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〈原著研究論文〉
1/8波長板を利用した偏光微分干渉計の特性向上
宮崎 孝雄
Improvement・OfthePolarizationDif托rentialInterfbrometer
Usingal/8WavePlate
TakaoMiyazaki
(ReceivedonSep.18,2007)
Abstract
ThepolarizationdiffbrentialinterferometeruslngaSavartplatehasadvantages,SuChasgoodsensitivityand
highstabilityforenvironmentalvibration,tOdetectsurfaceirregularitiesandflaws.Theinterferometer,however,
hassomedrawbacksunabletodistinguishupwardordownwardforastepdifftrence,OrShowlngrelativelow
SenSitivityformuchsmallerstepdi脆rencereglOn・Thiscomesfromthedependenceofthecosinefunction
betweentheoutputoftheinterferometerandthestepdiffbrence・Ifwecanchangethecosine−dependencetosine−
dependence,thosedrawbackswi11besettled・Thisreportshowsthattheuseofal/8waveplatecanconvertthe
COSine−dependencetosine,s,improvlngtheperformanceoftheinterftrometerremarkably・
キーワード:サパール板,偏光干渉計,微分干渉計,表面検査,レーザ
1.はじめに
偏光プリズムの一種であるサパール板を利用する
ことにより,簡便な光学系で振動にも強い微分干渉
計が実現できる.この干渉計は,表面の段差測定の
分解能に関して20nmが可能であるl),2)・しかし,
の干渉計は表面の凹凸の識別ができないという弱点
があった.ここでは,この弱点を改善すろために1/8
波長板の利用を検討し,その効果について実験的に
検証を行った.その結果,期待通りの効果が確認で
きたので報告する.
2.偏光微分干渉計の原理
偏光微分干渉計の構成および原理を図1を参照し
て説明するl).He−Neレーザから放射されたレーザ光
は入〟板によって円偏光に変換された後,偏光子に
図1 偏光微分干渉計システム
よって450の直線偏光に設定される.
サパール板は,450の直線偏光ビームを,00および
この2本のビームが測定対象表面で反射して戻り
900の方位に直線偏光した2本の平行ビームに分岐
再びサパール板に入射すると出力光は再び一本のビ
する性質をもヅ),4).平行ビームの間隔はサパール板
ームに合成され干渉する.この干渉光は450の直線偏
光に戻らず一般には楕円偏光になる.この干渉光を
ハーフミラー1で取り出し,その光強度Ilをフォト
の厚さによって決まり,ここでは0.44mmのものを使
用している.
鶴岡工業高等専門学校研究紀要 第42号
ダイオード回路1で測定する.その出力は(1)式で与
Slowaxis(n⊥)
えられる.ここで,サバール板やハーフミラー2に
おける固定位相差は0と見なせる.
∫l=た1月α却・r2十2rcos()}(1)
ここで,Ⅰ.:干渉光強度,kl:比例係数,R:測定
面反射率,恥:00偏光成分振幅,r‥00偏光成分と900
偏光成分の振幅比(=鶴/埠),入:レーザ光波長,h:測
定表面段差である.
位相差:∂=27叫n⊥−my入=2冗tAIJ入
測定面が平面であれば,常にh=0となり出力は
最大で一定になる.2本のビーム間に段差hがある
と出力が変化する.出力Ilは表面の反射率により変
化するため,そのような対象を測定する場合には反
△n=』−n⊥:水平軸と垂直軸の屈折率差,t:結晶厚さ
位相遅延素子を通過することにより,00偏光成分と
900の偏光成分の光波の間には位相差∂が形成される.
slow,鮎t軸を900回転させれば,位相差は−∂となる.
射率の補正が必要になる.この補正は,図1に示す
図2 位相遅延素子の働き
2,検光子そしてフォトダイオード回
路2によって行われる.干渉を防ぐため,検光子を
用いて00偏光成分のみを取り出す.フォトダイオー
ハーフミラー
代表的な位相遅延素子である1/4,1/2波長板はそれ
ぞれ位相差∂が900,1800になることを意味する.
位相遅延素子は,図1において破線で示した位置
に挿入することになる.また与えるべき位相差は光
が2回通過して±900となればよいため,1侶波長板
が必要となることがわかる.ここで,−900の位相差
ド2の出力は(2)式で示される.
∫2=た2鮎ク2 (2)
ここで、Ⅰ2:00偏光成分強度,k2:比例係数,R:
測定面反射率,恥:00偏光成分振幅である・
が与えられたとすると(3)式のcosineの変数に固定位
IlをⅠ2で割った補正出力を干渉出力Ⅰとすると,Ⅰ
はkを新たな比例係数として(3)式で与えられる.
相差一花/2が加わるため、(3)式は(5)式に変換される.
′瑚+r2・2rsin()}(5)
∫瑚+r2・2rcos()}(3)
また,出力の相対変化率乃は(6)式で与えられる.
実験データを評価するためには,出力の相対変化
率7了を定義すると便利である.刀は,(4)式で定義
2r
り==抽()},g=−−
Jo
される.
立±
ヮ=
Jo
=C{トcos()},C=
(6)
ここで,Ⅰ。はkOにおける出力を表す.
2r
古市
l+r2
この場合,叩は−1から1の間の値をとる.またhの
正負により相対変化率刀の符号も変化し,表面の凹
凸の判別ができることがわかる.また,hが小さい
領域の感度も向上することが期待される.
(4)
ここで,Ⅰ。はh=0における出力を表す.
この場合,叩は0から1の間の値をとる.この場合
の出力Ⅰあるいは刀は,hに関するcosine関数になる
ため,段差hの±つまり凹凸が判別できないことが
4.実験結果
わかる.また,hが小さい領域ではcosine関数の変化
率は小さいため,感度が相対的に小さくなることも
理解できる.
表面に直線状に13,23,45,94,140nmの段差を形成
した測定サンプルを用いて測定を行った.図3に測
定サンプルの断面形状を示す.段差の値は,前もっ
て山形県工業技術センターが所有する超高精度3次
3.1/8波長板による特性改善について
元表面構造顕微鏡NewView5200で測定した結果で
偏光微分干渉計の弱点を改善するためには,干渉
あるl).
計の2本のビーム間に固定位相差一花/2,または冗/2
を与えてcosine関数をsine関数に変えてやればよい.
そこで,偏光光学素子の一つである位相遅延素子
の利用が考えられる.位相遅延素子は,方解石など
複屈折を示す結晶から製作され,方位00に偏光した
光と方位900に偏光した光がこの素子を通過すると,
図3 測定サンプルの断面模式図
一定の位相差∂を与える性質をもつ.
−44−
宮崎:1/8波長板を利用した偏光微分干渉計の特性向上
0
図4は,1/8波長板を挿入しない場合の出力相対変
化率刀を示したものである.国中の○が測定結果を
示し,実線は(4)式に基づく計算値を示す.ここでは
定数Cは0.40を仮定している.この図から,実験結
果と計算結果は傾向的には一致していることがわか
5
T〓只竃義 治 ト
0
る.
3
8
[⊥]掛璧儲夜窄京王
2
0.0
2.0
4.0
6.0
8.0 10.012.014.016.0
測定位置 Ⅹ
2
6
0
2
図41/8波長板無しの場合の出力特性
0
段 差 h
5
〓l只竃庵治♯
4
0 20 40 60 80 100 120 140 160
(a)1/8波長板無しの場合
0
2
図5は,1/8波長板を挿入して一900の位相差を与え
た場合の出力相対変化率刀を示す.同じく,○が測
定結果を示し,実線は(6)式に基づく計算値を示す.
ここで,係数Sは−0.88としている.この場合,乃は
−1から1の範囲の値をとるが,実験したhの範囲では
負の値を示している.この場合も実験結果と計算結
果は,傾向的に一致することが確認された.
0.0
2.0
4.0
6.0
8.0 10.0 12.0 14.0 16.0
0
測定位置 Ⅹ
(b)1/8波長板有りの場合
図6 45nm段差サンプル測定結果
最後に,1/8波長板の挿入により,表面段差の凹凸
を行った.測定対象は,ガラス表面に幅2mm,間隔
2
0
3mm,深さ約100nmと300nmの2本の溝が作製され
4
0
た試料である.この資料は,エッチングで溝を形成
した後,表面にCr膜を蒸着したもので,別の目的で
光学メーカに製作依頼したもである.深さの精度は
高々入/10(55nm)程度と推測される.
国7に結果を示す.(a)で示したものが1/8波長板が
無い場合,(b)で示したものが1/8波長板を挿入した場
合である.溝の段差位置と出力位置関係は矢印で示
6
0
〓]掛学制夜毎貞虫
の判定が可能となることを直接確認するための実験
8
0
図51/8波長板有りの場合の出力特性
している.
図7の結果から,(a)の場合は段差の±h(すなわ
ち凹凸の判別)の区別ができないのに対し,(b)の場
図6(a),(b)は,同じ45nmサンプルに対する干渉計
出力Ⅰが,1/8波長板の有無によってどのように変化
するかを比較して示したものである.
この図から,出力の変化率の方向は両者において
互いに逆転し,また変化率の大きさに関しては,1/8
波長板を挿入した方が大きいことが確認された.
1/8波長板を挿入した場合は,段差検出感度として
10nm程度が可能である.
合は段差の±hによって出力変化が逆転し凹凸の判
別ができることが示されている.また,(b)の溝2の
立下りでは溝1の立下りとは逆に出力が立上ってい
ることに気づくが,この理由は溝2の深さが約300
nmと大きいためにhの値は負であるが,Sineの値は
正になることに起因している.溝1と溝2の変化率
の大きさは,計算では溝1の方が大きくなるが,実
測結果も同様のことを示している.
−45−
鶴岡工業高等専門学校研究紀要 第42号
大幅に改善されることが確認された.定量性に関し
ては,測定対象の角度調整精度の向上など改善すべ
き点は残されているが,本装置が何かの形で利用さ
溝1(深さ100nm)
れれば幸いである.
0
2
5
1
〓−只丑
参考文献
0
1
1)宮崎孝雄:反射率補正を考慮した偏光差分干渉計の
改良,鶴岡高専紀要,41,ppふ8(2006)
2)宮崎孝雄:サパール板を用いた偏光微分干渉計,
鶴岡高専紀要,35,pp.185−190(2000)
0.0 2.0 4.0 6,0 8.0 10.012.014.016.0
測定位置Ⅹrmml
3)応用物理学会光学懇話会編:結晶光学,pp.197−199
森北出版(1975)
(a)1/8波長板無しの場合
4)鶴田匡夫:応用光学Ⅱ,pp.156−158,(培風館)
5)鈴木、宮崎:サパール板を利用した差分干渉計に
溝1(深さ100nm)
0
3
よる微小段差測定,第11回高専シンポジウム講演
5
2
要旨集,p.168(2006)
0
2
5
1
〓−只遍
6)岩崎(豊),松浦,岩崎(純),大木:差動微分干渉顕
微鏡とその応用,レーザー顕微鏡研究会講演会
論文集,畑,pp.63−67(1995)
0
1
7)劉,岡田,本田:差分干渉法による平面の絶対
測定,応用物理学関係連合講演会講演予稿集,
42−3,903(1995)
0.0 2.0 4.0 6.0 8.0
測定位置Ⅹ[mm]
8)広井,岡:差分干渉検出法によるパターン外観
10.012.014.016.0
自動検査の検討,応用物理学関係連合講演会
講演予稿集,42−3,881(1995)
(b)1侶波長板有りの場合
9)T.C.Bristow,K.Arackellian:SurfaceRoughness
図7 凹凸のある対象の測定結果
MeasurementUsingaNomarskiTypeScannlng
Instrument,SPIE749,Metrology(Figureand
最後に,(5),(6)式で導入された係数C,Sの値の妥
当性について触れる.これらの値は,00偏光成分と
900偏光成分の振幅比ーで決まる.しかし,ー値を直
接測定することは簡単ではないため,今回は計算に
よって推定することにした.ハーフミラー2の入射
角は約400であり,屈折率1.52を用いるとフレネル反
射・透過係数の公式からr=0.68を得る.この値を
用いると,C=0.48,S=−0.93となる.実験結果はそ
れぞれ,0.40,−0.88の値を示しており概略一致する.
なお,位相差を+900に設定した場合は,(6)式のS
が正になり,特性は位相差が−900の場合と反転の関
Finish),114/118(1987)
係になることが実験的に確認されている.
4.結び
サパール板を利用した偏光微分干渉計は,これま
でほとんど着目されてこなかったが,簡便で高感度
かつ外乱に対して極めて強いという特長をもつ.
今回は1/8波長板を利用することによって特性が
−46一