第3章 重合反応 本章では、様々な高分子合成法の各論を説明し 、多くの事例から反応のメカニズムを学ぶ。 3−1 逐次重合(重縮合) <重縮合の一般論> 低分子縮合反応の種類は極めて多く、有機反応の最も有用な分野の一つとなっているが、 それらの多くが二官能性モノマ−から縮合系高分子を合成する為に、巧みに利用されてい る。それぞれ二個の縮合可能な基を持つモノマ−が共存( AA型とBB型の組み合わせか、 AB型)し、反応条件が選ばれると、重縮合反応により、副生成物(C)が脱離して高分 子が生成する。 nAA+nBB → −(−AA−BB−)n−+2nC (3−1) nAB → −(−AB−)n− +nC (3−2) 重縮合の中で最も重要なものは、カルボン酸(又は、その誘導体)とアミン、アルコー ルなどの親核試薬の間の親核置換反応によるアミド、エステルなどの生成反応である。実 用的に価値ある高分子量の縮合系高分子を得る為には、カルボン酸誘導体と親核試薬の反 応性に応じて、適切な重縮合法を選択しなくてはならない。 <重縮合の各論> (1)脂肪族ジアミンに対して活性の低いジカルボン酸を反応させる場合には、重縮合を 進める為に、加熱による助けが必要である。 ヘキサメチレンジアミン+アジピン酸→(加熱)→6,6−ナイロン (3−3) 11−アミノウンデカ酸→(溶融重縮合)→11−ナイロン (3−4) (2)親核性の劣る芳香族ジアミンの場合には、活性の高いジカルボン酸クロリドと組み 合わせることによって、室温ないし、室温以下の温度で容易に重縮合を完結させる ことができる。 界面重縮合法又は低温溶液重縮合法: (3−5) 全芳香族ポリアミドは難燃耐熱性繊維となる。特に、対象性に勝る全芳香族ポリ アミドは高強力高弾性率繊維として、有用性が高い。 (3−6) (3)ジカルボン酸に対して、グリコールを重縮合させるとポリエステルを得ることがで きる。特に、テレフタル酸とエチレングリコールからなるポリエステルは大量に生 産されており、汎用合成繊維や成形用樹脂として需要である。 - 1 - (3−7) (4)炭素数1個のジカルボン酸と見なすことのできる炭酸の誘導体( フェニルエステル) から、ビスフェノ−ルとの溶融重縮合(エステル交換反応)によって、エンジニア リング樹脂ポリカ−ボネ−トが製造されている。 これと類似した構造を持つ全芳香族ポリエステルが、活性の高いジカルボン酸クロ リドとビスフェノ−ルのアルカリ塩の界面重縮合から合成されている。 (3−8) (5)活性な酸クロリドと用いる界面重縮合法は、各種の縮合系高分子の簡便な合成法と してきわめて有用であり、応用例が非常に多い。次式もその一例である。 (3−9) (6)カルボン酸とアミンからのアミド生成反応を、環形成可能なモノマ−に拡張すると、 相当する複素環状高分子を合成することができ、一般に、環化重縮合と呼ばれる。芳 香族テトラカルボン酸無水物と芳香族ジアミンからは、 高度の耐熱性を持つポリイミ ドが製造される。 ( 3−10) - 2 - (7)芳香族テトラアミンと芳香族ジカルボン酸フェニルエステルの組み合わせからは、 溶融−固相重縮合によって、又は、ポリリン酸を重合溶媒兼縮合剤として用いる方 法によって、耐熱高分子であるポリベンゾイミダゾ−ルが合成される。 (3−11) (8)これ等の反応を4官能性化合物間の環化重縮合にまで拡張すると、最も優れた耐熱 性を示すラダ−高分子(はしご状高分子)が得られる。 (3−12) (9)以上のようなカルボン酸誘導体を用いる重縮合反応の他に、芳香族化合物の関与す る重縮合(芳香族親電子置換反応や芳香族親核置換反応の応用)も、エンジニアリ ング樹脂として実用化される幾つかの縮合系高分子の生成反応として重要度が高 い。例えば、芳香族親電子置換反応の例としては、フリ−デル・クラフト反応を利 用した芳香族ポリスルホンの合成があげられる。 (3−13) 又、芳香族親核置換反応の応用例として、芳香族ポリエ−テルや芳香族ポリスル フィドの合成に見られる。 (3−14) (10)以上のいずれにも属さない脂肪族親核置換反応の例として、次の重縮合がある。 得られる高分子は多硫化ゴムとして古くから実用に用いられている。 ClCH2 CH 2Cl + Na2 Sx → - (-CH 2CH2 S x- ) n- + 2NaCl (3−15) 3−2 逐次重合(重付加) <重付加の一般論> - 3 - 付加反応の繰り返しにより、高分子を生成する重付加は、逐次反応であり、動力学的取 り扱いや分子量分布の計算などは、重縮合の場合と同様に行われる。但し、重付加におい ては重縮合と異なり、水のような簡単な分子の脱離がない。即ち、逆反応を意識しなくて よい。 ジイソシアナ−ト+ジアミン → ポリ尿素 ( 3−16) ジイソシアナ−ト+ジオ−ル → ポリウレタン ( 3−17) 重付加において、高重合度の生成物を得る為には、なるべく反応速度が大きく、且つ、 目的物のみを定量的に生成する反応が望ましい。 (1)一般に、付加する官能基としては、活性水素を持つ親核試薬が考えられる。 (2)一方、付加を受ける官能基としては、イソシアナ−トのような累積二重結合を持つ もの、電子吸引基により活性化された炭素−炭素二重結合、その他の多重結合があ り、又、ヘテロ原子を含む環状化合物がある。 表3−1 付加する活性水素化合物の官能基 -NH 2 アミン --NH イミン -OH アルコ−ル 表3−2 -SH チオ−ル -SO3 H スルフィン酸 -COOH カルボン酸 付加を受ける不飽和結合基 --C=C=O -N=C=O -N=C=S -N=C=N-R ケテン イソシアナ−ト イソチオシアナ−ト カルボジイミド --C=C=N-R -CH=CH-CO-R -C ≡ C-C ≡ N ケテンイミン α、β−不飽和カルボニル アセチレン ニトリル 表3−3 − CH − CH2 開環付加する環状官能基 − N − CH 2 − CH2 − CH2 − CH 2 O CH 2 エポキシ エチレンイミン − C = N − CR 2 − − CO O C=O アズラクトン − − CO 酸無水物 O O − C = CH − CH 2 C=O ラクトン − N = C − C = CH O C=O エノ−ルラクトン O − CH3 −N=C O C=O O − CH3 イソマレイミド イミノジオキソラン <重付加の各論> (1)二重結合への付加 (3−18) (3−19) (3−20) (2)環状化合物への開環を伴う付加 ( 3−21) - 4 - (3−22) (3)テトラカルボン酸無水物とジアミンからのポリミド合成におめる高分子化の段階も 開環重付加である(水素移動型)。 (3−23) (4)ディ−ルス・アルダ−反応を伴う重付加反応 (3−24) (5)1、3−双極付加環化を伴う重付加反応 (3−25) (6)光による二重結合の環状二量化などの環形成反応 (3−26) (4)−(6)の反応は、水素の移動は伴わないが、重合度及び重合率が時間と共に増 加する逐次反応であり、電子移動型重付加と呼ばれる。 3−3 連鎖重合(ラジカル付加重合) <ラジカル重合> ラジカル重合を起こすモノマ−は、殆どエチレン誘導体であり、総称してビニルモノマ −と呼ばれる。これ等は、熱、光、或いは放射線などの作用のみでもラジカル重合を起こ すが、通常はこれらの作用でラジカルを生成し易い物質を開始剤或いは増感剤として加え て行われる。 表3−4 ラジカル付加重合反応の概観 開始反応 成長反応 停止反応 連鎖移動反応 I → 2R・ (kd ) R・+M → R−M・(=P・) (ki) P・+M → P・ (k p) 2P・ → P或いは2P (kt) P・+A → P+A・ (ktr) <ラジカル重合性モノマ−> 単独ラジカル重合で容易に高重合度高分子を生成するビニルモノマ−は1置換エチレン と1,1−2置換エチレンの一部である。 - 5 - 表3−5 ラジカル単独重合を起こす代表的モノマ− CH2=CHX CH 2=CXY エチレン(X=H ) スチレン( X=C6H 5) ブタジエン(X=CH=CH2 ) 塩化ビニル(X=Cl) 酢酸ビニル(X=OCOCH 3) アクリル酸( X=COOH) アクリル酸メチル(X=COOCH3) メチルビニルケトン(X=COCH3 ) アクリルアミド(X=CONH 2) アクリロニトリル(X=CN) 塩化ビニリデン(X=Y=Cl ) メタクリル酸(X=CH3 , Y=COOH) メタクリル酸メチル (X=CH3, Y=COOCH3 ) <ラジカル重合の方法> (1)塊状重合 モノマ−だけをそのまま、或いは少量の開始剤と共に加熱するか、光或いは放射線 を照射しながら重合させる方法である。 (2)溶液重合 モノマ−をその高分子の溶媒に溶かして塊状重合と同様に行う方法である。 (3)懸濁重合 モノマ−を水中で強く撹拌して分散させ、モノマ−に可溶の開始剤と加えて重合さ せる方法である。 (4)乳化重合 石鹸のような乳化剤を水に溶かし、これに水に不溶又は難溶のモノマ−を加え、撹 拌しながら水溶性の開始剤を用いて重合させる方法である。 <ラジカル重合の速度論的特徴> 仮説 (1)成長反応の速度定数(kp)は成長ラジカルの大きさ(鎖長)に無関係に一定である。 (2)成長ラジカル生成(開始)速度と失活(停止)速度は等しい(定常状態) 。 (3)生成高分子の数平均重合度はきわめて大きく、モノマ−は成長反応によって消失す る。 (4)連鎖移動反応が起こっても重合速度は低下しない。 重合速度(Vp)、即ち、モノマ−の消失速度は、次式である。 Vp=− d M =kp P・ dt M (3−27) ここで、定常状態を仮定して、開始速度は、Vi=2kdf[I]から、次式の関係が得ら れる。 2k df I =k t P・ 2 → P・ = 2k df kt 1/2 I (3−28) 1/2 従って、重合速度式は、次式となる。 1/2 Vp= 2kdf kt1/2 kp I 1/2 M (3−29) ここで、[I]、[M]が変化してもその段階の値に応じて成立するが、[M]の変化が少な く初濃度が使えるようなラジカル重合の初期には、Vpは一定とみなすことができる。又、 開始剤を用いるラジカル重合の速度は、開始剤の濃度の1/2次、モノマ−濃度の一次に 比例することが解る。 生成高分子の数平均重合度xnは、次式である。 単位時間に消失したモノマ−の分子の数 x n= (3−30) 単位時間に生成したポリマ−の分子の数 kp P・ = ktrM P・ M +kt rI P・ M I +ktrS P・ - 6 - S +kt1 P・ 2+ kt2 P・ 2 2 kt1とkt2ははそれぞれ不均化と再結合の速度定数で、k t=kt1+kt2である。k tの内、 kt1の分率をyとすると、分母の最後の2項はkt(1−y/2)とまとめることができる。 ここで、 ( 3−30)式の逆数をとり、 (3−27)式の関係を用いて、 [P・]を消去する と、次式が得られる。 1 ktrM ktrI I ktrS S = + + + xn kp kp M kp M kt 1− kp 2 y Vp 2 I S 1 M+CI =C +C + S M 2 M M xn、0 (3−31) xn,0は連鎖移動がいっさい無いと仮定した場合の重合度で連鎖移動があれば、重合度xn は必ずこれより小さい。 <ラジカル重合の開始剤> ラジカル重合の開始剤としては 、結合解離エネルギーの小さい結合を持つ物質、例えば、 過酸化物やアゾ化合物が用いられる。これらは約40℃以上の重合の開始剤として作用す る。 表3−6 ラジカル重合開始剤の分類と最適使用温度 開始剤の分類 最適使用 温度範囲 (℃) 一次ラジカル 生成の活性化 エネルギー (KJmol-1 ) 高温開始剤 >80 140 ∼ 190 通常開始剤 40 ∼ 80 低温開始剤 -10 ∼ 40 レドックス開始剤 極低温開始剤 <-10 開始剤の例 クメンヒドロペルオキシド、 t−ブチルヒドロペルオキシド、 ジクミルペルオキシド、 ジーt−ブチルペルオキシド、など 110 ∼ 140 過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、 過酸化カリウム、 アゾビスイソブチロニトリル、など 60 ∼ 110 過酸化水素/第一鉄塩、 過硫酸塩/酸性亜硫酸ナトリウム、 クメンヒドロペルオキシド/第一鉄塩、 過酸化ベンゾイル/ジメチルアニリン <60 過酸化物(過酸化水素、ヒドロペルオキ シド、など)/有機金属アルキル(トリ エチルアンモニウム、トリエチル硼素、 ジエチル亜鉛、など)、 酸素/有機金属アルキル、など <ラジカル重合の素反応の特徴と機構> 開始反応 熱重合の開始反応は、スチレンについて、詳しく研究され、重合速度はスチレンモノマ ーの2.5次に比例し、二量体生成物の解析から、次式のような三分子開始機構、即ち、 ディールス・アルダー中間体を形成して、これにもう一分子のスチレンが反応して、二個 の一次モノラジカルを形成することが知られている。 ( 3−32) 開始剤を用いる重合の開始は、開始剤からの一次ラジカルの生成と、それとモノマーの 反応(開始反応)の二段反応となっている。 一次ラジカル反応: I → 2R・ 又は A+B → R・ ( kd) (3−33) 開始反応: R・+M → R−M・(≡P・) (3−34) ここで、AとBは両者の酸化還元反応でラジカルを生成する試薬である。 過酸化ベンゾイル(BPO) アゾビスイソブチロニトリル(AIBN) - 7 - (3−35) 又、過酸化水素/第一鉄塩系や過酸化ベンゾイル/ジメチルアニリン系では、低温で反応 して一次ラジカルを生成する。 (3−36) このように生成したR・は、モノマーとの開 始反応に入る。 この際、R・の一部が自己再結 合などで失われる為に、開始剤効率fは1には ならないことが多い。 (3−37) 成長反応 開始反応で生成した成長ラジカルがモノマーと付加反応を繰り返して、停止反応に入る まで反応は進む。この間の成長ラジカルの寿命は、0.01∼10秒と短い。 ( 3−38) 表3−7 代表的モノマーのkd及びkt値(60℃) モノマー kp(lmol-1 s-1 ) スチレン メタクリル酸メチル アクリロニトリル アクリル酸メチル 酢酸ビニル 176 734 1960 2000 3700 kt× 10 ー7(lmol-1s-1) 7.2 3.7 78.2 0.95 11.7 一般に、共役型の置換基を持つモノマーのkp値は小さい。成長反応の活性化エネルギー は15∼30 kJmol-1 である。 ( 3−39) (3−38)式のβー付加(頭尾付加)は成長ラジカルがXとの共役安定により、共鳴 安定化しているほど起こりやすい。しかし、塩化ビニルや酢酸ビニルのような非共役型置 換基を持つものでも競争して起こるαー付加による頭頭構造は1∼2%含まれるに過ぎ ず、ラジカル重合の成長が主として頭尾付加で起こることは明らかである。 停止反応 ラジカル重合の停止は、通常、成長ラジカル同士の二分子反応で起こり、その停止速度 - 8 - 定数(kt)は表3−7のように大きく、停止反応は、再結合と不均化で起こる。 (3−40) ラジカル間の二分子反応は拡散律速反応である。成長ラジカルの拡散は重合度が上がる と遅くなるので、停止反応定数も重合度と共に小さくなる。表3−7のktはその平均値で ある。又、成長ラジカルの拡散は重合系の粘性率の上昇によって遅くなる。高粘度媒体中 での重合や、生成する高分子により重合系の粘性が高くなる重合後期では、二分子停止の 速度は小さくなる。従って、重合速度は重合の進行と共に、増大することになる。このよ うな効果を自動加速効果或いはドロムスドルフ効果と呼ばれる。 連鎖移動反応 成長ラジカル重合系に存在する物質(AB:連鎖移動剤)と置換反応し、高分子と新し く移動剤ラジカル(A・)を生成する反応である。 P・+AB → PB+A・ (ktr) (3−41) 従って、生成高分子の分子数を増大(分子量を低下)させる反応として、扱われる。通常 の連鎖移動反応では、 (3−41)式で生成したA・が、次式の再開始反応に入るので、重 合速度には影響しない。 A・+M → A−M・(≡P・) (3−42) 表3−8 モノマーへの連鎖移動定数CM(60℃) CM× 10 6 モノマー スチレン メタクリル酸メチル アクリロニトリル 酢酸ビニル 塩化ビニル プロピレン 6 1 2.6 25 132 1500 共役系モノマーでは高反応性の成長ラジカルを与える為にCMは大きくなる。 反応は次式 のように水素原子の移動で起こる。 (3−43) プロピレンのようなα−オレフィンモノマ−では、C Mは大きく、しかも高分子が得られ にくい。これはアリル水素の引き抜き反応が容易に起こり、しかも生成したアリルラジカ ルが共鳴安定化している為に、再開始反応に入らない為である。 (3−44) AIBNへの連鎖移動反応は無視できる(Ci=0)。しかし、BPOのような過酸化物 開始剤への連鎖移動反応は比較的容易に起こる。この場合、グル−プの移動が起こる。 ( 3−45) 表3−9に4種類のモノマ−のラジカル重合における溶媒への連鎖移動定数 (CS)を示す。 - 9 - 表3−9 溶媒 溶媒への連鎖移動定数(CS× 10 5)(60℃) メタクリル酸メチル スチレン アクリロニトリル 酢酸ビニル ベンゼン トルエン エチルベンゼン イソプロピルベンゼン t−ブチルベンゼン n−ブタノ−ル イソブタノ−ル t−ブタノ−ル アセトン クロロホルム 四塩化炭素 3−4 0.40 1,70 7.66 19 --------1.0 0.85 1.95 4.54 9.25 0.18 1.25 6.7 8.2 0.6 0.6 --------<5 5 920 24.6 58.3 357.3 414.1 19.3 154.2 240.6 4.4 11.3 56.4 8.5 29.6 208.9 551.5 889.0 36.1 203.9 217.5 4.6 117.0 1251.8 ----- 連鎖重合(ラジカル共重合) 2種類或いはそれ以上のモノマ−を混合し、ラジカル開始剤を加えて、重合すると、こ れらのモノマ−単位を含むコポリマ−(共重合体)が得られる。このような重合反応はラ ジカル共重合と呼ばれ、生成共重合体は一種類のみのモノマ−単位によりなるホモポリマ −とは、もちろん、2種類以上のホモポリマ−の混合物とも異なった物性を示す高分子が 生成する。 <共重合体組成式の誘導> M1及びM2モノマ−をラジカル共重合する場合、モノマ−は成長反応で消失するので、 生成するコポリマ−の組成は、次の4つの成長反応の競争で決まる。 P1・+M1 → P1 ・ (k11) P1・+M2 → P2 ・ (k12) (3−46) P2・+M1 → P1 ・ (k21) P2・+M2 → P2 ・ (k22) M1及びM2のモノマ−の消失速度は、それぞれ以下の式となる。 d M1 =k11 P1・ M1 +k21 P2・ M1 dt d M2 − =k12 P1・ M2 +k22 P2・ M2 dt d M1 k1 1 P1・ M1 +k21 P2・ M1 = d M2 k1 2 P1・ M2 +k22 P2・ M2 − (3−47) (3−48) (3−49) ここで、d[M1 ]/d[ M2]は共重合で生成する共重合体中のM1とM2単位の比である。 (3−49)式で[P1・]と[P2・]を定常状態の関係、即ち、k12[P1・][M 2]= k21[P2・] [M2]を用いて、消去する。ここで、モノ マ−の反応性比を、r1=k11/k12、r 2 =k22/k2 1と置けば、共重合組成式が得られる。 d M1 M1 = d M2 M2 r1 M1 +1 M2 M1 +r2 M2 (3−50) ここで、r1r2=k11k22/k12 k 21は共重合の性格の 尺度になる。例えば、r1=r2=1、即ち、k11=k1 2、 k21=k22であるから、組成曲線はAのように仕込み モノマ−組成と同じ組成の共重合体が生成する。 図3−1 共重合組成曲線 <Q、e値と重合反応性> 成長反応の速度定数はモノマ−中の置換基の立体効果 が無視できる限り、一般に、その共鳴効果と極性効果に よって支配されているので、Alfrey と Price は、次の 成長反応の速度定数k12は次式で表されると仮定した。 - 10 - P1・+M2 → P2・ (k12) (3−51) ここで、P1はP1・の一般反応性、Q2はM2 の共鳴安定性を、e1とe2はそれぞれP1・及 びM2の極性効果を表す。この式を上述の共重合組成式と関係させると、次式が得られる。 k 1 2 =P 1 Q 2 exp −e 1 e2 r1= k22 Q2 = exp −e2 e2−e1 、r2= k Q k11 Q1 = exp −e1 e1−e2 k12 Q2 21 1 (3−52) (3−53) 今、基準モノマ−にスチレンを選び、そのQ値を1.0、e値を−0.8として、モノ マ−のe値とそのラジカルのe値を等しいと仮定すると、スチレンの共重合から得られた r1及びr2値から、 (3−52)と(3−53)式を用いて、多くのモノマ−のQ、e値を 算出することができる。 表3−10 代表的モノマ−のQ、e値 r 1 r 2=exp − e 1 −e 2 モノマ− Q イソブチルビニルエ-テル メチルビニルスルフィド N-ビニルカルバゾ-ル α−メチルスチレン イソプレン ブタジエン イソブテン スチレン プロピレン 酢酸ビニル 0.023 0.32 0.41 0.98 3.33 2.39 0.033 1.0 0.002 0.026 e -1.77 -1.45 -1.40 -1.27 -1.22 -1.05 -0.96 -0.8 -0.78 -0.22 2 モノマ− Q e エチレン 塩化ビニル 塩化ビニリデン メタクリル酸メチル アクリル酸メチル メチルビニルケトン アクリロニトリル アクリロアミド 無水マレイン酸 ビニリデンシアニド 0.015 0.044 0.22 0.74 0.42 0.69 0.60 1.18 0.23 20.13 -0.20 0.20 0.36 0.40 0.60 0.68 1.20 1.30 2.25 2.58 置換エチレンモノマ−のQ値は、エチレンの 0.015 より大きく、ブタジエンやイソプ レンのように共役型の置換基を有するモノマ−のQ値は大きくなる。一般に、Q値からモ ノマ−の構造を見ると、Q値が約 0.2 で大別でき、0.2 以上のものを共役モノマ−、0.2 以下のものを非共役モノマ−と呼ばれる。 3−5 連鎖重合(アニオン重合) ビニルモノマ−のアニオン付加重合は、カルボアニオンを成長活性種とする連続反応で ある。ここでは、成長活性種は主として、イオン対、−C−Met+、として存在する。こ の為に、アニオン重合はカチオン重合と同様にイオン重合として幾つかの特徴を有してい る。例えば、活性種がイオン対である為に、溶媒の極性、即ち、溶媒の誘電率とその溶媒 和力の影響を受ける。 ( 3−54) <アニオン重合性モノマ−> アニオン重合性モノマ−は、電子吸引性の置換基を持ち、e値が正のモノマ−か、或い は、e値が負でもQ値が大きくて、生成するアニオンが強く共鳴安定化する芳香族置換モ ノマ−やジエンモノマ−である。 表3−11 アニオン重合性モノマ− Ⅰ群 α−メチルスチレン、イソプレン、ブタジエン、スチレン、ビニルピリジン a メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、メチルビニルケトン、 アクリロニトリル、アクリルアミド b ニトロエチレン、メチレンマロン酸ジメチル、α−シアノアクリル酸エチル シアン化ビニリデン Ⅱ群 - 11 - <アニオン重合開始剤と開始反応> アニオン重合の開始剤は、全て塩基である。その塩基性度の強さ順に、A・B・C群に 分類する。 表3−12 アニオン重合開始剤 A群 アルカリ金属(Li、Na、K、Ca、Ba) アルカリ金属芳香族化合物(Na/ナフタレン) アルキル金属アルカリ(RLi、RNa、RK、R2Ba) アルカリアミド(KNH2) B群 グリニャ−ル試薬(RMgX) アルカリ金属ケチル(ベンゾフェノンケチルK) アルカリ金属アルコキシド(ROLi、RONa、ROK) C群 ピリジン、NR3、ROR、ROH、H2O 代表的な開始剤による開始反応 ( 3−55) ( 3−56) Na/ナフタレン系の開始反応は、電子移動開始であり、成長は両末端で起こる。n− ブチルリチウムによる開始反応は付加形式の開始である。ラジカル重合系とは異なり、こ れ等の開始反応は、重合初期に殆ど終了してしまうので、大部分のアニオン重合は速度論 的には、迅速開始系である。 <アニオン重合成長反応とリビングポリマ−> 炭化水素モノマ−のアニオン重合を炭化水素溶媒中やTHF中で行えば、停止反応や連 鎖移動反応が起こらず、モノマ−が完全消費した後も、成長末端アニオンは活性である。 この高分子をリビングポリマ−と言う。同じイオン重合でも、一般的なカチオン重合では 連鎖移動及び停止反応が起こり易いのと、対照的である。 リビング重合の場合も、重合速度はVp=kp[M ] [活性種]で表される。イオン重合の 場合、溶媒の極性に影響されるので、反応速度は、次式で表される。 Vp=kp±[M][イオン対]+kp−[M] [フリ−イオン] ={kp±(1−α)+αkp−} [M] [I]0 (3−57) ここで、αはイオン対の解離度、[I]0は加えた開始剤の濃度で、開始剤は迅速開始で、 全て成長イオンになると考える。αは解離定数Kと[I]0で定まり、一般には、Kが小さ いので、α= K/ I 0 で近似できる。更に、迅速開始のリビング重合の場合は、分子量分 布はポアソン分布となる為に、分布が非常に鋭く、実質的に単分散高分子(M w/Mn=1. 0)が得られる。 <配位アニオン重合> Ziegler が発見し、 Natta が発展させたチ−グラ−・ナッタ触媒は、エチレンやプロ ピレンを低圧で重合させる非常に活性の高い触媒である。その触媒による重合機構は配位 アニオン重合である考えられている。 チ−グラ−・ナッタ触媒は複数成分からなる触媒であることが特徴で、その基本的組み 合わせは、第Ⅰ∼Ⅲ族の金属アルキル化合物と、第Ⅳ∼Ⅵ族遷移金属化合物である。更に、 第三成分として、電子供与性化合物を加えると、その活性を促進させたり、立体規則性を - 12 - 著しく向上させることがある。代表的な組み 合わせは、ALEt3-TiCl4 や AlEt2 Cl-TiCl3 である。 配位アニオン重合で得られるポリエチレン には 、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖 状低密度ポリエチレン(LLDPE)、 低密度 ポリエチレン(LDPE)、などがり、これら 三者のポリエチレンは工業的には区別して製 造され、使用されている。その中で、分岐の ない高密度ポリエチレンが最も結晶性がよ く、その為に、密度も高い、又 、成形加工や 機械的強度も三者でかなり異なる。 チ−グラ−・ナッタ触媒のもう一つの大き な特徴は、立体特異性重合(又は、立体規則 図3−2 配位アニオン重合のイメ−ジ 性重合)が可能なことである。プロピレンの 重合では非立体特異性重合と立体特異性重合が併発するが、立体特異性重合を優先させる 為に、遷移金属化合物、金属アルキルの他、第三成分として、電子供与性化合物を加える のが普通である。 3−6 連鎖重合(カチオン重合) ビニルモノマ−のカチオン重合はカルベニウムイオンを成長活性種とする連鎖反応であ る。この成長種もやはりイオン対を形成し、その為に、カチオン重合にも溶媒効果、対イ オン効果が存在し、重合速度や重合度が溶媒や触媒によって、大きく変わることは当然で ある。 ( 3−58) <カチオン重合性モノマ−> 電子放出性置換基を持つオレフィンはカチオン重合性である。アニオン重合性とは正反 対である。一般に、e値の負のモノマ−がカチオン重合性である。 表3−13 カチオン重合性モノマ− <カチオン重合開始剤> カチオン重合開始剤はいずれも親電子試薬である。プロトン酸、ルイス酸と、その他の カチオン発生化合物とに分けられる。金属塩化物のルイス酸開始剤はカチオン発生源とな る共触媒を原則として必要とするが、普通のカチオン重合条件では、溶媒中の微量の水が その役目をしていることが多い。主な共触媒は、水以外に、ROH, RX, や CCl3 COOH がある。 表3−14 カチオン重合開始剤 プロトン酸 HClO 4, H 2SO4, H 3PO4 , Cl 3CCOOH, CF3SO3 H ルイス酸 BF3, AlBr 3, AlCl 3, SbCl 5, FeCl 3, SnCl 4, TiCl , 4 HgCl 2, ZnCl 2 その他 I2 , (C 6H5 )3CCl, C 7H7 +BF4 - 13 - <カチオン重合反応> 連鎖イオン反応のであるカチオン重合は、ラジカル重合と同様に、開始反応、成長反応、 停止反応、移動反応より成り立っている。 プロトン酸、ルイス酸共役触媒系による開始反応の代表例は、以下である。 (3−59) ( 3−60) こうして生じた成長鎖はイオン対やフリ−イオンであり、次式のような両者間の解離平 衡が考え得る。 ( 3−61) カチオン重合では、成長カチオンの安定カチオンへの異性化が起こることあり、例えば、 3−メチル−1−ブテンの重合では、以下のような異性化で、- (CH 2-CH2 -C(CH3 ) 2-) x-と いう高分子が得られる。 (3−62) カチオン重合の成長反応の活性化エネルギ−は小さく、低温でも重合は速い。又、低温 ほど移動反応が抑制され、高分子量の高分子が得られる。 カチオン重合の停止反応は一分子停止であり、対アニオンとの結合による停止と、プロ トン引き抜きによる停止とに分けられる。 ( 3−62) モノマ−連鎖移動と芳香族溶媒への移動反応も、以下のように起こる。 (3−63) ( 3−64) - 14 - (3−65) カチオン重合で得られる高分子も、ビニルエ−テルの例のように立体特異的な重合が適 当な溶媒、触媒の組み合わせで可能である。 <リビングカチオン重合> 対アニオン或いはモノマ−などによるβ位水素の引き抜きによる連鎖移動反応をなくす ことが可能になれば、カチオン重合においてもリビング重合が起こりうる。その為には、 成長末端カチオンを、例えば、ヨウ素アニオンとの相互作用によって、安定化させ、ヨウ 素が成長末端のC−I結合を活性化するHI/I2開始剤を用いることにより、 ビニルエ− テル類、スチレン誘導体のリビングカチオンが起こる。 (3−66) 3−7 連鎖重合(開環重合) 開環重合(Ring-Opening Polymeri zation )は、環状化合物を開いて線状高 分子を得る反応である。重合反応にあず (3−67) かる官能基−X−は、ヘテロ原子 、(酸 素、窒素、硫黄、ケイ素、リン、など)を少なくとも一つ含む極性原子団(エ−テル、エ ステル、アミン、アミド、スルフィド、など)やオレフィン結合である。ヘテロ原子を主 鎖に持つポリマ−は開環重合の他に重縮合によってつくられるが、どちらの重合方式がよ り適当であるかは、目的とする高分子の構造や重合度による。 表3−15 環状モノマ−の種類と重合能 官能基 オレフィン エ−テル スルフィド アミン ジスルフィド ホルマ−ル ラクトン ラクタム カ−ボネ−ト 尿素 ウレタン 酸無水物 −X− -CH=CH-O-S-NH-SS-OCH 2O-OCO-NHCO-OCOO-NHCONH-NHCOO-COOCO- 環員数 3 4 5 6 7 8 + + + + + + + − − + + − + − + 分解 − − − − − + − + − + − + − + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + 重要な開環重合には、N−カルボキシ −α−アミノ酸無水物(NCA)の脱炭 酸重合によるポリペプチドの合成がある。 又、重合に際して、官能基の異性化を 伴うものがあり、異性化開環重合と呼ば れる。 - 15 - 9 (3−68) ( 3−69) ある環状化合物の開環重合が可能である為には、開環 に伴う熱力学的な自由エネルギ−の変化が負であるこ と、及び、開環反応の活性化エネルギ−が、その反応条 件下に他の反応(副反応)よりも低いことが必要である。 熱力学的な重合能が環の大きさによって、どのように 変化するかについては、その基本型であるシクロアルカ ンの仮想的な重合に対して、種々の熱力学デ−タから論 じられている。 ( 3−70) △G1coの値は主として、△H1coによって支配され、 △S1coの寄与は小さい。そして、△H1coは主として 、 以下の3つのモノマ−の歪みに起因している。 (1)結合角の歪み 三、四員環は平面構造をとり、炭素の共有結合角 からのズレが大きい。 図3−3シクロアルカンの△G1c o(2)隣接した炭素の重なり形立体配座 三、四、五員環モノマ−が平面構造である為、全ての環を構成する炭素原子は重な り形(eclipsed )の立体配座をとり、その反発が歪みとなる。 (3)クアシ/アキシアル水素の反発 六員環以上では、ねじれ形の立体配座をとるが、七員環以上になると、クアシ/ア キシアルの水素は環の中心に寄り、それらが互いに反発し合うようになる。この歪 みは、十三員環になれば解消する。 ヘテロ原子を含んだ開環重合 (3−71) <カチオン性開環重合> 環状エ−テル、環状スルフィド、環状イミン 、環状ジスルフィド、ラクトン、ラクタム、 環状ホルマ−ル、環状イミノエ−テル、などがカチオン性開環重合をする。 ( 3−72) ( 3−73) - 16 - <アニオン性開環重合> アルキレンオキシド、ラクトン、ラクタム、環状ウレタン、環状尿素、などがアニオン 性開環重合をする。 (3−74) (3−75) (3−76) ( 3−77) ( 3−78) <配位性開環重合> アルキレンオキシド(三員環エ−テル)、アルキレンスルフィド 、カプロラクトンなどは、 アルミニウムや亜鉛の有機金属化合物に、0.5∼1.0モル量の水やセチルアセトン或 いはこの両者などを加えて反応させた系で極めて容易に重合して、重合度の高い高分子が 生成する。この重合は、あらかじめモノマ−が、触媒系の金属イオンに配位して活性化を 受け、それを成長種が親核攻撃する。 (3−79) ( 3−80) 3−8 高分子生成における構造の規制 <立体構造の規制> を問題にする。 ビニル系高分子には、不整炭素の立体配置が互いに対掌体の 関係にある二種類の配置基本単位(Configurational Base Unit: D, L )があり、両者が不規則に混じり合ったものをアタ クッチク高分子、その一方のみから成り立つものをイソタクチ ック高分子と呼ぶ。重合反応の立体化学では、どのような機構 で配置基本単位のD或いはLのつながり方が決まるのか、どの ようにすれば想定の様式のDとLの分布が得られるのか、など 成長鎖による立体規制 ビニルモノマ−のラジカル重合における立体規制の機構を考える。下図は成長中の高分 子ラジカルの末端付近の部分を表すイメ−ジである。末端単位(1)におけるC(1)原 子の立体配置は、次に入ってくるモノマ−分子のβ−Cとの結合が形成された時に、始め て決定される。 - 17 - 図3−4 成長鎖における末端の立体規制の機構のイメ−ジ ここで、問題になるのは、このモデルにおいて、C(1)の配置決定にあずかるのがC (2)、C(3)、C(4)、・・・・・などの置換基で、どこまでが関与するのか?という ことである。 Bovey 等は、1960 年、ラジカル重合で生成した PMMA のトリアッドタクチシチ− の分率が唯一つのパラメ−タで、表現できることを見い出した。 I=σ2、 H=2σ(1−σ) 、 S=(1−σ)2 (3−81) ここで、I、H、Sはそれぞれ高分子鎖中におけるイソタクチックI(DDD, LLL)、ヘテ ロタクチックH(DLL, LDD, LLD, DDL)、シンジオタクチック(DLD, LDL)のトリアッ ドの分率である。σは D → D(又は、L → L)につながる確率p DD(又はp L L)を示す。 例えば、シンジオタクチックトリアッドの分率が、 (3−81)式のように、p LD ×p D L =(1−σ)2で表されるということは、それぞれのトリアッドに相接する両隣のモノマ− 単位の立体配置によって、p L D やp DL の値が全く影響されないで、常に、1−σである ことを示している。同様の議論がIやHのトリアッドに対しても成立する。MMA のラジ カル重合では、σは普通0.2程度であり、シンジオタクチック構造に富む PMMA が得 られる。 触媒による立体規制 成長鎖立体 規則機構に対 し、触媒の不 整構造そのも のによって、 生成高分子の 立体構造が決 定される場合 がある。チ− グラ−・ナッ タ触媒による イソタクチッ クポリプロピ レンへの立体 特異性重合で は、Tiが触 媒の活性点と なっており、 α型の Ti Cl3 結晶を 用いた固体或 いは会合型の 図3−5 対掌体触媒サイトによるプロピレンの立体特異性重合のイメ−ジ チ−グラ− ・ナッタ触媒では、Tiのまわりの六つの配位座の一部に、Clの欠陥があり、これが活 性の中心になっていると考えられている。この場合、Clの欠陥部のできる配位座の位置 - 18 - に応じてTiのまわりの不整の方向が決められることになる(図3−5を参照) 。 不溶性或いは会合型の Zn(OMe)2 を触媒とするDL−プロピレンオキシド(PO)の 立体特異性重合も触媒による立体規則であることが証明されている。 (3−82) <交互及びブロック共重合> 共重合体はランダム共重合体と異なる物性を持つ為に、新規高分子材料として多くの用 途に使用される。 交互共重合 ラジカル共重合も含め一般には二種類のモノマ−が交互に共重合する為には、以下の反 応が選択的に起こらなければならない。 M1*+M1 M1M1* (k11 ) (3−83) * M1 +M2 M1M2* (k12 ) (3−84) * M2 +M1 M2M1* (k21 ) (3−85) * M2 +M2 M2M2* (k22 ) (3−86) 即ち、モノマ−反応性比r1(=k11/k12)、r2(=k22/k21)がいずれも0で、両モ ノマ−単独では重合しないが、共存する時のみ重合が起こる場合に、交互共重合性が最も 高い。例としては、無水マレイン酸に対するα−オレフィンやビニルエ−テル、などがあ る。又、テトラフルオロエチレンとプロピレンのラジカル交互共重合(r1 =0.05, r2=0.10 ) で、200℃の高温に耐える新規フッ素系ゴムが国産化された。 ブロック共重合 最も広く行われているのは、アニオンリビング重合法である。アルキルリチウムを開始 剤とする各種のブロック共重合体を以下に示す。 s-BuLi + xSt → S-Bu(St )xLi → PS高分子 (3−87) s-Bu(St)xLi + yBd → s-Bu(St)x (Bd )yLi →PS−PBジブロック (3−88) s-Bu(St)x(Bd)y Li + xSt → s-Bu(St)x(Bd)y(St)x Li →PS−PB−PSトリブロック (3−89) s-Bu(St)x(Bd)yLi + DVB → 星形ブロック ここで、St はスチレン、Bd はブタジエン、 DVB はジビニルベンゼンである。 実用的に重要なブロック共重合体は、ABA型及び(AB)nX型であり、非加硫型熱可 塑性エラストマ−として市販されている。 (3−90) <定序性高分子> 定序性高分子は、単位構造が決まった順序に配列された高分子であり、1:1交互共重 合体もその一例と言えるが、定序性高分子合成の「狙い」は、配列順序の正確に持つポリ ペプチドや蛋白質の合成にある。 固相合成法 定序性高分子の合成で、今までの所、実現している唯一の方法は、段階的にモノマ−単 位を縮合させていく方法である。この方法は、主に重縮合が対象とされており、特に、定 序性を持ったオリゴペプチドの合成、中でも、固相合成法が注目された。 - 19 - 図3−6 固相法の高分子支持台 この合成法の原理は、ジビニルベンゼンで 橋かけしたポリスチレン樹脂を支持台として、 その支持台高分子の上の活性な部位に、任意 のアミノ酸を順次反応させて行き、その台の 上で定序性を持つポリペプチドを組み立てて 行く不均一系合成法である。 最近では、同様の方法で、ヌクレオチドから 図3−7 固相法のイメ−ジ ポリヌクレオチド、即ち、核酸の化学合成もできるようになった。遺伝子工学の分野では、 数十量体のヌクレオチドがよく利用される為、自動合成装置がつくられ、短時間で任意の 配列をもったヌクレオチドが得られるようになった。 (例えば、一量体ごとに700円で5 0量体程度まで、合成を請け負う企業もある。) 鋳型重合法 鋳型重合は、テンペレ−ト重合やマトリックス重合とも呼ばれ、付加重合型の高分子合 成において生成高分子に定序性を与える試みとして、注目されている。この方法は、分子 レベルでモノマ−を持つ一定の部位と選択的に相互作用できる構造単位からなる高分子を 系に存在させて、重合を行う方法である。 図3−8 3−9 鋳型重合法のイメ−ジ 非線形高分子の生成 <グラフト共重合体> グラフト共重合体は、その特異な化学構造の為に、合成も多岐にわたるが、現在、幹高 分子上の重合開始点からモノマ−を重合して枝高分子を成長させる重合法と、あらかじめ 合成しておいた枝高分子を幹高分子に結合させるカップリング法の二つに大別できる。 グラフト共重合体の生成法 (A)重合法(幹高分子+モノマ−) (1)触媒法: ラジカル重合開始剤や幹の関与するレドックス系を利用して幹にラジ カルをつくる。アニオンやカチオンが重合開始種になる場合もある。幹 の側鎖にアゾ基のようなラジカル発生源を導入 (2)連鎖移動法: SH基のように連鎖移動し易い基を幹に導入 (3)放射線重合法: 前照射(真空中と空気中)と同時照射法(モノマ−共存)があ る。 (4)光重合法: 光増感剤を添加、或いは、光増感基を幹高分子中に導入 - 20 - (5)機械的切断法: ズリ力により幹高分子やその側鎖を切断することにより、ラジ カルをつくる。 (B)カップリング法(幹高分子+枝高分子) (1)リビングカップリング法: アニオンリビング末端を持つ枝高分子を幹高分子(例 えば、PMMA)で失活すると同時に枝高分子が幹高分 子に結合 (2)縮合カップリング法: 縮合性官能基(例えば、-COCl)を末端に持つ枝高分 子とその相手の官能基(例えば、-NH2 )を主鎖中に持つ 幹高分子とを結合 <網目状高分子> 三次元(網目構造)高分子の合成は、 (1)既にある高分子又はオリゴマ−の橋かけ反応、 (2)多官能性モノマ−の重合、がある。いずれの場合にも、網目密度が低い場合は問題 にならないが、網目密度が高い場合には、反応は鎖の動き易さなどの影響を受け、反応は 必ずしも予想通りに進むとは限らず、又、確認も難しいので、網目状高分子の合成は、ま だまだ、経験的な要素が多い。 一次鎖の橋かけ 図3−9 橋かけ反応のイメ−ジ 橋かけ生成は、多くの場合、同種の高分子間を、官能基を二つ以上持つ低分子試薬を橋 かけ剤として用いて行う。付加、縮合、その他、二分子を結合する種々の反応が用いられ る。以下に、幾つかの橋かけ反応の例を示す。 加硫ゴム(ジエン系ゴム+硫黄) ( 3−91) 繊維に防皺性を与える樹脂加工 (N,N’−エチレン−N,N’−ジ(ヒドロキシメチル)尿素)) (3−92) 繊維強化プラスチック(FRP)(不飽和ポリエステル樹脂+スチレン) - 21 - ( 3−93) 放射線や光のよる橋かけ反応 (3−94) 光感光性樹脂(ケイ皮酸エステル化したポリビニルアルコ−ル) (3−95) イオン結合の橋かけ反応(側鎖にカルボキシル基を持つ高分子) (3−96) 両端二官能性高分子の橋かけ 上述した橋かけ反応は、高分子鎖中の多く の官能基の任意の位置でランダムに起こる。 これに対し、両端のみに官能基を持つ高分子 を用いて、これを三官能性以上の橋かけ剤で つないで網目状高分子を生成する方法もあ る。 この方法の特徴は、原料の両端二官能性高 分子(Telechelic Polymer)の分子量があ まり大きくないので、分子間力の小さいもの 図3−10 網目状高分子のイメ−ジ は液状であり、 これを橋かけ剤と混ぜてゴム 或いはプラスチックにする成形加工の工程が非常に容易になること、又、反応を完全に進 めると、ゴム弾性に無効な遊離の末端基のない高分子が得れることである。 - 22 - 多官能性モノマ−の重合 ジオ−ルとカルボン酸の系に、グリセリンやペンタエリトリト−ルのような多価アルコ −ル又はプロパントリカルボン酸のような多価カルボン酸を加えて重縮合を行わせるもの で、アルキッド樹脂(Alcohol+Acid → Alkyd)として知られている。ケル化理論の証明 にこの系の網目状高分子が用いられた。 YH + CH 2O → Y-CH2 OH (ヒドロキシメチル化:付加) (3−97) YCH 2OH + YH → Y-CH 2-Y + H2 O (メチレン化:縮合) (3−98) 一部: 2YCH2O H → Y-CH-O-CH 2 2 -Y + H 2O メラミン樹脂 ( 3−99) エポキシ樹脂 ( 3−100) (3−101) 多官能性モノマ−を逐次反応ではなく、連鎖反応で網目状高分子にする方法として、ビ ニル基とジビニル基を持った化合物の共重合がある。スチレン−ジビニルベンゼン系高分 子がその代表例であり、網目を巧みに制御して、GPC用のゲルとして、又、ベンゼン環 にスルホン化やその他の反応で置換基を導入して、イオン交換樹脂として、利用されてい る。 - 23 -
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