いけだすすむ 氏名・(本籍) 池田進(兵庫県) 学位の'種類 理学博士 学位記番号 理博第509号 学位授与年月日 昭和52年3月25日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 研究科専攻 東北大学大学院理学研究科 (博士課程)物理学第二専攻 学位論文題目 論文審査委員 不均一系の臨界現象 (主査) 教授石川義和 目 文 論 第一章序論 第二章γFe50Mn5・の臨界現象 第三章非晶質Fe-P-Cの臨界現象 第四章計算機実験 第五章交流法比熱測定装置の改良 第六章考察 第七章まとめ 付録ミニコンプログラム 一66一 教授糟谷忠雄 助教授遠藤康夫 次 論文内容要旨 今日まで均一系での臨界現象の研究は多くなされ,多くの結果・研究が世に出ている。 均一系ではない系一不均一系での臨界現象は,どのようなものであろうか。我々はこの点を研 究すべく実験的に研究を開始した。 我々は実験的,経験的にランダム系では多くの場合(希にはない場合もある)転移点の"ぼや ノノ けがあることを知っている。そのぼやけが多くの不規則合金で見つけられたように,転移 点近傍の物理量の温度変化に強くあらわれるものと,Fe80P13(》,Co70B20Plo, Rb2Mn・,5Ni。,5Rのようにはっきりとした転移点が識別できるものもある。 び 我々は,このラγダム系の臨界点近傍でのぼやけが事故によるものではなく,何か必 然的な,ランダム系にひきおこされる現象として理解されるべきものであると考えた。つまり, ランダム系で起こされる臨界点のぼやけが均一系の臨界現象と異る特徴であると考えた。こ の問題を研究するために,混晶,非晶質合金,不規則合金である遍歴型反強磁性体γFelo。噛 ノ Mn毘における磁気相転移を研究することによって,転移点Tc(Curle点叉はNeel点P)分 布の強さの系統的な変化を研究することにした。 この研究は,今まで研究されてきたランダム系の臨界現象の研究とは異った面から,その本質 をつこうとするものである。γFeloo璃Mn拓の臨界現象は次のような特徴をもっている。そ の特徴とは,磁化率のピークが出現する温度,電気低抗σ)異常,熱起電力の異常が起こる温度TN と比熱がピークとなる温度が異ることである。 また,その報告の中でγFelooッMn応のFeの濃度が高くなるにつれて,比熱のピークが 順次平らになってくることが示された。この異常な現象を遍歴電子反強磁性体の特徴として,見 る時代もあった。 我々は,このチェックをするために,典型的な遍歴電子型反強磁性体であるCrについて,中 性子回折法による部分磁化の測定と電気抵抗の温度変化の測定を同時に行うことによってチェッ クすることにした。その結果,γFe5。Mn50で見られたような異常はCrで見られず,この異 常がもっと他の原因によるものであることが結論された。 我々は,もう一つの原因として考えられる考え方を考えつき,それにもとづいて解析を行った。 それは,転移点の分布であった。この考え方を導入することによって,γFe50Mn.50の臨界 現象の異常をうまく説明できたのである。 つまりβが0.55となること,比熱のピークがTNからずれること等が合理的に説明できたの である。 この考え方,つまり転移点の分布がどこまで一般性をもつのかどうか調べるために,非晶質合 金Fe-M-P-C{M=Cr,Ni,Mn}の臨界現象を研究した。特に諸種の物理量の中で臨界指 一67一 数の一番小さい比熱は,諸種の物理量の中で一番窺での発散力が弱い。それ故,比熱の研究を することが一番この研究に適しているだろうと考えた。その結果,比熱のもつ転移点の分布,つ まり比熱のピークのroundingは,Fe-M-P-CgMの濃度とともに系統的に変化するこ と,またMの種類によって異なることを示した。そして比熱の解析から求められたTcの分布の 強さは,磁化の温度変化の中にも同程度にあらわれた。 しかしながら,Fe-M-P-C,γFeMnの中での解析で仮定されたランダム性は,我々が どの程度ラγダムなのか知り得ないことである。したがってFe-M-P-C,γFeMnで起 こった諸種の現象が,ランダム系の特徴ある現象なのかわからない。それ故,ラγダム性の保証 された系での研究がぜひとも必要になってくるのであるが,実存はしない。我々は計算機の中に 完全なラγダム性をもった系をつくり,臨界現象の研究を行った。その研究の結果,ラγダム系 は本質的に転移点の分布をもち,系内の乱れの程度とその分布の強さは比例していることが分か った。そして二次元イジングスピン系ではあったが,相関関数が求められた。その研究の中で, ランダム系の相関距離が系内の乱れの強さの増大とともに,どんどん小さくなること,そしてTc で発散しないことが示され、た。相関距離ξmaxが存在することである。このξmaxは系内の 乱れに逆比例するようである。 これらの研究をまとめると,ランダム系の本質は相関距離の発散がないこと,ξmaxの存在で あろうと思われる。 もし,ξmaxが本質的に存在するならば,我々は全体の系をξmaxでかこまれる小さな系 のあつまりであると考えることができる・ つまりξmaxのmlni-systemそれぞれが固有のTcをもっているのである。 それ故にTcの分布が生じてくる。 今我々は,次のような仮定を置いた。 1.ξmaxの中でTcはきまる。 2.Tcはξmaxの中に含まれる原子の濃度比によってきまる。 このようにすることによって,ランダム系が表現するTcの分布の強さσTとξmaxの系の中 び で期待される濃度のゆらぎσcとの間には次のような関係があることが分かった。 σc一∬(100一∬)/n(∬) dTc(エ) Td∬c ひニ ここでエ(%)はilz均濃度であり,Tc(距)は平均的なTcである。またnはξmaxの中に 含まれる原子の総数である。 今,Tc(∬)が実験で求められ,σTがその解析から求められると,n@)が求まる。これから 一68一 n(κ)Tの原子が含まれるのに必要な系の半径Rcが求まる。 のの γFeMn,Fe-Mn-P-C,Fe-Cr-P-CでRcを求めた。それぞれ∼16A,∼80A の ∼120Aであった。一方,実験的にγFe50Mn50の場合の温度変化が求められていて, の ξmaxは160A以上という値を得ている。 試料が相析出をしているか,実験の解析がおかしいのか分からない。この意味からFe-MnP-C,Fe-Cr-P-Cの相関距離の研究が必要であるが,まだ研究していない。 Rcの程度は先に述べた通りである。もしもRcがξmaxと同じものであるとするならば,計 ⊥ 算機実験で研究されたように,濃度πとともに減少するはずである。今Rc∼A/瓢3(A:定 数)として解析する。σTは次のような形になると期待される。 一2一上 σT-A3諾2(…頑・禦 馨∬者雁dTc(π)一P(ω) dエ 丁 つまりσとP(露)は比例する。 比例するかどうかγFe-MnとFe-Mn-P-C,Fe-Cr-P-Cについて調べてみた。その 結果きれいな比例関係にあることが分かった。つまり,Tcをきめている領域は・ξmaxでかこま れた領域に等しいという可能性があるが,しかしFe-M-P-Cの相関距離の温度変化が求め られていない現在まだ決断はできない。 実験技術の点で我々は,交流法比熱測定装置の改良を行い,次のような特徴を出すにいたった。 1.絶対値測定可能 2.相対値の精度をあげる 3.ミニコンの導入によるオンライン 1.の絶対値の測定であるが,大体2∼3%の精度で測定可能にした。 2.では300Kから700Kまで温度変化を精度よく測定可能にした。 3.では,OKITAC-4300の導入によって,すべての補正を行い,温度(K)一比熱の形でXYレコーダーに直接示すことができるようにした。 以上,我々はランダム系の(不均一系)の臨界現象を今までとは別な観点からとらえようとし て,我々独自の解析を行った。しかし,まだこの研究は始まったばかりであり,種々の不合理性 を内に含んでいるかもしれない。 しかし,これからの不均一系の臨界現象の研究の基点になれば幸いである。 一69一 論文審査の結果の要旨 池田進提出の博士論文は,不秩序合金や非晶質合金に現われる臨界現象のぼけを比熱測定を中 心に研究し,この種の問題に対する1つの研究方法を確立し,かつその原因について1つの考え 方を提起したもめである。 研究は反強磁性無秩序合金γFeMnと非晶質強磁性合金(Fe-M)PCについてなされた。 まずγFeMnについては,種々の物理量を臨界温度近傍で精密に測定し,スタガード磁化率 ∬Q)が発散し,部分磁化が消失するネール温度TNより8度低温で比熱はピークを示し,かっ電気 抵抗,静的磁化率の温度微分が最大値を示すことを見出した。この現象は最初遍歴電子反強磁性 体の特徴とも考えられたが,純金属Cr,Tbの研究を通してこれを否定し,むしろ無秩序合金 の組成のゆらぎから生ずるネール温度の分布から,この現象が生じたことを実証した。更に,こ のネール温度の分布を統計分布をした組成のゆらぎで説明するためには,400個の原子で出来 じ た集団で,キュリー温度が定まると仮定しなければならない事も示した。 池田進は,この転移温度が不均一系では有限の大きさを持つ領域で定まるという仮定の物理的 根拠を得るために,冶金的にはより無秩序性が保証されている非晶質強磁性体の臨界現象の研究 を行った。この測定に先立ち研究の主幹となる比熱の精密測定のために,交流法比熱測定装置の 精密化を計画し,比熱測定装置のコンピューターオンライン化を実現し,かつ同方法の最大の欠 点である絶対値測定法を確立し,結果的には絶対値で数パーセント,温度変化で2パーセント程度 で比熱測定を可能ならしめた。 池田進は,この装置を用いてFePC非晶体にNi,Cr,Mnを加えた試料について比熱の精 密測定を行い,特に比熱の温度微分の温度変化と理論式を合わせる方法で,これら合金のキュリ ー温度分布を正確に求めることが出来た。また,この分布を用いて,自発磁化と磁化率の温度変 化も説明出来ることを示した。このようにして定めたキュリー温度の分布を統計的にランダムに 分布した組成のゆらぎに帰させるためには,キュリー温度が有限の大きさの領域で定まる事を仮 の 定しなければならず,そのようにして定められた領域の大きさは約100A程度であることもわ かった。 以上の結果に基づいて,キュリー温度が有限の大きさの領域で定まることの物理的原因を追究 し,まず転移温度のゆらぎが相互作用が及び領域内に生ずる組成のゆらぎによるのでない事が確認された。 現在1っの有力な可能性として,不均一系では相関距離は転移温度でも有限に止まり,この範囲 内の組成のゆらぎが,転移温度のゆらぎを引越すという事を考えている。しかし,一方この様な 転移温度のゆらぎが冶金学的に生じた巨視的組成分離によって生ずる可能性を否定することは出 来なかった。 池田進は,この問題を解決するために,2次元正方格子を持つイジング系(40×40)につ き,モンテカ・ル法で臨界現象の計算機実験を行い,この系については組成のめらぎによ って相関距離が短くなり,比熱のピークが幅を持つようになることを示した。この結果は,た父 ちに上記の3次元物質に適用することは出来ないが,考え方.の正しいことを示唆している。 以上,池田進は不均一系の臨界現象のぼけという物理的に扱い難い現象を研究し,その研究方 法を確立し,新しい考え方を提示した。これらの方法および考え方は,今後この種の研究の発展 に貢献するところ大と考えられる。このように,この研究は池田進が将来自立して研究活動を行 うに必要な高度の研究能力と学識を有している事を如実に示しており,よって池田進提出の論文 は理学博士の学位論文として合格と認める。 一70一
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