リカード貿易理論の新展開 ー多数国多数財の一般理論ー 2007.1.27 国際経済学会関西支部研究会 大阪産業大学・梅田サテライト 塩沢由典 大阪市立大学創造都市研究科 貿易理論の目的? 貿易の方向・特化のパタン 比較生産費、資本集約度、etc. 貿易の利益・不利益 貿易の利益、貿易摩擦の原因? 実質賃金の大きな格差 各国の相対賃金率を決める要因は? 現実課題理論 どのような理論を構築するか>>政策にも影響 Ricardo vs. Heckscher-Ohlin Heckscher-Ohlin 2国の技術は同じ、投入における代替 資源(労働と資本/土地)の存在比率が問題 資本:生産要素扱い>>非貿易財 Ricardo: 2国の技術が違う。固定係数。 投入は労働のみ 制約的? 拡張の可能性か? 資本>中間財、代替>技術選択 Ricardo貿易理論の学説小史 2国2財からM国N財へ Graham, Harberler McKenzie(1954b) 均衡の存在、一義性 Jones(1961) 完全特化パタンの発見公式 2国N財 N=3~連続濃度 例:Dornbusch, Fisher and Minabe (1995)、池間誠(1993) Samuelson (1977) 問題点 労働投入のみ ■中間財の貿易なし 技術選択なし 中間財という主題(1) 無視されてきた主題 教科書における「中間財」 Krugman-Obstfeldには一切登場しない。 Ethier 「中間財」 索引一回 Caves-Frankel-Jones 第9章「中間財および生産要 素の貿易」 「資本」は要素か商品か 抽象的な「資本」でなく、取引される原材料・中間財 Cf. 資本測定論争 国際的相互連関 中間財という主題(2) 中間財貿易の比重の増大 世界貿易に占める中進国の比重の増大 産業内貿易 Krugman:収穫逓増、Inframarginal approach. 理論における現実的対応 多段階生産 国際分業体系の深化 アウトソーシング フラグメンテーション 一般理論の不在 中間財という主題(3) 「商品による商品の生産」という視点 Sraffa1960 塩沢1985 中間財貿易による大きな利益 塩沢「新構成」 図1 Samuelson(2001)の図1(p.1211) Ricardian Gain vs. Sraffian Bonus 第2財 原材料貿易のある場合 の生産可能集合 B国第2財生産 製品のみ貿易する場合の 生産可能集合 A国の第2 財生産 B国第1財生産 第1財 A国の第1財生産 P国生産 投入 労働 1 第1財 2 産出 第2財 8 8 Samuelson 2001 6 a(1960) 2.5 α(1817) 2 P E国生産 E 0.5 2 2.5 6 8 投入 労働 1 第2財 2 産出 第1財 8 中間財という主題(4) 実は、古くて新しい問題 McKenzieは気づいていた。 RES (1953-4) p.179 「少し考えれば、もし 棉花が英国で栽培されなければならないとしたら、 ランカシャーで綿布を生産することはありそうもな いと確信するだろう。」 問題の重要性 McKenzieの時代から分かっていた。 中間財という主題(5) 中間財を含む理論 必要性は明白。 なぜ、中間財を含む理論はできないか。 原因>>分析の困難 生産費が輸入財の価格に依存する。 一国内の賃金率の高さで議論できない。 帰結:理論の不在>どう応えるか? 分析の問題(1) 中間財と多数財 中間財多数財 HOS理論 Ethier1984(HamdbookVol.I) General results: 多くの主張は2×2を出られない。 「戦略の転換も興味ある可能性」 結論 トーンが違う。平均的、部分的には。 Ricardo理論 M国N財>Graham、McKenzie、Jones 原材料・中間財の分析不在 分析の問題(2) 図解による展開 池間誠1993/三邊信夫2001など 石川・古沢『国際貿易理論の展開』第5部 価格の分析 横軸p2/p1と 縦軸p3/p1 表示 生産面 McKenzie以来の表示(とくに三邊) 正確なものか(計算機による図示、後出) 分析の問題(3) 中間財貿易 Jones1961: 対称の場合のみ 東田2004「中間財と国際生産特化パタ-ン」 Ricardo理論で中間財を扱った珍しい例。 分析手法としては、池間1993を踏襲 発見 複数の完全特化パタンの存在可能性 塩沢1985「国際貿易と技術選択」 目標としては多数国・多数財 1985時点では、2国多数財の場合のみ 2006年はじめにようやく糸口 新構成(1) M国N財 (強い存在定理ではN≧M) ひとつの国の中でも技術選択がある。 中間財が国際市場で取引される。 他の要件 すべての技術は単純(結合生産をもたない) すべての技術において労働投入係数は正。 各国は少なくともひとつ生産的な技術系をもつ。 新構成(2) 論理的構成の流れ 賃金率比を基礎に取る。 最小価格定理から、最小生産価格を算出、そ の点の競争モードが定まる。 競争モードにより、Δが細胞分割される。 競争的技術のみを用いて、生産可能集合の 極大面が決定される。 賃金率と価格との間に一対一の関係がある。 賃金率=>価格 しかし、価格の範囲に制約 分担的特化パタンの存在定理 基礎となる定理:最小価格定理 前提 一国経済 単純な技術の選択 結論 ある技術系により 極大の生産面 価格:極大面への法 線p wは、比例乗数 x2 p x1 定義 賃金率Δと競争モード 賃金率Δ w1+…+wM=1 と基準化 賃金率wから世界最小価格pが定まる。(最小価格 定理) Ap<=Iw. (1) 価格pは、wにたいし一意。 (1)を満たす(w,p)に対し、等式 <aτ,p>=wC(τ) をみたす技術は「競争的」と呼ばれる。 競争的技術の集合CT(w) : wの競争モード 同じCT(w)をもつwの集合の閉包たち:Δの細分 労働投入のみの場合 (u1,u2,u3)=(1/t1,1/t2.1/t3) PC A国の競争的な領域 B国の競争的な領域 Y(u1.u2.u3) C国の競争的な領域 PA 賃金率ベクトルの重心表示 PA,PB,PCに重みw1,w2,w3があるときの重心の位置 PB ある財の生産に要する各 国の労働投入: A国 t1, B国 t2, C国 t3 新構成(3) 分担的パタンの存在定理 弱い存在定理(定理3.1) p.20 任意のMとN 強い存在定理(定理3.6) p.30 M≦Nの場合に、”一般に” 計算実験例 §3.5の「結果」 p.34 すこし自由度が大きくなると、ほとんど確率1で強 い存在定理が成立する。 証明:トポロジー(位相数学) 新構成(4) 双対関係定理 賃金率Δ、価格Δ、極大面(frontier) それぞれがモード分割される。 各分割の面の間に1対1の対応がある。 賃金率Δ価格Δ 極大面 点と点、点と集合、競争モード 補完的次元関係 dim(E)+dim(F)=dim(E)+dim(G)=N-1 E:極大面 F:賃金率Δ G:価格Δ の各対応する任 意の面 計算事例 (Mathematicaによる計算) 賃金率Δの分析 3国・3財、技術選択 File:「Δのモード分割、技術選択」 生産可能集合の性質(フロンティアの形) 双対的対応関係 File:「☆価格図と生産可能集合」 生産可能集合存在比率 労働力の存在比率の変化 つき 1. 労働投入のみ File:生産可能集合 名前 2. 中間財投入 複数の完全特化パタンをもつ例 MathFile:多数の特化パタン 探索結果の整理 双対的な関係の例示(3国3財の場合) 賃金率・価格面 錐を定義 生産可能集合 実体 凸多面体を定義 分担的領域 存在域 非負象限をカバー 頂点 <=> 2次元領域 辺 <=> 辺 開領域 <=> 頂点 新構成(5) 理論構築後の考察 ☆論理的構成と同じでない。 世界最終需要の構成比を所与とする。 その構成は、一般に生産可能集合のある極大 ファセットに属する。 ファセットに対応する賃金率・価格は比例を除い て一義的に定まる。 各国の賃金率が技術と最終需要とから定まる。 同一ファッセット内では、数量調節が主。 新しい議論(1) 需要構成と賃金率 生産可能集合の極大境界のほんどの点は、 ファセット(すなわち、最大次元の境界面)の 内部にある。より低い次元の面の全体の測度 は0。 需要構成がファセットにあるとき、少なくとも競 争的価格は一義に決まっている。 ほとんどの場合、各国の賃金率の比率を確定 できる。 新しい議論(2) 価格調節と数量調節 需要構成が極大境界のあるファセットで表さ れるとき、そのファセット内のすべての点は、 同じ競争価格をもつ。 同一のファセツト内では、価格を変化させるこ とによって、特定の最終需要を実現することは できない。 価格調節だけでは純生産数量を最終需要に 一致させることはできない。 新しい議論(3) 貿易の利益と不利益 新構成=>均衡状態の分析に限定されない。 貿易の利益 「雇用されている労働者」という視点 貿易の不利益 世界需要が不変の場合 失業する労働者、衰退産業の資本家・経営者 最近の話題(1) 産業内貿易 伝統的理論vs.新貿易論(Krugmanなど) 生産要素が類似の国の間では、類似の投入比率 もつ商品の貿易は起こらない。(HO理論の帰結) リカード理論では、二つの国の二つの商品の技術 が異なれば、貿易は起こりうる。 「リカード理論では類似の国の間の大量の貿易を 説明できない。」(Krugman & Obstfeld)と いう主張には根拠がない。 収穫逓増だけが産業内貿易の要因ではない。 最近の話題(2) 分断化 この10年の議論 多くは、中間財貿易がおこる状況をad hocに設 定している。(部分均衡、小国の仮定、etc.) 新構成 中間財を貿易可能財であるして問題設定。 比較優位が働けば、当然、部品生産の多国分散 が起こりうる。 各国間の「輸送費」を考慮する拡大は可能。 輸送費・通信費・関税の低廉化の帰結 おもな結論(1) 新構成からの知見 M国・N財で、財の投入と中間財貿易、技 術選択の設定において再構成できる。 貿易パタン 世界最終需要の構成比が決まれば、一 般に一義に定まる。 各国の賃金比率 最終需要の構成比が決まれば、一般的 に一義的に定まる。 結論(2) 新しい視点・論点 数量調節の必要 価格により、特定の需要構成は実現できない。 貿易による失業・廃業が生ずる。 Technology matters. 大きなメッセージ HOS理論からは遠ざけられている視点 Sraffa Bonusの大きさ 中間財貿易を扱えない理論は不十分 「分断化」の基礎理論
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