘定の証券化商品への資本賦
課を強化
(2014年12月に最終規則公
表)
リスクリテン
ション規制
証券化商品発行者等に対する
安易な組成を防止するための
規制
(米国では2014年10月に最終
ルール公表)
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
00
02
04
06
(資料) SIFMAより、みずほ総合研究所作成
08
10
12
14 (年)
(資料) みずほ総合研究所作成
69
付録2(2) 金融仲介チャネルの変化
② 機関投資家向けプライムMMFから資金シフト
○ 米国では、SECによるMMF規制改革(2014年7月に最終ルール公表、2年間の移行期間あり)により、機関投資家向けプラ
イムMMFからガバメントMMFに資金がシフトする動きもみられる
【 米国SECによるMMF規制改革の対象 】
【 機関投資家向けMMFの構成推移 】
(%)
機関投資家
向け
MMF規制改革
最終ルール公表
56
個人投資家
向け
54
52
機関投資家向けプライムMMF
ガバメント
MMF
50
48
現金、国債、国債等を担保とするレポ
等に99.5%以上を投資するMMF
資金がシフト
46
44
機関投資家向けガバメントMMF
42
プライム
MMF
40
2013
MMF規制改革の対象外
2014
(注) 機関投資家向けの各MMFのTNA(Total Net Asset)に占めるシェア。
(資料) ICIより、みずほ総合研究所作成
2015
• 固定NAV
(1口=1ドル)
から変動NAV
への変更
• 流動性手数料
(解約手数料)
の導入
• ゲート条項(解
約の一時停止)
の導入
(資料) みずほ総合研究所作成
70
付録2(2) 金融仲介チャネルの変化
③ シャドーバンキングセクターの金融資産の増加
○ シャドーバンキングセクター(証券会社、信託会社、金融会社、MMF、ヘッジファンド、不動産投資信託・ファンド、その他の
投資ファンドなど)の金融資産が引き続き増加
【 セクター別金融資産額の推移】
(兆㌦)
保険会社
(兆㌦)
30
銀行
米国
30
年金基金
中国
シャドーバンキング
25
中央銀行
25
セクター
公的金融機関
20
20
(兆㌦)
160.0
主要20カ国およびユーロ圏
140.0
15
15
10
10
5
5
0
0
120.0
2002 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13
2002 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13
100.0
(兆㌦)
45
80.0
ユーロ圏
(兆㌦)
25
日本
40
60.0
35
40.0
30
20
15
25
20.0
20
0.0
15
2002 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13
(注) アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、スイス、チリ、中国、英国、
香港、インドネシア、インド、日本、韓国、メキシコ、ロシア、サウジアラ
ビア、シンガボール、トルコ、米国、ユーロ圏、南アフリカ
(資料) FSB資料より、みずほ総合研究所作成
10
10
5
5
0
0
2002 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13
2002 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13
71
付録2(2)金融仲介チャネルの変化
④ 米国ではレバレッジドローン市場が拡大
○ 米国では、ハイリスクな企業向け貸出に対してシャドーバンキングセクターが資金を供給する市場として、レバレッジドロー
ン市場が拡大
・ レバレッジドローンのうち、第二順位担保付やコベナントライト型が増加しており、米国の監督当局は、貸出基準低下に伴
う将来的損失発生を警戒
○ 投資家は、ローンファンド(貸付債権に投資する投資信託)やCLO(証券化の一種)を通じレバレッジドローン市場に投資
【 米国におけるレバレッジドローン組成額の拡大 】
【 米国におけるローンファンド規模、CLO発行額の拡大 】
(10億㌦)
160
(10億㌦)
500
450
140
400
350
ローンファンド規模
120
全レバレッジドローン
100
300
80
250
200
(うちコベナントライト型)
150
60
CLO発行額
40
100
20
50
(うち第二順位担保付)
0
2007 08
09
10
11
(資料) IMF資料より、みずほ総合研究所作成
12
13
0
2007 08
09
10
11
12
13
(資料) IMF資料より、みずほ総合研究所作成
72
付録2(2) 金融仲介チャネルの変化
⑤ 先進国ではシャドーバンキングに新たな動き
○ IMFは昨年10月の国際金融安定報告(GFSR)で、銀行規制強化を受けた新たなシャドーバンキングの動きを紹介
【 IMFが注視するシャドーバンキングの新たな動き 】
Direct corporate lending
年金基金、保険会社、PEファンドや破たん企業債務ファンドなどによる
企業への直接貸付
Peer‐to‐peer lending platforms
投資家による個人及び中小企業向け貸付のためのプラットフォーム。証
券化、借り手の信用度の劣化、銀行とのパートナーシップ化などがみら
れる
Mortgage servicing rights(MSRs)
銀行によるノンバンクへのサービシング権利の売却。執行リスク等が指
摘されている
Derivative product companies(DPCs)
中央清算されないデリバティブ取引を行うための特別目的会社。当該取
引に対する資本賦課を回避するために、銀行がPEファンドやヘッジファ
ンドと共同で設立
(資料) IMFより、みずほ総合研究所作成
73
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