5.5.2 行列式の余因子展開 n 次正方行列 A = (aij ) に対し, 大きな行列式の計算を,小さな行列式の計算に帰着させる方法を説明する. n 次正方行列 A = (aij ) の第 i 行と第 j 列を取り除いて出来る n − 1 次正方行列 A(i,j) の行列 式に (−1)i+j を掛けたものを A の (i, j) 余因子といい,∆ij で表す: ∆11 ∆12 e = t(∆ij ) = (∆ji ) = . A . . ∆21 ∆22 .. . ... ... .. . ∆n1 ∆n2 .. . ∆1n ∆2n ... ∆nn ∆ij = (−1)i+j det A(i,j) . を A の余因子行列という.通常とは添え字の付き方が逆であることに注意せよ.このとき余因子 これは行列 A の第 j 列を基本ベクトル ei で置き換えた行列の行列式に他ならない: j ↓ A = (a1 , . . . , aj , . . . , an ) 展開の公式より, e = AA e = (det A)In AA j ⇒ ↓ ∆ij = det(a1 , . . . , ei , . . . , an ). が成り立つことがわかる.よって余因子による逆行列の公式が得られた. このことを念頭に置けば,行列 A の第 j 列ベクトル aj を aj = a1j e1 + · · · + anj en と書き直 定理 5.5.4 (逆行列の余因子による表示) (1) 正方行列 A が正則であるための必要十分条件は し,行列式の性質 (D1)–(D3) を用いて det A = det(a1 , . . . , aj , . . . , an ) を分解することにより,次 det A ̸= 0 が成り立つことである. の公式が成り立つことがわかる. (2) det A ̸= 0 ならば,A の逆行列は 定理 5.5.2 (行列式の余因子展開) j = 1, 2, . . . , n に対し, A−1 = det A = a1j ∆1j + a2j ∆2j + · · · + anj ∆nj 1 e A det A によって与えられる. が成り立つ.これを det A の第 j 列に関する余因子展開という.同様にして第 i 行に関する余因 子展開 5.6 det A = ai1 ∆i1 + ai2 ∆i2 + · · · + ain ∆in (i = 1, 2, . . . , n) も成り立つ. 5.6.1 j l ↓ 列を第 j 列で置き換えた行列には平行な列があるので,その行列式 det(a1 , . . . , aj , . . . , aj , . . . , an ) 定理 5.6.1 (行列式による線形独立性の判定) ベクトルの組 a1 , . . . , an ∈ Rn が線形独立であるこ は 0 である(性質 (D6)).これを先ほどと同様にして,第 l 列について分解すれば次の公式を得る. とと,det(a1 , . . . , an ) ̸= 0 となることは同値である. ( しかし,m > n のとき,a1 , . . . , an ∈ Rm を連結させた行列 A = a1 ) . . . an は m × n 行 列であるので,その行列式を考えることはできない.このとき A から n 個の行ベクトルを選び出 して連結させれば n 次正方行列となるので,その行列式を考えることができる.このような行列 ( ) 式は m n 個あるが,その中に 0 で無いものがあることと,a1 , . . . , an が線形独立であることが同 定理 5.5.3 j ̸= l ならば, 0 = a1j ∆1l + a2j ∆2l + · · · + anj ∆nl が成り立つ.行に関しても同様にして,i ̸= k ならば, 値となることが証明できる. 0 = ai1 ∆k1 + ai2 ∆k2 + · · · + ain ∆kn . この結果を使うと,行列式による階数の特徴付けができる.この講義では,行列 A に基本変形 ( ) Ir ∗ を施し, となったとき,左上に最大限大きく作った単位行列のサイズ r を行列 A の階 O O 数と定めた.一方,前期の講義で,行列 A の線形独立な行ベクトルの最大数と,線形独立な列ベ が成り立つ. 5.5.3 線形独立性,階数と行列式 Rn の n 個のベクトル a1 , . . . , an の線形独立性は行列式で判定できる. 今の議論では det A = det(a1 , . . . , aj , . . . , an ) を第 j 列について分解することを行った.A の第 l ↓ 行列式の応用 逆行列の公式 クトルの最大数は等しく,それが A の階数である,という事実を説明した.こちらを階数の定義 に採用することも多い. 今示した 4 個の公式から,余因子を用いて逆行列の計算ができることがわかる. 今,m × n 行列 A から r 個 (r ≤ m, n) の行と列を選び出して作られる r 次正方行列の行列式 ( ) (n) を A の r 次小行列式という.このようなものは m r × r 個ある.先ほどの考察により,A の列 33 練習問題 18 ベクトルの中に,r 個の線形独立なベクトルが存在し,しかも r + 1 個の線形独立なベクトルが存 在しないことと,A の r 次小行列式の中に 0 でないものが存在し,しかも r + 1 次小行列式が全 レポート提出は 18-1., 18-2. だけでよい. て 0 となることは同値である.以上により,次の結果が得られた. 18-1. 次の行列式を計算せよ.(1), (3) は因数分解した形で答えること. 2 1 0 1 a + b + c −c −b 1 2 3 0 (1) −c (2) a+b+c −a 0 1 2 1 −b −a a+b+c 3 0 1 2 a x 1 1 1 b a b 1 x 1 1 a −b (4) (3) a −b a 1 1 x 1 −b a 1 1 1 x b 1 1 1 1 a b c d (5) c d a b c + d d + a a + b b + c 定理 5.6.2 (小行列式による階数の特徴付け) 行列 A の 0 ではない小行列式の最大次数は A の階 数に等しい. 5.6.2 線形変換と行列式 この講義では,正方行列の列ベクトルのなす平行体の『符号付き面積・体積』の考察から行列式 を導入した.ここでは正方行列 A より定まる線形変換 f (x) = Ax (5.4) と行列式の関係を考える. 簡単のため,A を2次正方行列とし,v 1 , v 2 ∈ R2 の張る平行四辺形 D = {sv 1 +tv 2 | 0 ≤ s, t ≤ 1} を考える.線形変換 (5.4) によるこの平行四辺形の像 f (D) = {sAv 1 + tAv 2 | 0 ≤ s, t ≤ 1} は平行 四辺形(または線分,一点)なので,その符号付き面積は det(Av 1 , Av 2 ) = det(A(v 1 , v 2 )) = det A × det(v 1 , v 2 ) よる面積拡大率である.3次以上の場合も同様である.また,一般の図形についても,小さな平行 四辺形の和集合で近似して極限をとれば,同様の結果が成り立つことがわかる. Ax (x ∈ Rn ) 4 4 3 −9 18-2. 余因子行列を計算することにより,行列 −1 であるが,det(v 1 , v 2 ) は元の平行四辺形 D の符号付き面積である.よって | det A| はこの変換に 命題 5.6.3 (線形変換による体積拡大率) n 次正方行列 A より定まる Rn 上の線形変換 −2 3 1 18-3. 小行列式を計算することにより,行列 −2 2 4 4 f (x) = によって,図形の(n 次元)体積は | det A| 倍される. 1 2 −b a b a 0 の逆行列を求めよ. −1 −1 の階数を求めよ. 3 18-4. 楕円は,適当な線形変換による円の像である.半径 r の円の面積が πr2 であることを既知と x2 y2 して,楕円 2 + 2 = 1 (a, b > 0) の面積を求めよ. a b 34
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