緊急提言 - 日中経済協会

緊急提言
日中友好の大局に立ち不正常な事態の早期打開を
2012 年 11 月 1 日
21 世紀日中関係展望委員会
(日中経済協会の諮問機関)
21 世紀日中関係展望委員会は、本年 9 月初旬、国交正常化 40 周年を迎えて日
中両国が目指すべき指針として「世界に貢献する新たな日中関係の構築―日中
韓 FTA の早期成立と戦略的互恵関係の深化―」と題する提言書を発表した。そ
の中で我々は、
「日中両国は、相互依存関係の深化に伴い時として摩擦も生起す
るが、今後はより一層成熟した相互理解の基盤をつくり、世界から信頼される
日中関係を構築することが肝要」であることを強調した。
しかしながら、提言発表後、この記念すべき年であるにもかかわらず、尖閣
諸島をめぐる外交上の問題が発生し、日中関係はかつてない厳しい困難に直面
するに至っている。
当委員会は、今日の事態を深刻に受け止め、日中友好の大局に立ち、事態の
早急な改善を図るべきであるとの立場から、日中両国政府をはじめとする関係
者に対し、緊急提言を行うものである。
1.現状認識;相互不利益への懸念
日中経済協力は、国交正常化以来、相互依存と相互補完関係を基調に、とり
わけ中国の改革・開放政策以降、目覚しい進展を遂げてきた。これは、日中両
国の先人たちが、日中友好関係確立のために、営々と努力を積み重ねてきた偉
大な成果と言えるものである。
今日では、中国における日系企業の生産、物流、販売、サービス等の現場で
は、1000 万人を超える中国人と多数の日本人が、日々力を合わせ、協力して仕
事を行い、日中両国の経済発展を支えている。
しかしながら、現下の厳しい日中関係の中で、日中経済協会が会員に対して
行った調査によれば、半数以上が、9 月中旬に起きたデモによる破壊などの被害
に加え、不買、契約のキャンセル・延期、通関手続・許認可の遅延などの問題
を抱えていることが明らかとなった。
こうした不正常な状態が長期化する場合、日中双方の経済に大きな影響を及
ぼす。すなわち、日本企業の対中ビジネスが大きな影響を受けると同時に、生
産や販売の減少に伴い、中国側においても、パートナー企業の経営が悪化し、
中国人の雇用の減少や取引先中国企業からの部品、素材の調達等の縮小が懸念
される。
さらに我々は、両国国民が相互不信に陥り、お互いに対する感情を悪化させ
ることになれば、これまで日中両国の先人たちが営々として積み上げてきた共
同発展の協力関係が、大きく後退することを危惧するものである。
2.提言
(1) 日中友好の大局に立った早期の事態収束に向けての外交努力
日中両国政府は、尖閣諸島をめぐる外交上の問題について、日中共同声明及
び日中平和友好条約に則り、日中友好の大局に立って、両国政治指導者間の信
頼関係の再構築と外交当局の粘り強い意思疎通により、早急な事態の収束に向
け努力を重ねるべきである。
(2) 経済関係の速やかな正常化
日中経済協力は、永年にわたる日中友好互恵関係の中核を成すものである。
日中両国にとって不利益をもたらしている現下の不正常な経済関係を、速やか
に正常な関係に戻すことが喫緊の課題である。
これは日本のみならず、中国にとっても、今、まさに必要とされるものであ
る。さらには、世界第 2、第 3 の経済大国が協調的発展を遂げることを通じて、
アジア、ひいては世界の経済発展にも寄与するものである。
(3) 戦略的互恵関係の創造的な発展
日中両国は、現下の困難を克服するにとどまらず、戦略的互恵関係の創造的
な発展に向け、協力を強めていくべきである。
日中韓 FTA は、戦略的互恵関係の基盤となるものであり、その早期締結に向
け政府間交渉を加速する必要がある。
日中両国が、エネルギー・環境、技術革新、高齢化社会、都市化、国際金融
システム等について、英知を結集して協力し、解決の方途を提示していくこと
ができれば、世界の持続的成長に大きく貢献するものである。
(4) 強固な相互信頼の再構築
今回の事態が、日中友好・協力の推進に尽力してきた方々をはじめ、両国国
民に与えた心理的な影響には甚大なものがある。
両国の官民関係者は、長い友好の歴史を回顧し、その重みについての認識を
共有しながら、青少年を始め国民各層・各分野の交流を再開・深化し、相互理
解と信頼をより強固なものとするよう、早急に取組むべきである。
3.おわりに
(1) 我々は、日中関係の現状を深く憂慮するものである。両国政府をはじめと
する関係者が、提言の早急な実現を図り、
「求同存異」の基本的な考えにより友
好・交流の進展に努力し、日中関係が次の 40 年に向けて明るい展望を拓くもの
となるよう、強く期待する。
(2) 我々は、延期、または中止となっている日中間の交流活動の再開に向け、
日中経済協会が積極的な努力を払うよう促したい。
特に、1975 年以降毎年派遣している協会の訪中代表団が、本年は延期を余儀
なくされた。訪中代表団は日中友好、協働の象徴であるので、協会は、状況の
推移を見つつ早期にこれを派遣し、交流再開の契機とすべきである。そして、
国家指導者との会見や関係政府機関との意見交換を通じて、世界を視野に入れ
た WIN-WIN の協力関係の道筋を再確認する必要がある。
21 世紀日中関係展望委員会名簿
委員長
委 員
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福川 伸次
池田 道雄
射手矢好雄
入山
幸
荻田
伍
梶原 謙治
兼好 克彦
関
志雄
北田 眞治
近藤 義雄
佐藤 嘉恭
塩田
誠
朱
建栄
高尾 剛正
高原 明生
戸矢 博道
中垣 喜彦
能仲 久嗣
八丁地 隆
藤野 文晤
古川 壽正
丸川 知雄
守村
卓
一般財団法人高度技術社会推進協会顧問(元通商産業事務次官)
JX 日鉱日石エネルギー株式会社取締役副社長執行役員
森・濱田松本法律事務所弁護士、一橋大学特任教授
新日鐵住金株式会社常任顧問
アサヒグループホールディングス株式会社代表取締役会長兼 CEO
住友商事株式会社顧問
三井住友海上火災保険株式会社専務執行役員東アジア・インド本部長
株式会社野村資本市場研究所シニアフェロー
トヨタ自動車株式会社常務役員
近藤公認会計士事務所所長・公認会計士
財団法人国際協力推進協会理事長(元駐中国特命全権大使)
独立行政法人中小企業基盤整備機構副理事長
東洋学園大学人文学部教授
住友化学株式会社代表取締役副社長執行役員
東京大学大学院法学政治学研究科教授
全日本空輸株式会社顧問
電源開発株式会社相談役
株式会社東芝常任顧問
株式会社日立製作所取締役
藤野中国研究所所長
三井物産株式会社顧問
東京大学社会科学研究所教授
株式会社三菱東京 UFJ 銀行副頭取
(氏名五十音順)