ー はじめに 本学会の目的及び活動は, その会則 - 日本看護研究学会

◆会 長 講 演◆
学 際 的研 究 へ の志 向
前
原
澄
子
じめ に
の
本学会 目的及 び活動 は, そ の 会 則 に よ る と,
するためには突込んで細分化し分析する必要性が生じ
「広 く看護学 の研究者を組織 し,看 護学 の教育,研 究
す ことにな りかね ない性質 ももっている。 この時 に思
及び実践 の進歩発展 に寄与 す る ことを 目的 と し次 の
考を変えて問題をみつめ直す ことによって,問 題解決
活動 を行 う:云 々」 とあ る。 類 似 した 目的を もって
への手段 につながってゆ くことがある。 いろい ろな事
組織 された看護学 関係 の学 会 は他 に もい くつ かあ る
象が,多 様化 し複雑化 している現代社会にお いて,他
I は
て くる。 しか し,細 分化が進み過 ぎると不都合 を来 た
が,そ れ らの学会 との比 較 にお いて,本 学会 の特質
は何であろうか。最 も特質 とす ると ころは11他 の学
会が職種を限定 し入会資格 を与 えてい るのに対 し,
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本学会 は入会の門戸 を広 く開 けて,多 くの分野 の職
ある。
種 に亘 って組織 しよ うとす るところにある。
本学会総会 の各回 にお ける出題演題 をみ ると, 医
まず,学 際的研究 という語 について確認 しておかね
ばな らない。 とい うのは,学 際的 とい う語 が,す べて
学,工 学,化 学,心 理学,教 育学,社 会学等 の研究
の人 に同一 に理解 され るとは限 らないか らで あ る。
者 との共 同研究 であ った り,‐それ ら学問分野 の独特
「
学際的研究 は,今 日の段階ではまだ発酵 して いない
の研究方法を用 いて の研究 で あ る ものが 目立 つ 。非
ヮイ ンであって,そ の味 も香 りもまだ批判す ることは
常 に複雑 な生物的,社 会的,文 化的存在 としての人
できない。」 と評 した学者 もいる程 に新 しい考え方で
間を,同 じように複雑 な人 間 との相 互作用 によ って
ある。その語 の解釈 に も,い ろいろの立場 があるよう
展開 され る着護を探 究す る看護 学 にお いて は,従 来
である。
の研究 の方向性 に加 え,次 元 の異 な る思 考 の 回路 に
月並 みであるが辞典をひいてみた。広辞宛 の昭和51
おいて問題 をみつ めなお す ことが迫 ま られて いる と
学際」 の語 は集録 されてお らず,53年 の
年 の版 には 「
考 え る。それが学際的研 究 の必要性 であ り,広 く各
版 に 「い くつかの異 なる学 問分野 がかかわ るさま」 と
分野 の研究者 に入会 の門戸 を広 げて い る本 学 会 の使
命 と考え,学 際的研究 へ の志 向を本講 の テ ー マ と し
あ った。
た。
、
今 日の学問 の進歩 に伴 って,一 専 門領域 が ます ま
す細分化 され,専 門家 で あ る とい う ことは, よ り細
分化 された領域 にお ける研究者 であ ることが 条件 で
1
Websterに は, “ interdisciplinary"の
語 は,
“iivolving Or ioinin」
tWo 6r mOle disciplines
or branches of learning" と
あ らた。
また, ピ アジェの著 した 「
諸科学 と心理学」 を訳 さ
れた芳賀 は,そ の訳書 において訳者 の注釈を付 し,そ
あるというよ うな傾 向 が多 くの学 問分野 でみ られて
こに interdisciplinary scienceを隋
い る:広 い学問を身 につ けて い る人 を,専 門 がない
「
諸科学 の接点 に生 じる新 しい科学 あ分野 を指す 。 」
とか広す ぎるとか い って軽 べ つ す る傾 向 きえみ られ
と説明 している。
る。
科学 の対象 は,そ れが無機物 であれ有機物 であれ
現在の学際的研究を論ずるものを見聞してみると,
1つの学問分野の研究に他分野の方法を使用すること
複雑 な姿 を もった綜合物 である。人間 にいた って は,
その身体,'心:行 動すべてが複雑 で, これ らを理解
とか,学 問間の境界があいまいである新 しい知見に対
て,今 日的視点で体系化を図る, というように解釈も
日本看護研究学会雑誌 Vol.10 No.4
と訳され
学 術 的 研 究 へ の志 向
別名対角線的学際性とも呼ばれる,デ ィ
ン
で;11つの
されている。
私 は,学 際的研究を異なる学問分野がかかわ って研
究 し,新 しい科学 を生 み出す ことであると解釈 し, こ
の論 をす ゝめたいと思 う。
専門分野 が共通 の分析的方法 としてある場合 であって,
1鶏
1削 よ
乱ispllnarl
に響
∬
量
置
涯
これ までにも,複 数分野 の統合 によって,新 しい形
へ学問が誕生 した例 はい くつ もある。例えば,物 理化
学,分 子生物学,生 命科学 などである。また,私 らの
分野 に近 い行動科学 もその 1例 で ある。形態的にみた
学際研究 の種類 を,中 村の著書 よ り引用 し紹介す る。
で開かれた科学 の統下 に関
これは1978年にボス ト1ン
す る国際会議 で, コロンビア大学 のボ レロ教授が説明
したものである。
│
disciplinarity
(1)多 様的学際性 multi―
目的論 あるいは規範的学際性 と呼 ばれるモ デ ルで あ
る6共 通 の 目的 に対 して,各 専門分野 の 1部 で協力 す
るものである6ど の専門 も主導的役割 はもたないので,
制約的学際性 ともいっている。 しか し,各 専 門 は目的
達成 に全 力をあげることが求め られ,そ れ は定性的 な
ものではな く,定 量的 な貢献 で あ らねばな らない。
(0 方 法論的学際性 methOdologica(interdisCipl‐
inarity
平行的あるいは無差別的 な学際性 ともいわれ,.各専
門 の単純な並列型 で ある。大学 の学部 の羅列 のよ うな
ものであ って,相 互作用は少 ないと説明されている。
isciplinarity
( 2 ) l l数的学際性
●
p l u r id―
1つ の専門分野 が,他 の専門分野 を支 え て い る形 で
あ る。教育学 が精神測定学 の力 を借 りるよ うな もの と
説明 されて い る。
(6) 市
己冑守全
祭ttt
有天
芦ル
narity
l
supplemental interdiscipli―
.
1つ の主導的 な専門分野 があ り,他 はそれを取 り囲
んで存在 し,そ れぞれの立場でなにが しの寄与をす る
もので ある。
disciplinarity
6)横 断的学際性 trans―
線形あ るいはクロス学際性 ともいわれるモ デルで あ
る。Dの 法則 Lが ,Dに
用 い られ Lと い う新 しい法
則 をつ くるのに役立 つ ことで丁度,言 語学 と心理学が
言語 。心理学の分野で協力す るよ うなもの と説明 して
い る。
仔)同 形的学際性
isornorphic interdisciplinarity
一
統 学的学際性 ともよばれるモデルで,生 物学 と物
日本看護研究学会雑誌 Vol.10 No 4 1988
学`術的研 究全 の毒向
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与 してゆ くものである。その学問間 の関係 について,
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心響学者のピアジェは,1966Tに ,不 フアで開かれ
た第18回の国際心理学会 において :「
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賀が英語版より訳│じ
諸科学牛心理学」とし 著
議演を
いる。 ,
依頼され:心 理学が数学│こ
ざ しが
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専献 し得る時代の青‐
ピ│アジェは,個 別科学分野 と心理学がどのように隣
接科学 として協力 して き■か,及 び今後 し得るかを示
し,学 際的研究ヽの 1つ の示唆を与えている。彼 は;
心理学 と諸科学の関係を次のよ うに云 つている。即ち
D心理学の未来 は非常に興味深 いが予断 を許 さなぃ心
理学それ自体の発展 に依存 している。それはまた,心
は逆に心理
理学が他の科学から利益を受けたり,ま:た
学 がそれ らに利益を与えた りす るという隣接科学上 の
みえてぃることを云ってぃる。
学にゃ│ナ
,数
ぅ董構■の
特隼 │そ の形成?問 題各 心翠学 は│● ら概 魯 の発牛
と発澤の研究を導し数学に寄与で吉ることを詳明し,‐
│れからの峰力体割に明うい見押し,のがていう。
争学問間と心理学?協力をのべて,科学の体不にお
ける心翠学の位置を次のように云っている。数学は,
自然科学と人来科学の中間に,技術は自然科学│1社
会
科学の間に位置する。
関係 のすべてに依存 して いる。」 と。 数 学者 と生物
ピアジ上の諸科学 の関係
学者,物 理学者 と化学者,生 物学者 と化学者 の協力 に
よって,新 しい学問 の発展 をみているのに対 し,心 理
│
学
︱︱ 理
心
自然科学
学者 はまだそのような形 での協力の影響 を受 けるまで
には到 ちていない。社会科学,人 文科学 が 自然科学 と
異 なって,隣 接科学問 の交流 がみ られない ことを嘆い
ている。心理学者 が言語学,経 済学 について知 らな く 社会科学
人文科学
て もよいとい うことは重大 な誤解であ り,言 語学,経
済学側 の心理学 に対 す る無関心 を批判 している。そ し
て これか らは,心 理学 と隣接科学 の協力 のあり方を心
諸科学っす0て に押写 関係 を も?も ,のと │
心理学 1す
て中心 に位置を占めている。そ して, ピア ジェの主張
理学 と数学,心 理学 と物理学,心 理学 と生物学,心 理
は, 自然科学 の場合 は,個 別 の間に階層的な関係があっ
学 と社会学,心 理学 と言語学,心 理学 と経済学,心 理
学 と論理学 に亘 ってのべている。 この中か ら心理学 と
て相互関係 が発見 しやすい。 したが って, 自然科学 の
数学 について参考 に したい。
学 や人文科学の分野では自然科学 にみ られ るよ うな階
内部では学際的 な協力が しやすいと考えると。社会科
心理学 は,数 学 か ら何で も得 ようとして きた。当然
層化 は困難 であると認めなが らも,研 究課題 や研究方
の こととして,心 理学における統計 の計算 や検定の方
法 の共通性 を考察す るな らば,協 力 は可能 で あ るとみ
法を数学 に求 めた り,確 率を捉 えよ うとして いる。ま
てよい。
た,心 理学 における空間知覚 の実験結果を数学 におけ
さらに,社 会科学 と人文科学相互間 で も突 きつめて
日本看護研究学会雑誌 Vol.10 N94
1988
.べ
学 術 的 研 究 の志 向
いれば必ず人間がからんでくるもしたがちで1社会科
人文科学をまとおそ人間料学とⅢぶ場答も出てく
学1と
僣どに協働可者
が大書いとみそt`
る。‐ │
な
J柱
あきラジュあ議演ふらあ年経らた現在におい
1966年
て,Iさ
理学は料学としをより確がな位置を占めるよう
にならだ:tおよら轟 撃の学ぶところは多く
,また
といつているが,こ れか らも学際的研究 に看護学 の研
究の将来をかけるならば,概 念枠組の明確化 を大切 に
してゆかねばならない。フレーム ・ワークが,研 究 の
オ リジナ リティを決定することになるか らである。
'ご
た
述:べ
従来あ看護学の研究における撃際性由 :'先
方法論的学際性,即 ち1つの専門分野が他の専門分野
.貝
看護学たも学際的研究べあ勇気が与えられる:しかし: を支えZ形 ● またI補 足的学際性:即 ち 1つ あ法 1か
らくるというのに該
その第1め条梓は,着護撃ぶ力を存分に異輝をきるこ 他あ分野面 いられ新しtヽ
法lllを
‐
t
で
とであることもこゝから学んだ。
当する
あろう
│
6
・
以上のような撃際的研究のおら芳:心 理学 におけ乞
学際的研究の発達あ歴史をみそ, これか らの着護学研
究あ姿勢を考えてみたいと思 うも
' 1
まず,他 領域における理論を学際的に利用して研究
を遂行することは,看 護学の研究でよく存われてt`
る
ことである。研究 の能率 をあげ,効 果をあげるために
決 して悪 いことではない6広 い視野 に立 って他領域 を
理解す ることは,問 題解決べつなが るものであること
は,冒 頭 にも述 人 たとらりである:し か しこの場合,
絶対 に回避 しなければな らな い大 きな危険性がある。
1つ の理論 を研究 において用 いる場合 には,そ の理論
を しっか りと理解 していることが前提 であることはい
うまで もないことである6学 際的研究 の場合,他 領域
の理論を十分 に理解 しないで:単 に目的的若角性 のみ
によって用 い ることは,許 されるべ きことではな く学
際的研究 とは云 えない。 これをあえてい うな らば,集
学的 と云えるだろ うか。看護学 の研究 において,他 領
域 の理論 を利用す るとい うよ りは,他 領域 の研究 が看
そこで, もう1点私らが志向しなければならないご
とがある。複数的学際性即ち, 1つ の主導的な、
専門分
野があり,そ れを取り曲んで存在しそれをれあ立場で
何らかの寄与をするという方法において'ま
「他の学問
と同等あ立場において着護学が寄与:し
なければならな
い。また:積合的撃際性あように共通の目的に対して'
他分野と同等に看護学の立場で協力することをしなげ
ればならない:ま たは:向形的学際性は生物撃「物理
学,化学あ協力によって生物物理学か誕生したや功41
他分野と協力して新しい学問を誕生させる看護学の働
r .(1 1
きがなければならない3
■
1966年
には,薮学に責献そきる査格がなt、
とt、
ゎれ
た心理学が,そ の後の26年余で諸科学蘭にぉぃで確箇
とした位置を築き上げた努力を学び1看譲学の位置を
明確にすることに挑戦したいと考える:● ‐ ‐
自らの研究生活の反省から,1今後正すべき姿勢を自'
・
めてみたものである。
分に芸い聞かせる意味でま1と
護学 の対象を利用 していると感 じさせ られるもの も時
参 考ヽ
文献
に目にす る。 これ を回避す るためには,用 いる理論 を
1)芳 賀純訳 :「諸科学 と心理学」評論社 昭 45
十分 に理解す ることと,最 も大切 なことは,そ の研究
における概念枠組 の明確化 であろ う。看護学 プ ロパ ー
2)中村信夫 :│「
学際研究のすすめ」048-51 善
の研究方法があるかど うか ということは,大 変難 しい
3)内 海滉 :看護研究 における概念枠組 の重要性,
問題 である。内海 は,.看護学 は本質的に学際的 である
本社 昭 60 ‐
│
‐
-4, p2-8,1986 ‐
看護研究 19・
日本 看護 研究学会雑誌 Vol.10 N6.4
・
‐
│
キ