ただいま、ページを読み込み中です。5秒以上、このメッセージが表示されている場 合、Adobe® Reader®(もしくはAcrobat®)のAcrobat® JavaScriptを有効にしてください。 日皮会誌:116(10) ,1455―1459,2006(平18) Adobe® Reader®のメニュー:「編集」→「環境設定」→「JavaScript」で設定できます。 「Acrobat JavaScriptを使用」にチェックを入れてください。 なお、Adobe® Reader®以外でのPDFビューアで閲覧されている場合もこのメッセージが表示さ れます。Adobe® Reader®で閲覧するようにしてください。 シェーグレン症候群の 1 例 クリオグロブリン血症と皮膚に血管炎がみられた 中野由美子1) 1) 岳士1) 越後 森田 礼時 長谷川 佐藤 伸一1) 竹原 1) 要 稔 冨田 郁代1) 大石 直人1) 川野 2) 山崎 雅英3) 充弘 和彦1) 旨 55 歳女.40 歳代より眼・口腔内の乾燥症状あり,抗 を経験した.モノクローナル IgA とポリクローナル IgG から成るクリオグロブリン血症は稀でありここに 報告する. SS-A 抗体と抗 SS-B 抗体陽性,角膜炎所見や唾液腺分 症 泌機能低下の所見を認めたことからシェーグレン症候 例 群と診断した.初診 2 年前より特に冬季に顔,耳介, 患 者:55 歳,女性. 手足,下腿などに浸潤を触れる紫斑や潰瘍が出現した. 初 診:2003 年 3 月 12 日. 下腿の紫斑の病理組織では真皮小血管に白血球核破砕 主 訴:両下肢の紫斑. 性血管炎の所見がみられ,蛍光抗体直接法にて血管壁 既往歴:顔面神経麻痺(51 歳) ,薬剤・食物アレル に IgM と C3 の沈着を認めた.血清よりクリオグロブ ギーはなし. リン(モノクローナル IgA-κ とポリクローナル IgG- 家族歴:慢性リンパ性白血病(父) . κ,λ)が検出されたことから,II 型クリオグロブリン 現病歴:初診 2 年前より両眼の乾燥感や疼痛,口渇 血症に伴う免疫複合体性血管炎と診断した.検査上軽 感を自覚していた.1 年前より下肢に紫斑が出現し,冬 度の貧血を認めたが,M 蛋白血症は検出されず,骨髄 季になると増悪を認めた.1 カ月前より顔,耳介,手背 所見にも異常はなかった.プレドニゾロン 30mg! 日の にも紫斑が出現したため当科を受診した. 経過中, Ray- 内服により皮疹は消退し,寒冷曝露に注意しつつプレ naud 現象はみられなかった. ドニゾロンを漸減中である. はじめに クリオグロブリンとは,低温にて可逆性の沈殿を生 入院時現症:両下腿から足背および両手背・両耳介 に痂皮を伴い浸潤をふれる紫斑を多数認めた(図 1) . 爪上皮出血点や腹部症状は認めず,表在リンパ節の腫 脹もみられなかった. じる異常な特性を有する免疫グロブリン分子および免 臨床検査成績: 疫複合体であり,障害される臓器は皮膚,腎臓,肝臓, 血算・凝固:白血球数 3,600! µl,赤血球数 406×104! 筋,神経系などの多臓器にわたる.われわれは特に冬 µl,Hb 10.9g! dl↓,Ht 33.7%,血 小 板 数 25.6×104! 季に顔,耳介,手足,下腿などに浸潤を触れる紫斑が µl,ESR 65! 108mm↑,ループス抗凝固因子 陰性. 出現し,精査にてシェーグレン症候群によるクリオグ ロブリン血症に起因する皮膚の血管炎と診断した症例 生化学:GOT 22IU!l,GPT 18IU!l,BUN 15mg! dl,Cr 0.52 mg! dl,TP 7.2g!dl(γ-glb 21.0%↑),Alb 4.0g! dl,CRP 0.0mg! dl. 1) 金沢大学大学院医学系研究科循環医科学専攻血管分 子化学講座皮膚科学(主任:竹原和彦教授) 2) 同内科学第 2(主任:山岸正和教授) 3) 同内科学第 3(主任:中尾眞二教授) 平成 18 年 3 月 9 日受付,平成 18 年 5 月 15 日掲載決定 別刷請求先: (〒920―8641)金沢市宝町 13―1 金沢大 学大学院医学系研究科循環医科学専攻血管分子化学 講座皮膚科学 中野由美子 免疫学:IgG 1,750mg! dl↑,IgA 417mg! dl↑,IgM 196mg! dl,抗核抗体 320 倍(Homogenous pattern) , 抗 SS-A 抗体 107.2↑,抗 SS-B 抗体 74.1↑,血清クリオ グロブリン陽性 (半定量 26%:クリオクリット法) ,抗 カルジオリピン抗体 45.5U! ml↑,MPO-ANCA 陰性, PR3-ANCA 陰性,リウマトイド因子<10,HBs 抗原 (−) ,抗 HCV 抗体(−) ,抗 HTLV-1 抗体(−) ,可溶 1456 中野由美子ほか a b c d 図 1a,b,c,d 臨床写真(両下腿,手背,足背,耳介) 下腿を中心に紫斑,手背・足背・両耳介に痂皮を伴う紫斑を認める. 性 IL-2 レセプター 512U! ml↑.免疫電気泳動法:ポリ 部∼骨盤 CT;悪性所見は認めなかった.骨髄所見: クローナル IgG-κ,λ とモノクローナル IgA-κ を検出 リンパ増殖性疾患を疑う所見を認めなかった. した(図 2) . 尿検査:蛋白(−) ,潜血(−) ,クレアチニンクリ アランス 92.8ml! 分. 病理組織所見(左下腿屈側皮膚) :真皮浅層から深層 にかけての血管周囲に核破壊を伴う好中球主体の細胞 浸潤を認めたが,血栓像はみられなかった(図 3) . 眼科的所見:軽度角膜炎がみられ,シルマー試験陽 免疫蛍光抗体直接法:IgM,C3 が真皮浅層の血管 性(右 3mm,左 8mm)であった.唾液腺シンチグラ 壁に顆粒状に沈着していた.IgG,IgA の沈着は認め フィ:両顎下腺・耳下腺の高度集積低下を認めた.下 られなかった(図 4) . 肢ベノグラフィ:血栓や血流障害を認めなかった.胸 治療と経過:以上より,基盤にシェーグレン症候群 クリオグロブリン血症と皮膚に血管炎がみられたシェーグレン症候群の 1 例 1457 図 3 皮膚病理組織所見(左下腿) 真皮浅層から深層の血管周囲に核破壊を伴う好中球主 体の細胞浸潤を認める. 図 2 クリオグロブリン免疫電気泳動 ポリクローナル I gGκ,λとモノクローナル I gAκを検 出. が存在し,それに伴いモノクローナル IgA-κ とポリク ローナル IgG-κ,λ からなるクリオグロブリン血症を 続発し皮膚血管炎を発症したと考えた.プレドニゾロ ン 30mg! 日,ベラプロストナトリウム及びアスピリン 図 4 蛍光抗体法直接法(C3) 真皮浅層,血管壁に C3の顆粒状沈着を認める. の内服にて,血清 γ グロブリンは低下し,クリオグロブ リンも陰性化すると共に紫斑は軽快した. 考 案 複合体を形成し沈降するもので,B リンパ球系腫瘍や C 型肝炎,シェーグレン症候群などを合併する1).III 型はポリクローナルな主に IgM クラスの免疫グロブ クリオグロブリン血症とは,血清中にクリオグロブ リンがポリクローナルな IgG と免疫複合体を形成し リンが異常に増加した状態を指し,臨床的には原因不 沈降するもので,自己免疫疾患や慢性感染症などを合 明の本態性のものと基礎疾患に誘発される続発性のも 併する. のに分類される.さらに,構成する免疫グロブリンの 皮膚症状は下腿に最も好発し,他に四肢や耳介など 種類により 3 型に分類されている (表 1) .I 型はモノク の寒冷刺激部位に palpable purpura や網状皮斑,潰瘍 ローナルな IgG,IgM または IgA がそれ自身でクリ などの多彩な皮膚症状を呈する.I 型では血管閉塞に オグロブリンを形成するもので,好発する基礎疾患と よる血流障害,II 型・III 型は免疫複合体形成が関与す して多発性骨髄腫や原発性マクログロブリン血症など る壊死性血管炎に起因するものと考えられる. が挙げられる.II 型はモノクローナルな主に IgM クラ 自験例はクリオグロブリン免疫電気泳動にてモノク スの免疫グロブリンがポリクローナルな IgG と免疫 ローナル IgA-κ とポリクローナル IgG-κ,λ が検出さ 1458 中野由美子ほか 表1 クリオグロブリンの構成と組織像 免疫学的性状 I型 mo no c l o na l Ⅱ型 monocl onal pol y cl onal I I I型 po l yc l o na l po l yc l onal 構成 頻度 基礎疾患 血管炎の組織像 I gM I gG 13% 多発性骨髄腫 8% 原発性マクログロブリン血症 非炎症性の好酸性無構造物質の 血管閉塞像 I gA 2. 5% BJ P 1% 単クロン性高 γ gl血症 本態性クリオグロブリン血症 I gMI gG 22% Bc el ll ymphoma I gGI gG 2. 5% 肝疾患(C型肝炎) I gAI gG (自験例) 1% 膠原病 本態性クリオグロブリン血症 I gMI gG I gMI gGI gA 43% 7% 膠原病 感 染 症(HCV,EBV,CMV, 細菌,梅毒,寄生虫など) 本態性クリオグロブリン血症 壊死性血管炎 壊死性血管炎 本田一穂 他,文献 6)より引用 れたことから II 型クリオグロブリン血症と診断した. 慮する必要があると考えられる5). 基礎疾患の検索では,シェーグレン症候群とそれに伴 腎障害は 50% の症例にみられるが, 病理組織学的に う高 γ グロブリン血症を認めたが,HCV 感染症や関節 は膜性増殖性糸球体腎炎類似の組織像を示すものが多 リウマチの合併は否定的であった.また,皮膚病変部 く,患者の予後を決定するうえで重要な因子である. の蛍光抗体法では,IgM と C3 のみの沈着しか検出さ 腎障害を呈する患者では,大多数の症例で補体の低下 れず,IgA の沈着はみられなかったが,皮膚生検の時 を認める.自験例ではクレアチニンクリアランスは保 期や検査の感度などによる手技的な問題で検出できな たれ,尿蛋白・潜血陰性,補体の低下は認めていない 2) かった可能性も考えられる .血管炎がクリオグロブ が,尿所見に異常を認めなかったにも拘わらず腎生検 リンによるものか高 γ グロブリン血症によるものかは にてクリオグロブリンの沈着を認めたシェーグレン症 明らかではないが,冬期に悪化すること,下腿だけで 候群の報告例もあるので,繰り返し尿検査などを行い なく顔,耳介,手にも皮疹がみられたことからはクリ 腎障害に注意を要するものと考えている6). オグロブリン血症による血管炎と思われた.尚,IgA- クリオグロブリン血症の一般療法として,皮膚症状 IgG で構成されるクリオグロブリン血症は全体のわず に対しては寒冷曝露を避け保温を第一とする.関節炎 か 1% と非常に稀である3). などには消炎鎮痛剤の投与と安静が有効である.腎 クリオグロブリンを構成する IgA を産生する B 細 炎・血管炎に対してはステロイド薬,抗凝固薬,免疫 胞はモノクローナルな増殖をしている可能性があり, 抑制薬が用いられ,治療抵抗性の場合は二重濾過膜血 今後 B 細胞リンパ腫の続発に注意が必要である.統計 漿交換療法が有効な場合がある.自己免疫疾患やリン 学的に 607 例のクリオグロブリン血症のうち,27 例に パ増殖性疾患などの基礎疾患をもつ場合は原疾患の治 4) 血液系悪性腫瘍が発生していると報告されている . 療が必要である. これらのことから,本症例が今後増悪する際には,ク リオグロブリンの産生を制御し,リンパ腫の続発を抑 制する目的で抗 CD20 抗体(リツキシマブ)の投与も考 文 1)内丸 薫:単クローン性混合型クリオグロブリン 血症[II 型],諏訪庸夫編:別冊日本臨床 領域別 症候群 22 血液症候群 III,日本臨床社,大阪,1998, 521―523. 2)Ferreiro JE, Pasarin G, Quesada R, Gould E : Be- 本論文の要旨は第 104 回日本皮膚科学会総会において報 告した. 献 nign hypergammaglobulinemic purpura of Waldenstrom associated with Sj gren s syndrome . Case report and review of immunologic aspects. Am J Med, 81 : 734―740, 1986. 3)Brouet JC, Clauvel JP, Danon F, Klein M, Selig- クリオグロブリン血症と皮膚に血管炎がみられたシェーグレン症候群の 1 例 mann M : Biologic and clinical significance of cryoglobulins. A report of 86 cases. Am J Med, 57 : 775― 788, 1974. 4)Trejo O, Ramos-Casals M, Lopez-Guillermo A, et al : Hematologic malignancies in patients with cryoglobulinemia : association with autoimmune and chronic viral diseases. Semin Arthritis Rheum, 1459 33 : 19―28, 2003. 5)Zaja F, De Vita S, Mazzaro C, et al : Efficacy and safety of rituximab in type II mixed cryoglobulinemia. BLOOD, 101 : 3827―3834, 2003. 6)本田一穂,湯村和子,小林英雄ほか:SLE やクリ オグロブリン血症などの免疫複合体病,腎と透析, 43 : 489―494, 1997. A Case of Sj gren’s Syndrome with Cryoglobulinemia and Cutaneous Vasculitis Yumiko Nakano1), Takeshi Echigo1), Ikuyo Tomita1), Naoto Oishi1), Reiji Morita1), Minoru Hasegawa1), Mitsuhiro Kawano2), Masahide Yamazaki3), Shinichi Sato1)and Kazuhiko Takehara1) 1) Department of Dermatology, Kanazawa University Graduate School of Medical Science, Kanazawa, Japa 2) Second Department of Internal Medicine, Kanazawa University Graduate School of Medical Science, Kanazawa, Japan 3) Third Department of Internal Medicine, Kanazawa University Graduate School of Medical Science, Kanazawa, Japan (Received March 9, 2006 ; accepted for publication May 15, 2006) We report a case of Sj gren s syndrome with cryoglobulinemia and cutaneous vasculitis. A 55-year-old female was diagnosed with Sj gren s syndrome because she had dry eyes and mouth, positive anti-SS-A and SSB antibodies, keratitis, and hypofunction of the salivary glands. Indurative purpuras and ulcers had appeared on her face, ears, hands, feet, and lower legs, and they worsened with cold exposure during winter for two years before the first visit. Histopathological examination of the purpura on her lower leg showed leukocyteclastic vasculitis around the small vessels in the dermis. The immunofluorescence technique showed granular deposits of IgM and C3 around the small vessels. She was diagnosed with immunocomplex vasculitis due to type II mixed cryoglobulinemia from the detection of monoclonal IgA-κ and polyclonal IgG-κ,λ cryoglobulin by immunoelectrophoresis. Treatment with 30mg! day prednisolone was effective, resulting in disappearance of the purpuras and ulcers. She has been gradually tapered off the prednisolone by avoiding the cold exposure. (Jpn J Dermatol 116 : 1455∼1459, 2006) Key words : Cryoglobulinemia, Cutaneous vasculitis, Sj gren s syndrome
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