日韓製造協力の時代へ―中国・ASEANなど第三国輸出拠点への期待

日韓製造協力の時代へ
FOCUS
― 中国・ASEAN など第三国輸出拠点への期待
株式会社アジアにじゅういち
白水和憲
代表取締役 2015 年 10 月、 韓 国・ ソ ウ ル で 開 催 さ れ た
「Foreign Investment Week 2015」
(主催/韓国産
業通商資源部〈MOTIE〉
、大韓貿易投資振興公社
〈KOTRA〉
、Invest KOREA)には 1000 人を超す
内外投資家が集まった(写真①)。
ネスを見越した韓国投資の事例が目立ってきた。
変わる韓国の製造事情について報告する。
中国輸出を視野に工場進出――東レ
首都ソウルから南に車で約3時間半(約 230km)
韓国はここ数年 GDP 成長率が2~3%と停滞
の西海岸沿いの全羅北道群山市・金堤市・扶安郡
し、従来から指摘されてきた労働運動の激しさや
にあるセマングム産業団地。ここに東レの 100%
人件費の高さに加え、昨今のウォン高が輸出依存
出資韓国拠点、東レ尖端素材(本社:ソウル)の
型の韓国産業構造を圧迫している。海外企業に
PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂とコンパウ
とって韓国にはいささかマイナス材料があるにも
ンドの製造工場(年産 8600 トン)がある。投資が
関わらず、参加者の半分は近隣の日本やアジア各
決定されたのは 13 年秋で、投資額は 3000 億ウォ
国企業が占め、さらには欧米企業の姿も少なくな
ン(当時の換算レートで約 270 億円)、稼動開始
かった。
は 16 年4月の予定となっている。18 年には設備
なぜ、外国企業は交流の場を求めて韓国にやっ
てくるのだろうか。その理由の1つは、韓国が
増設で PPS 樹脂生産を1万 7000トンにまで拡大
する計画だという。
2000 年代に入って急速に増やしてきた海外 50 カ
このセマングムは産業団地、科学・研究、複合
国を超す国々との FTA(自由貿易協定)締結、そ
都市、観光・レジャー、農業など各種機能を持つ
れと並行して進められてきた海路・空路などの物
エリアで構成されるが、もともとは海と沼地だっ
流インフラの整備――という韓国基点のビジネス
た湾に防潮堤(世界最長の 33.9km)を築き、その
に優位性を見出しているからだろう。
湾内の開発総面積は 409 ㎢(土地造成 291 ㎢、淡
韓国・米国 FTA はすでに 12 年3月に発効して
水湖 118 ㎢)にも及ぶ。
いるが、貿易額が韓国の GDP(国内総生産)の4分
東レが選んだのは、産業団地の中でも海に面し
の1近くにも達している中国との間でも昨年 12 月
た突端の区画。まだ周囲には空き地が多く、現時
に韓国・中国 FTA が発効したことから、対中ビジ
点では東レの工場だけが目立つ格好になっている
が、開発の第1段階(205.8 ㎢、うち産業用地は
18.7 ㎢)が終わるのは 30 年だから、まだまだ景
観は大変化することだろう。
何かと炭素繊維で話題の多い東レだが、実は同
社の基幹事業は祖業の繊維事業に加え、樹脂に代
表されるプラスチックケミカル事業であり、この2
事業の売り上げが全体の半分以上を占めている。
(写真①)
「Foreign Investment Week 2015」会場(ソウル)
20
2016 年 3月号
プラスチックケミカル事業分野の1つである PPS