S8.3 酸・塩基の硬さ・軟らかさ:HSAB 則 ブレンステッド酸塩基反応がプロトン移動であり,塩基性度がプロトンへの 電子対供与能として定義できるのに対して,ルイス塩基としての塩基性度は相 手になるルイス酸の種類によって変動するために定量化できない. 例えば,ハロゲン化物イオンのブレンステッド塩基性は H+に対する塩基性と して F– > Cl– > Br– > I– であるが,Ag+ に対するルイス塩基性は逆に I–> Br– > Cl– > F– となる.BF3 は PH3 よりも NH3 と安定な錯体をつくるが,Ag+ は PH3 とより 安定な錯体をつくる.このようにルイス酸性度と塩基性度は一つの尺度で表す ことが難しい. R.G. Pearson はルイス酸と塩基を軟らかい酸塩基と硬い酸塩基に分類し,定性 的に 軟らかい酸は軟らかい塩基と結合しやすく,硬い酸は硬い塩基と結合し やすい ことを指摘した.この考え方を HSAB 則あるいは HSAB 原理(hard and soft acids and bases principle)という. 硬い酸塩基の一般的特徴は,中心原子が小さく,電気陰性度が大きく,分極 率が小さく,高い電荷密度をもっていることであり,軟らかい酸塩基は逆の性 質をもっている.分子軌道の観点からみると,硬い酸の LUMO は高く硬い塩基 の HOMO は低いので両者の軌道相互作用は小さいが,それぞれ正と負の電荷密 度が高いので大きな静電相互作用をもつ.すなわち,硬い酸と塩基の反応は電 荷制御であるといえる.一方,軟らかい酸と塩基の LUMO と HOMO の差は比 較的小さく軌道相互作用が大きくなるので,これらの反応は軌道制御であると いえる. ルイス酸と塩基の HSAB 則による分類 硬い 酸 塩基 中間 軟らかい 2+ BF3, B(OH)3, CO2, SO3, BR3, SO2, Zn , B2H6, キノン, Ag+, Hg+, Hg2+, H+, Li+, Mg2+, Al3+, Fe3+, Fe2+, NO+, R3C+ M0 ( 金 属 ), HO+, RO+, RS+, RCO+ RSe+, Br+, I+, CH3+, RCH2+ NH3, RNH2, H2O, ROH, PhNH2, N3–, Br–, R3 P, (RO)3 P, RSH, H–, R–, OH–, O2–, RO–, F–, Cl–, SO32–,ピリジン RCO2–, SO42–, CO3–, NO2– SCN–, CN–, S2–, RS–, S2O32–, I–
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