No.4

5.4
行列式の性質 (2)
この公式は,特別な形の行列式の計算を,小さな行列式の計算に帰着できることを主張しているが,
特に重要なのは,q = 1 のときである.このとき
前回の講義で,行列式の成分表示と,行列式と似た性質を持つ関数の形を見た.復習としてここ
a11
0
..
.
0
に書いておく.
n 次正方行列 A = (aij ) の行列式は
det A =
∑
sgnσ aσ(1),1 · · · aσ(n),n
σ∈Sn
と表される.
a12
a22
..
.
an2
...
...
..
.
a1n
a11
a2n
a21
.. = ..
.
.
ann
an1
...
0
a22
..
.
an2
...
...
..
.
...
0
a22
a2n
.
.. = a11 ..
.
an2
ann
...
..
.
a2n
..
.
...
ann
が成り立つ.
行列式の性質 (D1) – (D3) を満たすような関数 F (a1 , . . . , an ) は
F (a1 , . . . , an ) = det(a1 , . . . , an )F (e1 , . . . , en )
5.5
と表される.
5.5.1
今回は,これらの公式を用いて,行列式の様々な性質を解説する.
行列式の余因子展開とクラメルの公式
クラメルの公式
(
n 次正方行列 A = a1
まず,転置行列の行列式について述べる.行列 A = (aij ) の転置行列 tA とは,行と列,つまり
...
)
an を係数行列とする連立 1 次方程式
縦と横を逆にした行列 (aji ) のことであった.

定理 5.4.1 (転置行列の行列式) 転置によって行列式は不変である:
det(tA) = det A

x1
 . 
. 
b ∈ Rn , x = 
 . 
xn
Ax = b,
転置は行と列の役割を入れ替えるので,この定理から次のことがわかる.
を考える.A に逆行列が存在すれば,この方程式はただ一つの解 x = A−1 b を持つが,この解を
命題 5.4.2 行列の性質 (D1) – (D3), (D5) – (D7) は,列のみならず行に関しても成り立つ.
行列式で書くことが出来る.
積の行列式については,次が成り立つ.
定理 5.5.1 (クラメルの公式) A が正則なら,連立 1 次方程式 (5.3) の解は
定理 5.4.3 (積の行列式) サイズの等しい二つの正方行列 A, B の積の行列式は,それらの行列式
j
の積である:
↓
det(AB) = (det A)(det B)
xj =
これを使えば,逆行列の行列式がどうなるかがすぐにわかる.
と表される.
系 5.4.4 (逆行列の行列式) 正方行列 A が正則,つまり逆行列を持つなら det A ̸= 0 であり,
det(A−1 ) =
1
det A
が成り立つ.
もう一つ,先ほどの公式を使うと簡単に証明できる公式を述べておく.
命題 5.4.5 A, B をそれぞれ p, q 次の正方行列とし,X, Y をそれぞれ p × q, q × p 行列とした
とき,
(
A
det
O
X
B
)
(
= (det A)(det B),
A
det
Y
O
B
(5.3)
)
= (det A)(det B)
が成り立つ.
32
det(a1 , . . . , b, . . . , an )
det A
(j = 1, 2, . . . , n)
練習問題 17
17-1. 次の行列の行列式を求めよ.
(
(1)
3 5
2 4
)(
)
5 −3
−7 4
(
1
2
(2)
2
3

)2014
(3)
3

−1

3
−1
−2 4

1 2
−3 1
17-2. 次の行列式を計算せよ.
(1)
1
2
2
0
0
3
0
0
4
1
5
7
8
−5 4
3 −2
(2)
−1
2
0
1
1
a
a2
0
3 1 1
−1 4 1
1 2 3
0
a2
a
1
0
a2
a
1
0
a2
a
1
1
0
(3)
17-3. クラメルの公式を用いて次の連立 1 次方程式の解を求めよ.但し a, b, c, d は,互いに相異な
る 0 ではない数とする.




2x + y + z = 1
 ax + by + cz = d
(1)
(2)
x + 2y + z = 0
a2 x + b2 y + c2 z = d2



 3
x + y + 2z = 0
a x + b3 y + c3 z = d3
33