女性スポーツ選手における第2,第3中足骨疲労骨折に対する外反母趾角

第 49 回日本理学療法学術大会
(横浜)
6 月 1 日(日)11 : 20∼12 : 10 第 12 会場
(5F 502)【口述 運動器!スポーツ 5】
1495
女性スポーツ選手における第 2,第 3 中足骨疲労骨折に対する外反母趾角と第 1
第 2 中足骨角の影響
浦上
1)
剛1),澤野
靖之2),黒川
純1),玉木
宏史1),佐藤
船橋整形外科西船クリニック 理学診療部,2)船橋整形外科病院
船橋整形外科病院 スポーツリハビリテーション部
謙次3)
理学診療部,
3)
key words 女性スポーツ選手・第2,第3中足骨疲労骨折・第1第2中足骨間角
【はじめに,目的】
諸家の報告から中足骨疲労骨折の特徴として,中足骨疲労骨折における女性の発症率は男性よりも高く,第 2,第 3 中足骨に好
発することが報告されている。我々は先行研究にて,第 2,第 3 中足骨疲労骨折を発症した女性スポーツ選手(陸上競技,バス
ケットボール,新体操)の外反母趾角,第 1 第 2 中足骨間角は増大している特徴を報告した。
しかし,外反母趾角と第 1 第 2 中足骨間角が,どの程度増大すると第 2,第 3 中足骨疲労骨折を発症するリスクとなるか検討し
た報告は渉猟し得ない。そこで本研究の目的は,第 2,第 3 中足骨疲労骨折を発症した女性スポーツ選手の外反母趾角と第 1
第 2 中足骨間角の影響を調査,検討し,影響因子のカットオフ値を算出することとした。
【方法】
対象は 2003 年 4 月から 2012 年 3 月までに足部疾患で当院を受診した女性 2465 症例の中から,以下の基準により第 2,第 3 中足
骨疲労骨折症例群(骨折群)と対照群を選択した。骨折群の選択基準は,当院医師が X 線または MRI にて第 2,または第 3
中足骨疲労骨折と診断し,中足骨疲労骨折以外の足部疾患の既往がなく,12 歳以上 40 歳以下の女性スポーツ選手とした。結果,
骨折群は 54 症例 54 足
(平均年齢 15.8 歳,平均身長 160.1cm,平均体重 49.8kg,平均 BMI19.4,競技歴 6.4 年,1 週間あたりの練
習時間 21.1 時間)であった。対照群の選択基準は,当院医師が足部打撲症や足部挫傷等の足部外傷性疾患の診断をし,骨性異常
所見がなく,足部障害の既往のない,12 歳以上 40 歳以下の女性スポーツ選手とした。結果,対照群は 46 症例 55 足(平均年齢
16.3 歳,平均身長 158.4cm,平均体重 49.2kg,BMI19.5,競技歴 6.3 年,1 週間あたりの練習時間 20.2 時間)であった。計測は全
症例実施されていた足部 X 線正面像を用い,外反母趾の指標となる外反母趾角(HV 角)
,第 1 第 2 中足骨間角(M1!
M2 角)を
計測した。HV 角は第 1 中足骨長軸と第 1 趾基節骨長軸の交点,M1!
M2 角は第 1 中足骨長軸と第 2 中足骨長軸の交点より計測し
た。第 2,第 3 中足骨疲労骨折の有無を従属変数とし,HV 角と M1!
M2 角を独立変数とし多重ロジスティック回帰分析
(ステッ
プワイズ法)を実施し,Odds 比と 95%Confidence interval(95%CI)を算出した。その後,選択された項目のカットオフ値を
Receiver operating characteristics(ROC)曲線を用いて算出した。統計学的処理は統計ソフト R2.1.8 を用い,有意水準は 5%
とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
説明と同意はヘルシンキ宣言に基づき,当院倫理委員会の承諾を得て実施した。
【結果】
HV 角は骨折群 19.6±5.6̊,対照群 16.3±2.5̊,M1!
M2 角は,骨折群 10.5±5.0̊,対照群 8.4±1.8̊ であった。
多重ロジスティック回帰分析を行った結果,第 2,第 3 中足骨疲労骨折の発症に影響を与える因子として,M1!
M2 角が抽出され
た(P=0.00)
。Odds 比:1.56,95%CI : 1.23"
1.96 であった。
M1!
M2 角のカットオフ値は 9̊(感度 0.7778,特異度 0.6727)であった。
【考察】
本研究の結果から,発症因子として M1!
M2 角の増大が発症因子の 1 つであることが示唆された。横江は,外反母趾は第 2,第
3 中足骨疲労骨折に影響すると考察しており,諸家の報告から HV 角と M1!
M2 角は相関があるとされている。しかし,本研究
の結果より,第 2,第 3 中足骨疲労骨折に関しては,HV 角よりも M1!
M2 角に着目する必要があり,特に 9̊ 以上の症例は 1̊
増大するごとに発症リスクが 1.56 倍になるため,注意を要すると考える。Groiso らによると,外反母趾を有する症例に対し,母
趾背屈,外転の運動療法や,母趾基節骨内反矯正スプリントの使用により,HV 角,M1!
M2 角が改善することを報告している。
そのため,母趾に対する運動療法を中心としたアプローチをすることで,第 2,第 3 中足骨疲労骨折の再発リスクを軽減できる
と考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から,M1!
M2 角増大が第 2,第 3 中足骨疲労骨折発症の 1 要因であり,9̊ 以降から 1̊ 増大するごとに発症リスク
が 1.56 倍になることが示唆された。受傷後,継時的に Xp を確認し,理学療法介入により,M1!
M2 角が改善しているか評価す
ることが第 2,第 3 中足骨疲労骨折の再発を予防する上で重要であると考える。