乾癖の免疫組織学的ならびに血清免疫学的研究

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(4), 487-495, 1981 (昭56)
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乾癖の免疫組織学的ならびに血清免疫学的研究
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具 志 堅 初 男
要 旨
丘疹からはじまる紅斑性局面をつくり,その臨床型は多
乾癖患者における免疫現象を確認するために,血清免
様である.病型は境界明瞭な白色雲母状鱗屑に被われた
疫学的見地から皮疹の免疫組織学的所見と流血中の免疫
紅斑局面が全身に出現する尋常性乾癖,紅斑局面に著明
グロブリンおよび補体系の変動について検討した.
な膿庖形成を伴なり膿庖性乾癖,紅皮症様となる乾癖性
蛍光抗体法による検索では,乾癖の早期疹と完成さ
紅皮症,関節炎を伴なう関節症性乾癖および上気道炎に
れた局面疹において角層部,特にmicroabscessにIgG,
続発して小丘疹が多発する滴状乾癖などに分類すること
IgA, IgM
ができる.完成された乾癖の病理組織学的所見は,表皮
の免疫グロブリンおよびClq,
の補体成分,さらにproperdin,
teinとsecretory
C3c, C3a, C5
glycin rich β-glycopro-
IgA (SIgA)の成分であるsecretory
component (S-component)およびjoining
chain( J-chain)
では不全角化を伴なう角質増殖と,角層部へのleucocytic migratson によるMun
「s microabscess
と表皮の
regular acanthosis が認められ,真皮では乳頭部の浮腫,
の沈着が認められた.早期疹と局面疹では著しい相違は
毛細血管拡張と炎症性細胞浸潤がみられる.
なかったが,前者においてはproperdinが高率に検出さ
乾癖の病因については多くの研究があるが,いまだ
れたことからalternate
に不明の域を出ない.乾癖皮疹部表皮のturnover
pathwayの関与が推定された.
lgAについては,その沈着部に:
S-componentとJ-chain
time
は,正常表皮では52∼72日であるのに対し,8∼10日と
がみられ,このものがSIgAであることを示唆してい
著しく短縮しており1',表皮細胞の分裂,増殖が充進
た.
し,角層への分化不全を伴なって,不全角化を招来す
患者血清中のlgG値は健康者に比べて低<(p>0.05),
る.これらに関して,表皮細胞の異常分裂の面からは乾
lgMは有意の差を示さなかったが,
癖表皮細胞内における解糖系の異常2),adenyl cyclase
IgAは高値の傾向
を示す症例があった.補体系では,CH5,はやや高く,
のreceptorの異常3)4)が指摘されており,表皮細胞膜の
C3c はやや低い症例があったかC3-activator,
異常が乾癖の病態に関与すると考えられている.一方,
C4は特
徴を示さなかった.乾癖患者の体表面積に対して皮疹の
本症では家族内発症をみることから,遺伝学的素因につ
占める面積を考慮すると,皮疹面積が大きい症例ほど補
いても検討され,組織適合抗原ではB13,
B17, DR7が
体価は高値を示す傾向があった.
疾患発症と関連することが示唆されている6)
8)
以上の乾癖皮疹部の免疫組織学的所見と血清中の免疫
本症の発症病因に関する免疫学的検討は,特に乾癖組
グロブリンおよび補体の変動を示す成績から,乾癖の病
織の重要な所見の1つである白血球の表皮内遊走につい
因に免疫現象が関与していると推定した.
て行なわれてきた.
1966年Langhoffら9)は,乾癖鱗屑
がleucotactic activity を有することを指摘したが,そ
緒 言
の後Kroghらl°)11〉は,
immune
adherence
technique
乾癖は炎症性角化症に分類される慢性の疾患で,躯
によってヒト血清中に自己の角層成分に対する抗体が存
幹,四肢の外的刺激を受け易い部位に好発し,多くは小
在することを認めた.また尋常性乾癖の鱗屑抽出液中に
はIgG,
北海道大学医学部皮膚科学教室(主任 三浦祚晶教
授)
Hatsuo Gushiken: Immunohistological and Immuno serologicalStudies on Psoriasis
昭和55年9月30日受理 特掲
別刷請求先:(〒060)札幌市北区北15条西7丁[l
北海道大学医学部皮膚科学教室
IgA, C3が含まれており,乾癖性紅皮症と関節
炎性乾癖の症例ではさらにlgMも存在していることを
示して,角層における自己免疫反応の関与を推定した.
BeutnerおよびJablonskaら12)-U)は蛍光抗体法によっ
て乾癖皮疹部角層におけるin
vivo binding IgG の存在
を指摘し,このものは自己の角層に対する抗体であり,
乾癖の皮疹は自己の角層成分の抗原性が露出するため
488
具志堅初男
表1
蛍光抗体法に使用した抗血清
F/P-ratio
ab mg/ml
1.05
1.95
/z IgA
1.6
1.34
Z/ IgM
1.1
1.22
// Clq
c omponent
1.5
1.68
抗 血 情
rabbit anti-human IgG
FITC標識
抗血清
FITC標識
二次抗血清
z/ C3c //
goat anti-rabbity-globulin (Fab
1.05
//
/7
|
1.91 i
/y
1.24
Hyland
1.1
1.91
1.0
Behring Inst.
Behring Inst.
goat anti-humanC5 component
1.0
rabbit anti-human properdin
1.0
非標識一次
抗血清
/7
1.6
fraction of IgG)
rabbit anti・goat 7-globuh(Fab
fraction of lgG)
rabbit anti-humon C3a component
Behring Inst.
Konno
〃 glycine rich
Lab.
//
et al'"
77 1勧
β-glycoprotein(GBG)
1,0
goat anti・human S-component
1.85
Kobayashi2o)
rabbit anti-human joining chain (J-chain)
1.19
Kobayashi
et al"'
ab: Antibody contained in serum
に,自己抗体と反応することによって生ずると述べて,
表2 抗血清の特異性の検討
乾癖は自己免疫性疾患であると主張している.一方Cormane15)は表皮基底細胞核に対する自己抗体の存在が
乾癖の発生に関与することを推定している.また乾癖皮
疹部鱗屑のleucotactic
Ig coated
formalized
tanned red
blood cells
fluorescent
I
■■S■■〃・・-・・■■■
一一一一一一一一
factor については,補体成分の
G
g
IgG
IgM
dimeric
SIgA
このように乾癖の発症について免疫反応の関与が病因
の重要な1つの因子としてあげられていることから,著
者は尋常性乾癖の早期疹である小丘疹と,完成された局
−
一
‥-一一
一
−
−
+
-
-
-一一
←
-
+:positive
の免疫反応の徴候をみるために血清中の免疫グロブリン
一:negative z/
+
−
-=-=
+
-
+
fluorescence lg: immunoglobulin
ate, 0.05M NaCl,
材料と方法
..S-→..
+
-
面疹における免疫現象の存在を確認するとともに,全身
および補体系の変動について検討した.
IgA
IgM
+
‥一一
C3aおよびC5aであるとされている16)
findings of anti-sera
pH
7・2)で洗浄して,上記の方法に
より切片を抗血清と反応させた.
1.蛍光抗体法による免疫組織学的検討
2)抗血清および反応方法
1)検査材料
a)直接法:fluorescein
尋常性乾癖患者の早期疹と考えられる帽針頭大から米
の抗血清は,できるだけ非特異反応を除くために,川村
粒大までの丘疹8例,および典型的な乾癖病巣と考えら
の方法1町こより等電荷にするとともに,
れる局面疹16例について生検を行なった対照として乾
以下に調節した.これらの抗血清と切片をmoist
癖患者2例の無疹部皮膚と非乾癖患者7例の正常皮膚
ber内で37°C,
を採取した.生検組織は凍結包埋し(包埋液はTissue,
し,封入液(グリセリン9に対してPBS
TEX
成)で封入して,蛍光顕微鏡(Olympus
H,
Lab-Tek
Products を使用),クリオスタット
励起フィルターDM
内で厚さ4∼6μの組織切片を作製,無蛍光スライドグ
ラス(蛍光顕微鏡用microこslide
glass,Matsunami
lnd・
LTD)上で乾燥させたのち,95%エタノールで10分間固
定しphosphate
buffered saline(PBS:
0.01M
phosph-
isothiocyanate
30分間反応させたのち,
400,
(FITC)標識
F/P
ratioを2.0
cham-
PBSで15分洗浄
I の割合で作
BH-RFL
吸収フ・1ルターL400,
type,
Uq)
下に観察した
b)間接法(S●ご・・:dwlch法)j補体系のalternate
wayの関与を検討するためにKonnoら18)1°’により調
path-
首鮮の免疫組織学的ならびに1推清免疫学的研究
図2 11ご疹の角川におけるlgAの沈着(65×卜
図1 j。Wlj疹の角丿巾こおけるlgAの沈着(65×).
整さ柚,伊方七受け八非標識anti-human
およびanti-human
glycine
脂9
properdin
(P)
rich β-i;lyr<protein (CBG)
て,それぞれの抗血清と反応させ仁 さらにし記の二次
抗血清と厦応させたのちに蛍光の特づぐ性を検討し七 七
rabbit血祐を使川し,またIμΛの性質を倹討するため
の反応性についてぽ長2に示した.
にK()ba)'ashiドレo尚により調整され,供yを受けた井
d
標識anti-humaiいccrctory
血祐およびariti-humati
compi ne“t
(S-componcnt)
joinins,'chain (J-chain)
goat
rabbit血
情の玉卜いTをPBSで1mg/m1に洲節して一一一次抗体とし
) Hematoxylin万一eo万s万in
(H-E)染色:蛍光抗体法ニ
よる観察を行なった㈲‥一組織切片のH-E染色により,
持説蛍光を示した部位を確認し七
2.患者の血清中の免疫グロブリンと補体
て使几レブユ.二柚らの抗副肖と緋織切片をmoist
cham-
49例の尋常性乾癖患者につトて免疫拡放法により血竹
b(ヽr内で37°C, 30分反らさせPBSで15分測洗浄し,さ
中のIgG,
らにこ次抗体としてFITC標識卯at
は45例につトてC3c
anti-rabbit 7一片1-
obuliト副卜およびFITC標識rabbit
antべoat
r-glob-
ulin)^
IgAおよびlgMを測定しレ抽休系につトて
C3-activator
(β,a│,c-globulin), C4
(/a^-glycoprotein
ulin血沁を,そ翁そ土対応するものに心接法と同様の方
(Tripartieen,
法で処理して観察し七 以卜の実験に使用した抗血清に
巾20例については,血清補体価をMayerの原法に準じ
一括して長いこ示した.
て測定し,CH5,であらわし友.体前面積に対する皮疹
c)反応の特異性の検討
M-partigcn,
Behring
(/3iE-glob-
H)を測定した
!nst. を使川).
の面積はレ熱傷患者の受傷部面積算定法として川しられ,
① 直後法における検討:blocking
test として,非標
る「9の法則」に準じて算定した.
識抗血清を組織切片と反足トさせたのちに□TC標識抗
成 績
血清を反応させた.ま七 absorption
1.蛍光抗体法による免疫組織学的所見
test はFITC標
識抗血詐に多量の乾癖皮疹の鱗屑を加えて,4
°C,
24時
1)表皮角層部における所見
即静置後にド過して得た血活か組織切片と反応させて観
乾柳の完成した岫面疹の組織では,角層部に免疫グロ
察Uヒ.
ブリン(IgG,
ロ 出]接法に仏寸る検討:二次抗血沁として使用し
たFITC標識goat
FITC;標識rabbit
IgΛにドよびigM)の沈杵による特界蛍
光が線状,破線状および穎粒状に認めら杵仁特に局面
anti-rabbit 7-globulin血清および
疹の厚い角層申のmicroabsressには,lgGおよびlgΛ
anti-goat r-dobulin血清のみを川い
による願粒状の強い沈者をみた(図1).
'l'-川疹の小汗
てそれ七れ組織切片と反応させて,非特異並光の有無を
疹組織にかトても回様に免疫ダロブリンの沈着が倒削ト
観察しレ七 またanti-human.
層部の・部に認められた(図2).
human
S-component
およびanti-
J-(バha
inにっいてば,抗[血漬の反応性をみるため
血球にIgCi,
dirneric igA,
IgMおよびsecretory
scrum
albumin
で,タンニレ酸臨出師か披ってス犬fトダ元八に固定し
IgGによる線状,破
線状の蛍光部にを拡大L.てみる仁 二言らは角㈹肝と浸
に,タンニン醍処理を・したホ.心しイ1ブン固定ヒlヽO型赤
(SlgA)を吸着尚させbovine
45例
潤細胞のようであるが(図3Aム ニの同一切片のH-E
IgA
(BSΛ)
染色標本では,角層問隙,役潤鉄胞および不全角化細胞
核であることが確認された.また穎粒状の蛍光部位は遊
走してきたと思われる細胞に一致してしけ二(図3
B),補
j90
共志望初男
・・啼回章
μに3Λ:j・.Wli疹の角川におけるlgGの沈着C
B:M 八丿ド)
H-E
270×).
万染色標本(270×).翔粒状の重光は浸潤糾帽(↑’)にー致し線状の蛍見回錯順化
細│川川に うりてトヘ
図JJ。yl而疹の角丿巾こおけるGBGの沈,杵(65×)
図6 川面疹におけるS-componentの沈着00×).
図5 川面疹の角川における ,トcliainの沈着
(汀OX卜
D-E junctionおよび臭皮乳頭の血止川川に蛍光を
入る.
491
乾癖の免疫組織学的ならびに血清免疫学的研究
表3 microabscessへの免疫グロブリソと補体
よず
sc
Clq
C3c
C3a
C5
P
GBG
帽
回
帽
言
朧
言
朧
恰
⊇
朧
言
IgA
IgG
IgM
Papule
品ク
Plaque
言
恰
営
(趾
ヅ
GBs: globulins
(%)
旋
プ
恰
P: properdin
mg/lOOml
mg/lOOml
・・
mg/lOOml
mg/lOOml
60
500
・ ・
9●︸・・e∼
30
一--一一一一
t . \..\l
1
i^:ii︱i :
正常域を二二二で示す
’‘-・sr”
●●
●丿・
●
−−I〃W〃−
ム
"M-≫-i︷. ・・■
100
-〃--㎜皿㎜
i:
半
・
1
`で"
一
300
●●
-- 一一
k
●
正常域を
二ここで示す
‡゜
S
--r―
C3-activator C4 CHso
冨
゜:゜
ニ●●加ミミ
図8 患者血清中の補体
IgG IgA IgM
認められるにすぎなかった.一方S-componentは早期
図7 患者血清中の免疫グロブリン
疹と局面疹のいずれにおいても,
D-E junctionおよび真
皮乳頭の毛細血管周囲に線状,および漏出状に認めら
体成分の沈着も同様の蛍光所見として,局面疹および丘
れ,局面疹ではD-E
疹の組織において認められた(図4).角層部のlgAの
を示した(図6).
junction に沿って,特に強い蛍光
性質を検討するためにS-componentおよびJ-chainの
乾癖患者の無疹部皮膚組織および正常皮膚組織では,
存在を確めたが,両者ともmicroabscessの部に特異蛍
免疫グロプリソと補体成分は検出されなかった.しかし
光を認めた(図5).
S-componentは正常皮膚組織7例中2例にD-E
junction
観察を行なった全例の成績を表3にまとめた.免疫
における微量な沈着として認められた.
グロプリソは早期疹および局面疹の両者においてIgG,
2.患者血清中の免疫グロブリンと補体
lgAが高率に検出され,
患者血清中の免疫グロブリンおよび補体成分について
補体系では早期疹でC3c,
IgMも約半数に認められた.
C3a, C5,PおよびGBGが
高率に認められ,局面疹においてもv>OCj
率に検出された.
Vh'O3^C5 が高
GBGは全例に認められたが,Pは早
測定した成績を図7,図8に示した.測定値をmean土
S.D.で表わすとlgGは1,268±281ing/100ml,
IgAは
265±117mg/100inl, IgMは129±55mg/100ml
(男),お
期疹では8例中7例(88%),局面疹では約半数例(57
よび115±55mg/100ml
%)に認められた.また,
た成人男女における正常域と比較してみると,患者血清
Clqの検出は早期疹および局
中のlgGは低値を示す例が16例(32%),lgAでは高
面疹のいずれにおいても約半数例にみられたレ
21)表皮真皮結合部derxno・epidermal
(女)であった.破線で示され
junction:
値を示す例がII例(22%)あったが,
IgM
は特徴を示
D-E junctionの部に.は免疫グロブリンおよび補体成分の
さなかった.したがって,
存在はほとんどみられず,真皮乳頭の拡張した毛細血管
意に低下(p<0.05)しており,
IgGは正常対照に比べて有
周囲と浸潤細胞の一部にlgGおよびlgMがわずかに
はないがlgAは高い傾向を示している.補体系では,
IgA, IgMには有意差
492
具志堅初男
(mean土SD)
表4 皮疹の拡がりと血清免疫グロブリンおよび補体
area of
lesions
(%)
IgG
IgM (mg/lOOral)
(mg/lOOml) IgA
(mg/lOOml) M F
C3 C4
C3c
activator
(mg/lOOml) (mg/lOOml) ,(mg/100ml)
5>
1210土206
(n = 19)
239土n7
(n=19)
127士61
(n=14)
∼10
1511士303
(n=
7)
327土99
(n=7)
134土37
(n= 6)
∼20
1380土275
(n=
9)
230士66
(n=9)
129士51
(n=7)
140士64
(n= 5)
142±0
(n= 1)
213土1
(n= 2)
20<
1174士242
(n = 10)
301土16
(n=10)
104士32
(n=8)
159土51
(n=2)
92土20
(n=9)
249土82
121士39
197土45
82
(55∼120)
normal
control
1439士284
M: male
F:
65士23
(n=20)
72土23
(n= 7)
81士19
(n=9)
17土4
(n=20)
36士12
(n=20)
17土6
(n=7)
21士5
(n= 9)
22士5
(n= 9)
37士22
(n=7)
18
(12∼30)
CH.0
(unit/ml)
38士4
(n=7)
41土2
(n= 3)
39土13
(n= 4)
41士6
(n= 6)
43士14
(n=9)
46土15
(n= 9)
30
(20∼50)
(30∼40)
female
croabscessの部に,
IgGおよびlgAが高率に検出され,
lgMも約半数例に認められた.補体系ではClq,
C3a,
C5, P, GBG
の沈着を認めたが,
C3c,
Clqの検出率は
︵一E‰∼︶個個豚泄早
比較的低かった.一方,Pは特に早期疹において高率に
検出された.これらの免疫グロブリンおよび補体成分は
いずれも角層部に線状,破線状および穎粒状の沈着とし
て示され,同一切片についてH-E染色を行たって対比
すると,線状,破線状の沈着部は角層間隙および不全
角化細胞核に一致し,穎粒状の沈着部はmicroabscessに
一致していた.
乾癖患者の皮疹における免疫グl=・プリンおよび補体成
図9 補体測定値と乾癖皮疹面積の相関
C3cは71±24mg/100ml,
分の存在については,乾癖鱗屑の抽出液中にこれらがみ
られ10)11)また蛍光抗体法による検索でも指摘されて,
C3-ativatorは18±5mg/100ml,
自己の角層を抗原とする免疫反応に関与すると推定され
C4は38±14mg/100mlで,CH5,は41±7unit/mlであっ
た.CH5oは比較的高値を示したが,
例(38%)が低値を示しており,
ている12) -U)すなわち正常人の流血中には自己の角層
C3cでは40例中15
に対する抗体が存在する23)が,健常皮膚では角層はこれ
C3-activator,および
と反応することはない.他方,乾癖患者ではKobner現
C4はほぼ正常域にあった.推計学的にはいずれも有意
性はないがC3cは低下傾向を示している.
象にみられるように,なんらかの外的因子により角層抗
乾癖患者血清免疫グロブリンおよび補体の変動と,体
原が露出され,自己免疫反応が起こる23〉24)と推論されて
表面積に対する乾癖皮疹面積の比率との相関の検討成績
いる.さらにこの反応により補体が活性化され,補体由
は表4のごとくである.すなわち,免疫グgプリンでは
来のchemotactic
特徴を認めないが,補体系ではC3c
してMuii
F.6)とC3-activator
(F = 3.23>2.84
(F = 3.01>2.84
= F,5)は,皮疹
=
「s
factor がleucocyte
migrationを起こ
microabsceesが形成される16)というので
ある.また補体の活性化については,
の面積と補体値群間に有意の関連を示し,皮疹面積が大
疹部におけるfibrin,
fibrinogen,
Kohdaら25)は皮
plasminogenの存在か
きくなるほど高値を示している.C4については,皮疹
ら線溶系反応の関与によることも推定している.
面積と補体値群間には有意の関連はない(F=1.07<
乾癖初期疹の組織学的変化についてはBraun-Falco
2.84=F,,)が,
ら26)はdelayed
C3c,
C3-activator
と同様に皮疹面積の
type
allergic reactionに類似すると述べ
広がりにつれて高値を示す傾向がある(図9).
ているが,初期疹出現の免疫学的機序については,前述
総括ならびに考按
したJablonskaら24)の角層抗原の露出論や,Cormane15)
蛍光抗体法による検索では,乾癖の早期疹と考えられ
が述べるように,末梢血のleucocyteから遊離した自己
る小丘疹および典型疹である局面疹の角層におけるmi-
の基底細胞核に対する抗体と基底細胞との自己免疫反応
493
乾麿の免疫組織学的ならびに血清免疫学的研究
が初期変化であるとする説がある,一方,
Kimuraらs7)
反応による炎症の拡大に伴なって,全血清成分の浸出,
は,皮疹部の免疫グl=1プリンおよび補体成分は血清成分
fibrinの析出s7)などの様々な反応が加味されてくるもの
が炎症によって角層部へ漏出したものとして,免疫反応
と思われる.
の関与については否定的な見解を述べている.
このように乾癖患者においては,皮疹部局所における
著者の検査成績から角層へのleucocytic
migrationに
免疫現象の関与が推定されるが,次に全身反応としての
ついて考察すると,乾癖皮疹の角層部において細胞間隙
流血中における血清免疫学的変化について考察を加えて
および浸潤細胞にIgG,
みたい.患者血清中の免疫グロプリソについては,これ
ClqとC3が認められたこと
は,補体のclassic pathway の反応の関与を推定させる.
までlgGおよびlgMの値は不定であり,
しかし,
を示すとの報告が多い31)″S3)著者の検査成績ではIgG
IgA, P,GBG
の存在はalternate pathway の
IgAは高値
関与をも示唆しており,これらの両者の反応に基づく補
は低値傾向を示し,
体由来のleucotaxisがmicroabscessの形成に重要な役
をみなかった.一方lgAは推計学的には正常域値と比
割を演じていると思われる.早期疹と完成された局面疹
べて有意差はなかったが,高値を示す傾向にあった.補
における免疫蛍光所見を比較すると,著明な相違点はな
体系に関しても正常域値との比較では有意差は認められ
いが,Pについては局面疹におけるよりも早期疹におい
なかったが,CH5,はやや高く,
て高率に検出されている.このことは早期疹において特
傾向にあり,C3・activatorおよびC4には変化がなかっ
にaltermate
た.体表面積に対して皮疹の占める面積との関係では,
pathwayの反応が関与することを推定させ
るのであるalternate
pathway の反応については,
IgA
IgMは男女いずれに.おいても変化
C3cはやや低値を示す
免疫グロプリンでは相関はなかったが,補体系では皮疹
をはじめとする反応によって活性化され得ることが知ら
面積と補体値との間に相関がみられ,広範囲の皮疹を有
れている2S)29)そこで,乾癖皮疹部にみられたlgAの
する患者では高値を示す傾向があった.いずれも正常補
性質を検討するためにS-componentおよびJ-chainの
休域値内ではあったが,このことも乾癖の病態に免疫現
関与について検索した結果,角層のlgA沈着部には,
象が関与していることを示唆するもののように思われ
早期疹と局面疹のいずれにおいてもS-componentおよ
る.
びJ-chainが認められた.さらにS・componentに関し
以上の成績から,著者は,乾癖皮疹における免疫反応
てはD-E
に, IgGのほかにlgAとSIgAの関与を推定した.乾
junction に線状の蛍光が認められ,さらに
真皮乳頭の毛細血管周囲に漏出したような所見が認めら
癖患者の血清中のlgA値は商い傾向にあり,また分泌
れた.これらのことは,乾癖皮疹部に存在するlgAが
液中のlgAの高値も報告されている35)-37)これらのこ
SIgAである可能性を示唆している.したがって,角層
とは乾癖の病態にlgAおよびSIgAの関与が重要な役
部へのSIgAの出現は,腸管粘膜層におけるSIgAが
割を演じていることを示唆しているものと考えられる.
粘膜上皮細胞を自由に通過し得る現象3o)と同様に,乾癖
また補体系に関しては皮疹部にはalternate
皮疹においても真皮のlgA産生細胞あるいは流血中か
よびclassical
らのdimeric
lgAがD-E
junctionに出現したS-com-
ponentと結合して表皮細胞層を上昇してきたものと推
定される.このような観点から乾癖の初期病変を考える
と,角層内の抗原,あるいは表皮内に外部から進入した
抗原に対して,
SIgAがもっとも早く反応し得る抗体で
あり,この反応に引き続いてBeutner,
Jablonska ら12)
pathway
pathwayお
の両者の反応の存在が推定され
た.
本論文の要旨は,第14回補体シンポジウム(昭和52年
10月7日),第77回日本皮膚科学会総会(昭和53年5月21
日)において発表した.
稿を終わるにあたり,懇切な御指導,御校閲を賜わっ
た三浦肱晶教授,金子史男助教授に深謝いたします.さ
″li)
"i)の述べるようなlgGを中心とする抗角層抗体との
らに,貴重な抗血清を提供して下さった今野孝彦,小林
反応が惹起されるものと推定される.またこれらの免疫
邦彦両博士(北大第一生化学)に謝意を表します.
文
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