22.6 配位化合物の反応 (Reactions of Coordination Compounds) P.934 錯イオンは,溶液中において配位子交換(あるいは置換)反応を受けます。これらの反応の 速度は金属イオンおよび配位子の性質に依存して,大きく変化します。 配位子交換反応を学習する際,錯イオンの安定性と,速度論的置換活性と呼ばれる錯イ オンの反応のしやすさとを区別する必要があります。ここでいう錯イオンの安定性とは、対 象とする化学種の熱力学的性質で,それは,種の生成定数 Kf によって評価されます(p749 を参照,Kf は安定度定数とも呼ばれる)。 例えば、私たちは、錯イオンであるテトラシアニド ニッケル酸(Ⅱ)イオン(tetracyanonickelate(II))は大きな生成定数を持つので 安定していると言えます. , ところが化学者は,放射性同位体炭素 14 でラベル(標識)されたシアン化物イオンを用い た実験によって、[Ni(CN)4]2-が溶液中で非常に速い速度で配位子交換反応を起こすことを 発見しました。2つの種を混合すると極めて速やかに次の平衡が確立されます: ここで星印をつけた C 原子は 14C 原子を示します。このようにテトラシアニドニッケル酸 (Ⅱ)のように迅速な配位子交換反応を受ける錯体を置換 置換活性錯体 活性錯体( 置換 活性錯体 (labile complexes)と呼 びます。このように、熱力学的に安定した錯体(すなわち生成定数が大きな錯体)は、必ずし も反応性が低いわけではありません。(§13.4 で、私たちは活性化エネルギーが小さくなる ほど速度定数大きくなり,したがって反応速度はより大きくなることを学びました。) [Co(NH3)6]3+は酸性溶液において熱力学的に不安定な錯体の一例です。次の反応の平衡 定数は約 1×1020 です: 平衡に到達したときの[Co(NH3)6]3+イオンの濃度は非常に低くなります。しかしながら、この 反応は、[Co(NH3)6]3+イオンの置換反応活性が非常に低いため,反応が完結するのに数日 を要します。これは、配位子交換反応が非常に遅い置換 置換不活性錯体 不活性錯体の例です(時間どころ 置換 不活性錯体 か日にちの単位で起こる)。このような錯体の存在は、熱力学的に不安定な種が必ずしも、 化学的に反応性に富むとは限らないことを示します。反応速度は活性化エネルギーによっ て決定されますが,この場合,高いということになります。 Co3+、Cr3+および Pt2+を含んでいるほとんどの錯イオンは、反応速度的に不活性です。な ぜならば,それらは配位子を非常にゆっくり交換するからで、溶液中での研究がしやすいと 言えます。この結果として、配位化合物のボンディング、構造および異性についての私たち の知識の大部分はこれらの化合物に関する研究に基づいていると言えるでしょう。 1
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