2015 年日本経済の展望 株式会社 山陰経済経営研究所 1.日本経済の概観 日本経済にとって 2014 年は、4 月の消費税率の引き上げに伴う駆け込み需要とその 反動に翻弄された一年だったといえる。引き上げ直前の 1∼3 月期の実質GDP成長率 は+5.8%(季節調整済前期比年率)と高い伸びとなった。需要項目別にみると、民間 最終消費支出(同+8.9%)や企業設備投資(同+27.2%)が成長率を押し上げており、 家計部門や企業部門での駆け込み需要が大きく出た様子がうかがえる。 図表1 実質GDP(季調値)の推移 (季節調整済前期比年率、%、%ポイント) 15 10 輸入 5 輸出 公的固定資本形成 0 政府最終消費 企業設備投資 -5 民間住宅 民間最終消費支出 -10 実質GDP -15 (四半期) -20 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 2011 12 13 14年 (注)寄与度のうち在庫品増加の寄与度は省略。 (資料)内閣府 こうした駆け込み需要については 2013 年下期から兆候が表れ、その反動による景気 の停滞が 2014 年の夏前まで続き、夏場以降は徐々に回復に向かうとの見方が年初は広 がっていた。ところが、引き上げ後は家計部門を中心に反動減が長引き、実質GDP成 長率が 4∼6 月期(▲6.7%、同)に続いて 7∼9 月期も▲1.9%(同)となり、緩やかな 1 がらも回復途上にある景気の腰折れを懸念させる結果となった。需要項目別の動きをみ ると、民間最終消費支出や輸出が増勢を取り戻しつつある一方で、民間住宅投資や企業 設備投資が低調に推移しており、駆け込み需要の反動が景気の足かせになっていること が確認できる。 10∼12 月期については、底堅い雇用・所得環境のもとで家計部門の需要減退に歯止 めがかかるとともに、企業部門においても好業績を背景に設備投資が堅調に推移すると みられることなどから、成長率のマイナス幅が縮小する可能性が高い。続く 2015 年 1 ∼3 月以降は、低所得者向けの給付金や住宅エコポイント制度の復活といった家計負担 の軽減策や円安の影響などをふまえた中小企業支援策などを柱とする政府の経済対策 が奏功し、プラス成長をうかがうまでに回復するものと考えられる。2015 年通年ベー スでは、①「アベノミクス」による景気回復への好循環が持続すること、②米国向けを 中心に輸出が緩やかに増加すること、などにより緩やかな回復軌道をたどるものと見込 まれる。 2 2.家計部門 2014 年の個人消費は、4 月の消費税率引き上げを控えた駆け込み需要とその反動減に より、基調の見極めが難しい状況が続いた。年初からの動きを概観すると、1∼3 月期 に家電や乗用車などの耐久消費財を中心とした駆け込み需要により高い伸びを示した 後、4∼6 月期はその反動により大きく落ち込んだ。7∼9 月期には食料品などの非耐久 消費財に持ち直しの動きがあり、回復の兆しがみられたものの、夏場の天候不順の影響 などもあって足踏み状態が続く結果となった。年末にかけては、反動の影響が和らぐな かで冬のボーナスの増加といった明るい材料が出始め、冷え込んでいた消費マインドの 持ち直しへの期待感を持ちうるまでに戻ったとみられる。 年明け以降については、持ち直しの動きが続くものの、増勢は緩やかなものにとどま る見込みである。引き続き緩やかな改善が期待される雇用・所得環境のもとで、2015 年 春闘でも小幅ながらベースアップが実施され、大企業を中心とした賃金の引き上げが実 施されるものと予想される。しかし、これまで所得が伸び悩むなかで消費を維持してき た調整の動きが当面は続くとみられ、所得の増加幅に見合う個人消費の増加・回復を望 むのは難しいと考えられる。 図表2 実質国内家計最終消費の推移 (前期比、%、%p) 2.0 1.0 0.0 -1.0 サービス -2.0 非耐久財 半耐久財 耐久財 -3.0 家計最終消費 (四半期) -4.0 Ⅰ Ⅱ Ⅲ 2011 Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 12 Ⅰ Ⅱ Ⅲ 13 (注)季調値 (資料)内閣府 3 Ⅳ Ⅰ Ⅱ 14年 Ⅲ 2014 年の住宅投資についても、消費税率引き上げ前に駆け込み需要が生じ、その後 は反動による低迷が続いた。先行指標である新設住宅着工戸数をみると、4 月以降は 80 万戸台(季節調整済年率換算)にとどまることが多く、足元では回復の兆しがみられる ものの低水準で推移している。反動減が大きい持家や分譲住宅に対して、相続税増税を 見据えた個人の節税対策や投資マネーの流入などにより増勢を維持していた貸家も、夏 場以降は息切れ状態にある。 人口減少による世帯数の伸び悩みや住宅の耐用年数の長期化などを背景に、住宅需要 は趨勢的な減少局面にあり、増勢に転じる可能性は低いとみられる。住宅ローン減税の 拡大などの取得支援策による後押しが期待されるものの、1∼3 月期までに前倒しされ た住宅需要の復調は見込みにくい状況にある。2017 年 4 月の消費税率再引き上げ前に は再び駆け込み需要が盛り上がるとみられるが、2015 年中は住宅需要が一時的に下げ 止まることはあっても増勢を取り戻すことは難しいと考えられる。 図表3 住宅着工戸数の推移 (万戸) 110 100 90 80 70 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2013 2 3 4 5 6 14年 (注)季調値、年率換算 (資料)国土交通省 4 7 8 9 10 3.企業部門 まず、外需の動向をみると、2014 年の世界経済は強弱が入り混じる展開が続いた。 主要国経済成長率をみると、米国経済は個人消費、住宅投資、企業設備投資などの国内 需要が全般的に底固さを示し、寒波の影響などから 1∼3 月期に落ち込んだ後、4∼6 月 期以降は増勢に転じた。回復基調は 2015 年に入ってからも続き、雇用環境の改善を背 景に堅調に推移するとみられている。 他方、ユーロ圏経済は0%近傍の成長が続き、債務危機による落ち込みからの回復途 上にある。もっとも、ロシアをはじめとする資源国・新興国の景気減速をうけて輸出が 伸び悩んでいるうえ、雇用環境の改善の遅れなどを背景に内需の弱い動きが続いており、 緩慢な回復ペースが続くとみられている。2015 年については、金融緩和の強化や財政 緊縮圧力の緩和、米国経済の回復などが後押し材料となり、一層の景気下振れは回避さ れるものと見込まれる。 図表4 各国の実質GDPの推移 (前年比、前期比年率、%) 10 8 6 4 2 0 米 国 -2 ユーロ圏 -4 中 国 -6 日 本 -8 2012 13 (実績) (実績) Ⅰ Ⅱ 14年(四半期) Ⅲ 2014 2015 (予測) (予測) (注)四半期は季調値、予測値はIMFによる。 (資料)米国商務省、EU統計局、中国国家統計局、内閣府 なお、中国経済については、経済構造改革に比重をおく施策のもとで、不動産をはじ めとする投資抑制策などにより、これまでの力強さに乏しい状況が続いた。市況の悪化 などによる景気減速懸念をうけて利下げを実施するなどの対応がとられたものの、景気 5 の緩やかな減速は続くとみられている。構造改革と成長を両立させる「新常態」を目指 す方針が打ち出され、2015 年以降は 7%台の成長率が続くものと見込まれる。 2015 年の世界経済は、先進国では緩やかな景気回復が続く一方、新興国では、先進 国の緩慢な景気回復をうけて輸出が伸び悩み、原油価格の低下などの好材料はあるもの の、停滞色の強い状況から抜け切れないとみられる。景気の下押し要因としては、①中 国における不動産市場の調整、②アメリカ金利上昇に伴う新興国からの資金流出懸念の 再燃、などが指摘できよう。 図表5 鉱工業生産指数、実質輸出(季調値)の推移 (2010年=100) 105 100 95 実質輸出 鉱工業生産指数(全国) (月次) 90 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2013 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 14年 (注)11 月、12 月の鉱工業生産指数の白抜きは予測指数の伸び率で延長したもの。 (資料)経済産業省、日本銀行 一方、国内の動向をみると、2014 年の企業業績は、消費税率引き上げ後の売上高の 伸び悩みや人件費の増加などのコスト負担が高まる一方で、円安による輸出価格の上昇 や原油をはじめとするエネルギー価格の下落が利益率の押し上げに寄与するため、小幅 ながらも増収増益となると見込まれる。生産活動は、駆け込み需要の反動減による在庫 調整圧力にさらされながらも、スマートフォンに代表される情報通信端末向けの電子部 品や国内外での需要が好調な工作機械などをけん引役に底堅く推移した。この間、円安 に伴う価格競争力の回復により、年後半にかけて輸出が徐々に持ち直し、生産活動を下 支えする結果となった。 2015 年に入ってからは、駆け込み需要の反動減が一巡しつつあることに加え、米国 6 を中心とした海外経済の回復に伴う輸出の持ち直しなどを背景に、生産活動は増勢を 徐々に取り戻すとみられる。ただ、在庫水準が依然として高いことや海外における現地 生産体制の整備が進んでいることなどから、そのペースは緩やかなものにとどまるもの と予想される。 2014 年の企業設備投資は、駆け込み投資の反動もあって 7∼9 月期まで 2 四半期連 続の前期比マイナスとなったが(実質GDPベース)、先行指標である機械受注(船舶・ 電力を除く民需)は増加基調にあり、日銀短観などによる 2014 年度の設備投資計画に 関する調査結果をみても前年度比でプラスになっていることから、年度後半に向かって 増勢を維持するものとみられる。続く 2015 年についても、引き続き企業業績の改善が 見込まれるなかで、能力増強投資などの積極的な新規投資は手控えられる可能性が高い ものの、競争力を維持するための投資や設備の維持・更新投資、情報化投資などは継続 的に実施されるとみられ、大きく落ち込むことはないと考えられる。 図表6 機械受注(季調値)の推移 (十億円) 3,000 2,700 2,400 2,100 (四半期) 1,800 ⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢ 2007 08 09 10 (注)船舶・電力を除く民需 (資料)内閣府 7 11 12 13 14年 4.政府部門 公共投資(実質GDPベース、公的資本形成)は、2014 年度前半は、予算執行の前 倒しや 2013 年度補正予算(総額 5.5 兆円規模)の経済対策などによって 2 四半期連続 で前期比プラスとなった。年度後半については、先行指標である公共工事請負額が前年 比マイナスで推移していることなどからみると、増勢は鈍化するとみられる。このため、 年度末にかけて減少に転じる可能性も否定できないが、工事の遅れなどから予算の執行 が公共投資の押し上げに十分に寄与していない面があり(注)、減少ペースは緩やかなも のにとどまるとみられる。年度全体では 2013 年度を若干上回る程度に落ち着くと見込 まれる。続く 2015 年度は、2014 年度の経済対策の効果により年度前半は底堅く推移す るものの、その後は押し上げ効果が剥落し、年度通期では小幅ながらマイナスに転じる と予想される。 図表7 公共工事請負額の推移 (前年比、%) 40.0 30.0 20.0 10.0 0.0 -10.0 (月次) -20.0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1011 2012 13 14年 (資料)西日本建設業保証㈱ 最後に、12 月 27 日に閣議決定された 2014 年度補正予算による経済対策「地方への 好循環拡大に向けた緊急経済対策」の概要を整理すると、歳出規模は 3.5 兆円程度であ り、このうち地方創生関連に 6 千億円程度、家計支援や災害・防災対策、円安対策など の中小企業支援策にそれぞれ 1 兆数千億円程度が充てられる見込みで、実質GDPの押 し上げ効果は概ね 0.7%程度とされている。地方創生関連は、地公体によって多種多様 8 な使途が考えられるため景気浮揚効果を見極めるのは困難であるが、地域における設備 投資や個人消費を喚起するきっかけとなろう。また、家計支援には、低所得者向け給付 金や住宅エコポイントの復活などが盛り込まれ、個人消費の持ち直しをある程度後押し するのではないかと考えられる。災害・防災対策については大半が公共投資につながる とみられるが、円安対策は中小企業への補助金的な内容が主体で需要喚起の効果は限定 的と思われる。 (注) 昨年の本稿においても言及したが、公共投資に関しては、建設作業員、資材の不足 から工事の進捗に支障をきたしている可能性が指摘されている。GDPの 2013 年度確 報において、公共投資を表す公的固定資本形成が下方修正されている。これは 2012 年 度の公共工事が発注されたものの、順調に進捗していなかったことを示唆していると 考えられる。こうした状況が足元でも続いているとすれば、消費税率引き上げ後の景 気下支えを企図した経済対策が十分に効果を発揮しないことが懸念される。 図表8 公共投資(GDPベース)の推移 (十億円) 25,000 13年度確報前 24,000 13年度確報後 23,000 22,000 21,000 20,000 (四半期) 19,000 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ 2012 Ⅲ 13 Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ 14年 (注)実質、季調値 (資料)内閣府 以 上 (本稿で使用した統計数値は原則として 2014 年 12 月 26 日時点のもの) 9
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