治療に抵抗を示し,臨床的にも組織学的にも 巣状糸球体硬化症(FGS)が疑われたが, 確診し得なかった1症例 近畿大学医学部小児科学教室 牧淳,浦岡善英,赤野則久 宮本博介,竹村 司 FGSは,その組織学的特性から,糸球体数が限 C379mg/dZ,C458mg/dZ,CH5036・5CH50u/mZ 定された生検材料からの診断は必ずしも容易では であった。BUNは25mg/d’,Creatinineは0、9 ない。今回,私達はステロイド剤および免疫抑制 mg/dJであった。 ⑪ くFGSが疑われたが,腎生検を2回施行したに 臨床経過を表1に示す。入院後,プレドニン の 30mg隔日,ペルサンチン150mg/dayを投与し もかかわらず,FGSとは確診し得なかった症例 たが,109/day程度の高度の蛋白尿が持続してい 剤に抵抗性のネフローゼ症候群で,臨床的には強 た。3月23日経皮的腎生検を施行した。生検像は後 を経験した。 症例は15歳男児,昭和58年7月末より下肢に浮 ⑪ 述するが,「FGSの疑い」と診断し,ワーファリン 腫が出現した。近医を受診し,蛋白尿を指摘され, の投与を開始した。トロンボテストがcontrol出来 8月5日某病院に入院した。入院後,ネフローゼ たころよりmethylpredonisolone pulse ther&py 症候群と診断され,ステロイド剤の投与を受け, (似下,MPTと略す)1クールを施行した。結 9月1日,腎生検が施行された。組織診断はmild 果は,比較的良好に反応し,尿蛋白量が約1g/day proliferative GNであったが,蛍光抗体法でIgM 前後に落ちついてきた。5月23日からエンドキサ がsegmentalに沈着していたためにFGSを疑わ ン50mgとインダシンの投与を始めた。6月中旬 れ,パルス療法,ステロイド療法,ワーファリン療 頃より再び蛋白尿が増加してきたので,再度, 法などのcombined therapyを受け,蛋白尿が減 MPTを施行した。その後,尿蛋白量は減少して 少傾向を示したため,12月29日退院した。退院後, いたが,Hb7.79/d’,RBC2.43×106/mm3,WB 外来通院中に再ぴ蛋白尿が増加したため,当科を 紹介され,3月7日に入院となった。家族歴および ② ⑪ C1800/mm3と著名な骨髄抑制が出現したため, ⑪ ⑪ エンドキサンならびにインダシンを中止した。 既往歴には特記すべきことはない。入院時の理学 その後しばらくして再燃し,尿蛋白量も209/ 的所見では,浮腫はなく,心肺に異常はなかった。 day以上となったため,3度目のMPTを施行し 血圧は134/78mmHgであった。 入院時検査所見は,検尿ではズルホ4+,沈渣で た。この際,糸球体の細胞内の浮腫をとり除く目 的で,150∼160mEq/’の高濃度Naを含む補 microscopic hematuriaを認めた。24時間尿蛋自 充液を用いてhighsodium hemofiltraもion法を 量は21.6g/dayであった。血液検査では貧血はな 併用したσその後,蛋白量は著明に減少したが, く,赤沈値は23mm/hourであった。血清total protein値は5.89/d’,albumin値は3,19/d’, cholestero1値は320mg/dJであった。Circulating immune complexは1、5μg/m1以下で,補体は ステロイド剤の減量とともに再び増加している。 本症例の腎生検像を図1に示す。標本には16個 の糸球体が認められたが,いずれの糸球体もmild の proliferative GN像であった。しかし,糸球体病 一91一 ll e , FAS 1 1 X400 ;,:!: i -2 変に比し,尿細管および間質病変が強いように思 蛍光抗体法で観察した糸球体はmild prolifer− われたので,連続切片標本を作成して観察したと ativeな糸球体のみであったが,IgM,C4,fibrin− ころ,図1のごとく,ボーマン嚢に接して巣状分 ogenが陽性で,IgG,IgA,Clq,C3はnegativeで 節状硬化病変の一部と考えられる病変を認めた。 あった。図2にIgMの染色像を示す。 しかし,この糸球体が発見されたのは連続切片の 酵素抗体法による観察標本にも硬化糸球体がな 最後の標本であったため,FGSとは確診出来な く,mild proli£erativeな糸球体のみの観察であ かった。 るが,IgM,fibrinogenが陽性でIgG,IgA,C3 図2 蛍光抗体法 1gM 染色 X400 光顕像はmild prolifera− tiveな糸球体で,硬化病変 は認めていない。 図3 酵素抗体法 lgM 染色 X400 光顕像はmild prolifera− tiveな糸球体で,硬化病変 は認めていない。 一93一 図4 電顕像 光顕像はmild proliferativeな糸球体で,硬化病変は認めていない。 は陰性であった・酵素抗体法によるIgM染色像 を図3に示す。 FGSは,特に初期において,生検診断に苦慮 する疾患である。本例も臨床的にはFGSが強く 電顕像を図4に示す。電顕標本でも硬化糸球体 疑われ,連続切片を作製して観察したにもかかわ を認めず,mild proliferativeな糸球体を観察し らず,確診するにはいたらなかった。何らかの補 た。基底膜は著変なく,上皮細胞の足突起の癒合 助的診断法の確立が望まれる。 を認めるのみであった。electron dense deposit は認められなかった。 一94一 マ
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