ヤコウガイ種苗生産における配合飼料の開発

ヤコウガイ種苗生産における配合飼料の開発
ヤコウガイは,奄美海域の特産種で,食用
のほか,模様の美しさから貝殻は土産品とし
色と黄白色の斑が交互にある大変美しい貝で
す 。東京 大学 総合 研究 博物 館刊「 貝 の博 物誌 」
ら で ん
てや,貝細工や螺鈿細工の原料としても珍重
によると,浅海性の海産貝類の色彩を生息環
されています。しかしその資源量は減少して
境の緯度別に比較すると,低緯度地方(熱帯
おり,当センターでも平成2年度よりヤコウ
地方)に生息する貝類は高緯度(寒帯)の貝
ガイの種苗生産技術開発に取り組んでいます
類よりも色彩の変化に富んでいます。また垂
が , 現 在 の と こ ろ 年 間 に 1∼ 5千 個 生 産 で き る
直方向に比較すると,浅いところの貝は深い
ようになったものの,大量生産技術の確立ま
ところの貝よりも派手です。ただ貝類の色が
でには至っていないのが現状です。このよう
どのようなメカニズムで形成されるかは十分
にヤコウガイの種苗生産技術開発には,まだ
にわ かっ てい ない よう です 。
まだクリアしなければならない問題点が多々
先にヤコウガイにアワビ用配合飼料を給餌
あるのですが,今回は稚貝を波板から剥離後
すると殻が白くなると述べましたが,アワビ
の飼料についての取り組みについてご紹介し
やトコブシ等の他の貝類についても給餌する
たい と思 いま す。
飼料によって,殻の色が違うことが知られて
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います。人工の配合飼料や塩蔵ワカメを給餌
試験 の背 景
ヤコウガイの中間育成では,これまで基本
すると殻は明るい緑色になり,その部分は放
的にオゴノリ,アオサ等の天然の海藻類を給
流後も残るため「グリーンマーク」と呼ばれ
餌していました。この海藻を確保するために
て放 流貝 を識 別す るの に役 立 って いま す。
私たちはトラックで県内各地を飛び回り,探
このように貝の殻色は飼料の影響を受ける
しまわっています。しかし時期によって海藻
わけですが,ヤコウガイに適した飼料のタン
のないこともあり,その時はオゴノリを自前
パク質素材としては,海藻由来の素材が殻色
で培養して給餌しますが,充分ではありませ
の改善や成長に有効と思われるので,今回の
ん。また,過去にアワビ用配合飼料を給餌し
試験では海藻を原料とした粉末で,スピルリ
た例がありますが,海藻を給餌した場合に比
ナ ( 藍 藻 類 の ラ セ ン モ が 原 料 , 以 下 「 SP」 と
べて成長が劣る上に殻が白くなり,また弱い
表 記 ), シ ー ミ ー ル ( ジ ャ イ ア ン ト ケ ル プ が
とい う難 点が あり まし た。
原 料 , 以 下 「 SM」 と 表 記 ), オ ゴ ノ リ ミ ー ル
このような状況から,今後の大量生産技術
(東串良産のオゴノリを凍結乾燥し粉砕した
の開発のためには,配合飼料給餌を組み合わ
も の , 化 学 部 が 製 造 , 以 下 「 OM」 と 表 記 ) の
せた手法を確立することが重要であると考え
3種類に着目し,これらを添加した飼料を作
られます。そこで,ヤコウガイの飼育に至適
製し給餌して,成長や殻色に与える影響を比
な配合飼料のタンパク質素材を検討し,成長
較し まし た。
や殻色に有効な飼料を開発することを目指し
まし た。
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配 合飼 料の タン パク 質素 材
ヤコウガイは殻の表面が深い緑色で,濃褐
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試 験の 方法
試 験 は 平 成 14年 7月 31日 から 12月 4日 と , 平
成 15年 6月 23日 か ら 11月 25日 の 期 間 に 実 施 し
ました。試験区はタンパク質素材として動物
( 写真 1)
( 写真 2)
性素材のみの飼料給餌区を対照とし,海藻由
来タンパク質素材の混合割合を変えた飼料給
餌区と,比較のためアワビ用配合飼料給餌区
およびオゴノリ等の海藻給餌区を設定しまし
た 。 供 試 し た 稚 貝 は , 平 成 14年 度 は 平 成 13年
10月 に , 平 成 15年 度 は 平 成 14年 10月 に 採 卵 し
育 成 し て い た そ れ ぞ れ 平 均 殻 高 12.7mmお よ び
6.4mmの も の を , ネ ト ロ ン ネ ッ ト で 作 製 し た
籠 に 各 100個 収 容 し , 給 餌 は 飽 食 給 餌 と し ,
期間中は基本的に月,水,金の隔日給餌とし
ました。籠の掃除とへい死貝の回収は給餌日
に行い,試験区間の成長および殻色の違いを
検討 しま した 。
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試 験の 結果
平 成 14年 度 試 験 結 果 : 最 終 的 な 平 均 殻 高 を み
ると ,6 区(海 藻給 餌区 )が 最も 優れ (23.4mm) ,
海 藻 由 来 タ ン パ ク 質 素 材 を 添 加 し た 2 区(SP1
0% ), 3 区 (SP20% + SM10% ), 4 区 (SP20%
+ SM20% )と 5 区 (市 販 飼 料 給 餌 区 )が そ れ に
続 き ま し た (22.3∼ 22.8mm)。1 区(対照 区, 2
0.7mm)と 比 較 す る と , SP, SMを 添 加 し た 区 は
いずれも成長に優れ,海藻由来タンパク質素
材を飼料に添加すると,稚貝の成長に好影響
を与えるものと思われました。稚貝の殻色を
1区 (対照 区)
4区(SP20%+SM20%)
平 成 15年 度 試 験 結 果 : 最 終 的 な 平 均 殻 高 を
み る と , 1 区 (対 照 区 )が22.7mmで あ っ た の に
対 し , 4 区 (OM20% + SM10%)が 28.0mm, 3 区
(OM10% + SM10% )が27.2mmと 著 し く 成 長 が 優
れ て い ま し た 。 ま た 2 区(SP10% + SM20% )は
23.5mmと 対 照 区 よ り や や 優 れ て い た も の の ,
5 区 (市 販 飼 料 給 餌 区 )と 6 区(海 藻 給 餌 区 )は
そ れ ぞ れ 20.3mm, 18.4mmと 対 照 区 よ り 劣 り ,
3 区 , 4 区 と 比 較 す る と 約 10mmも 成 長 が 劣 り
ま し た 。 稚 貝 の 殻 色 を み る と , SPを 添 加 し た
2 区 は 14年 度 と 同 様 に 緑 色 が か っ て 天 然 貝 に
近 か っ た の で す が ( 写 真 3 ), OMを 添 加 し ,
最も成長の良かった3区,4区は,期待に反
して殻に茶褐色の模様が発色したものの全体
に白っぽく,殻色改善の効果は2区よりも劣
り ま し た ( 写 真 4 )。 な お 1 区 (対 照 区 ), 5
区 (市 販 飼 料 給 餌 区 ), 6 区 (海 藻 給 餌 区 )は ,
14年 度と 同様 の傾 向を 示し ま した 。
(写 真3 )
(写 真 4)
み る と , 試 験 開 始 36日 目 で , 各 試 験 区 の 殻 色
の違いは明確となり,海藻由来タンパク質素
材 が 飼 料 中 に 含 ま れ な い 1 区 (対 照 区 )の 殻 色
は 白 く な っ た ( 写 真 1 ) の に 対 し , SP, SMを
添 加 し た 2 , 3 , 4 区 は , SPの 含 有 量 が 多 い
ほど緑色が濃くなり,ヤコウガイ本来の殻色
2区(SP10% +SM20%)
5
4区 (OM20%+ SM10% )
ま とめ
に 近 く な り ま し た ( 写 真 2 )。 な お , 5 区 の
以上のように,海藻由来タンパク質素材を
アワビ用市販配合飼料を給餌した区は,殻が
飼料に添加すると,ヤコウガイ稚貝の成長お
やや緑がかっているものの,1区の殻色に近
よび殻色改善に有効であることがわかりまし
くなりました。また6区はオゴノリを給餌し
たが,今後は海藻由来タンパク質素材の組み
ましたが,その殻色は2∼4区と比較して,
合わせ,配合割合を改善することで,成長に
どちらかといえば黒ずんでいるように思われ
優れ,さらに殻色も天然貝に匹敵するような
まし た。
配合飼料を開発できるように努力したいと考
えて いま す
(栽培漁業センター
西)