電磁気学で使う数学:第6回

2006 年度全学自由研究ゼミナール
電磁気学で使う数学:第 6 回
11 月 14 日 清野和彦
解答. フビニの定理によって、
1
f(x, y)dxdy =
I
1
1
y
0
0
1
x
xdx dy =
ydy dx
0
0
1
1
です。(y は x での積分では定数扱いですので、 0 xydx = y 0 xdx です。)関数
f(x, y) = xy と積分区間 I が x と y について対称なので、中辺と右辺は全く同じ
計算過程になります。左辺で計算してみると、
1
=
0
1
1
dx =
2
0
1
x y2
2
1
0
1 1 2
xdx =
x
2 2
1
=
0
1
4
となります。どちらの変数から先に積分しても同じ計算過程になることは次のよ
1
うに式変形してみるとよくわかるでしょう。例えば 0 xdx には y が関係してい
1
ないので y で積分する上ではこれは定数扱いできます。そこで 0 xdx を y での
積分の外に出してしまいましょう。すると、
1
1
0
1
xydx dy =
0
1
0
1
xdx dy =
y
0
1
xdx
ydy
0
0
となります。これは x と y について対称な式になっています。
D は、x を決めるごとに y の範囲が決まると考えた場合
D = {(x, y) | 0 ≤ x ≤ 1, x2 ≤ y ≤ 1}
となりますし、y を決めるごとに x の範囲が決まると考えた場合
√
D = {(x, y) | 0 ≤ y ≤ 1, 0 ≤ x ≤ y}
となります。まず x を止めて y について積分するには D を上のように見なし、ま
ず y を止めて x について積分するには下のように見なします。もちろんフビニの
定理によってどちらも重積分の値と一致しますので、
1
D
f(x, y)dxdy =
1
x
x2
0
√
y
1
ydy dx =
xdx dy
y
0
0
となります。中辺で計算すると
1
=
x
0
1 2
y
2
1
x2
dx =
となり、右辺で計算すると
1
=
0
1
y x2
2
√
0
1
2
y
1
0
x − x5 dx =
1
dy =
2
1
0
1 1 2 1 6
x − x
2 2
6
1 1 3
y dy =
y
2 3
2
1
x2
1
=
0
1
=
0
1
6
1
6
となり、ちゃんと一致します。なお、こちらの場合
ydy は x の関数、
は y の関数なので、積分範囲が I の場合のような式変形はできません。
√
y
0
xdx
第6回
2.8
2
重積分の変数変換公式
この節では、重積分の変数変換公式、つまり、f(x, y) に x = ϕ(s, t), y = ψ(s, t)
という関数を合成した関数を g(s, t) := f(ϕ(s, t), ψ(s, t)) としたとき、f(x, y) の重
積分は g(s, t) にどのように手を加えたものの重積分で表されるのかを調べます。1
変数関数の場合には、g(s) := f(ϕ(s)) とすると、
b
a
β
f(x)dx =
dϕ
(s)ds,
ds
g(s)
α
ϕ(α) = a, ϕ(β) = b
という置換積分の公式がありました。つまり、f(x) の積分は g(s) に「ϕ (s) を掛
ける」という「手を加えたもの」の積分に変換されるわけです。この「ϕ (s) を掛
ける」に当たることが多変数関数の重積分ではどのような操作になるのかを調べ
ようというわけです。
変数変換公式を手に入れたい理由は二つあります。
一つは、重積分の具体的な計算手段としてです。前小節で重積分の計算は 1 変
数関数の積分を変数の数だけ繰り返すことと一致するという「フビニの定理」を
紹介しました。しかし、例えば積分範囲が単位円板 {(x, y) | x2 + y 2 ≤ 1} の場合、
x で積分してから y で積分しようとすると、
√
1−y2
1
−1
√
−
f(x, y)dy dx
1−y2
(1)
というふうに、積分の端が ± 1 − y 2 という「やっかいを引き起こしそうな形」
をしています。もしこれが、g(r, θ) := f(r cos θ, r sin θ) に「手を加えたもの」の積
分で表せるなら、積分範囲が(rθ 平面の)長方形になるので、r と θ に関する重
積分にフビニの定理を適用して、例えば
2π
0
1
0
“g(r, θ) に手を加えたもの”dr dθ
というふうに計算できるようになるわけです。しかし、
「それはもとの計算式(1) を
計算する過程で 1 変数関数の置換積分を順次適用して行けばよいのではないか?」
と思うかも知れません。確かにそれでも計算できるかも知れませんが、例えば、積
分範囲が xy 平面の正方形 [0, 1] × [0, 1] を 45◦ 回したものであった場合、まず x
と y についての累次積分の式を積分範囲に注意しながら慎重に書くより、45◦ 回
した座標系についての式がいきなり書ける方が楽で間違いも少ないだろうと考え
られます。つまり、フビニの定理に頼って 1 変数関数の置換積分を繰り返すという
方法では、複数の変数をまぜこぜにするような変数変換には対応できない、ある
いは、対応できるにしても不自然な手間を掛けなければならないということです。
二つ目の理由は「面積分の定義式を手に入れるため」です。線積分を、積分範
囲である曲線をパラメタ付けし、そのパラメタを変数とする普通の定積分で書き
第6回
3
下すために置換積分の公式を経由したことから予想されるように、面積分も、積
分範囲である曲面を 2 つのパラメタでパラメタ付けし、そのパラメタの組を変数
とする二重積分で書き表すためには、二重積分の変数変換公式(あるいは、その
公式の背後にある考え方)が必要になります。この場合は一般論ですのでフビニ
の定理に頼った方法ではダメで、どうしても二つの変数を同時に変換するという
ことを考察しないわけにはいきません。
以上のような理由から、面積分の前に小節を一つ設けて重積分の変数変換公式
を考えてみることにしました。
2.8.1
具体的な場合の考察:どのように「手を加える」べきなのか
一般論の前に、最もよく出会う「極座標」の場合に f(x, y) の二重積分が g(r, θ) :=
f(r cos θ, r sin θ) にどのように「手を加えたもの」の積分になるか具体的に調べて
みましょう。
1 変数関数の場合、微分積分の基本定理によって積分の話を微分の話に置き換え
ることができました。置換積分の公式も、そのように考えて合成関数の微分法か
ら導きました。しかし、重積分については微分積分の基本定理に当たるものがな
いので、重積分の定義に従って考えなければなりません。重積分の定義とは「リー
マン和の極限」です。だから、
xy 平面でのリーマン和と rθ 平面でのリーマン和の関係
を明らかにすれば重積分の変数変換の公式も自ずと手に入るものと予想されます。
(もちろん、リーマン和と重積分の間には「極限操作」というやっかいなものが挟
まっているのでそう安直にはいきませんが、このゼミではその「やっかいな部分」
には深入りしません。)
さて、本来の重積分では積分範囲が円板であっても x 軸と y 軸に平行な直線だ
けで積分範囲を切り刻まなければならないわけですが、
「軸に平行」にこだわらな
ければ図 1 のように分割してもリーマン和に当たるものを考えることはできます。
直感的には明らかだと思いますが、このような分割を使ったリーマン和の極限
もちゃんと重積分の値と一致します。(ただし、証明にはいわゆる「ε-δ 論法」に
よるかなり込み入った議論がどうしても必要になってしまうので、ここでは省略
します。)一方、xy 平面における図 1 の分割は、「rθ 平面(という仮想的な平面)
における軸に平行な分割(図 2)」を x = r cos θ, y = r sin θ で写したものになって
います。だから、図 1 に関する f(x, y) のリーマン和を図 2 に関する「g(r, θ) に手
を加えたもの」のリーマン和で表すには、どのように「手を加えればよいか」が
わかればよいことになります。
図 2 の長方形 Ik が図 1 の Dk に写されているとし、Ik の中に代表点 (ρk , ϑk ) を
取り、ξk = ρk cos ϑk , ηk = ρk sin ϑk とすることで Dk の代表点 (ξk , ηk ) を決めま
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4
✓
✏
y
Dk
1
x
図 1: 円の分割。
✒
しょう。すると、
g(ρk , ϑk ) = f(ξk , ηk )
ですので、Ik を底面とし g(ρk , ϑk ) を高さとする直方体の体積と Dk を底面とし
f(ξk , ηk ) を高さとする「一切れのバームクーヘン」のようなものの体積との違い
は、高さが同じなのですから底面積の違いだけによっていることがわかります。本
当に欲しい重積分の値に収束する方のリーマン和は「バームクーヘン」の方の和
ですから、Ik を底面とする直方体の体積に
Dk の面積
Ik の面積
を掛けてからすべての Ik についての和を取ってやればよいことになります。
Ik を [rk−1 , rk ] × [θk−1 , θk ] とすると、
1
Dk の面積 = (rk 2 − rk−1 2 )(θk − θk−1 )
2
1
= (rk + rk−1 )(rk − rk−1 )(θk − θk−1 )
2
rk + rk−1
× Ik の面積
=
2
となります。リーマン和で書けば
rk + rk−1
(rk − rk−1 )(θk − θk−1 )
f(ξk , ηk )“Dk の面積” =
g(ρk , ϑk )
2
k
k
です。これで分割を細かくした極限を取ると、左辺は欲しい重積分の値
f(x, y)dxdy,
D
D は単位円板
✑
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5
✓
✏
θ
2π
Ik
1
r
図 2: 円の分割に当たる分割。
✒
✑
✓
✏
y
θ
φ
θ0
r0 φ
h
h
r0
r0
r
Oφ
x
図 3: 極座標変換で [r0, r0 + h] × [θ0, θ0 + φ] を xy 平面に写すと、面積はほぼ
r0 倍になる。
✒
✑
に収束するわけですから右辺も同じ値に収束します。分割を細かくすれば rk → rk−1
となりますので、極限では (rk + rk−1 )/2 は r になると考えられます。よって、右
辺の極限は g(r, θ) そのものの重積分ではなく、
g(r, θ)rdrdθ,
I
I = [0, 1] × [0, 2π]
というふうに、g(r, θ) に「局所的な底面積の比」の近似値である r を掛けるとい
う「手を加えたもの」の重積分になることがわかります。
結局、
「手を加える」ということの内容は、関数 f(x, y) に由来するのではなく、
rθ 平面での図形の面積と xy 平面での図形の面積が x = r cos θ, y =
r sin θ によってどのように関係しているか、
その局所的な面積の比の値を g(r, θ) の方に押しつけることだということがわかり
ました。よって、このことを極座標変換に限らない一般の変換に対して考察し、極
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6
座標変換での「面積比 r」に当たるものが、変換の関数 x = ϕ(s, t), y = ψ(s, t) を
使ってどのように表されるのかを調べればよい、ということになります。
2.8.2
1 変数関数の場合
極座標の場合がわかったからといって、いきなり一般の変数変換を考察するのは
辛いので、1 変数関数の置換積分をリーマン和の視点から考え直してみましょう。
一番簡単な場合として、x = at (a > 0) という一次式による変換を考えてみま
す。g(t) := f(at) です。置換積分の公式によると f(x) の積分は g(t) の積分の a
倍になります。あえて a を積分の外に出さずに公式の形のまま書くと、
c
a
c
b
f(x)dx =
b
a
g(t)adt
となります。これをリーマン和の視点から説明してみましょう。
閉区間 [b, c] の分割
b = x0 < x1 < x2 < · · · < xn−1 < xn = c
に対し、閉区間 [b/a, c/a] の分割
b
c
= t0 < t1 < t2 < · · · < tn−1 < tn =
a
a
を
tk =
xk
a
によってきめると、この二つの分割は x = at という変換によってちょうどピッタ
リ対応します。[b, c] の分割の代表点たち ξ1 , ξ2 , . . . , ξn を、[b/a, c/a] の分割の代表
点たち τ1 , τ2, . . . , τn によって
ξk = aτk
と決めれば、
f(ξk ) = f(aτk ) = g(τk )
となりますので、f(x) のリーマン和に出てくる長方形の高さは g(t) のリーマン和
で対応する長方形の高さとピッタリ一致します。よって、リーマン和の間の関係
は底辺の長さの比で決まります。今の場合、任意の k = 1, 2, . . . , n について
xk − xk−1 = atk − atk−1 = a(tk − tk−1 )
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7
ですので、f(x) のリーマン和に出てくる長方形の底辺の長さはすべて g(t) のリー
マン和で対応する長方形の底辺の長さの a 倍です。式で書けば
n
n
f(ξk )(xk − xk−1 ) =
k=1
g(τk )a(tk − tk−1 )
k=1
c
となります。左辺は f(x) の [b, c] におけるリーマン和ですからその極限は b f(x)dx
です。一方、右辺は g(t) ではなく g(t) に a を掛けたものの [b/a, c/a] における
リーマン和になっています。よって、
c
a
c
b
f(x)dx =
b
a
g(t)adt
が結論されるというわけです。
要点はどこかというと、
x における分割の各区間と t における分割の対応する区間の長さの比
が g(t) に掛かる
というところです。そして、我々は置換積分の公式が
b
a
β
f(x)dx =
α
g(t)ϕ (t)dt
であることを知っているのですから、問題の比は(極限的には)ϕ (t) であるはず
だということがわかります。このことを一般の置換で説明してみましょう。
x = ϕ(t) で置換するのですが、積分区間のひっくり返りや重複を考察する面倒
を省くため、「ϕ(t) は単調増加」つまり「任意の t について ϕ (t) > 0」と仮定し
てしまいましょう。
これまでの考察で、積分される関数 f(x) はどうでもよくて、x における積分区
間の分割
x0 < x1 < x2 < · · · < xn−1 < xn
の各小区間の幅 xk − xk−1 と、対応する t における積分区間の分割
t0 < t1 < t2 < · · · < tn−1 < tn ,
ϕ(tk ) = xk
における対応する小区間の幅 tk − tk−1 との比だけが問題であることがわかってい
ます。しかも、あとで極限を取るのですから「極限的な意味で」の比がわかれば
十分です。
さて、xk − xk−1 と tk − tk−1 の比をあらわに書くと、
ϕ(tk ) − ϕ(tk−1 )
xk − xk−1
=
tk − tk−1
tk − tk−1
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8
✓
✏
x
傾き ϕ (tk−1 )
xk
xk−1
O
x = ϕ(t)
tk−1tk
t
図 4: 曲線を接線で近似することで、xk − xk−1 が ϕ (tk−1 )(tk − tk−1 ) に近いこ
とが見て取れる。
✒
✑
ですので、tk → tk−1 のとき、これは ϕ の微分の定義そのものです。というわけ
で、一瞬にして置換積分の公式が得られてしまいましたが、これでは重積分の場
合に議論が広がっていきません。x = at の場合の議論に結びつけられるようにも
う少し幾何学的に考えてみましょう。
x = ϕ(t) のグラフを見ることで、
「xk −xk−1 は tk −tk−1 の大体 ϕ (tk−1 ) 倍」である
ことが説明できないか考えてみましょう。すると、図 4 を見るとわかるように、曲線
x = ϕ(t) を考えるかわりに、t = tk−1 におけるその接線 x = xk−1 +ϕ (tk−1 )(t−tk−1 )
を考えると良さそうな感じがするでしょう。
(別に tk−1 における接線でなくても、
[xk−1, xk ] 内の任意の点における接線で十分なのですが、記号を増やさないために
一番値の小さい端の点にしました。)つまり、ϕ(t) の t = tk と t = tk−1 での値の
差 xk − xk−1 = ϕ(tk ) − ϕ(tk−1 ) は、ϕ(t) の接線の方での値の差
(xk−1 + ϕ (tk−1 )(tk − tk−1 )) − (xk−1 + ϕ (tk−1 )(tk−1 − tk−1 )) = ϕ (tk−1 )(tk − tk−1 )
に近いのではなかろうか、というわけです。これが、底辺の比に ϕ (t) の出てくる
仕組みです。
この考察を 2 変数の場合に適用してみましょう。2 変数の場合でも、関数 f(x, y)
はどうでもよく、xy 平面における図形の面積と st 平面における図形の面積が
x = ϕ(s, t), y = ψ(s, t) によってどう変わるかだけが問題になります。
2.8.3
1 次変換の場合
1 変数の場合の比例式 x = at に当たるのは、2 変数では
x = as + bt,
y = cs + dt
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9
✓
✏
c+d
d
A
1
c
0
✒
0
1
a
b
a+b
図 5: 1 次変換 A による正方形の像。
✑
です。これは行列とベクトルの積を利用して
x
y
a b
c d
=
と書くことができます。特に、
1
0
s
t
は
a
c
s
t
=A
0
1
に、
よって、正方形 [0, 1] × [0, 1] は 4 つのベクトル
0
0
,
b
d
は
a
c
,
に写ります。
a+b
c+d
,
b
d
で決まる平行四辺形に写ります(図 5)。
このとき、図形の面積は何倍されたでしょうか? もとの図形は一辺が 1 の正方
形ですので面積は 1、よって A で写されたあとの図形の面積がそのまま面積比と
なります。これは、行列 A の行列式の絶対値 | det A| となります。確かめてみま
a
b
,b =
のなす角を θ として、
しょう。二つのベクトル a =
c
d
√
a2 + c2 b2 + d2 sin θ
√
√
√
= a2 + c2 b2 + d2 1 − cos2 θ
平行四辺形の面積 =
=
=
=
√
√
(a2 + c2 )(b2 + d2 ) − (a · b)2
a2d2 + b2c2 − 2abcd
(ad − bc)2
= | det A|
となります。a · b はベクトルのスカラー積(内積)です。
このことは [0, 1] × [0, 1] に限らず成り立ちます。つまり、st 平面における任意の
長方形とそれを A で xy 平面に写してできる平行四辺形に対して、面積が | det A|
倍になっています。
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10
ちょっと進んだ注意. det A が負になることもある一方面積は負にならないの
で、
「| det A| 倍」と絶対値のついていることは一応納得できます。それでは、
det A < 0 の変換とは幾何学的にはどのようなものなのでしょうか。det A < 0
0 1
となる一番簡単な例は A =
でしょう。この場合 [0, 1] × [0, 1] とい
1 0
う正方形は同じ正方形に写されます。しかし、x 軸と y 軸が入れ替わるので
図形の裏表がひっくり返るのです。行列式の正負は図形の裏表を保つか逆に
するかに対応しているのです。図形の裏表のことを向きと呼びます。正確に
は、R2 自体に向きがついていて、A がその向きを保つとき det A > 0、保た
ないとき det A < 0 というふうになります。実は、一般の Rn にも「向き」
という概念をつけることができて、det A の正負について全く同じことが成
り立ちます。ちなみに、全微分の概念を一般化した微分形式というものを使
うと、絶対値をつけない det A が直接変換に現れる積分を考えることができ
るようになります。いわば、面積を負にまで拡張するわけです。気付いた人
もいるかもしれませんが、1 変数の場合には「負の面積」に当たることを考え
ています。それは a > b のとき、a から b までの積分を [b, a] での積分の符
号を変えたものと定義した部分です。つまり、
「負の長さ」を持つ閉区間を許
容しているのです。★
上では平面、つまり 2 次元(2 変数)の場合で考えましたが、実はこのことは何
次元でも成り立ちます。例えば 3 次元では、3 次正方行列 A による変換前と変換
後の体積の比は | det A| になります。つまり、この場合立方体 [0, 1] × [0, 1] × [0, 1]
の A による像である平行六面体の体積が | det A| になっているのです。
さて、「1 次変換 A によって面積は | det A| 倍される」ということを使って、変
数変換が 1 次変換の場合の重積分の変数変換公式を完成させましょう。面倒なの
で、xy 平面における積分範囲 D を (0, 0), (a, c), (b, d), (a + b, c + d) を頂点とする
平行四辺形としましょう。st 平面から xy 平面への 1 次変換 A を
A=
a b
c d
: R2
s
t
→
as + bt
cs + dt
=
x
y
∈ R2
とします。すると st 平面内の I = [0, 1] × [0, 1] が A によって D に写ります。
I の(普通の)分割 ∆ を一つとりましょう。それを A で xy 平面に写すと、D
の小平行四辺形による一般分割 ∆ ができあがります。∆ における (i, j) 小区間を
Dij 、A によるその像、つまり ∆ における (i, j) 小平行四辺形を Dij とします。
また ∆ij の代表点 (σij , τij ) と、それを A で写した Dij の代表点を (ξij , ηij ) :=
(aσij + bτij , cσij + dτij ) とします。こうすると、f(ξij , ηij ) = g(σij , τij ) となります。
Dij の面積を Areaij 、Dij の面積を Areaij とすると、Areaij = | det A|Areaij であ
ることを示したので、f(x, y) のリーマン和は
f(ξij , ηij )Areaij =
(i,j)
g(σij , τij )| det A|Areaij
(i,j)
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11
✓
✏
ϕ のグラフ
d
I
f
c
R
f ◦ϕ
J
ここだけ積分の向きが逆になっている
図 6: I での積分を ϕ によって J での積分に変換するとき、[c, d] の部分を 3 回
重複してしまっているように見えるが、そのうちの一度は逆向きの積分になっ
ているのでちょうど帳尻が合う。
✒
✑
というふうに、g(s, t) に | det A| を掛けたもののリーマン和になります。
よって、
D
f(x, y)dxdy =
I
g(s, t)| det A|dsdt
が導かれました。
注意. | det A| は定数ですので積分記号の外に出すことができますが、一般の
場合の変数変換との見た目の整合性を保つために、中に入れたままにしてお
きました。★
2.8.4
一般の写像による変数変換
st 平面から xy 平面への写像 x = ϕ(s, t), y = ψ(s, t) が与えられたとき、
xy 平面内のある領域 D での関数 f(x, y) の積分 D f(x, y)dxdy を、g(s, t) :=
f(ϕ(s, t), ψ(s, t)) に何かしら「手を加えたもの」の ϕ−1 (D) での積分表すのが目標
です。
x = ϕ(s, t), y = ψ(s, t) は何でもよいわけではありません。ϕ が ϕ−1 (D) から
D への 1 対 1 写像(単射)でなければならないのです。1 変数関数の置換積分の
ときこんなことを気にする必要のなかったのは、「ちょっと進んだ注意」で述べた
「向き」の概念が R に自然に入っていることから、もし変換関数 ϕ が単射でなく
ても、重なったところは打ち消しあうからです(図 6)。しかし、多変数関数にお
ける変数変換については、積分範囲の上で単射であることを要求します1 。
1
もっともよく使う極座標変換は r = 0 のところで単射ではありませんので、この条件はきつす
第6回
12
✓
✏
y
t
ϕ, ψ
(D, ∆)
s
(I, ∆)
x
図 7: I の普通の分割を ϕ, ψ で送ると D のフニャフニャした分割ができる。
✒
面倒なので、うまい具合に ϕ−1 (D) = I (辺が s 軸と t 軸に平行な長方形)に
なったとしてしまいましょう。リーマン和を考えるために I の分割 ∆ を
∆ = {[si−1 , si] × [tj−1, tj ]}
˜ とします(図 7)。
ととり、それを ϕ で D に写した一般分割を ∆
∆ の (i, j) 小区間 Dij の代表点として (σij , τij ) を取り、それを ϕ で写したもの
˜ ij の代表点とします。
(ξij , ηij ) = (ϕ(σij , τij ), ψ(σij , τij )) を D
—————————
すみません。時間切れです。つづきは来週配布します。
—————————
問題. xy 平面の領域 D を
D=
(x, y)
√
1
√ x ≤ y ≤ 3x, 1 ≤ x2 + y 2 ≤ 4, x > 0
3
とする。
1
D
x2 + y 2
dxdy
を計算せよ。
ぎます。実は条件を少しゆるめておくことができるのですが、ここでは議論しません。
✑